ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第13話 グリンヒル潜入

 ぐっすり休んで翌日。広間に行く。

 

「悪い知らせかなぁ」

 

 手を口元に当てて、ナナミ。

 

「それで? お楽しみの知らせってのはなんだい?」

 

 みなが集まったのでビクトールさんが聞く。

 

「グリンヒルが王国軍の手に落ちた」

 

 ざわっ、と騒然となる場。

 

「グリンヒルが……!」

 

 やられた、とばかりに顔を歪めるアナベルさん。

 

「…………やられてしまったか」

 

 リドリーさんもかなりの痛手だ、とうめく。

 

「持ちこたえられなかったということか。だが、トゥーリバーにも兵を出しておいて、よく同時にグリンヒルを攻略できたものだ。……さすがの物量と言ったところか」

 

 ジェスさんは冷静に考え込む。シュウさんやジェスさんのように冷静でいられる人がいるとほっとする。実に頼もしい。

 

「グリンヒルを攻略したという王国軍はたったの五千だという話です」

 

 アップルさんの報告……って。

 

「五千? 確かグリンヒルには七千の兵がいたはずじゃあ」

 

 軍師二人に質問する。

 

「漏れ聞く話では、新しい指揮官が犠牲者を出さずに無血入城したということだった。どのような手を使ったかはわからんが、鮮やかなものだ。その指揮官は処刑されたソロン・ジーの後釜として、つい最近王国軍第四軍の将となった青年だと」

 

 ソロン・ジーは敗戦の責任で処刑されたのか。しかし、新しい指揮官……俺はハイランドで育つ人間に脅威を感じた。

 

「それで、シュウさん。俺達はどうするんです? グリンヒルを奪還するんですか?」

 

「今の我々にもトゥーリバーにも、グリンヒルを奪還する兵力はありません。奪還は諦めます。しかしグリンヒル市長代行のテレーズ殿だけは助け出すつもりです」

 

「テレーズさん……」

 

 丘上会議で見た顔だ。アナベルさん以外の女性市長(代行)だから良く覚えている。

 

「なんでまた? 現実主義者のあんたらしからぬ方針だな」

 

 と、ビクトールさん。

 

「グリンヒルは、長いこと市長のアレク・ワイズメルが病に伏せっていた。故に市長代行のテレーズ殿が実務を執っていた。市民にとって彼女は希望の星であり、シンボルなのだ。だから彼女を無事に助け出しておけば、いずれグリンヒルを奪還する際、市民の協力が期待できる」

 

「奪還する時は内応もなければならない。その為のテレーズ様というわけだな。逆に王国軍に捕らわれたら……厄介だな。それで、どうやってテレーズ様を助け出す? 手段はそう多くはないと思うが……」

 

 既に策の内容を把握しているであろう、ジェスさんの言葉。

 

「グリンヒルは学園都市として栄え、多くの国から学生を受け入れている。それはハイランドの占領後も変わっていないとのこと。ならば年若いメンバーを選定し、学生という形で内部を調査させる」

 

「ふむ。それなら選ぶメンバーは……ナナミ、ティル、テッド、ミリ―、トウタ、アイリ、ボルガン、ルック、テンプルトン、カレン。というところか」

 

 パッと名前を挙げるアナベルさん。メンバーの年齢まで覚えているんだ。さすがというかなんというか。

 

「その辺りだろうな。そしてグリンヒルに忍び込む手はずはフィッチャー、お前に頼む」

 

「え、え。私ですか。はぁ、まあそれぐらいなら、あそこには友人も多いですからね。何とかなる、でしょう。しかし人使いが荒いですねぇ」

 

 たまらないという風にフィッチャーさん。

 

「シュウさん……俺が行くよ」

 

 市民に慕われているという話のテレーズさん。是非助け出したかった。それに俺は……。

 

「しかしリオウ殿は我らのリーダー。もしものことがあっては……」

 

「俺は城で安穏としているだけのリーダーでいたくないんだ」

 

