手慰み   作:猫毛布

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義足義手

 彼女は水の中に居ました。

 万華鏡のように乱反射する光に手を伸ばしながら、どこまでも青い世界へとゆっくりと落ちていきます。

 吐き出した気泡が腕を撫でて、水面へと上がっていきました。遠すぎる世界へと上がる気泡とは比例するように彼女は青黒い世界へとゆっくりと落ちていきます。

 日の光すら当たらないような世界へと。無抵抗に。諦めたように。彼女は瞼を閉じて、落ちていきました。

 身に纏わり付くような水の世界から弾き出されたように、吊られている糸が切れてしまったみたいに彼女は浮遊感と不快感を覚え落下していきます。

 開いた瞼には人影が一つ。

 宙空で腕を伸ばしても、手はその人影に届きませんでした。

 宙空で身動ぎしても、体は空を泳ぐこともありません。

 宙空で落下していく彼女は――――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――あ゛?」

 

 目を覚ました彼女は水を求める喉を震わせて無理やり声にしました。

 耳に響く目覚まし時計の音に眉間を寄せながらもフローリングに手を突いて体を起こし、落ちたベッドを見てようやく夢であったことを理解しました。自慢の長く赤い髪を掻き上げ、苛立ちを隠そうともせずに舌打ちを一つ。

 

「クソが……」

 

 鋭く切れた目が余計に鋭くなり騒がしく自己主張を続ける目覚まし時計に向きます。その視線に抗議するように更に大きく鳴く目覚まし時計をベッドの上にある枕を投げつける事で沈黙させた彼女は仇敵を倒した事に満足するように鼻を鳴らしました。

 ベッドに這い上がった彼女は一つ息を吐き出して、近くに掛けていた二本の『機械仕掛け』を手に取りました。

 一卵性の双子のように似すぎている『機械仕掛け』の片割れを自分の隣に置いて、もう一つを両手で持ちます。

 彼女は()()()()太腿に『機械仕掛け』を合わせて()()しました。歯を食いしばり、接続された『機械仕掛け』の先までしっかりと自分の意志で動く事を確認した彼女はもう一つの『機械仕掛け』を手に取ります。

 

 同じ行動をもう一度した彼女は息を深く吐き出してフローリングに『脚』を突きました。キシリと関節部が軋めき、小刻みにモーターの稼働振動が太腿に伝わります。

 そんなこそばゆい振動も気にする様子もなく、彼女は不機嫌そうな顔をそのままにクローゼットへと向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロー、マリー。相変わらず機嫌が悪そうね」

「テメェは相変わらずハッピー頭をしてるな、アッシュ」

 

 大規模な食堂の一角で食事を取っていた赤い髪の彼女――マリーに笑顔を浮かべながらトレイを置いた女性――アッシュはマリーの許可も得る事なく対面に座りました。

 座ったアッシュを見て嫌そうに眉間に皺を寄せたマリーでしたが、文句を言う事はありませんでした。言った所で無駄だと知っているのです。

 

 皮製の手袋をしたまま食事を取る灰銀髪を緩やかに波打たせたアッシュを不機嫌に睨みます。

 

「何の用だ?」

「あら、友人と一緒に朝食を取りたいと思うのは普通の事でしょう?」

「黙れ。中身が詰まってねぇのはテメェの頭とマカロニだけで十分だ」

「失礼しちゃうわ。アナタの体の中身を確認してもいいのよ?」

「ハッ。テメェは輪切りにされても攻撃が出来るんだな。面白い冗談じゃねぇか」

 

 マリーは意地悪く口を歪めて歯を見せました。対してアッシュは笑顔のままでしたが手に持っていたフォークが真っ二つに折れ曲がっています。

 持っていたフォークが()()()()をみせていることに気付いたのかアッシュは手品のように折れ曲がったフォークの柄を真っ直ぐにして改めてニコリと笑顔を張り付けました。

 

「やめましょう。話が一つも進まないわ」

「おいおい、吹っ掛けて来たのはテメェだろ?」

「茹だって赤くなった頭が目に見えてるわよ」

「あ゛? 三つ目の穴を開けてやってもいいんだぞ、売女」

「茹でられた中身をぶち撒けるわよ? 絶壁」

 

 マリーの『脚』が軋み、アッシュの『腕』が小さいモーター音を響かせます。

 数秒程睨みあってから、アッシュが両手をあげました。溜め息を一つ吐き出しながら軽く頭を振ります。

 

「やめましょう。結果も見えてる事だし」

「そうだな」

 

 果たしてお互いがお互いを殺せる事を信じているのですが、口にすれば不毛過ぎる争いが始まるだけなのです。

 アッシュは見せつけるように胸元から一通の手紙を取り出しマリーへと滑らせました。その行動に僅かに苛立ちながら生暖かい手紙を手に取り内容を読み、片眉を上げました。

 

「なんだ、この依頼?」

「私は知らないわよ? ジェニーから渡されたから渡しただけだもの」

「あの引き籠もりがか? ついに頭に蜘蛛の巣でも張ったか」

「そうよ。その頭に蜘蛛を飼ってる引き籠もりが、よ」

 

 酷い言われようのジェニー女史の事はさておき。

 マリーは手紙をぐしゃぐしゃに纏めて近くに置いてあった灰皿の上に捨てました。ポケットの中にあるライターで火を点けて読んだ手紙を燃やしていきます。

 しっかりと燃え尽きた事を確認したマリーはトレイを持って席を立ちます。

 

「もう行くの?」

「ああ。蜘蛛に脳が食われる前に終わらせてやるのさ」

「あら優しいわね。まるで聖人みたい」

「おいおい、まるでワタシが聖人じゃないみたいに言うじゃねぇか」

「そうね。乙女(処女)だから大人じゃなかったわ」

「頭だけじゃなくて下も貫通してるマカロニ女にゃぁ言われたかぁねぇよ」




>>マリー
 乱暴口調。赤毛のセミロングストレート。目つき悪い。両義足。
 スーツの似合う女性。絶壁。

>>アッシュ
 女性口調(丁寧寄り)。灰銀のロングウェーブ。ややタレ目。左腕義腕。
 ふんわり系の女性。きょぬー。

>>ジェニー
 被害者。知的口調(皮肉寄り)。盛り。


>>機械仕掛け
 極小のモーターを仕込んだ義肢。人を軽く殺せる程度には出力が出たりする。
 人体の電気信号を元に動く感じ。

>>物語的にどうなんの?
 護衛依頼を受けたマリーが嫌々ながら、護衛対処を守って、惚れられて、レズする(重要)。
 ただ飽きたので、ココに放り込まれます(迫真)。
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