「リオウ殿、『若葉亭』は食事が豪華なことで有名なんですよ」
「それは楽しみですね」
フィッチャーさんの言葉に答えながら宿を目指す。そこで案内してくれたフィッチャーさんとは別れた。明日の朝に迎えに来ると言う。宿屋の主人にデュナン軍のリオウだと伝える。
「マカイさんから話は聞いてますよ。部屋は二階の一番の奥です」
それじゃあベッドで休むか。夕食は言われた通り豪勢でうまかった。レイクウェストで別れた皆も、追いついてきていて同じ宿に泊まっていた。ティルさんだけが何か用があって外に出かけているらしい。まあ俺は早めに休もう。
暗闇、そしてうごめく何か。闇の中を漂っていることを自覚しながら、しかし俺は冷静だった。また夢だと思ったから。重苦しい暗闇、漆黒の剣、だが恐ろしさはない。慣れたから。そうしていると、右手から光がほとばしる。闇に抗う光。光と闇に分かれる空間。そして――爺さん、爺さんと渡り合う将軍らしき人物。そして、ジョウイ――。ジョウイ、俺は、俺はここなんだ。叫ぶが聞こえないようで、ジョウイは前に進んでいく。だが、ジョウイの姿がおかしい。いつもの服装ではなく、白いハーフコートの軍服を着ている。レンガ造りの街に立つあいつは、整列した兵の指揮を執っていた。ジョウイ、君は――届かないと知りつつも呼びかける。だが、やはり声は届かずに、漆黒の剣が俺の胸に――。
§
用事を済ませたらリオウ達と合流してベッドでぐっすり眠った。朝になると、フィッチャーが宿屋に駆け込んできた。
「た、たた、た、大変ですリオウ殿!!! マカイ殿とリドリー殿が王国軍の使いとスパイが捕まって、いがみあって……」
「お・ち・つけぇ!」
とりあえず背中をどやしつけて落ち着かせる。
「マカイ殿とリドリー殿に何かあったんですね? なら議場へ行きましょう」
リオウは冷静だ。何だか自分が前世でゲームをプレイした時に比べて、だいぶ想定していた性格と違う人物だね。もっと純朴というか、なんというか、もう少し冷静でない人格を想定していたのだが。まあそれはいいか。もはや意味のない思考だ。
連れだって市庁舎の議場へ向かう。議場に入ると、顔から湯気が出るほど怒っているリドリーらしきコボルトが。僕は初対面だね。
「リドリー殿、誤解です。私達はそんなことを企んではいません」
マカイさんが弁明する。こちらは丘上会議で見知っている。
「真実かどうかはわからぬ。だが、このまま“人間”と共に戦うことはできん」
「どうしたんですか?」
訪ねるリオウ。答えるリドリー。
「リオウ殿……貴方も、やはり“人間”の味方でしょうな。私は失礼させてもらう。守りを固めるからな」
さて、リドリーが去ったわけだが、マカイさんに事情を聞こう。
「……今朝早く、リドリー殿が来て私を裏切り者呼ばわりしたのです。人間の力など借りぬ。コボルトだけで王国軍と戦うと。大変困りました。コボルトの精強な軍が離反しては……王国軍が近づいていると報告があったのに」
やっぱり王国軍は来ているのか。
「…………私達がリドリー殿の所に行きます。詳しい事情を聞き出して、まずはそれからですね」
リオウがそう申し出たので、市庁舎を出てリドリーさんの所へ。
「リオウ殿。これは私の私見ですが、臭いますねぇ。王国軍の近づいている今、リドリーの心変わり……。私の考えが当たっているなら、王国軍の攻撃まで間がないはずです」