 戦うと決めた。リーダーになる時に、決めたんだ。ホントなら自分の身はできるだけ安全に置いておきたかった。だけど……。

 

『僕は誓うよ。この地に平和を取り戻そう。ほんのわずかな力しかない僕だけど、僕はその為に戦うよ……』

 

 友との誓いがある。決して裏切れない誓いが。俺だけ安全な場所で逃げ隠れする気は、もうなかった。

 

「一国の代表であるテレーズを迎えるんだ。リーダーであるリオウが行くと言うなら、行かせてみちゃどうだい?」

 

 アナベルさんが援護してくれた。

 

「……はぁ。仕方ありませんね。ではリオウ殿、護衛にはメンバーを厳選して……」

 

「やったぁ。私も行くー!」

 

 ナナミが何故か喜ぶようにそう言う。学校なんて行ったことがないからか? それにビクトールさんが怒る。

 

「遊びじゃねえんだぞ!」

 

 よし、それじゃあグリンヒルに潜入だ。

 

 それから数日経ち、ティルさん達が帰ってきた。また仲間が増えたらしい。

 

「軍記帳は小まめに確認してね」

 

 と言われる。後で確認しておこう。仲間を知らないリーダーなんて話にならないからな。アナベルさんのように年齢まで把握しておくくらいじゃないと。

 

 フィッチャーさんの準備も整っただろうということで、再び船に乗ってグリンヒルを目指す。

 

 

     §

 

 

 さて、それではグリンヒルだ。仲間になるのはあの人とあの人と……。まあ無理しない範囲で動こう。一番重要なのはテレーズさんだしね。

 

「リオウ、無茶は禁物だよ。今回はオウランさんもいないしね」

 

 まあ万が一の時は僕が守るけどね。守るといえば、グレミオはまたついて来られなかったので悔しがっていた。テッドは乗り気だったが、人数オーバーということで弾かれた。こちらもたいそう悔しがっていたっけ。今回のメンバーはリオウ、僕、ナナミ、アイリの四人パーティーだ。

 

「わかっています。基本自分の安全を考えますよ」

 

 うん、それぐらいでちょうどいい。ボス戦などはないはずだけど、この世界でどうなるかはわからない。せいぜい気を抜かないようにしよう。

 

 トゥーリバー市から北西に移動して、グリンヒルへやってきた。市門の前横には先行して来ていたフィッチャーの姿が。林に隠れている。

 

「リオウ殿、何とか間に合いました。こちらが入学の為の書類です。皆さんの出身地は南方のカナカン。三年前から入学する予定でしたが、戦乱で足止めを食らっていた、ということになっています」

 

 さすがの事務能力。

 

「了解です。フィッチャーさん。中はどうでしたか?」

 

「やはりみなピリピリしていますね。テレーズ殿はまだ見つからず、王国軍はやっきになっているようです。今、居所を探ってもらってもいますので、わかったら何かの方法で知らせますよ」

 

 頼りになる男、フィッチャーだ。

 

「よし、それじゃあ行こうかリオウ」

 

「あ、書類ですが、名前のところは空けてありますから、偽名を作っておいて下さい」

 

 またきたね。偽名。

 

「僕はトーマスで」

 

「私はエリザベス!」

 

「ならあたしは……」

 

「俺は……うぅん。そんなパッとは思い浮かばないな……」

 

「じゃあ、リオウはシュトルテハイム・ラインバッハ三世で」

 

 それはやめるんだナナミ。

 

 門の所で王国軍の兵に止められる。しかし書類を提示すると通してくれた。よしよし。上手くいったね。そして内部だが……情報通り戦闘の痕跡はほとんどない。綺麗に区画分けされた石造りの建物。丁寧に煉瓦が敷き詰められた通り、樹木もたくさん植えられている。公園などには制服姿の少年少女。

 

「まずは入学の書類を出しに行こうか」

 

「ええ」

 

「綺麗な街だねーリオ、じゃなかったジョン」

 

