「今日で学校ともお別れかぁ。ちょっとの間だけど楽しかったね。ご飯も美味しかったし」
姉よ、貴方は気楽でいいな。飯さえうまければいいのか。俺達は朝になるのを待ち、この市から外に出ようとしていた。
「さて、行こうか」
ティルさんの言葉で門に向かう。すると、道に人だかりが。
「なになに???」
ぴょこぴょこと飛び跳ねて向こう側を見ようとするナナミ。
「ハイランドの皇子、ルカ・ブライト様の布告だ!!」
なんだただのゲスじゃないか。
「元グリンヒル市長代行のテレーズ・ワイズメルを捕らえた者には、二万ポッチの金とハイランド王国の市民権を与えるとのことだ!!!」
「チッ」
舌打ちが漏れる。これでは密告者が出るのは時間の問題だ。テレーズさんは王国軍に捕らえられてしまうのか――。だが市民の中には疑う者もいて、「嘘をつけ!」とか「王国軍なんて信用できるか!」とか叫んでいる人達が大半だ。しかし反対に、視線を落として考え込むものも半数はいるようだった。
――その時だった。
「う、……嘘! 嘘!!」
ナナミの叫びを聞きながら、俺には奇妙な虚脱感が訪れていた。突然目の前が真っ暗になる。視界には暗闇、漆黒の剣が浮かぶ。そしていつかの夢で見た光景。街並み、兵士に指示をだす白い軍服のジョウイ。
それが、
いま、
目の前に。
夢とまったく同じものを見た。白い軍服を着たジョウイが、赤と白の軍服を着た将、白と黒の軍服を着た将、そして十数人の兵士をつれて歩いてきたのだ。
「ジョウイ……」
信じられないような声が自分の口から這い出た。グリンヒルを落とした無情な策を立てたのがジョウイ――? あの優しい友人が? 一瞬。ほんの一瞬だが、ジョウイの視線が自分とナナミに注がれたような気がした。そして表情を少しだけ崩したが、すぐに気分を立て直したように表情を改め、顔を上げた。
「グリンヒルの方々、私がこの地を離れている間、不当な取り調べがあったと聞いている。それについては該当者を厳重に処罰する。安心して頂きたい」
「なんで? なんでジョウイが……どう、して……」
うわごとのようなナナミの声。俺も信じられなかった。ジョウイはハイランドの将軍になったというのか? あれだけの仕打ちを受けたハイランドで。
「テレーズに対する布告については、皇子であるルカ・ブライト様からの正式な布告だ。約束は、この首にかけて守ろう。――ただし! 一つだけ条件がある。王国軍は死体に金を払う気はない。テレーズは必ず“生きたまま”捕らえること。以上だ!!」
そうして布告は終わった。俺は呆然としながら静かにその場を去ろうとしたが、
「アッ! お前は!」
ゲスが気づきやがった。まずい、逃げないと。
「おい! あいつらはスパイ。スパイだぞ! 捕まえたら報奨金だ!」
遠くからフィッチャーさんの声が響いた。王国軍の兵士との間に山のようにいる市民を混乱させて兵士を足止めしようというつもりだろう。さすがの機転だ。それ逃げろ。
「いたぞ!」
「輝く光!!」
輝く盾の紋章、その攻撃魔法を使って、小隊規模で襲ってきた王国兵達を退ける。地面にその体を横たえる王国兵達。
「まずいね、城門の方は王国兵でいっぱいだろう」
「昨日の抜け道はどうだい?」
ティルさんの言葉に、すぐ抜け道を使おうとアイリさん。
「そうだね。こうなったら力ずくでもテレーズさんを連れて行こう。王国軍の口約束は信用できない。嫌がるかもしれないが、殺されるよりはマシだよ」
俺もそう思う。ルカはテレーズさんを殺すだろう。なら無理矢理にでも救出する。急いで昨日の抜け道へ! 銅像を触り、草むらが茂る道をひた走る。追いすがってくる王国兵には紋章を連発する。後先なんて考えていられるか!
