復帰の為のリハビリだと思って下さい。
続きを書くかはわかりません。
どうせ私が書いているので「王道勇者ファンタジー」とか「勇者の旅、従者視点」とかそういったモノではない事は確かでしょう。
トラックに轢かれた訳じゃない。
奇跡の様に隕石がぶつかった訳でもない。
運が良かった……訳でもない。いいや、運はよかったんだろう。
ウィルギニス。それが今世での俺の……僕の名前だ。
そしてこれは、地球の日本という島国に生きていた男の記憶を持つ僕の物語であり、同時にそれは勇者の物語でもある。
先に否定しなければいけない事がある。僕は勇者じゃない。勇者と呼ばれるべきなのは、今僕の目の前で情けない顔をしている少女の事だ。
「助けてウィル!」
こうして僕に助けを求めている少女――アルシラこそ、この世界で勇者と呼ばれるべき存在だ。そんな彼女が助けを求めている僕について少しは説明しなければならない。
その説明の前に、僕は大きく溜め息を吐き出す事も忘れない。
「あのね、アル。僕は賢者でも、預言者でも、ましてや神様でもないんだ。君の幼馴染であり、君に付き合わされてそこそこの剣術と趣味で魔法を嗜む程度の偏屈な村人だ。そんな僕が君を助ける事が出来るのか? 精々お茶を淹れてあげるのがやっとだ。そのお茶を飲んだら帰るべきだね」
「そんな事言わないで! 助けてよ!」
青色の大きな瞳を潤ませて僕に頼み込むアルシラ。こうして愛称で呼ぶ程度には仲のいい僕らの話を僕がお茶を淹れている間にしよう。当然、泣きそうな顔をしているアルシラは少し置いとくとして。
生まれた時に僕は自分が自分ではない感覚――つまり前世を含めた転生を果たした事に気がついた。
この世界が全く前世とは違う事を知った。知らざるを得なかった。魔法、モンスター、王様、王都。まさしく前世で言う所の『ファンタジーの世界』がココには広がっていた。
ハッキリと言っておくが、ファンタジーの世界であっても自分が魔法を使えるとは言っていない。それこそ魔法は先天的な才能を必要としており、僕にはソレが無い。当然、魔法書なるモノも現存しているが、先天的な才能を前提として書かれている。魔法を嗜む、と言っているのは知識として保有しているだけなのだ。
まあソレは置いておこう。そんな『ファンタジーな世界』で
なんて事はない。ご近所付き合いと子供特有の遊び相手である。幼少の頃に遊びに付き合っていて、懐いた。それだけなのである。
そんな『便利なヤツ』である僕だって出来ない事もある。むしろ出来ない事の方が多い。というか僕が出来る事の大半はアルシラだって出来る。
だから、アルシラが僕に助けを求めているというのは実に変なのだ。こうしてお茶を淹れてあげるのがやっとなのである。
木製のカップを彼女の目の前に置いて椅子に座る。
「それで? 僕に何を頼む気なんだい。先に言うけれど、厄介事だけは勘弁してくれよ」
「私と一緒に旅に出よう!」
「なんで?」
「私がウィルと一緒がいいから!」
なんとハッキリとモノを言う少女なのだろうか。彼女にお告げをした、この世界の神様はきっとこうした前向きな姿勢を評価したに違いない。僕もアルシラのそんな一面は評価に値するモノだと思う。アルシラよりも前向きではない僕が上から――この場合は
カップを大事そうに両手で持ち、湯気の出る薬湯を眉を顰めながら飲み込んだアルシラはその大きな瞳を僕へと向ける。薬湯が苦かったのか、その瞳は涙を貯め込んだように潤んでいる。
「……ダメ?」
ダメである。何が楽しくて危険の蔓延る世界へと旅立たなければならないのであろうか。例え隣に勇者が居たとしても……いや勇者が居るからこそ危険な旅になることだろう。
だからこそ、僕は口を開いて、ハッキリと拒絶と否定と拒否を伝えなくてはいけない。
「この通り、一生のお願い! 私と一緒に旅をしよう」
「君は来世にまで迷惑をかけるつもりか」
両手でそう言うアルシラに僕は溜め息を吐き出して呆れを含めながら言葉を漏らした。こうして頼まれる事は少ない。
僕は慣れ親しんだ天井を少し見てから大きく溜め息を吐き出す。
「……一生のお願いなら仕方ない、か」
「やった! さすがウィル! じゃあ準備して村の入り口で待ち合わせね!」
僕の肯定の言葉を聞く前に扉を蹴破るように開けたアルシラは外へと飛び出した。外からは「やったー!」と大きな声が聞こえる。聞きたくはなかった。