「リドリーさんが怒ったのは王国軍の策略という読みだね。恐らく王国軍の攻撃の一種かな」
フィッチャーの考えを具体的に話す僕。
「そうですね。とにかくリドリー殿に会ってからですね」
思案しながら話すリオウ。だね。会わないと何も始まらない。が、
「リドリー様の命令で通さないワン」
「中には入れないワン」
コボルトの居住区に行こうとしたが、門番のコボルトに止められた。駄目だこりゃ。
「ううぅぅ。リドリー将軍……」
同じコボルトのゲンゲンがリドリーに信じてもらえないのでうめいている。
「どうしましょう、リオウ殿」
困り顔のフィッチャー。ここは
「昨日街を散策して見つけた通路があります。そこを使いましょう」
§
というティルさんの言葉で、ウィングホードの居住区にある地下への梯子を下りると、地下通路が。
「……どうやってこんな通路を見つけたんですか?」
「歩いていたら偶々見つけたんだよ。僕ってそういうことがけっこうある人間なんだ」
平然と言うティルさん。……底知れない人だ。しかしそこには……。
「ま、魔物が出るじゃないですかぁ!」
フィッチャーの叫び。と、ジェスさんも引いている。
「二人は下がって。魔物の相手は俺達がやります」
トンファーを構える。ティルさん、クライブさん、オウランさん、ゲンゲン隊長、ナナミ。皆も戦闘態勢になる。……石畳の下に潜る鮫型の魔物もいた、どうやって潜っているのだろう。だが消え去るまで攻撃する。
そうして進んでいると、ひときわでかい鼠のような魔物が。頭の両横に、二本長い角がある。
「行くぞ!」
掛け声をかけて攻撃する。紋章なども惜しみなく使う。
「ナナミ!」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
連携しながら攻めたてる。息を合わせて同時攻撃だ。ティルさんの紋章魔法も実に強力。
「――雷の嵐!!!!」
どでかい雷が中空に生み出されたかと思ったら直撃した。凄まじい威力だ。
と、魔物がうごめく。
「皆! 避けろ!」
緑色のもやが出た。これは……。
「恐らく毒だ! 退避!」
逃げようとするが攻撃範囲が広い。食らって毒状態になる仲間達。が、
「――大いなる恵み」
俺が輝く盾の紋章で回復する。魔物による状態異常も回復できるので便利だ。戦いは少しの間続いたが、
「はぁあっ!」
俺のトンファーで決着。魔物はその姿を消した。
「やれやれ……リドリーに会うのにも命がけだね」
全くですよ。この通路がコボルトの居住区に繋がっていると聞かなければ、逃げ出しているところだ。梯子を登ったら外に出た。コボルト達がわんさかといる。コボルト居住区で間違いなさそうだ。
「はぁーっ。ようやく外に出られましたよ」
フィッチャーさんが息をつく。俺もせっかくの外なので深呼吸する。そこにリドリー殿がやってきた。
「リオウ殿、それにフィッチャーまで、こんな所になんの用です」
「リドリー殿とどうしても会って話したかったのです」
あくまで下手に出て話す。どうにか機嫌を直して欲しいところだが。
「……わかりました。あなた方を信じましょう。昨夜、パトロールに出ていた部隊が怪しい人影を見て追跡。残念ながら見失ってしまいましたが、途中で落としたと
「密書?」
「マカイ殿とハイランド王国軍、キバ将軍との間に交わされた密約です。フィッチャー、お前は聞かされていないのか?」