「ここまでくれば大丈夫かなぁ」
はぁはぁと息を切らすナナミとアイリさん。
「ナナミ、大丈夫かい?」
「平気、心配いらないよ。だけど……どうしてジョウイが……」
思い出してしまう。くそっ。どうしてあいつが……。
「フィッチャーさんの言っていた“切れ者の指揮官”というのはジョウイだったんだね。しかし、王国軍の軍団長とは出世したものだね」
俺は冷静になれない頭でそんな声を聞く。今は体を動かそう。考えちゃ駄目だ。足が止まってしまう。そうして小屋に入る。と、テレーズさんとシンさんの他になんとニナさんがいた。彼女が何故?
「……から!! 早く逃げてって……あれ、なんでトーマスさん達がここに? まさか、私を追いかけて……」
「残念ながらそうじゃないよニナ。君は何故この場所を?」
シンさんが言うには、ニナさんはシンさんの後をつけてテレーズさんに辿り着いてしまい、協力者になっていたということだった。シンさんではあまりに目立ってしまう買い物などを、ニナさんが行っていたと。
「トーマスさんは、どうしてここに?」
「テレーズさんを連れて逃げるつもりだよ。テレーズさん。状況が変わった。今度は力尽くでも連れて行きますよ」
「早く逃げようよぉ。こんな所にいちゃまずいよ」
ナナミがせかす。
「いえ、私は逃げません。事情はニナから聞きました。これ以上、市民に迷惑をかけたくないのです。私が捕まることで、王国軍の横暴などが収まるなら、喜んでこの身を投げ出しましょう。それぐらいしか、もう私にできることなどありませんから」
投降するつもりか!?
「そ、んな……ちょっと待ってよ……」
ニナさんが止める。だけど、
「リオウさん、失礼します。私は貴方達の力になれない……残念ですが」
「待って下さい。そういうわけには……」
ティルさんが逃げようとするテレーズさんの前を塞ぐ。
「私を止めるというのなら、ここで命を絶ちます」
自殺するってのか。
「くぅっ」
「お嬢様、お供致します」
悔しがるティルさんを通り過ぎる二人。
「では……私の最期を見届けて下さい、シン」
もう……覚悟を決めてしまったのか……。
「…………」
シンさんは黙ってそれに従う。
「どうして死に急ぐんだ。生きてこそ、だろうに……」
哀しげに、ティルさんがうつむく。どうしようも、ないのか……。
「駄目よ! ……死なせない! 死なせてたまるもんですか! テレーズさんは頑張ったのに……あんなに皆の為に戦ったのに!! 食料が少ないことなんてわかってた! だけどそれでもテレーズさんはミューズの兵士達を見捨てたりしなかった!! あんな立派な人、死なせたりしない!!!!」
叫ぶニナさん。代行だが自分達の市長を助けたいのか、後を追った。
「僕達も行こう!」
「まだ何とかなるかもしれないんだ。諦めないで行ってみようよ、リオウ」
アイリさん達に促される。そうだ、人を見捨てることなんて、俺にはできない。たとえジョウイがハイランド軍に戻っても、軍団長になっていたとしても、あの時の誓いはこの胸にあるんだ!