僕は肩を落とすように息を吐き出して、自分の決断を呪いたくなった。
村の入り口にそわそわしながら立っていたアルシラを見つけ、アルシラも僕を見つけたのか笑顔を輝かせて大きく手を振っている。
恥ずかしさと呆れで顔を緩めながら軽く手を上げてアルシラに近付く。
「それで、まずは何処に行くんだい?」
「何も考えてないよ?」
愛らしい顔をコテンと傾けて当然のように言ってのけたアルシラに溜め息を吐き出す。きっと神様はこんな向こう見ずな性格を評価したに違いない。僕は同意出来ないけれど。
「そもそも、どういう理由の旅なの? 助けてって言ってたけど」
「あー……うん、えっと」
「旅をしたいからって嘘を吐いた?」
「ち、違うよ。嘘を吐いたけど、別に旅をしたかったからじゃないよ!」
「……ふーん」
ブンブンと首を横に振るアルシラに疑いの眼差しを向ける。向けられた視線から逃げるようにバツの悪そうな表情をしたアルシラがボソボソと小さく口を開く。
「だってこうでもしなきゃ、ウィルが村から離れないじゃないか」
それが理由だとすれば、僕は村の人たちに虐められているように聞こえるんだけれど? 僕の知らない所でそんな話をされてると思うと落ち込む。
後になるようだが、僕は決して村八分的なアレやソレを受けている訳ではない。村の人たちと仲もいいし、世間話もする。
「あとは、最近魔物の数が増えてるから……きっと、困ってる人が沢山いると思うんだ」
「どうしてソレを先に言わないんだ、アルは」
「だって今
「思い付いた、ね」
ともかくとして、アルシラの言っている事は本当だ。辺境のこの村でも獣とも言えない魔獣が散見している。その度に僕やアルシラを含めた村の大人達が討伐をしているけれど。
「でも、別に僕らがやるべき事じゃないと思うけど?」
「うん、知ってるよ。でも、ほら。私は勇者に
笑顔を浮かべながらその言葉を言うアルシラを僕は止める事は出来なかった。
まるでソレは義務のように。彼女を縛り付けるのだ。彼女の夢の中で現れて告げたらしい神様。そしてソレを守り
アルシラにそう言われれば、僕は何も言えなくなってしまう。僕もアルシラを勇者にしたい一人であるのだ。
「まあ、困ってる人達を助けたい、っていうのは受け売りなんだけどね」
「随分と義務感溢れる受け売りだ。きっとソレを言った人はきっと素晴らしい価値観と力を持った愚か者に違いない」
「うん。それでいて頑固者だったよ」
アルシラの交友関係をある程度把握しているが、そんな殊勝な言葉を言う存在はいない。だからきっとソレはおとぎ話とか、そういった類いの受け売りなんだろう。たぶん。
「それじゃあ行こうか、勇者アルシラ」
「うん、行こう。勇者ウィルギニス」
僕らは吹き出すように笑って、同時に一歩を踏み出した。
こうして僕らの旅は始まる。
◆◆
私とウィル――ウィルギニスとの出会いなんてモノは誰かにとってはとても陳腐なモノなのかも知れない。
「――どうして君は一人でいるんだ?」
たったそれだけの言葉。たったそれだけの行動。でも、それが私にとっての救いだった。
私とは違って、ウィルはなんだって出来た。なんだって知ってた。それでもウィルは私の相手をしてくれた。
偏屈で、意地っ張りで、屁理屈ばかりで。
誰にでも優しくて、誰にでも厳しくて、自分に一番厳しい。
そんなウィルだから、私は憧れて、好きになって、頑張ってウィルに追いつこうとした。少しでも隣に居れるように。少しでもウィルの助けになれるように。
そんな、私にとっては眩しい日々、ウィルにとっては――きっとなんて事もない日々だったかもしれない。私はそんな日常が好きだった。
だから、
私はそんな日常を壊した存在を許す事は出来なかったのだ。
◆◆
>>ウィルギニス
本作の主人公。転生者。男性。人間。17歳
二度目である人生を謳歌している村人。ファンタジー要素に関して疑問を持ち、研究と実験をしている内に魔法によく似た魔術を行使出来るようになった異端児。自称『偏屈村人』。
>>アルシラ
ヒロイン。勇者。女性。人間。16歳。
本作の問題児であり、本題であり、鍵であり、原因であり、結果であり、過程。
剣術と魔術の素養があり、まるでその道を何年も歩き続けた達人を思わせる実力を保有する天才。『勇者』である事を神様から告げられ、ソレをウィルギニスだけに打ち明けた。