手慰み   作:猫毛布

8 / 15
リハビリ
書き手としての矛盾をフォローする登場人物の鏡の話。


矛盾空間

 私の友人は所謂、変人である。

 ……こうして言えば、『私の友人』という不特定多数を示す言葉全ての人物達が全て変人に思えるが、そうではなく。私のたった一人の、私が友人と言える友人だけが変人ということだ。

 

「君はココが小説か何か……そうだな、創作の世界だったとしたらどうする?」

 

 何も無いテーブルの上に両肘をついて、ニンマリと楽しそうに笑っているのが私の友人――語部栞である。栞、という名前であるが彼は男であるし、これといって特徴的な人間ではない。私と違い他人と接する時には相応に明るく対応もしているし、聞く限り友人も多い。そう思えば、彼にとっての私という人物は彼の友人という不特定多数の一人でしかないのかも知れない。

 けれど、私は知っている。こうして突拍子もない事を語る彼は十二分に変人と言える事を。偏屈と言い直してもいい。

 

「聞いているかい? キミヒト」

「お前の突拍子もない話に耳を疑うぐらいには聞いているよ」

「それは喜ばしい事だね」

 

 仰々しく両腕を広げてみせて肩を竦めた栞に対して私――キミヒトは苦々しく吐き出してやった。「それで、どうする?」と重ねるように聞いてきた栞に対して私は溜め息を吐き出して椅子に深く腰掛けた。

 

「ココが創作の世界だったとして、私に何か関係はあるか?」

「それは無いだろうね。けれど、もしも創作の――何かしらの文章の中の世界だったとするならば、きっと僕らは誰かに読まれる事でしか存在することのできない存在になってしまう」

「現に私たちはココに存在してるだろ」

「君はリアリスト過ぎやしないかい? もっとロマンチックに生きないとツマラナイじゃないか」

「生憎、創作の世界でもない現実なんでね」

「なるほど」

 

 栞は机の上に置いてあったカップを手に取り、湯気の昇るコーヒーを一口飲み込んだ。まるで私に見せつけるようにカップを机の上に戻して、意味ありげに笑う。

 

「これで、どうだい?」

「何が?」

「僕がコーヒーを飲んだじゃないか」

「実に現実的だな。まるでコーヒーが特別な飲み物みたいに言う。残念ながらその苦々しい飲み物は特別でもなければ何もおかしくはないぞ」

「本当に君はリアリストだね。まるで物語の主人公だ」

「よしてくれ。私には特別な力もないし、これから死んでどこか異世界に行く予定もない。ついでに言えば、ラブロマンスの欠片もないし、日常系と言われる漫画やアニメのように私は可愛い女の子じゃない」

「僕のような女の子と話をしていればラブロマンスの欠片はあるじゃないか」

「生憎、お前に恋をする程気が狂っちゃない」

「こんな美人を捕まえてよく言うよ」

「正直者なのさ」

 

 形のいい唇を尖らせた彼女に肩を竦めて私は腐るようにポケットの中に手を突っ込む。もしも栞が言う通りに、この世界が創作の世界だったならばきっと世の中は不可思議か何かに染まっているだろう。何もない所から武器を取り出したり、英雄様が闊歩していたり、魔法か何かがあったり。

 残念なことにそんな事は一切ない。ココは現実で創作の世界ではないのだ。

 

「うーん。何度も君の前で現実を捻じ曲げて見せているけれど、君はまったく信じてくれないね」

「まるで神様みたいな言い草だな」

「神様ではないよ。そんな高尚なモノじゃない。僕は精々語部だからね。付け足したり、消したりする事は出来ても根本からの変更はできないのさ」

「もしも出来たなら、私はお前の事を崇拝するよ。もし出来たなら」

「それも昔に聞いたよ。幼馴染だった時にね」

「生憎、私にはお前のような美人な幼馴染はいなかったよ」

「当然だね。そんな事実はもうなかった事になってるから」

 

 まるでそんな事があったような、変な言い回しをする彼女に私は溜め息を吐き出す。そんな事だから私に変人扱いされるのだ。

 

「まあ、そろそろ終わってしまうだろうし。僕としてはもう少しばかり楽しみたかったけれど、仕方ないね」

「何を言ってるんだ?」

「言っただろう? 僕らは誰かに観測される事でようやく存在出来る存在なのさ」

 

 だからこれ以上は観測される訳もなく、僕らは消失するって訳。




キミヒト 公人
 この文章の主人公。舞台装置の一つ。現実主義者で語部栞が「僕は登場人物」と言い始めてから変人扱いをしている極々普通の人。

語部栞
 公人に「この世界は創作」だと教えようとしている。文中の存在であるので、矛盾や何もなく変化させる事が出来る。
 だから僕がこうして君らに話かける事も出来るって事。まあ君ら観測者からの言葉は聞こえる訳もないけれど。
 本当はキミヒトが魔法を使ったり、魔王と闘ったり、色々とさせようと考えたけれど、彼が「一切ない」と断定しちゃったからね。

 まあどの道、僕らがこれ以上観測される訳もない。訳もない、よね?




Q.書き手の矛盾って?
A.何もないテーブルからカップを持ち上げて飲む。特徴もない男性であったのに美人な女性に。そういった矛盾。

Q.何が、言いたいのかね?
A.思いついて書いただけだから、何の意味もありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。