 結局リオウは無難にジョンという偽名になった。そうして歩いていると、もめ事が向こうからやってきた。

 

「……にを言って……しを踏んづけて……」

 

「ん? なんだろう?」

 

 耳を傾ける。

 

「ふん! 人のことをいやらしい目つきで見るからよ。王国兵ってサイテー!」

 

 ああ、あの子だ。金髪の巻き毛に緑のヘアバンド。グリンヒルの制服。間違いないな。しかし原作も凄まじいよね。ただの学生を108星に入れて、かつ戦闘メンバーにしているんだから。……えーと、それはそれとして、誰が止めるんだ? リオウは止めるような性格じゃないぞ。ひょっとしてフリックがやるはずのことを僕がやらなきゃいけないんじゃ……。

 

「なんだと!?」

 

 見ると喧嘩している王国兵が腰の剣に手を当てていた。おいおい。

 

「さすがに見ていられないな、助けてくるよ」

 

 そう言って三人を残して進む。案の定リオウは助けようとはしていなかった。リオウの性格ならそうだろうね。仕方ないので喧嘩している二人の前へ。

 

「ちょっとそこの兵隊さん。子供相手に大人げないですよ」

 

「なんだお前は! こいつはハイランド王国の兵士である俺を馬鹿にしたんだ!」

 

 頭に血が上っちゃってまあ。揉めるのはいけないが、大事にしても駄目だ。素早く制圧あるのみ。僕は兵士に近づくと足を払って転ばし、喉に手刀を当てた。指先が喉の骨に当たる。

 

「さて、これで引いてくれると嬉しいんだけど?」

 

「ぐっ、な」

 

 動こうとするのを手と足で制する。兵士は完全に動けなくなっていた。

 

「君、早く向こうに行って。これ以上この兵隊さんを怒らせたら後が怖そうだ」

 

「あ、う、うん……ありがとう」

 

 そう言って女の子――ニナは去って行った。兵士を解放してやる。

 

「これにこりたら喧嘩は控えた方がいいですよ」

 

「く、くそっ。覚えていろよ!」

 

 素敵な捨て台詞をありがとう。

 

「さすがティ……じゃなくてトーマスさん」

 

 ナナミが褒めてくれるが、そんなに大したことはしていない。

 

「騒ぎになる前に行こう、ジョン」

 

「ええ」

 

 受付に向かう。書類を提出すると、受付事務の人――エミリアさんは柔らかく微笑んだ。

 

「こんな時期に入学とは珍しいわね」

 

 眼鏡の似合う知的美人というのを絵に描いたような人だな。

 

「戦争で足止めを食らったんですよ」

 

「書類は問題ありませんね。入学を認めます。ようこそニューリーフ学院へ。歓迎しますわ」

 

 そのまま案内をしてくれるというので黙って従う。

 

「入学される方は、校舎西の学生寮に入ってもらいます。最初の二週間は準備期間ですね」

 

 その期間中に問題を起こせば入学を取り消されることもあると言う。まあテレーズさんを捜しだして脱出するだけだから、二週間あればなんとかなるだろう。

 

「何だか緊張するね」

 

 そう言ったのはナナミだ。いつもと勝手が違うからね。

 

「校舎の一階は鍛冶屋、紋章師、鑑定屋の教室になっています」

 

 ふむ、見習いの技術者が教授を受けていると。ここで仲間になる人には、脱出する前に話をしておこう。

 

「二階は教室になります。準備期間では、どこへ行ってもいいですよ」

 

 と、前方から歩いてくる男。シンが登場だ。橙色の着衣に黄色いターバンを巻いている。腰には剣。向き合うだけで力量の確かさがわかるな。

 

「彼は?」

 

「市長代行テレーズ様のお付きの人です。ですが先の戦いでテレーズ様は行方不明に……」

 

 行方不明……か。とりあえず学生寮に行こうか。休むことも大切だ。

 

 

     §

 

 

 学院に潜入してから数日が経過した。俺達はそれぞれに動いて情報を探ったが、行方知れずになったテレーズさんの情報はつかめなかった。

 

