ソードアート・オンライン Dragon Fang《ゲーム版》 作:グレイブブレイド
今回のタイトルを見ればすぐにわかるかもしれませんが、ついにゲーム版に彼女が登場します。
俺たちが第76層主街区《アークソフィア》に来てから、今日でちょうど10日目となった。
この間に、オトヤとシリカとリズさんを含めて多くの中層プレイヤーが76層にやって来て戻れなくなる問題が起こっていた。まだ76層に来ていない《月夜の黒猫団》のサチさんに連絡したところ、今では下の層にいるプレイヤーたちにこの事態が伝わったようで、前ほど76層に行こうとするプレイヤーはいなくなったいう。
迷宮区の攻略の方は順調に進んでおり、この調子でいくと数日ほどでフロアボスの部屋までたどり着くだろう。
しかし、この層の攻略の鍵となりそうなクエストは未だに発見されておらず、あまり油断はできない状況には変わりはない。
この不安定な状況の中で一刻も早く攻略を行うべきだが、体調管理をすることも大事なこと。そのため、キリさんとアスナさんの2人と一緒に昼過ぎに攻略を終え、いつもより早めにアークソフィアへと戻ってきた。
「一時はどうなるかなって思いましたけど、攻略は今のところ順調ですね」
「75層のボス戦に参加したプレイヤー以外の攻略組も、戻れないのを覚悟のうえで下の層から来ているからな」
「まだ油断はできない状況だけど、慎重にいけばこの層もクリアできそうだよ」
2人と攻略のことを話し合いながら、街の中にあるエギルさんが経営する宿屋に戻っている。その途中、クラインさんが行き先にいて、彼は俺たちに気が付くとこちらにやって来た。
「なあ、お前ら聞いたか?この76層、面白そうな噂が流れているみたいなんだぜ」
「面白そうな噂って何ですか?」
俺がそう聞くとクラインさんは教えてくれた。
「76層の東には森があるのは知っているだろ。実はな、そこには妖精がいるっていうんだよ」
「森に妖精?何かのNPCですか?」
すぐに話の内容が気になって、俺たちは喰いついた。
「ああ。といっても別にモンスターやただの異種族NPCじゃない。その場所にたった1人しかいない、会えただけでもラッキーっつうレアなやつさ。何人か目撃した奴がいるんだが、これまで出てきたどんなNPCにも似てないらしい。となると、これはなんか特別なイベントに違いない……。ってことで街中、話題騒然っていうわけよ」
「なるほどな。まだ誰もイベントの起動条件を満たしてない……っていうわけか」
キリさんがゲーマーらしいコメントをする。
ただの異種族NPCじゃないとなると、どんなクエスト何だろう。
前にキリさんから聞いた、第3層から始まる長期クエストみたいなものなのか。俺はあの頃、最前線から離れていたから知らなかったけど、キリさんはアスナさんと共にキズメルという黒エルフの女騎士に出会ったらしい。今回出てくる妖精もキズメルの時と同じ感じなのかもしれない。
そうなると、この層の攻略の助けになるキークエストだっていう可能性だって十分あり得る。だとしたら答えはもう出ている。
「あの、キリさん、アスナさん。俺たち、今日の攻略は終わりましたし、行ってみませんか?」
「ああ、構わないぜ。何か特別なイベントが起きるかもしれないしな」
「うん。それに妖精なんて素敵だしね」
俺の誘いに2人はOKを出し、3人で妖精がいるという東の森に向かうことにした。
そして、俺たちは10分ほどで森の入り口前へと辿り着いた。
「ここですか。妖精が目撃されたっていう森は」
「うん。クラインさんの話によると、会えるだけでもかなりいいらしいよ」
「35層の《迷いの森》とか45層の《巨大樹の森》ほど広いわけじゃないけど、探すのは骨が折れそうだな」
妖精を目撃したというプレイヤーはほとんどいない。俺たちだって最悪の場合、妖精を見つけられずに終わる可能性だって十分にある。
「じゃあ、俺は左側のルートから探します」
「わかった」
「何かあったらすぐに連絡して」
俺たちは手分けして妖精を探すことにした。