「テレーズだ! 捕らえろ!」
王国兵が動く。だが驚くべきことに、市民がそれを阻んだ。先頭にいるのはニナさんだ。
「俺達のテレーズ様を守るんだ!」
「王国軍なんかにゃあ指一本触れさせねえ!」
口々に叫んでは王国兵の動きを止めようと、もみ合いになった。市民達の数が多く、兵士達はがっちりと動きを止められた。だがテレーズさんは悲しそうにそれを見て、言った。
「皆さん! やめて、やめて下さい! 私は」
市民が静まる。彼女は唇を噛み締めて下を向く。
「私はもう、戦いなんてたくさんです。裏切り、傷つけあう。大切なものを失う戦い、なんて……。私は、皆さんに迷惑をかけたくはない……」
「何言ってるのよ!! 誰が、誰が迷惑だなんて言ったのよ!!!」
「ニナ……」
「駄目なのよ!! テレーズさんが捕まっちゃダメなの!!」
「しかし、私さえ捕まれば皆が……」
テレーズさん……俺は彼女に近寄ろうとしたが、ティルさんに止められた。
「彼女の心を癒すのは、彼女を大切に思う市民達だ。彼女が為政者として助けてきた市民達こそが、今逆に彼女を助けられるんだ。僕達の言葉じゃなく、グリンヒルを創ってきた市民の声なら、彼女に響くはずだ。僕らは黙って見守ろう」
今の彼女に必要な声。それが……。
「私が街から逃げ出したから、皆さんが王国軍に酷い目に遭わされて……。それに、私に懸賞金が懸けられた……。私をかばう人、私を捜す人、市民がお互いの腹を探りあい、疑いあうことになる。私は、もうそんなものを見たくない。この街が、グリンヒルから心さえも失われてしまうなんて……そんなことになるくらいなら、私なんてどうなったっていい。この街の為なら……」
テレーズさんは、心からこの街を愛しているのだろう。この街に身も心も捧げているんだ。
「テレーズさん! それは違います!」
大きな声を上げた。ニナさんはどうしても認められないとばかりに声を張り上げる。
「貴方が捕まったら、全てが終わりなんです! 貴方が捕らわれて、皆が喜ぶとでも思っているんですか! 貴方が捕まれば、この街が解放されるんですか!? テレーズさん、皆が貴方を信じて戦った! だから、貴方も皆を信じて下さい!」
ニナさんの言葉に市民がどよめく。そして次々と彼女から言葉が――。
「皆、皆があの戦いで傷ついたんです! 自分達の手でグリンヒルを敗北させてしまったあの戦いで……。貴方を王国軍に引き渡すようなことになれば、私達市民はもう一度傷つくことになる!」
ニナさん……。
「戦いに負けて、この街が失われても、本当に、本当に失っちゃいけないものがあるのよ!!! それを、失わせないで……お願い……テレーズさん……」
本当に、失っちゃいけないもの……か。すると市民達からも相次いで声が上がった。
「テレーズ様、諦めないで! この街の市長は貴方しかいないの! 早く逃げて下さい!」
「そうだ! いつか、時間がかかってもいい! 平和な街を作ってくれ!」
「この街が奪われたのは、あんただけの責任じゃあない! だからあんただけが苦しむなんてあっちゃいけないんだ!」
「あんたは俺達ミューズの敗残兵を受け入れてくれた。俺達だってあんたの為に何かしたい。あんたを守らせてくれ!」
「信じます! きっといつかって。私達、信じて待ちます!」
市民の声が雨のようにテレーズさんへ降り注ぐ。それは彼女の心に届いたのだろうか。
「皆……ありがとう。こんな私に……」
「何を言ってるんですか。皆が貴方を信じた!! それを忘れないで下さい!!」
あまたの言葉に、彼女は、顔を上げて、胸を張った。
「皆さん! 約束します! きっとこのグリンヒルを取り戻し、再びこの足でこの地を踏みしめ、この肌で風を感じ、この唇でこの街の名を呼ぶことを!! それまで待っていて下さい! お願いします!!」
「もちろんだ!」
「あったりめぇよ!」
「テレーズ様! 信じます! 必ずと!」
歓声が上がった。グリンヒルに、希望の声が鳴り響いた。最後に残された希望が。
「お前ら! 全員捕らえてやる!」
ゲスが先ほどより多い兵士を引き連れてやってきた。
「俺達はここをどかないぞ。くるならきやがれ!」
「俺達の街を、俺達のテレーズ様を守るんだ!」
市民と兵士がぶつかり合う。俺とティルさんが動いてテレーズさんのそばに駆け寄る。
「テレーズさん。逃げましょう!」
「守ります。必ず!」