「いや、私はここにおいては新参者ですから……その密約の内容とは?」
「内容は……王国軍とトゥーリバー市の休戦協定だった」
それはいいことだが……怒っているということは、何かまずいことが……ああ、そういうことか。
「その休戦の条件は、コボルト居住区の支配権を王国軍に渡すというものだったのだ!!」
やっぱりな。そんなこったろうと思った。
「馬鹿な……マカイ殿はそのような条件を呑む方ではありませんよ!」
抗弁するフィッチャーさん。マカイ殿の性格はわからないが、どうもそうらしい。けれどリドリー殿は完全に怒っていて、人間が信用できないという。
「リドリー殿、それは王国軍の策略だと思われます。種族の溝を深めるのが目的なのだと……」
ジェスさんが推測を述べる。だけど間違いなくその通りだろうな。離間の策、というやつだ。
「そうかも知れぬ。しかし真偽はわからぬ。ならば私は一族を守る為に動かねばならぬ。それが私の責務なのだ」
「…………」
困った。リドリー殿はトゥーリバーという場所ではなく、コボルトという一族のことを考えている。これでは同盟や協調しての戦いなど……。だけどまだ完全には見放されてはいない、か? なら……。うぅん……ここで言うべきことは……。
「ならばリドリー殿。一つだけ。一つだけ私と約束をして頂けませんか?」
「約束?」
そうして、俺はリドリー殿と約束を交わした。
§
リドリーとの会話を終えて、僕らはコボルト居住区から引き上げてきた。
「これが敵の策略なら、恐ろしいことになるだろうね」
僕の言葉に頷くフィッチャーやリオウ達。そうして市庁舎に戻ろうとするが、市の広場で人だかりが……。
「良き返事を期待しておりますぞ」
その言葉に、慎重に答えるマカイさん。
「考えさせて頂きましょう」
あの会話の相手、禿げた頭の男……ハイランドのキバ将軍だ。うわぁ。
「こちらとて戦いを望んではいませんからな」
嘘つけ。
「父上、少々……」
キバ将軍の隣にいた、黒髪が涼やかな青年がこちらに来る。
「貴方はデュナン軍のリオウ殿、ですね? 私はクラウス。王国軍第三軍キバの軍師をしております。以後お見知りおきを」
キバの息子、クラウスだ。
「……よろしく」
疑わしげに見ながら言うリオウ。
「いずれお手合わせすることもあるかもしれませんね」
そう言って微笑みながらクラウスは去って行った。くそ、完全に向こうの思う壺だ。とりあえずマカイさんに話を聞こう。きっと想定通りだろうけど。
「マカイ殿。先程のハイランドの方とは」
「ああ、フィッチャーか。王国軍のキバ将軍だ。休戦協定を申し入れてきたよ。実にありがたい」
完全にだまされている。だまされているよ。
「リオウ殿、フィッチャー。リドリー殿はどうでしたか?」
議場に足を運び、リドリーさんと会話した内容を話す。
「なるほど、それでは怒るのも無理はない。しかしそれもいらぬ心配になったよ。先程のキバ殿は休戦協定を申し入れて来たのだから」
だから、策略だって。いい大人がそんな手に引っかからないでよ。
「王国軍は都市同盟の滅亡を狙っているのですよ! 休戦協定などありえません!」
強く言い聞かせるフィッチャーだが、
「馬鹿を言え。キバ殿は危険を冒してトゥーリバーに乗り込んでまで休戦協定を申し出たのだ。兵は一千ほどの部隊しか連れていなかったのだ。嘘なはずがなかろう」
うわぁー! コロッとだまされているー! リオウも呆れ顔だよ!