(怪しいのはあのシンという人だけど)

 

 中々尻尾をつかめない。まあ王国軍に備えているんだろうから、それも当然かもしれない。

 

 その中で、ティルさんは受付の女性、エミリアさんを仲間に引き入れたらしい。何とか協力してくれると。相変わらず人脈というか人格というか――が凄い人だ。この人がいるだけで自然に仲間が増えていく。

 

 そして少しばかり厄介なのが、

 

「あの……トーマスさん。良ければ学院の案内を……」

 

 ニナさんという女子生徒、彼女はどうもティルさんを好きになったらしい。だがティルさんは「勘弁してくれ」と言って彼女からは逃げている。

 

 そんな日々を過ごしている中だった。道の曲がり角に差し掛かった時に、向こうから大きな声が聞こえてくる。

 

「やめて……やめて下さい……私達は……」

 

「うるさいぞ。この宿にテレーズが隠れているとタレコミがあったのだ!!!」

 

 街の宿屋で騒ぎが。多分宿屋の主人であろう人が、両手を広げ入口を通さないようにしている。そこに王国兵の一隊が今にも入り込みそうだった。本当にテレーズさんがいたとしたらまずい。

 

「誰がそんなことを……」

 

「ははははは!!!! タレコミはミューズの元兵士が行ったらしいぞ。金に目が眩んで仲間を売ったのさ!!」

 

「うう……あの戦いが……ちくしょう……」

 

 宿屋の主人と王国軍の兵士がやりあっている。止めるべきか? いや、もめ事はまずい。そう悩んでいたら、あのゲスがやってきた。

 

「なぁにをぼやぼやしている!!! 面倒なら宿屋ごと焼き払っちまえ!!」

 

 ゲス野郎……。あいついい加減に死なないかな。そこに、

 

「ハイランドの隊長殿、このような仕打ちをなさるとは、指揮官殿の指示から外れているのでは?」

 

 ターバンを巻いた男性。シンさんだ。

 

「ちっ」

 

 舌打ちするゲス。火をかけられるのはそれで止められたようだが、王国軍の狼藉は止まらなかった。宿屋は荒らされてしまった。だが情報は間違い(それとも嘘の密告)だったのか、テレーズさんは見つからなかった。主人の奥さんはテレーズさんがこんな状況を招いたと言って悪態をついていた。

 

 重苦しい気分のまま学生寮に戻る。

 

(早いとこ、テレーズさんを探し出さないとな)

 

 気ばかりが焦る。胸がもやもやする。駄目だな、こんな調子じゃ。

 

「今日のご飯も美味しかったぁ。いっぱいおかわりしちゃった」

 

 ……我が姉は今日も元気だ。夜は“散歩するお化け”の噂に怯えていたくせに。

 

「ジョンもいっぱい食べなきゃ駄目よ」

 

 大きなお世話だ。

 

(しかしお化け、か。もしかして……?)

 

 下手の考え休むに似たり。俺はとりあえず学生寮のベッドで眠ることにした。

 

 

 

 うーん、と伸びをして起きる。とにかく今日も今日とて情報収集である。

 

「フィッチャーから知らせがあったよ。待ち合わせ場所に行こう」

 

 フィッチャーさんからの知らせを受け取ったティルさんの言。何か情報をつかめたのなら聞きたい。と、

 

「お前が密告野郎だなぁ!!!!」

 

「あちこちこそこそかぎまわりやがって!!!!」

 

 フィッチャーさんが何人もの人達に吊し上げられていた。

 

「そ、そんなぁ……違いますよぉ」

 

 完全に弱っているな。

 

「こいつミューズなまりだぜ! ミューズの仲間だ!!!!」

 

 危ない。これは助けに行かなければ……。だがどうやって助けたものか、と思案していると。

 

「ジョン。皆、ここは僕に任せて」

 

 懐から短剣を取り出して、ティルさん。短剣?