学院の裏門から出て森を抜ける。昨日の小屋の脇を通り、その先へと。しばらく走ると城壁に裂け目が。そしてそこから脱出する。
「何とか時間は稼いでもらっている。でも長くは保たないだろうね。急ぐよリオウ!」
「お願いします」
テレーズさんが応えてくれた。だがその時、ゲスが来た。
「そう急ぐなよ。お前らはここまでだ。逃げられんぞ」
大勢の兵士がゲスに率いられている。どこかから道をショートカットしてきたのか? と、シンさんが前に進み出た。
「シン!!」
まさか……。
「ご安心下さい、お嬢様。ここは絶対に通しません」
「いけませんよ! 死んでは……」
「我が忠誠は、市長にもなく、ワイズメル家にもなく、ただ、貴方の下にのみあります。テレーズ様」
「そんなこと……!!!!」
「テレーズさんのことは任せて下さい。この身にかけて、守ってみせます!!!」
ティルさんが強く言い切る。……俺もジョウイのことでショックを受けている場合じゃない。シャンとしないと。
「行くよ! リオウ!」
「我が剣タランチュラと、この身に刻んだ技でもって、ここは通さん!!!!」
そのシンさんの声を背中で受けて、小屋の裏手に回って道を走る。しばらくの間無言で走る。
「ふぅ、何とか逃げ切れたかい?」
アイリさんが一息つく。俺達も走りっぱなしでさすがに息が切れた。
だが、そこに、
「ジョウイ!?」
「ジョウイ……どうして、君が」
友が、いた。
「リオウ、ナナミ…………。久しぶりだね。……元気でやっていたかい?」
優しげな声。確かに俺がずっとそばにいた友人の声だ。
「ミューズで別れてから時間が経ったね……。僕も君も、それぞれの道を歩んだ……でも。リオウ、友人として忠告するよ。デュナン軍のリーダーなんてやめて、どこかへ逃げてくれ」
「何を言うんだ。俺達はあの時誓いあったじゃないか! この地に平和を――と。あのルカを倒そうと! それなのに、どうして!」
ジョウイはその目に悲しみを宿しているように見えた。
「君が君の道を選んだように、僕も自分の道を選んだまでさ。ただそれだけのこと。だけど、君がやっていることは、いたずらに戦いを長引かせることだ。勝敗は既に定まっているんだから。もう一度言うよ。どこかへ逃げてくれ……」
そういえば、ミューズでも言っていた。逃げてくれ、と。
「約束する。ハイランドも都市同盟も、ルカの好きにさせたりしない。悪いようにはしない。だから……」
「逃げる、なんて、できるわけないだろう! 俺は、もうあの時の俺じゃない!」
ずるい、と思った。先にジョウイとナナミに逃げて欲しいと思っていたのは俺なのだ。キャロから追いたてられて傭兵砦に身をよせた時、ルカが攻めてきた時、思った。ジョウイとナナミは逃げて欲しいと。
その時に、ジョウイが今のように「逃げよう」と言ってくれていたら、俺は逃げていただろう。ハイランドも都市同盟もルカも放って、別の国へ。そしてジョウイとナナミの三人で暮らしていただろう。だと言うのに、今になって、俺が新同盟軍のリーダーになった後に逃げてくれだなんて、そんなの、頷けるわけないじゃないか。
「俺は……俺はもうデュナン軍のリーダーなんだ! 逃げるわけにはいかない! こんな俺だけど、もう背負うものができたんだ! 支えてくれる人ができたんだ! ジョウイ、君こそ、こっちに来い! もう一度、一緒に、一緒に戦おう!」
差し伸べた手は、しかし届くことはなかった。俺と友の間にできた距離、それはあまりにも遠い――。
「もうすぐ追っ手が来る。早く、逃げた方がいい……」
「行こう。アイリ、ナナミを……」
「嘘よ……ジョウイが……あんな人の手先になるなんて!! そんなの嘘だもん!!」
「ジョウイ……くっ」
「やだ、やだ、やだ、こんなのやだよ!! せっかく、ジョウイに会えたのに!!!」
俺とナナミは、引きずられるようにして、その場から引き離された。俺は友の名を何度も呼んだが、もう、言葉が返ってくることは、なかった。
§
やはりこうなったか。ジョウイはアナベルさん殺害という手柄を立てなかったというのに、ハイランド軍で将軍になった。ミューズ陥落の手引きをしたことで功としたのか。僕は友と引き離されて傷ついた顔をするリオウを引きずって、グリンヒルから離れた。
そしてデュナン城に戻るまで、リオウの表情がいつもの冷静な
グリンヒルを出発して幾日も経ち、デュナン城に帰還した。