「コボルトの疑念を深める為に決まっているではないですか。先程の会見をリドリー殿が知れば、更に人間を疑うでしょう」
説得を続けるフィッチャーが哀れだ。のれんに腕押し。マカイさんはそんな説得に苛立つ。
「これはチャンスなのだ。コボルトは疑い、“羽根つき”どもは役立たず。こんな状況での休戦協定は正直ありがたい」
少しは疑おうよマカイさん。それとその羽根つきという蔑称もやめようよ。
「フィッチャー、お前は下がれ。そしてリオウ殿。残念ですが私達はキバ殿と会って休戦協定を結びます。新同盟軍とは……協力できません」
まあそうなるよね。新同盟軍はハイランド王国軍と戦争中だし。そして外に出ることも禁じられた。外にはハイランド軍がいるから、と。やれやれ。
「このままじゃトゥーリバーが守れない……リオウ殿、どうしたら……」
あたふたするフィッチャー。
「これほどバラバラでは、万に一つも勝ち目はないだろうな」
冷静なジェス。ここは僕が動くか。
「リオウ、進言を一つ」
そして僕は語った。この先に起こる状況を打開する術を。
「……なるほど。そうですね」
リオウも納得してくれたので早速行動だ。というか知っていたから既に行動済みなんだけどね。勝手だがやらせてもらっていた。
行動というのは他でもない。デュナン城のシュウに、救援要請の手紙を使者に預けて送るというものだ。船でデュナン城から援軍を送ってくれ、と。そしてこうなることを知っていた僕は、トゥーリバーに着いた直後に手紙(使者)を送っていたというわけ。わはは、転生者万歳である。
「種族間の問題に、休戦協定。デュナン軍との同盟は難しそうだね」
「どうするのだ? リオウ」
僕の言葉に続くジェス。
「……俺は、休戦協定は王国軍の策だと思う。あのクラウスという軍師の。だから、ティルさんの言う通り援軍を待って、王国軍に対応しよう。それと、コボルトとリドリー殿を信じてみようと思う。彼らにだってこのトゥーリバーを守りたい気持ちはあるだろうから」
シュウが遅ければトゥーリバーは落ちることになるが、即奪還するぐらいの気持ちなのかな? まあ悪い対処ではない。信じることは大切だ。
「とりあえず宿で休もう。全ては明日、です」
リオウの言葉で僕達は宿へ向かった。今度はフィッチャーも一緒だ。
§
翌日、俺達は早く目覚めてことの推移を見守った。だが、市門の外にはマカイ殿とキバ将軍。そしてハイランド王国軍……。
「キバ殿、これはいったい……? 今日は休戦協定では」
マカイ殿、まだ休戦協定を信じているのか。キバ将軍は普通に兵士を引き連れていた。やはり策だったか。
「マカイ殿、その甘さ、隙の多さでは、リーダーとしての資質はありませんよ」
キバ将軍に随伴しているクラウスの言葉。あの軍師、かなり厄介だな。
「ま、まさ、か。約束を違えると……!!」
ようやく気づいたようだ。同盟を望む相手だが、マカイ殿は確かに戦時には向かない指導者のようだ。しかし、
「私はここの全権大使です。この身に代えてもトゥーリバーの地を穢させはしません!!」
どうやら弱腰だけの人物というわけではなかったか。しかしもう遅い。このままじゃやられる。
「もう遅いわ! 全軍進めぇっ!!」
キバ将軍が号令。王国軍兵士が襲いかかってくる。迎え撃つトゥーリバーの人間兵士。
「あわわわ、まずいですよ! このままではトゥーリバーが……」
慌てるフィッチャーさん。
「リオウ、約束だ。リドリーの所に行こう!」
ティルさんの言う通りだ。それにしても約束しておいて良かった。すぐにコボルト居住区へ!
「よし、行こう!」
ダッシュでコボルト居住区へやってきた。入口にリドリー殿。
「リドリー殿、何をしているのです!? あれを見てもまだ密約があるとでも!?」
フィッチャーさんの言葉に、だが戦う覚悟を決めてくれないリドリー殿。
「しかし、芝居やもしれぬ……それに、今更……」
煮え切らないなぁ! いい加減に覚悟を決めてくれ。
「リドリー殿! 私とした約束をお忘れですか! トゥーリバーに王国軍が攻める様子を見せたら、コボルト軍を率いて戦って下さる。そう約束したはずです!」
そう、事前に、「王国軍が攻めてきたら」コボルト軍を動かしてくれるよう約束しておいたのだ。
「約束……しかし……」
「コボルトの誇り高い戦士が約束を破るのか! 大切な居場所、トゥーリバーが奪われてもいいのか! 守りたく、ないのか!」
激昂したゲンゲン隊長が、年上のリドリーさんに激しく言葉を叩きつける。俺も重ねて説得。コボルト軍が動いてくれなければ負ける!