 

「皆さんどうしたんですか? この人が何かしたんですか?」

 

「なんだぁ? 学生は引っ込んでな」

 

「確かに学生ではありますけどね……」

 

 短剣を振りかざす。

 

「とにかく、仲間を裏切って密告なんて許せませんね。リンチなんて生ぬるいですよ。スッパリ首を切ってあげたらどうです? 僕の剣を貸しますよ」

 

「あ……いや」

 

「裏切り者なんて殺してしまえばいいじゃないですか」

 

 つかつかと近づいてフィッチャーさんの喉元に短剣を……ってえ。ま、まずいんじゃ。

 

「や、やべぇ……」

 

「こいつイカれてる……」

 

「お、俺、お母さんと買い物に行く予定だから……」

 

 本気(に見える)ティルさんに恐れおののき逃げ出す人達。一部なんか変なことを言っている人もいたが、まあいい。とりあえず騒ぎは収まった。

 

「お、脅かしっこなしですよぉ。ティルさん……」

 

 フィッチャーさんが戦々恐々としている。

 

「助かったんだからいいじゃない」

 

 もっといい助け方はなかったんですか。とりあえず話を聞く。

 

「テレーズさんの情報はなしですか」

 

「この近くに身を隠しているとは思うんですけどねぇ……あ、そうだ。このグリンヒルを落とした指揮官が、数日中に戻ってくるらしいですよ」

 

 追加の情報はなしか。俺達が頑張って探すしかないということだな。

 

「あーーー!!! トーマスさんだーーー!!!」

 

「まずい。後は頼んだよ」

 

ニナさんに見つかったのでティルさんが逃げる。やれやれ。

 

「待ってよトーマスさーーーん!!」

 

 あの人でも適わない相手というのはいるんだな。

 

 さて、学生寮に戻ってきた。夕食の時間なので食堂で食べる。もっしゃもっしゃ。

 

「うーー、ほうれん草きらーい」

 

 好き嫌いするな、姉よ。しかし、なんだか食べて寝てばかりいるような。

 

 そう思いつつもベッドで横になっていると、姉に呼ばれた。

 

「リオウーー。ギィーって音がした。したよぉーー」

 

 なんだなんだいったい。

 

「ねぇ、リオウ見てきてよぉ。お化けじゃないって確かめて」

 

 仕方ない。行くか。

 

「酷いよぉリオウ、置いていかないで。おいてっちゃやだ」

 

 ええい、うっとうしい。久々にうっとうしいぞ。と、走る人影が。ってティルさんだ。

 

「追いかけてみよう」

 

「離れないでね」

 

 ひっつくな。

 

「……ナナミ、ちょっとひっつきすぎじゃないかい?」

 

 何故か怒りを顔に浮かべるアイリさん。何故?

 

「アイリちゃん、でも怖いんだもん」

 

「いいから、とにかく後を追うぞ。あれ……? いないぞ」

 

 部屋の中に、倉庫に入ったはずなのに、誰もいない。ん? ここだけ明かりが……。

 

 等間隔で置かれている照明だが、一箇所だけ明かりが消えていたところがあった。そこを点けたら、隠し通路が開いた。なんだ、何故学院にこんな仕掛けが。とにかくティルさんを追おう。

 

「ティルさん」

 

 ようやく追いついた。いったい何を?

 

「シンさんを追いかけていたんだ。中々尻尾を見せないからね。何かあるなら夜だと思って見張っていたら、大当たりだよ。こそこそとどこかに出かけて行ったんだ」

 

 この先にいるというので進むが……また完全に突き当たりだ。誰もいない。しかし……。

 

「明らかにこの銅像が怪しいですね」

 

「だねえ」

 

 ぽつんとある銅像を触る。カチッと音がしてまた隠し扉が。校舎の裏に出た。その道を進む。って、魔物が出るのか。シンさんを追わなきゃならないので、紋章魔法を使ってさっさと倒す。

 

「あれは……小屋だね」

 

「ですね」

 