妖精を探し続けること1時間近くが経過。途中で何回もモンスターに遭遇し、その度に戦闘を繰り広げていた。しかし、妖精の姿だけは全く見かけない。念のためにキリさんとアスナさんにも連絡して確かめてみたが、2人も同じ結果だった。
メニューウィンドウを操作して、一旦この森のマップを開いた。俺たちがまだ探し終えていないのは、森の最深部にあるエリアだけだ。ちょうどその辺りで、2人と合流できるため、とりあえず森の最深部を目指すことにした。
更に森の中を進み続け、ついに森の最深部までやって来た。
ここでも見つからなかったら、キリさんたちと合流して一旦街にでも戻ろうか。そんなことを考えていた時、数十メートル先に人影らしいものが見えた。何なのかと思い、目を凝らした。索敵スキルによる補正が適用され、視線を集中している部分が徐々に鮮明に見えていく。
そこにいたのは、緑と白をベースとしたジャケットに、少し短めのスカートという恰好をした、金色の長い髪をポニーテールにしている少女だった。そして、背中から小さい半透明の緑色の翅を生やし、耳はエルフのように尖っていた。
「あれってもしかして……」
クラインさんから聞いた妖精だと確信した時だった。
妖精かと思われる少女の右手には片手剣が握られており、3体の巨大な蜂型のモンスターたちと戦闘になっていたことが判明する。
「あのモンスターたちに襲われているのか?」
これはヤバいと思い、急いで妖精がいる方へと走った。
妖精にモンスターたちの攻撃が迫ろうとし、俺はすぐに右腰にある鞘から左手で《ドラグエッジ》を抜き取る。そして、片手剣スキル《ノヴァ・アセンション》を発動。
青白い光を纏った刃による10連撃の斬撃が、蜂たちのHPを奪っていく。全てのHPを失った蜂たちは、ポリゴンの欠片となって消滅した。
《ドラグエッジ》を右腰にある鞘に収め、妖精の方を見る。
「大丈夫かっ!?」
この時、初めて妖精を初めて正面から見た。
妖精はというと、緑色の瞳を持ち、もみあげ付近の髪の毛を小さな三つ編みにしており、顔も整っている方だ。ストレートに言えば可愛かった。そして胸の方は中々の大きさのものだった。
俺は、この妖精がNPCだということを忘れて見とれてしまう。SAOで絶大な人気を誇るアスナさんを見た時は、特にこんなことはなかったのに……。
一方で妖精は驚いていたが、数秒後に何かに気が付いてハッとなって声を発した。
「も、もしかして
「へ?」
突然、妖精が俺のことを『リュウ君』と呼んできて、驚いてフリーズしてしまう。NPCであるはずの彼女が、初めから愛称で呼ぶことなんて今まで聞いたことがない。一体どういうことだ。
困惑している中、妖精の少女は俺に駆け寄り、嬉しそうにして俺の右手を両手で掴んだ。
「やっぱりリュウ君だよね!久しぶりに会うけど、一段とカッコよくなったね。まあ、リュウ君って元からイケメンだったから当たり前だと思うけど……」
妖精の少女は、久しぶりに会う知り合いに会った時のように楽しそうに話す。しかし、俺自身は状況が付いていけず、困惑するしかなかった。
これってクエストが始まったのか。だとしたら何か妙だ。
この妖精の少女はNPCなのに、どうして俺のことを『リュウ君』って呼ぶんだ。今まで受けたクエストの中で彼女と出会って親しくなり、そう呼んでいるのか。でも、今まで妖精と知り合うことになるようなクエストなんてなかったし、彼女とは今ここで初めて会うから、その考えはまずない。
それに何だか、この妖精の少女はNPCというよりも、何だかプレイヤーと話している感じだ。まあ、ユイちゃんみたいに高性能のAIだとも考えられるが。
試しに彼女に話しかけてみようか。
「あの……俺、君と何処かで会ったことあったかな……?妖精の女の子と会った記憶がないんだけど……」
「あ、そっか。この姿じゃ、わからなかったね。あたしだよ、あたし!直葉!桐ヶ谷直葉っ!」
「きりがや、すぐは……?」
その名前を聞いて、俺は耳を疑った。
――どうして彼女の口からその名前が出てくるんだ……?