「おう、どうだった。グリンヒルは?」
広間に集まったみなは、表情が優れないリオウやナナミを見て心配そうだった。ビクトールの言葉にもうまく反応できないでいる。
「テレーズ殿ですね。デュナン軍の本拠地へようこそおいで下さいました。歓迎致しますよ」
自分の名を名乗りテレーズさんを迎えるシュウ。
「私などをお招き下さってありがとうございます。ですが今は……」
テレーズさんも市民に励まされたとはいえ、気落ちしていることに変わりはない。僕はシュウのそばにいたアップルに言って部屋を用意してもらう。と、
「お嬢様」
「シン! 無事で……」
シンが来てくれた。僕達より後にグリンヒルを抜け出してきたフィッチャーが連れて。
「どさくさに紛れて何とか逃げ出せましたよ。グリンヒルには抜け道がいくつもあって良かったです」
「よく、生きてました。……良かった……」
涙を浮かべながらシンを迎えるテレーズさん。抱きしめたりしてもいいと思うんだけどね。この二人はその思いを互いに伝えることをしないなぁ。立場を考えすぎているのかね。
「フィッチャー。お手柄だよ。良くあそこからシンさんを助け出せたね」
ねぎらいの言葉をかける。
「そ、それが、シンさんだけじゃないんです…………」
あ、やっぱ来たのね。テレーズさんを慕う人を仲間にしてきてくれた。それは嬉しいが。
「トーマスさん!!!」
来やがったよ。いや、そこまで嫌ではないし、仲間だけどさ、でも複雑だよ。
「ああ……いや、とりあえずは自己紹介からかな、僕は偽名を名乗っていたんだ。本当の名前はティル、ティル・マクドールって言うんだ。それが本名だよ」
「ティル……さん。私、こんなことしちゃあ迷惑かな、って思ったんですけど、でも。でも、私は貴方のそばにいなくちゃって、そう思って」
「ああ……うん……その……デュナン軍は新同盟軍でね。人が集まっているから、ここにいたいっていうなら歓迎を……」
「ホントですかっ!? 嬉しいですっ!! きっと運命なんですね!!」
だ、誰かたすけて……。
そ、それじゃ、気を取り直して連れて来られた人を紹介しよう。
ニューリーフ学院で受付事務と図書館司書をやっていたエミリア。彼女についてはグリンヒルにいる時から声をかけていた。
「実は僕達、新同盟軍であるデュナン軍の人間で、テレーズさんを救出に来たんです」
「そうだったの。わかったわ。お姉さんも、できるだけ君の力になるわ。約束よ」
ということで、グリンヒルにいる時点で仲間にできていたのだ。そしてフィッチャー達とデュナン城に来てくれた。彼女の為に図書館を作ろう。
美術を教えていた彫刻家のジュド先生。彼には事前に用意していた粘土を渡して交渉した。
「粘土ありがとさん。気が利くなあ。お礼できることがあったら……」
是非デュナン城で守護神を完成させて下さい。守護神は……さすがにどれとどれを組み合わせたらどのアイテムが出るかなんて覚えていないから、まあ適当にやろう。
新しい仲間はこんなところだ。
「ティルさん……俺、俺は、どうしたら……」
リオウが部屋に戻るのに付き添っていたが、やはり混乱というか困窮というか――をしているようだ。
「そう悩まない方がいいよ、リオウ。ジョウイが何を考えているかは彼にしかわからないことだ。だけど彼は、方法はともかく、市民に血を流させずにグリンヒルを落とした。それはルカ・ブライトのやり方とは違うよね。きっと彼は彼なりに考えて平和への道を歩き始めたんじゃないかな」
僕の言葉にリオウははっと胸を突かれたような表情になる。そこにナナミからも声がかかった。
「リオウ……私も、きっとそうだと思うな。ジョウイって凄く優しいじゃない? 皆が死んじゃったりするのが嫌だから、そんな風に戦っているんじゃないかな。それに、私達のことも捕まえなかった。離れ離れになったのは寂しいけど、やっぱりジョウイはジョウイなんだよ」
そうだね。ジョウイはジョウイだからこそあの道を選んだんだろう。宿星とか運命とかそんなものじゃない。彼が持つ優しさや思いやりがそういう方向に彼を動かしたんだろうね。
「リオウ、道が分かれてしまったと思って今は辛いかもしれない。だけど、軍の支配者であるルカさえ倒せば、あるいは戦力が拮抗すれば、破られない休戦協定だって結べるかもしれない。ルカは都市同盟を滅ぼすつもりみたいだけど、こっちがそれに付き合ってやる必要はないんだ。休戦や停戦の為に戦うというのも一つの考え方だよ」