 どう考えてもテレーズさんの隠れ家だな。行ってみよう。と、

 

「くせ者、見られた以上は生かしてはおけん。お嬢様には時間が必要なのだ」

 

 シンさんが立ちはだかった。やはりテレーズさんの居場所を知っていたのだろう。しかし生かしておけないとは、ちときつすぎでは? 刀を抜かないで欲しい。

 

「ちょっと待って下さい。僕達は……」

 

 俺達は新同盟軍で……と説明する。

 

「身元がわからぬ以上、味方とは考えられぬ」

 

 この人も頭が固いのか。みんな柔らかくなって欲しい。

 

「仕方ない。僕の棍は簡単には破れないよ」

 

 ティルさんが前に出る。確かにこの人なら負けないとは思うが……。

 

「シン……やめて下さい」

 

 その時だ。小屋から一人の女性が。後ろに流した長い金髪に黒いスカート。確かに見たことのある人。テレーズさんだ。

 

「お嬢様……しかし」

 

「もう戦いはたくさんなのです……やめて……シン」

 

 剣を下ろすシンさんと、根を下ろすティルさん。ここは俺が出る場面だな。

 

「ちょっと待って下さい。俺達は貴方を捕まえにきたんじゃありません。俺はデュナン軍のリーダー、リオウです」

 

「デュナン軍……」

 

 ……………………………………。

 

「では、あなた方がデュナン軍の方々だというのは信じます。ですが、何故王国軍の目を盗み、私などの所へ?」

 

 説明を聞いたテレーズさんは一応納得してくれた。

 

「貴方を助けに来たんです。デュナン軍はまだ発足したばかり。協力してくれる仲間が必要なんです。この戦いを終わらせる。その為に貴方が……」

 

 小屋の中で話をするが……。

 

「私の力などではなく、グリンヒルの力、でしょう? ……ごめんなさい。私は、あなた方の力にはなれません」

 

「何故ですか?」

 

 顔をうつむかせるテレーズさん。

 

「市民を見捨てて一人逃れてしまった私です。もう市長代行でもありません。そんな、資格は……。それに……私は……もう、あのような戦いを……」

 

 情報収集をしていた時から思っていたが、

 

「その……王国軍との戦いとは? 何だか皆やけに話すことを忌避していたようですが」

 

 そう、その話題になるとみな口を閉ざした。何があったのだろう。無血入城したという話だし、犠牲者は出なかっただろうに。少し考えてから、テレーズさんは沈痛な表情で話し始めた。

 

 王国軍がグリンヒルを目指しているという情報が入り、テレーズさんと市民は戦う決意をした。準備もぬかりなく進めたらしい。街を愛する市民達は必死に戦った。そして街を訪れていたある人物の指揮もあり、初戦はなんと勝利して戦いを終えたという。そこで、王国軍は方針を変え、グリンヒルを包囲する作戦に切り替えた。

 

 テレーズさん達はそれに一息つくように、休みながらも次の戦いに備えていた。しかし、王国軍は兵士で攻めてくることはなかった。

 

「王国軍に捕らえられていた、ミューズの元兵士。それが解放されてグリンヒルにやってきました」

 

 最初はみなが喜んだ。恐ろしい策の始まりだとも知らずに……。王国軍は五千の降兵を、武器や鎧などと共に返した。疑う人間もいたが、王国の将軍にも正直な戦いをする者がいるのだろう、と。ミューズの兵士達が加わり、グリンヒルの兵力はほぼ倍増した。絶望しかけていた市民達にとっては心強かった。

 

 王国軍はその後、攻撃を一切しなかった。グリンヒルを包囲するだけにとどめたのだ。そして、ミューズの兵士達が増えたことによって、元々食料が不足しがちだったグリンヒルの食料は瞬く間に底をついた。グリンヒルはハイランドと面しているミューズに食料を送っていたのだ。備蓄などなく、あっというまに枯渇したらしい。

 

