手慰み   作:猫毛布

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暴力的表現。狂人要素。幽霊要素。変愛要素。
以上が含まれています。

手慰み手慰み


愛される行為

 私は目を覚ました。どうして眠っていたかはわからない。ただ、目を覚ました。

 一定の感覚で鳴る電子音。知らない天井。肌触りの違うベッド。息を吸えば、少しの薬品臭。

 身体を起こそうとして、痛みが走った。ようやく私は怪我をしたのだと理解をする。けれど、どうして? さっぱりわからない。

 

「やあ、目が覚めたんだね」

 

 そんな声が聞こえた。顔をソチラに動かせばニコリと笑っている男が居た。優男という言葉がコレほど似合う人物も居ないだろう。第一印象はそんな感じ。

 短く切った茶色い髪。情けなく笑う表情。タレ目。ドコを切り取っても優男になってしまうだろう。実際、ドコを切り取っても優男になった。

 ともあれ、私はそんな優男に見覚えはあった。もう会うわけがないと思っていたけれど、どうやらそうも行かないらしい。眉間に皺を寄せながら、()()()の優男を睨む。睨めば優男は情けなく眉尻を下げた。

 

「そんなに睨まないでよ。愛しあった仲だろう?」

 

 残念な事に私はこの男を愛した覚えはない。一方的に別れを突き付けた覚えはあったけれど、少なからず愛した覚えはない。あってたまるか。

 私が一向に睨むことを止めないからか、男は口をへの字にして、やはり情けない顔をする。

 

「確かに僕は死んでるよ。死んでるけれど、何か問題でもあるかな? 僕は君に愛されたし、君は僕を愛した。だから今に至ってる。違うかい?」

 

 全くもって違う。少しは人の話を聞いてほしい。

 怨霊なんてモノは信じるつもりは無かったけれど、この幽霊な優男を見ていれば少しばかりは信じてもいいかも知れない。いや、この男が特殊なだけだろう。

 溜め息を吐き出して、関節を鳴らす。病院にいる事も面倒だし、幽霊にまで取り憑かれたなんて笑い話にもならない。

 

「君がココに搬送された理由は沢山あるけれど、一つは怪我をして意識を失っていたからだ。当然、恋人である僕はこんなのだから救急車に連絡を入れることも出来なかったけどね」

 

 誰が恋人だ。それにこの男が救急車に連絡を入れれない事など知っている。幽霊が連絡出来る訳がない。

 部屋にノック音が響き、少しの間があって扉が開いた。

 厳しい顔の男だった。ヘタれたスーツを着用した、タバコの匂いが鼻につく男。私が起きている事を視認した男は懐から一つの手帳を取り出す。警察手帳だった。

 

「こんにちは、少々お話をよろしいか?」

 

 私は首肯する。警察が私に何用だ。出来る事なら私の隣で情けなく警察から隠れているこの男をしょっ引いてほしい。警察は幽霊も取り締まれるのだろうか。

 

「えー……まずはお気を確かに聞いてほしいのですが、✕✕ ○○さん。ご存知ですね?」

 

 私は首肯する。その名前の男は知っている。当然だ。チラチラとカーテンの端で視線を警察と私で往復している優男の名前に相違ない。

 

「その――、お亡くなりになられました……」

 

 私は眉を顰める。つまり警察はこの優男が見えていないのか。いや、幽霊が見えるなんて特異な体質がソコラに転がっている訳もないか。私だって幽霊なんて見たくなかった。

 

「申し上げにくいのですが、✕✕さんは何者かに殺され……、えー、その現場に――アナタは一緒に居ましたね?」

 

 私は首肯する。確かに私は優男が殺された時、同じ部屋に居て、殺される瞬間を目撃している。

 

「犯人を目撃しましたか?」

 

 私は首を横に振る。その時部屋は暗かったし、優男に馬乗りになっていた人間の顔は見えなかった。

 

「そうですか……いえ、申し訳ありません。恋人を失って悲しいでしょうが……。犯人の目星、でしょうか……スイマセン。コチラで誠意捜索中です」

 

 恐らくある程度の目星は付いているのだろう。目を伏せて、犯人を捕まえる為に記憶を手繰り寄せる。

 恐らくあのタイミングでこの優男の部屋に訪れるのは片手で数えれる程度だ。友達が少ないこの優男だから、そう言える。

 厳しい男は困ったように息を吐き出した。

 

「何か、思い出した事があればココに連絡をお願いします」

 

 そうして手帳から一枚千切り、恐らく彼の連絡先が書かれている紙を私に渡して、部屋から出て行った。

 警察が出ていき安心したのか、カーテンからぬっと情けない笑みを浮かべた優男が出てくる。

 

「いやー、警察が来ると隠れちゃうよね」

 

 それはアナタの気が弱いからだろう。男の言葉に溜め息を吐き出して、渡された紙をクシャリと握りゴミ箱へと捨てる。どうせ連絡する意味もないだろう。

 ともあれ、状況を楽しむ程の器量はないし、何を考えても億劫になる。

 

「それで、犯人に目星は付いているのかい?」

 

 別に目星など付いていない。ソレに犯人を言い当てた所でこの男が私から離れる、という事もないだろう。

 まあ幽霊など居ても居なくても関係はない。誰にも見えてないのだから。

 

「おっと、君は浮気をする気だな。僕はすごく悲しいけれど、人は誰かを愛せずには生きてはいけない。そうだろう?」

 

 それだけは肯定してあげよう。別に浮気をするつもりはない。そもそもこの優男だけを想っている訳もないから浮気も何もない。

 

 

 何にしろ、()()()()()()()()()()()()()()、私の怒りが収まらない。

 この優男を気紛れに殺したのが拙かった。いいや、殺した事に後悔はない。必要に駆られて人を殺す事が億劫なだけだ。

 

 怨霊なんて信じていなかったのに。あと()()()()()()()()()に――いいや、男よりも前の怨霊が居ないからこの優男が特殊なだけだな。




>>私
 シリアルキラー。気紛れの考えで「あ、殺人しよ」とかいう思考をする狂人。必要に駆られて何かをする事に面倒や億劫という感情を抱く。
 外面は大変よい。

>>優男
 ✕✕ ○○さん。幽霊。故人。
 私に殺された不運な人間。優男。ヘタレ。
 ちなみに彼も狂人。殺される事が()だと感じている。
 君に愛された、君は愛した。→君に殺された。君は僕を殺した。
 愛しあった仲→殺し、殺された仲。
 ちなみに「殺される自分と殺す相手」という状況を愛と断定しているだけであって、「殺す自分と殺される相手」という状況は彼にとって愛にはならない。


>>厳しい男
 警察。
 以上。


>>アトガキ
 思いついた時は全員狂人にしようと思っていたけれど、登場人物を出すのが面倒で……。
 ちなみにそれ程説明するつもりのない事ですが、「優男はドコを切っても優男」らしいですよ(ニッコリ

 物語的には優男を気紛れで殺した"私"がやってきた誰かに攻撃を受けた。その誰かはわからないけれど、ぶっ殺したろ。という話です。ちなみにこの誰かは小心者で殴った"私"を見て慌てて救急車を呼んだ感じですかね……。
 あー誰だろなー。きっと殴った相手を目の前にしてオドオドしてるんだろうなー。ハイ。まあ別に彼を"そう"するつもりはないのですが……。

 手慰みなので短めです。許して(震え声
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