「……うぬぅ。しかしコボルトみなの命が……」
くっ。もういい! と叫びかけたところでティルさんに袖を引かれる。
「リオウ、切れちゃ駄目だ。最後まで、信じることを貫くんだ」
信じる……信じて、いいのか? 俺は気を取り直して再度リドリー殿に言葉を紡ぐ。
「この街を守る為に、戦わないのですか? 俺達も力を貸します。一緒に、戦いましょう!」
親友と誓ったのだ。戦うと。その気持ちがあるから俺は戦っている。リドリー殿やマカイ殿だって、きっと守りたい何かがあるはずだ。
「リドリー殿!」
何度も呼びかける。すると他のコボルトが動いた。
「将軍、俺達、戦いたい」
「俺達、皆この街好き。守りたい」
それで、
「…………すまない、みな。責任は私にある。今から間に合うかはわからんが、戦おう!」
立ち上がってくれた! よし、これなら……!
「行きましょう、俺達と共に!」
§
「おおおおおおーー!!!」
コボルトが一斉に敵へと襲いかかる。時間がかかったが、人間とコボルトが手を取り合った。……ウィングホード? いないねぇ。どうやら何かが影響して彼らと協力したり戦闘に参加したりがなくなったようだ。……まあいいか。トゥーリバー市の戦力は人間が四千、コボルトが五千、ウィングホードが一千ということだからね。コボルトが加わっただけでも充分だろう。ウィングホードを軽んじるわけではないが。
「マカイ殿、リオウ殿。私が間違っていた。共に戦おう。この街を愛する者として」
リドリーは覚悟を決めてくれたみたいだ。目が据わっている。よし、僕らも戦おう!
「リドリー殿……リオウ殿が……ありがたい」
マカイさんは目を潤ませている。まだ涙は早いよ。
「コボルトの加勢……だが、既に戦機を逃しておる。このまま押し切るぞ!」
キバ将軍、貴方には負けない。
「火炎の矢!」
僕は敵全体を攻撃できる火魔法を放って敵を蹴散らす。小隊規模の敵兵が炎に包まれた。クライブは銃撃。リオウとナナミ、オウランとゲンゲンは近接して攻撃だ。オウランは巧みにリオウの背中を守る。仲間にして良かった。頼れるボディガードだ。
死闘が続いた。鍛えられた王国軍は手強く、こちらの人間・コボルト軍の攻撃にも崩れなかった。更に王国軍は、恐らく軍師クラウスの指揮だろうが、後方から矢を射掛けて左右に分けた軍でこちらを挟み込んできた。やはり軍師の存在は大きい。戦況は段々と不利になっていた。
「くそっ!」
リオウのトンファーが敵を打ち据える。だが表情は焦り、苦しんでいる。
「炎の壁!!」
横一列に並んだ敵兵を焼き殺す。僕の魔法もそろそろ使用回数が限界に近い。
「この地を去ってどこに逃げる? どこで生きる? 我らはこの地を守る! 我らの街を!」
リドリーは強く気を吐く。くっそ、これで後は……。増援さえあれば……。
「来た!」
その声が発せられたのは、さすがに限界を感じ始めた時だった。
「皆! 援軍だ!」
南のコボルト村から義勇軍が。そして待望のデュナン軍が街を襲う王国軍の背後から現れた。
「デュナン軍が……来てくれた。リオウ殿……」
「ちぃっ! 全軍、引けぇぇーっ!!」
戦いは、終結した。キバ将軍とクラウスは引いていった。このままでは包囲され、全滅させられると読んだのだろう。やった。また王国軍を、撃退したのだ。
「守った。守れた! やったぞ! 我らはトゥーリバーを守ったのだ!」
原作とは違う状態になったこの世界。原作では手を取り合う三種族だが、この世界ではそれぞれの種族が単体で敵に立ち向かっているだけでしかないように感じた。だが、それでも敵を撃退するのには充分だった。
(やれやれ、何とも綱渡りだね)
そう思いながらも、形だけの団結でも敵は撃退できた。まずはそれを喜ぼう。