既にこの世界は僕の知識から外れているんだ。休戦する未来の可能性だってまだあるかもしれない。統一国が作られないと、結局また二国で争いが勃発するかもしれないが。
「休戦の……為に……」
「まあ、あんまり考え込まないことさ。それと、迷ったら色んな人に相談してみるといい。君は一人じゃないんだから」
そう言って、僕はリオウの部屋を辞した。
グリンヒルが王国軍の手に落ちてしまった。それは残念だが、しかし仲間集めは仲間集めだ。明日から精力的に動こう。
さて、クライブを連れてまたグリンヒル市国に向かう。グリンヒル北西にある森の村へ。日数が馬鹿みたいにかかるなぁ。でも、さすがにあのジョウイに裏切られた気持ちになったリオウとナナミを連れて、仲間集めなんてできなかったしね。僕だってそれぐらいは空気を読めるよ。とにかく早くすまさないと、リオウが別の市国に同盟を結びに行ってしまう。早く帰ることにしよう。
「この村に、あの女がいる……ティル、ちょっと付き合ってもらうぞ」
しばらく村中を探し回ったところ、金髪に白いマントの女が、後ろを向いて立っている。
「追いついたぞ……。この場で、決着をつける……」
「え……え……」
振り返る女。だが……。
「ほえ猛る声の組合の執行人として……」
「な……何…………。やめて……」
こいつは別人だ。エルザじゃない。
「我がガン、シュトルムが、貴様に死の裁きを下す。ガンナーとして……」
気づけクライブ。
「い……いやぁ……やめてぇ……」
「なんだ??」
ようやく気づいたか。遅いよ。
「ひ……ひぃ…………」
「これは……エルザじゃない!!! 誰だ! お前は!!!!」
おいガンナー、それぐらい一瞥して気づけ。
「お願い……殺さないで。私……雇われただけなの、一週間の約束で……この格好をして……ここに立っていればいいからって……」
「なんだと!! じゃあ、そいつはどこに行った!!!」
「あの……わからないの……でも……マチルダへ行くって……」
「くっ、ここまで来て!!!! あの女、どこまで、この俺をこけにする気だ!!!!」
珍しく顔を真っ赤にして息を荒げながら怒るクライブ。ぷんすか、という擬音が見えるようだ。
「マチルダ騎士団についてもこれから同盟を結ぶ相手だからね。同盟を結ぶ段になったら連れて行くよ」
「わかった!!!」
こっちに当たるな。
さて、それじゃあ仲間にするか。まずは防具屋の前に立っているこの女の子からだ。
「こんにちは! 私ワカバ!! 師匠と一緒に修行の旅をしていたんですけど、師匠は強い奴を探してこいって言ったままどこかへ行ってしまって。師匠なら無事だと思うんだけど、ねぇ、貴方。どこかに強い人っていないかな? 探してるんだ……」
また少年誌のようなことを言われた。とりあえず言葉の途中だが棍を構えて闘気を放射する。
「わぁっ!!!! 凄い!!!! うん! 私でも強いって良くわかりました!! ありがとう。じゃあ後は師匠を探すだけですね!!」
デュナン軍の人を使って師匠を探してあげますよ、と。
「わーーーい」
次。村長の屋敷に突撃。するといました畑の男、トニー。
「僕はトニー。君は?」
デュナン軍のスカウト担当をしているティルだよ。
「ティルくんか。よろしくね。僕は今ここで働いているんだ。昔はミューズの近くに畑、って言っても小さいやつだけど、を持っていたんだ。でも王国軍と傭兵隊の戦いで畑は荒れちゃって……僕は何とかここに逃げて来たんだ……」
それは災難だったね。デュナン城に来てくれない? 畑を耕して欲しいんだ。
「デュナン城? それって……」
とうとうと説明する。
「そうかぁ。戦いが続いていることは知ってたけど……あ、でも駄目だ。ティル君。僕、村長さんにお世話になってるんだ」
「トニー」
村長さんが間に入ってきた。
「わしのことは気にしなくて構わん。行ってもいいんじゃよ」
「え、でも……逃げて来た僕を雇ってくれたのに……」
村長さんは言う。人助けなんて当たり前のことだと。そしてデュナン軍が頑張ればそれだけ早く戦いは終わるだろうと。
「わしらのことは気にしなくていいんだよ」
「村長さん……ありがとうございます」
トニーが仲間になった。これで城の畑を耕してもらい、色んな野菜が育つぞ。美味しい料理は戦士に活力を与えてくれる。やったね!
