手慰み   作:猫毛布

1 / 15
手慰み一作目
1000字程度で投稿ギリギリの文字数です。


先輩さん、後輩君

 手首からイノチが溢れていく。

 トクン、トクンと鼓動に合わせて。イノチがゆっくりと溢れていく。

 湯に浸かった私の力がゆっくりと抜けていき、透明だった筈の湯がイノチの色へと染まっていく。

 生きている。

 生きている。

 生きている。

 重くなった瞼を降ろして、息を吐き出す。

 吸い込んだ空気にいつも使っているシャンプーの匂いと鉄の香り。

 生きている。

 そんな事を実感する為だけに、生きている。

 簡潔で、完結的な人生。

 

 

 

 

 病院で目を覚ました私は随分と怒られた。

 意識を失った私を助けたのはどうやら父らしい。これでも思春期の異性であるのだから、少しは躊躇してほしいモノだ。

 死のうとした理由を聞かれたから、生きているから、と応えてみせれば随分と眉間を寄せられた。

 返すようにどうして助けたのかを聞いてみせれば、娘だから、という答えが返って来た。

 果たして娘ではなければ助けなかったのだろうか、という疑問をぶつければ怒られる。

 何故?

 生きている事に意味なんて無い。あるとすればソレは英雄か、もしくは名だたる犯罪者達の事だろう。

 生きている。いいや、この時点できっと私は死んだのだろう。

 

 人の命は等価値であるべきだ。

 けれど、人の価値には差が出来る。極端な例を挙げれば英雄と悪党の様に。

 私はそのどちらでもないのだから、無意味に生を全うする意味も無いだろう。もしも意味が生じるとするならば、きっとソレは私には想像もつかない事だろう。

 生きている癖に死んでいる私は随分と世渡りの上手い人間に成る事が出来た。心配していた両親は安心しているし、他の生きた死体達からは賞賛される程度には上手いらしい。死体達にチヤホヤされているという事実を鑑みれば反吐が出るが。

 

 学校に在学している事もメンドウだと言うのに。ああ、生きているというのは実にツマラナイ。死ねば何も感じないというが、本当だろうか?

 確かに死んでいる私は何も感じるつもりはないけれど生きているからこそメンドウだと感じている。やはり死ぬか。

 

「先輩って、疲れないですか?」

「はて、私が疲れて見えるかね? 後輩君」

「えっと、体力的にじゃなくて。ほら、偶になんですけどドコか遠くを見ているなーって」

「そうだろうか?」

「はい。疲れてる、って言うか、なんだろ? 笑ってるのに笑ってない、って言うか」

「……そうか」

「あ、悪い意味じゃないんですよっ? 本当に、大丈夫かなーって」

 

 在学中に一人になれるという事で拓いた文芸部だったけれど、なかなかの拾いモノをしたかも知れない。

 なるほど、恋愛というのは確かに私が想像もした事が無いモノだ。それこそ人間は動物であるからセイコウをして、子を孕むだけだと思ったけれど。

 

「なあ後輩君」

「はい、どうしました?」

「どうやら私は君に恋をしてしまったらしい」

「ふぇっ!?」

 

 

 

 






登場人物紹介

先輩さん
 黒髪ロングの美人さん。おっぱいもあるよ!
 高校三年生
 文芸部の部長であり、世間的に高嶺の花で誰も寄せ付けず、誰にも靡かない。後述の後輩君を除く。
 自殺志願者であり、過去に風呂場でスパーッとした過去を持っている。それから生きている人が動く死体に見える思考的な障害を患っている。
 読書家という訳でもないけれど、死体を好んで見る性格でもないので本を読んでいる事が多い。
 死体を好きになった訳ではなくて、自分を理解してくれる後輩君に意識を向けた。恋愛にまで発展しているのは先輩さんの心の問題


後輩君
 ショタ。
 文芸部の部員であり、新入部員であり、高校一年生であり、ショタである。
 小動物的な動きと犬を思わせる忠誠っぷりで先輩さんの心を締め付ける存在。
 先輩さんの事は元々好きだったけれど、文中で述べたとおりにドコか遠くを見ている姿を何度か目撃して心配になってしまった。
 読書家で、実家には後輩君専用の書庫(元物置)が存在している程の書痴。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。