手慰み   作:猫毛布

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リハビリ
やっぱり時間掛かるなぁ……。
登場人物が某喋る機械の赤青姉妹の名前と被っている事に気付いたのは三分のニを書ききった時でした。

百合だよ! やったね!


義務と本能の正義の味方

 青空茜にとって、ソレは特別な事ではなかった。

 

「ありがとう、茜!」

「大した事じゃないからいいよ」

 

 ただ友達が困っていたから、ノートを貸した。茜にとっては本当に何も特別な事ではなかった。

 廊下を慌ただしく走り去っていく友達を見送り、茜は窓縁に体重を預けて、苗字と同じ空を見上げた。

 

「……ホント、大した事じゃないのになぁ」

 

 そう呟いた茜の言葉は誰にも聞かれる事もなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 青空茜にとって、ソレは特別な事じゃない。

 呼吸をするのと一緒で、食べる程の飢えは感じず、睡眠のように自分を鎮めるモノでもない。

 茜にとって普通で、当たり前で、当然の行為。

 困っている人がいれば助ける。幼い頃見ていたヒーローがしていた通りに茜はソレを実行し続けた。だからソレはある種の本能みたいなモノだったのかも知れない。

 

「と、いう事で、私はノートを追加で書いてる訳ですよ」

「ふーん。それも私の部屋で、ね」

「だって葵ちゃんと話したかったし」

「それはどーも」

 

 青空茜と幼馴染である赤坂葵は相変わらずな友人に呆れながら、溜め息を吐き出した。 

 

「茜は、正義の味方にでもなりたいの?」

「うーん、どうだろ」

 

 葵は逆向きに座った椅子の背凭れに腕を置いて、顎を乗せながら追加のノートを書いている茜の困ったような応えを聞き流した。

 幼い頃からの付き合いがある葵は茜の行動をなんとなく把握している。把握しているからと言って、何かを出来る訳もないけれど。

 

「ま、茜のお人好しは今に始まった事じゃないけど」

「私はそんなにお人好しじゃないよ?」

「どの口が言うんだか」

 

 葵からしてみれば、困っている人を放っておけない時点でソレはお人好しと言えるのだ。だから茜はお人好しだ。幼い時に災害がニュースで発表されて「行かなきゃ!」と準備していた茜を止めた葵だからこそ言えるのだ。

 茜はようやく出来たノートを確認しながら、ボンヤリと口に出す。

 

「私だって困ってる人を皆助けれる訳じゃないもん」

「私としては、もっと早く気付いてほしかったかな」

「えへへ……その節はどうも」

「反省してないな、コイツ」

 

 照れたように笑った茜に葵は呆れた視線を飛ばす。茜のお人好しが今よりも酷かった頃、葵は十二分に茜に巻き込まれた。いや、気付くと巻き込まれていた。

 そのお陰で危険な雰囲気に対しては人一倍敏感になったし、茜の行動も把握出来るようになった。不本意ながら。

 

「もう葵ちゃんが怪我とかしないように私も鍛えてるし!」

「そもそも茜が危険に突っ込まなきゃいいんだけど?」

「ごめんね! 葵ちゃん!」

「やっぱり反省してない」

 

 諦めたように葵は溜め息を吐き出して、茜は照れたように笑う。

 茜は人助けを止める事は出来ない。呼吸を止める事が出来ないように、止める事など出来ない。その当然の事をし続ける為に茜は鍛えているし、勉強もしている。

 

「茜が正義の味方みたいなのは放っておくとして」

「別に正義の味方じゃないんだけどなぁ」

「少なくとも、人の為に自分を犠牲に出来る人間は正義の味方みたいなモノだね。私に言わせればだけど」

「あー、えっと、葵ちゃん。別に私は人の為に人助けをしてる訳じゃないんだけど」

「感謝の言葉だけで生きてる茜の言葉とは思えないね」

「その感謝の言葉っていうのがよくわからないんだよねぇ」

「はぁ?」

 

 クルクルとペンを回しながら考えるように茜は声を出し、葵は片眉を上げて「何言ってんだこいつ」という言葉を飲み込んだ。

 

「何言ってんのよ、アンタ」

 

 そして吐き出した。

 回していたペンをダーツでもするように親指と人差し指で挟んだ茜は壁に引っかかったダーツ盤に狙いを定める。

 

「よくさ、感謝の言葉だけ聞ければいい、って言うけどね」

「報酬はいらない、って遠回しに言ってるだけだけどね」

「私は報酬も感謝の言葉もいらないんだけどねぇ、っと」

 

 放たれたペンはダーツボードの中心に刺さり、葵の掠れた口笛と「ナイッシュー」という言葉が茜に送られた。

 葵のお褒めの言葉に茜はようやく得意気に笑って照れたように頬を指で掻いた。

 

「……じゃあなんでアンタは人を助けてんのよ」

「うーん。本能?」

「始末に負えないわね」

「それでも付き合ってくれる葵ちゃん大好き!」

「はいはい、私もよ」

 

 少なくとも好きじゃなければココまで付き合いはなかっただろう。とは口にせずにテキトウに茜へと言葉を返した葵。

 感謝の言葉すらいらない。助けたいから助ける。本能だから。茜との付き合いが長い葵はなんとなく茜の言葉を理解した。

 茜にとって人助けは呼吸と同じなのだ。茜からしてみれば当然の事をしている訳で、感謝されるような謂れはない。感謝の心を忘れているという訳では無い事は葵は知っている。

 自己評価が低い、という訳でもないから茜はただ本能として、言い換えれば欲求として人助けをしている。

 

「ホント、始末に負えないわね」

「えへへ」

「褒めてないっての」

 