 やがて、少なくなった食料を巡り、兵士達が反目するようになった。グリンヒルの市民は“自分達の食料”だと訴え、ミューズの兵士達は“戦う為の兵糧”だと考えた。

 

「そして……ミューズの兵士達は、ついに食料庫を力尽くで占領したのです」

 

「……なんてこった」

 

 アイリさんがやりきれないように呟く。確かに、それではつまり、仲間割れでグリンヒルは……。

 

 それをきっかけにして、市内で内乱が起きた。ミューズの兵士達は武器と鎧を持っている――。初めから、全て狙い通りだったのだ。

 

 そして、ミューズ兵は市民も人質に取ったのだという。食料庫の占拠を続けていたのと合わせて、ついにはテレーズさんに食料庫と人質解放の条件を突きつけた。それは……テレーズさんが人質になるというものだった。テレーズさんが捕らわれる、それはグリンヒルが降伏するようなものだ。テレーズさんは食料庫を占拠した兵は王国軍の手の者だと気づいた。しかしもう、どうしようもなかった。

 

「私達は、王国軍の前に、戦わずして敗れたのです……。王国軍はその後、この街を占領しました。その時にはもう、私達には抵抗する気力などなかった……。共に戦う仲間だった者達が、食料を巡って争い、憎み合った。私達にはお互いの不信感と、心の傷が残った……」

 

 心の、傷。それは……。

 

「……随分とえげつない策を使う指揮官のようだね」

 

 ティルさんの言う通りだ。殺されるよりは、生きている現状は喜ばしい。しかし、グリンヒルの市民には消えない心の傷が残った。

 

「そして私は……グリンヒルの市長代行として、それを防ぐことができませんでした」

 

 痛ましい表情で語るテレーズさん。確かに、例えばシュウさんがこの市にいたとしたら、決してミューズの降兵を受け入れはしなかっただろう。人々はそんな決定をするシュウさんを冷たい人だと糾弾するかも知れないが、結果的にグリンヒルは守られる。そして実際にこの市で起きたことはその逆。ミューズ兵を受け入れたテレーズさんは優しいと褒められたかもしれないが、グリンヒルを守れなかった。

 

「ごめんなさい。リオウさん……私に、ちから、なんて……ないのです……」

 

 テレーズさんの瞳に涙が光る。そうか、この人は、心が……。心が、折れてしまったのだ。立ち上がる為の、心が。少しだけ、わかるような気がした。俺もルカ・ブライトの恐怖に逃げ出した後、敗北感が胸を満たした。紋章を宿して力を手に入れ、少しは回復したが、奴に対する敗北感は未だに胸の中にある。これは奴を倒すまで消えないのだろう。

 

「どうか……お帰り下さい」

 

 俺は、デュナン軍のリーダーとして、何も言うことができなかった。心に傷を負った人を癒す言葉なんて俺は知らない。

 

「申し訳ないが、速やかにグリンヒルを去ってもらいたい。それから……信用しないわけではないが、お嬢様の居場所が王国軍に知られたら、あなた方に剣を振るうことになるだろう」

 

 小屋から出て、シンさんに言われる。

 

「密告はしません。それは安心して下さい」

 

 信用はされないだろうが、そう言っておく。

 

「シンさん、貴方はどうするつもりですか? いつまでも隠れ続けることは不可能でしょう?」

 

 ティルさんがシンさんに聞く。

 

「今は、時間が必要なのだ。お嬢様の心が癒える時間が……」

 

 時間、か。それで癒されるのだろうか。

 

「どうするの、リオウ?」

 

 ナナミに判断を仰がれた。

 

「俺達がいても無駄だと思う。テレーズさんの心は俺達には癒せない。明日、ここから出て行こう」

 

 俺の胸を、何もできないという無力感が支配した。テレーズさんは自分に力がないと言った。だけど、それは俺もだ。祭り上げられたリーダーである俺には、一人の少年としての力以外何もない。本当は何もない少年でしかないのだ、自分は。

 

 俺達は静かに学生寮へと戻った。

 

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