§
「リオウ、起きてよリオウ」
自分を呼ぶ声。それで目が覚めた。うぅん。俺は……どうなったんだったか。ああ、トゥーリバーで……。
「俺……寝ていたのか」
「うん。戦闘が終わったらぐっすり眠っちゃったよ」
ナナミだ。いつもそばにいる姉。
「きっと疲れたんだよね。目が覚めたなら、マカイさんの所に行こうよ。シュウさんも来てるよ」
「ああ、リオウ。起きたかい。じゃあ行こうか」
皆とも合流して、議場へ。
「リオウ殿。お待ちしていましたよ。お体は大丈夫ですか?」
マカイ殿が心配して下さっている。
「ええ、もう平気です。ご心配ありがとうございます」
「大活躍だったみたいだなリオウ。こっちはいいとこなしだぜ」
ビクトールさんも来ていたのか。
「いえ、貴方達の援軍が来なければ、王国軍を撃退することは困難だったでしょう」
「シュウさん、どうしてこんなに早く?」
時間を逆算すると、俺達が城を出てから何日か後には城を出ていないと、こんなに早くは来られないはずだ。
「王国軍がミューズとトゥーリバーとの関所を越えたという情報が入ったのです。その為、すぐに動ける兵をまとめ、取り急ぎ駆けつけたのです。私どもがレイクウェストに上陸した時に、ちょうどティルからの手紙を携えた使者と落ち合いました。そこからは強行軍でトゥーリバーへと」
そうか。優秀な軍師と情報の伝達が勝利に繋がったんだな。
「それだけではありません。南のコボルト村で義勇軍とは……シュウ殿、貴方が?」
リドリー殿がシュウさんに尋ねる。
「私は知らせを入れただけです。リドリー将軍、貴方の名声が義勇軍を作らせたのですよ」
リドリー殿はコボルトの英雄という話だからな。凄い人だ。あ、いや、コボルトか。
「リオウ殿、あなた方の協力によって王国軍の企みからこの市を守ることができました。しかし敵は都市同盟から去ったわけではありません。一度は断っておいて申し訳ありませんが、共に戦っては頂けないでしょうか? 貴方と共に戦いたいのです。貴方と一緒ならば勝てそうな気がします」
「申し訳ないだなんてそんなことありません。是非、デュナン軍と同盟を」
マカイ殿は俺達を信じてくれたようだ。良かった。最初の外交交渉を成功させることができた。
「戦となれば、我々は全力を尽くします」
リドリー殿も、だ。ありがたい。これからだ。これからこうやって同盟を広げていくんだ。団結することが、力なんだ。
「それとフィッチャー、お前はクビだ」
え?
「ええぇええ! そんなぁ、マカイ殿。私だって戦いましたよぉ」
「お前が頑張ってくれたことはわかっているさ。クビの理由はだな、シュウ殿に頼まれたからだ。お前の力を貸して欲しいとな。トゥーリバーでなくデュナン軍で働くのだ」
「あ……う、そ、そうですか。それじゃあ、えーと。よろしくお願いします。シュウ殿」
フィッチャーさんが仲間になってくれた。リドリーさんも来てくれることになった。これは心強い。じゃあ皆でデュナン城に戻ろうか。え? ティルさん、まだ仲間を集める? ……ま、まあ頑張って下さい。
§
と言っても一緒にレイクウェストに行くんだけどね。リオウに、仲間になった人達を全員紹介する必要もあるし。それに……。
「もぉぉ。何言ってるの。早く一人前になる為なんだから、覚悟を決めなさい」
「でもテンガアール。自分から危ない所に行くのは……」
この二人が宿屋に来ていることは知っていたからね。
「やあ、ヒックス、テンガアール。こうして会うのは久しぶりだね」
「ティル様!」
「ティルさん。わぁ、凄い偶然……あれ? 旅に出たって聞いたけれど……」
僕は今、都市同盟側のデュナン軍に席を置いていること、仲間を募っていることを話した。