 葵は溜め息を吐き出して、少しだけ茜を羨ましそうに見つめて瞼を閉じる。

 

「どうしたの?」

「……別に。なんでもないわよ」

 

 何かを感じた茜はそう聞いたけれど、葵は言葉を溜め息に混ぜて吐き出しただけであった。

 

「それで、茜はいつまで私の部屋に居るのかしら?」

「葵ちゃんが私を追い出すまで!」

「あのね。ボールペンをダーツボードに投げて刺せるような超人を普通の人が追い出せると思うの?」

「葵ちゃんは普通じゃないし大丈夫だね!」

「コノヤロウ」

 

 しっかりと返ってきたブーメランに不満を漏らした葵は口をへの字に歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤坂葵は正義の味方ではなかったけれど、いい人ではあった。

 屈折した正義の味方である茜をフォローする事は慣れていたし、そんな茜の事が好きでもあった。人一倍苦労をしてきた自負も彼女にはあり、そして芽生えた友情だか、恋だか、愛だか、よく分からない感情を自覚もしている。

 何かと茜を比べれば、茜の方が好き。と言える程度には好意が向いていた。葵自身「馬鹿だなぁ、自分は」と呆れるぐらいに。

 

 だからこそ、葵は茜に言えなかった。人助けを本能として、欲求として、生命活動として組み込ませた親友に言えなかった言葉がある。

 他人と葵を比べる事すらしない正義の味方だからこそ、葵は黙っていた。

 

 始まりは単なる静止の言葉だった。

 明るく元気で、お人好しで、何でも出来た茜を目の敵にする存在は居た。当然、葵は見て見ぬフリを貫こうとした。触らぬ厄に祟りなし、という事は茜との生活で覚えた事だ。

 けれど、こっそりと行われたソレを()()にも目撃してしまった。見てしまった。

 だから葵は「止めれば?」と静止の言葉を不特定多数に放った。尤も、「そんな事やってるの子供ぐらいだと思ったけど、君らはまだオムツでも履いてるの?」という煽り文句も付け足されたけれど。

 

 対象が移動したソレを葵は何食わぬ顔で受け止めてみせた。大きな怪我になる訳でもなく、危険な雰囲気もなかった。だから気にする事もなかった。

 だからこそ、それは増長してしまった。

 まるで雪玉を転がすように肥大した()()()を葵は一身に受け止めた。

 

 

 そして全てが壊れた。

 ただ、それだけの事なのだ。

 それだけの事だった。

 

「はぁ……」

 

 茜は自分の名前と同じ色に染まった世界をボンヤリと眺めながら息を吐き出した。夕暮れは好きだったけれど、もう好きにもなれそうになかった。

 

「私は正義の味方じゃなきゃいけない」

 

 それは本能だった。呼吸と一緒で義務付けられて、食事程彩られている訳でもなく、睡眠のように自分を沈める為だけのモノだった。

 自分に言い聞かせるようにボソリと吐き出した言葉に怯えたように、足元で雑草達が靡いた。

 

「だから葵ちゃんは死んじゃった。私が君達に危害を加えない為に。葵ちゃんは私を正義の味方だと思ってたから」

 

 靴裏にへばり付いた液体など気にせず、茜は一歩踏み出した。粘質な音が雑草達の鼓膜にへばりつく。

 茜はいつものように笑顔を浮かべた。これは人助けなのだ。自分の欲求を満たそうとしているから。自分の欲求は人助けによって満たされるから、コレは人助けに他ならない。

 

「いつか倒した殺し屋さんが言っていたけれど、人を殺すのに道具を使う内は二流だって。二流な正義の味方なんて葵ちゃんは望んでないから私は一流になったよ」

 

 雑草達が風に揺られてかざわめき出す。「室内なのに、おかしな事もあったもんだ」と茜は疑問に思ったけれど、その疑問を口にする事は無かった。

 生きる為に言い訳するように葉音を鳴らす雑草達にニッコリと笑う。

 

「あの世で葵ちゃんに謝らなくていいよ。だってお前らは地獄だからね。葵ちゃんに謝る事も出来ないじゃない」

 

 茜は目に見えていた雑草を刈り尽くした。

 

 

 

「私は正義の味方だ。だから私は義務的に悪人を狩り尽くす。本能的に刈り尽くす。

 私は善意や好意で正義を為す訳じゃない。だから報酬も感謝の言葉も、何もいらない、必要ない。

 だって、私は正義の味方であって、君たち人間の味方じゃないからね」

 

 これは特別な事じゃない。自分の欲求を満たす為の行為だ。

 ただ葵ちゃんが死んだから、復讐するだけ。だから、特別な事なんて一切ない。




青空 茜
 超人。無敵。最強。
 『危険』の螺子が外れていて、人助けをする事を本能として生きている正義の味方。助ける為には力が必要、という事である(人を助けれる)程度に鍛えている。
 本能的な行動だから助けた人に言われる「ありがとう」に疑問を感じていたりする。

赤坂 葵
 一般人。
 茜の所為で危機管理能力が発達しすぎた極々普通の女子高生。ちょっと違う所は正義の味方の隣に居ても生き続けてた事。
 しれっと本文で書いているけれど、『いつか倒した殺し屋さん』の時も近くにはいた。その程度には危険な世界に巻き込まれて、生き残って、死んだ。




実は書いてる最初は老衰のように人間世界を壊す物語でした。
世界で活躍する正義の味方である青空茜が「感謝を求めてない」と公言して、感謝する事をやめた人類が緩やかに自壊するような、そんな物語を書きたかったなぁ。
助ける事を義務付けされた側と助けられる事を当然とする側。みたいな展開を書こうと思ったけれど、長くなるので止めました。
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