俺はその名前に心当たりがあった。その名前の主も俺のことを『リュウ君』って呼んでいたし、まさか……。
「桐ヶ谷直葉って、もしかして君……スグなのか……?」
「そう!桐ヶ谷直葉。3年ぶりだね、リュウ君」
妖精の少女は、笑顔でそう言ってくる。でも、俺はどうしても彼女がスグだと信じられなかった。
「えっと、本当にスグでいいんだよな?なんかこの3年間で随分と見た目も変わっちゃっているけど……」
俺の中で記憶に残っているスグの姿は、黒髪のポブカットに勝ち気な瞳をしているも可愛らしい小柄な少女だ。まあ、姿はだいぶ異なるけど、この妖精の少女もよく見てみたら、スグの面影が少しあるような気がするような。
「実は、この姿は今遊んでいる《ALO》……《アルヴヘイム・オンライン》っていうVRMMOで使っているアバターのものなの」
「ALO?あれだけの事件になったはずなのに、ナーヴギアってまだ発売されてるのか?」
「ううん。ナーヴギアは事件の直後に回収されたの。でも、他のメーカーが《アミュスフィア》っていう後継機を発売して……」
「ナーヴギアは回収か。まあ、無理もないか……」
でも、アミュスフィアを使ってALOで遊んでいたスグがSAOに迷い込むことなんてあるのか。
気になって、アミュスフィアやALOのことを聞いてみた。
アミュスフィアは、ナーヴギアの後継機で、SAO事件を踏まえてセキュリティシステムおよびセーフティ機構が強化されているものだ。ナーヴギアみたいに脳を電磁パルスで焼き切るような機能はなく、形状もヘルメット型からバイザー型のものへと変化しているという。
そして、スグが遊んでいたというALO。正式名称はアルヴヘイム・オンライン。妖精の国を舞台とし、プレイヤーは9つの種族から1つを選択。それにはSAOにはない魔法や飛翔システムが存在し、人気のゲームとなっているらしい。
ある程度話を聞いてみたが、どうしてスグがSAOに来てしまったのかは結局わからなかった。こういうのはキリさんの方が詳しいから、彼に聞けば何かわかるかもしれない。
「とりあえず、仲間と合流して一旦街に戻ろうか。詳しい話はそこでちゃんと聞くからさ」
「うん」
出発する前にキリさんとアスナさんに、最深部のエリアで妖精を見つけたことをメッセージを送った。すると、すぐに連絡が来て2人ともすぐそこまで来ているから、待ってて欲しいと書いてあった。
「今、俺の仲間が来るから待ってて」
「うん。ねえ、リュウ君の仲間ってどういう人なの?」
「街にいる仲間にも言えることだけど、いい人で頼りになるっていうのは保障するよ」
「リュウ君がそう言うなら、本当に頼りになる人たちなんだね」
「ああ」
スグと立ち話をしていると、聞き覚えのある声が何処からか聞こえていた。
「おーい!リュウっ!」
その声に気が付いて振り向くと、キリさんとアスナさんがこちらに走ってやって来ていた。
「キリさん、アスナさん!」
すると、スグはこちらにやって来るキリさんの方を見て、俺の時と同様に驚いた表情をする。そして……。
「お兄ちゃん……?」
「お、お兄ちゃん!?」
これには『お兄ちゃん』と呼ばれたキリさんだけでなく、俺やアスナさんも驚く。そんな俺たちとは別に、スグはキリさんに駆け寄り、彼の手を掴んできた。
「やっと会えたね、お兄ちゃん!」
俺とキリさんとアスナさんの3人は、いきなり過ぎる話に付いていけず、フリーズしてしまう。
「え?何?クエストが始まったの?」
「た、多分そうだろう。これはそういうイベントクエストNPCなんだよ。突然現れた妖精が兄として慕ってくるとかなんとか……。ありそうな話だろ?」
目の前にいる妖精の少女が、NPCだと思い込んでいるキリさんとアスナさんは困惑するしかなかった。かという俺も、スグがキリさんのことを『お兄ちゃん』と呼んでいたことに驚きを隠せずにいた。
「ち、違うよっ。あたしだよ、お兄ちゃんっ!」
「NPCとは思えないくらいの熱演ね……」
「ああ。でも、俺は君のお兄さんじゃないんだ。だいたい、現実の俺の妹はな……」
何を言い出すのかと俺は息を呑んだ。
「こんなに胸が大きくない」
一気にシリアスな空気をぶち壊してしまうほど、デリカシーのない発現をストレートに言い放つキリさん。俺は思わずよろけそうになってしまう。その直後だった。
ガンッ!!