「ヒックスは戦士の村の掟で、武勲を上げなきゃいけないんだろ? 是非仲間になってデュナン軍で戦って欲しいな」
ヒックスはトラン共和国の戦士の村、その生まれなのだ。彼の幼馴染で村長の孫、テンガアールもね。
「都市同盟の軍かぁ……それでもいいかも」
「え!?」
「武勲を上げるチャンスだよ、ヒックス。それにティルさんがいるなら安心じゃない」
「ええぇぇ」
ということで、コボルト村に行くなどという大変なイベントもなく、二人が仲間になったぞー。
それではタコスフライをむしゃむしゃと食べる。むしゃむしゃ。ほかほか。そして覚えておいた民家へと。
「お、お前さんいい顔してるじゃねぇか!!!!! 風呂上がりで“ほかほか“だな!!」
いえ、タコスフライを食っただけです。
「お前さん、風呂好きか?」
「はい。大好きです。それでですね。デュナン城という城で大きな大きな風呂を作る計画があるんです。仲間になってくれませんか?」
「おぉぉぉ! 俺はテツって名前のしがない風呂職人だが、ここんところ戦い、戦い、戦いばっかで壊されまくって、腐ってたんだ。風呂を作るってんなら行くぜ!!」
風呂職人が仲間になった。これで体を綺麗にできる。……いや、元々普通の風呂はあるけどね。
さて、遠出だ。レイクウェストから南西、トゥーリバーからは南にあるコボルト村へGO!
するといました女の子。ユズだ。
「困ったなぁ……ユズ困ったなぁ……どうしよっか」
「どうしたの」
「おじいちゃんの羊さんと一緒に逃げてきたけど、でも……羊さん、森へ行っちゃった……」
この子を仲間にするには逃げた羊を捕まえる必要がある。
「僕が手伝ってあげるよ」
だから落ちこむのはやめなさい。小さい女の子にそんな顔は似合わないよ。
「ありがとう、お兄さん」
そんじゃ羊を構えるよ。もこもこしやがって、もこもこ。羊を捕まえる。
「わぁぁ!! 凄い凄いお兄さん!! でも、困ったなぁ……おじいちゃんとはぐれちゃったし、羊さん達もお腹が空いたからどこか行っちゃうんだ……」
城で羊を飼っていいよ。食べ物いっぱいあげるよ。それからおじいさんも探してあげよう。人がいっぱいいるからね。
「お兄さん……ホント? わぁい。ありがとーう」
すると仲間になってくれた。やったね。牧場を作るからたくさんの生き物を育ててね。
このコボルト村から西に行くと竜口の村というものがあるけれど、確か仲間はいないはず。その先には仲間になる人達がいるが、今は無理だ。かなり後で訪れるから、それを待とう。
§
デュナン城に帰ってきた。少し疲れたな。と、アイリさんが船着場で迎えてくれた。
「無事で良かったよ。リオウ」
心配してくれたのか。そりゃあ確かに王国軍と一戦やらかしたしな。広間でみなに報告だ。するとシュウさんが、
「お疲れ様です。リオウ殿。トゥーリバーを味方に引き入れられたことは大いなる前進です。ですが……喜んでばかりはいられません」
「何かあったのか?」
質問するジェスさん。
「旅の疲れもあるでしょうから、詳しい話は明日にでも。みな、明朝には広間に集合するように」
「もったいぶるねえ」
オウランさんが呟く。とにかく休もう。話は明日だ。俺は初めての外交交渉で、トゥーリバーを味方にできた安心感と共に、眠りについた。
現在の仲間、59人――。
(うち宿星でないティル、グレミオ、テッド、アナベル4人)
後書き
ティルが善意でやったリオウのボディガード・オウランがいた為に、紹介状が盗まれない → ウィングホードの頭であるスースー(チャコのおばあちゃん)に紹介状が渡らない → リオウがスースーと話さない。とコンボが成立しました。ウィングホードが蚊帳の外となり、チャコとシドが仲間になりませんでした。という酷い話。