民家を一つ一つ訪ねるとようやく発見。音職人コーネルだ。妹さんも一緒にいた。この娘は108星ではない。ごめんね、お兄ちゃんを連れて行くよ。
「こんにちは、お兄さん。僕はコーネル」
礼儀正しい少年だ。こちらも名乗る。
「あ、それって『音セット』ですね。それがあれば、僕ら音職人は色んな音を奏でられるんですよ」
リオウがエルザから受け取っていた音セットだ。倉庫から持ち出したのである。当然リオウの許可は取ってあるよ。
「僕らの仲間になって欲しいんだ」
「仲間、そうですね……お兄さんの心の音……澄んでいます。お兄さんといれば、多くの人々、その心の音を聞ける気がします」
よすよす。小さな村だけど三人が仲間になった。あの女の子と一匹は聞き耳の封印球を貰ってからだね。
さて、場所を変えた。グリンヒルとミューズの国境にやってきたぞ。関所にあの娘がいるはず、と。
「だからぁ、こっちに行く必要が……」
やってるやってる。
「こっちから……あっちへ行くの。わかった?」
相変わらず無茶を言っている。
「それより、そっちのそれはなんだ!?」
関所の王国兵が聞く。彼女のそばにはジュッポが作ったのであろうからくり。からくり丸だ。この非人間も108星なんだよな。色々と待て! と言いたい原作である。
「えぇっとぉ……これはタル、タルよぉ」
くすり、思わず笑いが漏れる。
「タルねぇ……いいから帰った帰った」
「ちょっとぉ。私はあっちへ行きたいの! 冒険よ、冒険が私を呼んでるのよ。もーーー通してくれないなら仕方ないわ。私は“からくり師“なのよ。正確には見習いだけど。私にはジュッポおじさんが作ってくれたからくり丸がついてるのよ。やっちゃえ、からくり丸!」
だがピクリとも動かないからくり丸。結局彼女は関所から離れた。
「もう! どうして動いてくれなかったの!」
「ワタシハケンカノドウグデハアリマセン」
「うぅぅぅ」
「やあメグ、久しぶり」
「え? ……あああぁぁぁぁ! ティルさん!」
しばらく立ち話。旅に出たことは知っているようだ。そして相変わらずの冒険好き。レナンカンプの両親が泣くよ。
「でもここから先へは行けないの……。せっかくおじさんが『もっと、世の中を勉強しなさい』ってありがたい言葉を言ってくれたのに」
それはこういう意味じゃないと思うのだが。メグは世界以前に常識を勉強した方がいいと思うよ。
「そこは今ハイランド王国が支配下に置いているんだ。彼らに対抗するデュナン軍に僕はいるんだけど、入る気はない? デュナン軍が勝てばミューズに行けるよ」
「よぉし! 決めた!! 決めたよ、からくり丸!!!」
「デュナン軍ニハイルノデスネ」
「そうよ!!」
「めぐノ行動ぱたーんハカンタンデース。デモでゅなん軍ニハイルノハないすあいでぃあデス」
カタカナで書く文字はひらがなでしゃべるんだ……。
「私とからくり丸にお任せよ!! これも冒険よね! 行くわよからくり丸!!」
やれやれ。とにもかくにもメグとからくり丸が仲間になった。二人(?)加入。
城に戻ってきた。そろそろツァイのアレじゃないかと思って顔を見に行くと、やはり困り顔をしていた。
「どうしたんだい? ツァイ」
「ああティル君。いや、それが。家に仕事道具を忘れてきたようなんです。ですがリューベの村は壊滅して、ハイランド軍もいるかもしれませんし……」
なら僕が付き添いますよーと言って、一緒にリューベの山へ。
「懐かしい。久しぶりの我が家だ」
庵の中に入る。
「ああっ!! お父さん!! どこ行ってたのよ?」
中にはツァイを小さくしたような姿をした女の子が。可愛い。
「ト、トモじゃないか。どうしてここに?」
「いつまで経ってもお父さんが音信不通で、心配だから見に来たの」
「そ、そうか、すまない」
いつも落ち着いているツァイがしどろもどろだ。
「そんなんじゃ、いつまで経ってもお母さんと一緒になれないよ」
「あぁ……うん……まあ」
離婚しているんだっけ?