「グホッ!!」
頬を赤くして怒ったスグは右手で拳を作り、キリさんの顔面に目にも止まらないスピードで強烈なパンチを叩き込む。何故かゲームのように殴った部分に『HIT!』という文字までも表示される始末だ。
強烈なパンチを喰らったキリさんは地面に転がり、この光景を見ていた俺とアスナさんは口を開けて唖然とする。
「あ、あたしだって成長期なんだから、2年も経てば色々変わるよっ!って言うか、久々の会話がセクハラ!?それに、これはアバターなんだから現実のサイズとは関係ないの!」
怒りが収まらないスグは、更にボカボカとキリさんと叩く。
「助けてぇぇぇぇっ!!」
これはキリさんの自業自得だ。だけど、流石にこのままにしておくわけにもいかず、アスナさんと一緒に仲裁に入ることにした。
「ストップ、ストップ!!」
「落ち着いて!!」
俺とアスナさんが仲裁に入る。
今思い出したが、確かスグにはお兄さんがいて、キリさんにも妹がいたはずだ。さっきスグがキリさんのことを『お兄ちゃん』って呼んでいたってことはもしかして……。
「ねえ、スグ。キリさんにも本当の名前を教えたら信じて貰えるんじゃないかな?」
俺の言葉を聞いて、スグの怒りはやっと収まった
「そうか。あたしだよ、あたし!直葉!桐ヶ谷直葉っ!」
「きりがや、すぐは……?」
アスナさんは聞き覚えのない名前に首を傾げる。すると、キリさんの口が開いた。
「俺のリアルの名字は『桐ヶ谷』。それで桐ヶ谷直葉は……俺の妹の名前だ」
やっぱり俺が思った通り、キリさんとスグは兄妹だったか。
「本当に……本当にお前、直葉なのか?」
「そう!桐ヶ谷直葉。やっと信じてくれた?」
「い、いや……。にわかには、信じられないな……」
キリさんは中々、目の前にいる妖精が自分の妹だと信じようとはしなかった。まあ、長年一緒に暮らしていた妹と姿が全く異なるから、無理もないと思うが……。
「もう!なんで、そんなに疑り深いかな」
中々信じて貰えないことにスグはムッとする。
何だかスグが可愛そうになってきて、何とかキリさんに気づいて貰おうと彼に話しかける。
「キリさん、本当に心当たりはないんですか?彼女の言っていること、信憑性が高く感じますし」
「いやでも、俺の記憶だと妹の胸は金床みたいにまっ平みたいなものなん……」
キリさんが全て言い終える前に、俺とキリさんの間を何かがビュン!と音を立てて通り過ぎていく。直後、後ろの方にあった木にダン!と勢いよく突き刺さった。
何なのか見るとそれはノコギリだった。これを見た瞬間、俺とキリさんは凍り付く。直後、
ノコギリが飛んできた方からは殺気が伝わり、背中に冷や汗をどっぷりかく。俺とキリさんは恐る恐る振り返ると、そこにはドス黒いオーラを放っている満面の笑みを浮かべるスグがいた。
「刻むよ?」
スグは何処かのネットアイドルのように、笑みを崩さず首を傾げる。
「「す、すいません……」」
恐怖の余り、全ての元凶とも言えるキリさんだけでなく、俺までも思わず謝ってしまう。
アスナさんは苦笑いを浮かべて黙ってこの光景を見ていた。
ついにゲーム版でもリーファが登場してリュウ君と対面しました。すでに気が付いている方もいるとは思いますが、ゲーム版の予告の話は2人が出会う場面のリーファ視点となっており、今回の話につながるという形になります。
リュウ君との再会はまともだったのに、キリトとの再会はほとんどギャグ満載に。まあ、100%キリトが原因ですけど(笑)。そして、本編(リメイク版)ではリーファの鉄板ネタとなっている美空の「刻むよ」をゲーム版でも披露するという。元々やる予定はなかったけど、結構好評でしたのでゲーム版でもやろうと思い、やりました(笑)。今回はビルド第3話のものを元にしました(笑)。巻き込まれたリュウ君はドンマイ(笑)
本当はもう少し先までやるつもりでしたが、予想以上に文字数が多くなったため、今回はここまでにしました。