「もーーしっかりしてよぅ。ところで、今どこで何してるの?」
口を挟む。デュナン軍で戦っているのですよーと。
「ティ、ティル君。それは……」
慌てるツァイ。そりゃあ娘に戦争していますとは言いにくいよね。
「そうだったんだ……よし、じゃあ私もデュナン軍に行くよ。お父さんを“見習って”ね」
「そ、そんな、危険な……」
「お父さんが槍を使っていること、お母さんに言っちゃうもんね」
危険な仕事、槍を扱う戦いが原因だったのだろうか? 母親がそれを嫌がったというところか。
「こら、待ちなさい、トモ」
こうして、ツァイの一人娘、トモが仲間に。可愛い女の子だ。
で、城に戻ったら、バルコニーで騒ぎが。ああ、あの人か。
「大丈夫だよーーー私に任せるよーーーーー」
いや大丈夫じゃないよ。いきなりそんなこと言われても普通は任せられないよ。黄色いコック姿はキマっているけど。
「料理はねーープロの仕事なのよーーーだから、私にお任せよーーー」
だから、という言葉が正しく使われていない件について。
「やあ、僕はデュナン軍のスカウト担当もしているティルって言うんだ。貴方もデュナン軍の仲間になってくれるのかな?」
「美味しい料理を作ってあげるよーーーだから、私を雇ってよーーー」
「わかった! 料理は任せたよ!」
料理人ハイ・ヨーが仲間に。これでレストランが開店するぞ! 美味しい料理でお腹を満たそう。トラン共和国で過ごした経験もあるから、レシピは色々と知っているぞう。色んな料理を作って営業してもらおう。
現在の仲間、71人――。
(うち宿星でないティル、グレミオ、テッド、アナベル4人)
後書き
先に言っておきます。料理勝負はやりません。デュナン軍の仲間が審査員をやるとかどう考えても負けないし、そこら辺の人を捕まえて審査員にするのもねぇ……。盛り上がらないし。ということでカットです。
ジョウイと敵対してしまうことがはっきりとわかる話なので、消えた希望、というタイトルにしたのですが……。ティルが変なフォローを入れた為に消えていない気がする。……むぅ、余計なことしやがって。
ニナを仲間にするかどうかで小一時間ほど悩みました。ただの学生だし……と思いつつ、そんな人物も加わるのが幻想水滸伝だろう、と思い直して、でもやっぱり……とエンドレスに繰り返して、結局仲間にしました。ニナもバランスの紋章を宿してやれば強いですよ。2.5倍ダメージの協力攻撃がありますからね。
原作にあったジョウイサイドの情景は描写しません。幻想水滸伝Ⅱはある意味ジョウイが主人公なのですが……この話は完全に一人称、主観で書いていますからね。ティルとリオウの主観以外はなるだけ描写しないのです。その方がリオウから見た、ジョウイの謎すぎる言動が読み手にそのまま写るという狙いもあります。