ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第15話 マチルダ騎士団領

 あれから、何日かの時が過ぎた。張っていた気を抜き、ぐっすりと休んだ。思っていたより疲労した体は、休息を欲していた。その間ティルさんが仲間集めをしたり、シュウさんやアナベルさんが今後の方策を考えたりしていたようだが、俺はジョウイのことを考えて過ごしていた。

 

(女々しいな)

 

 と、自分でも思うが、彼を戦乱に巻き込んだのが自分だという事実から、目をそらすことができなかった。自分が軍に入らなければ、彼は――。その「もしも」を考えては苛立っていた。そんな日々を過ごしていると、新しい展望が。

 

「マチルダ騎士団……」

 

「ええ、次に騎士団と同盟を結ぼうと思います。騎士団の軍はミューズと並び精強を誇っています。同盟を結べれば、王国軍に対抗することもできるでしょう」

 

「地理的にもね。マチルダ騎士団領はミューズの北だ。デュナン軍の本拠地である南と反対側にあるから、同盟を結べればミューズの王国軍を挟み撃ちにできるよ」

 

 シュウさんとアナベルさんの言葉を聞く。なら――。

 

「俺がマチルダ騎士団領に行く、ということだね」

 

 そう言うと、シュウさんは厳しい表情。リーダーである俺が危険な旅路に出ることを危惧しているのだろう。だが俺はやめるつもりはなかった。ジョウイと戦わない為には、ルカを一日でも早く倒す。その決意が生まれていたから。戦いをやめる為に戦う。あの誓いだ。思いはそのままでいいのだと、ティルさんやナナミに言われて気づいた。

 

「よし、それじゃあメンバーを選ぼうか。当然僕はついて行くよ」

 

 また旅が始まる。すんなりと同盟を結べればいいが。

 

 

     §

 

 

 さて、マチルダ騎士団領への旅である。だが一つ厄介なことが。確かあの人物って、仲間にするには動物がいないと駄目なんじゃなかったっけ? でもここで「今回はキニスンと犬のシロを連れて行く」とか言ったら確実に怪しまれる。同盟交渉にも犬を連れて行くとはどういうことだ!? って話になるし。…………うーん。動物がいなくても仲間になることを祈るしかないな。

 

 ということでメンバーが決まった。「いい加減ぼっちゃんを一人で行動させるわけにはいきません」というグレミオのお節介、もとい忠言により、今回はグレミオとテッドが一緒だ。まあメンバーが増えることに否やはない。今回は想定通りなら途中でパーティーを分割するかもしれないからね。人数はある程度確保しておきたい。

 

 それではメンバーだが、リーダーのリオウ、補佐のジェス、ボディガードのオウラン、同じくリオウを護衛するビクトール。ナナミ、僕、グレミオ、テッド、エルザを追うクライブ。という面子だ。かなりの一団となったがまあいいだろう。

 

 マチルダ騎士団とは事前にフィッチャーが話を通してくれることになった。騎士団から迎えが来るてはずになっているとのこと。フィッチャーが有能すぎる。さすがと言うべきか。ざかざか歩いて騎士団領を目指す。騎士団領に行くには、ミューズ領かグリンヒル領を通らなければならない。両方とも王国軍に占領されている地域だ。しかしグリンヒル領なら仲間集めで歩き回った地、問題はない……こともないな。問題大アリだ。だが慣れてはいる。

 

「ここがマチルダへの抜け道だよ」

 

 グリンヒルの北にある抜け道にやってきたぞ。

 

「行きましょう」

 

 グリンヒル脱出からこっち、だいぶ落ち込んでいたリオウだが、今はある程度落ち着いているように感じた。でも虚勢かもしれないから、なるべくフォローしよう。

 

「ねぇ、ねぇ。騎士ってあのカッコイイ人達だよね。楽しみ」

 

 ナナミは明るいなぁ。

 

 さて抜け道に入った所でバドさん登場。

 

「…………声」

 

「…………何か?」

 

「君は澄んだ目をしているな」

 

「そうでしょうか? 自分では良くわかりません」

 

 どっちかというと濁ってないかな? 不安だ。

 

「貴方の中には多くの輝きと……多くの人々の声が眠っている。それが私に聞こえるのです。貴方には仲間が必要なようだ。私も貴方の力になろう」

 

 嬉しいが、これって本来リオウが言われることだと思うんだけど、僕なのね。何故だろう。

 

「ありがとうございます」

 

 ほっ。本気でほっとした。仲間になってくれた。まあなってくれなかったら、キニスンとシロを後で連れて来る気だったけどね。面倒がなくて良かった。モンスター使いのバドが仲間に、そして彼から渡される物が。

 

「これを……役立ててくれ……」

 

 聞きみみの封印球を二つゲット。これで仲間に一人と二匹が加わる。後で行っておこう。

 

 そうして抜け道という名の森を進んでいると、

 

「わわわ。あ? あれ? あれ? ここは? ごちそうはー???」

 

 はい、時空を越えてテレポートしてきました、美少女ビッキーです。トラン共和国建国の祝賀会で姿を消した彼女だけど、あの時姿を消した次の瞬間ここに現れたのだ。僕達にとっては三年も時間が経過しているけれど、彼女にとっては一・二秒ほどしか経っていない。

 

「やあ、ビッキー。ごちそうがなくて残念だけど、ここはジョウストン都市同盟だよ」

 

 場所と年代、現在の戦争状態について説明する。

 

 また住む場所がないだろうから、デュナン城にバドさんと一緒に戻っていてもらう。また城に住めるよ。衣食住は保証するからね。

 

「はー。良かった。ありがとうティルさん」

 

 ヒュンッとまたテレポートしていく。

 

「ぼっちゃん、彼女って……」

 

「言わないでグレミオ。こっちも常識が破壊されて困っているんだ」

 

 本当は彼女についてある程度知っているけどね、そんなそぶりは見せない。さて、マチルダ騎士団の本拠地までもう少しという所で、マイクロトフが待っていた。草原に青の軍服が綺麗に並んでいた。僕達を認め、声をかけてくるマイクロトフ。

 

「デュナン軍のリーダー、リオウ殿ですね。フィッチャー殿からお話は伺っております。俺はマチルダ騎士団青騎士団長マイクロトフです」

 

 礼儀正しく挨拶してくる。短い黒髪に引き締まった表情、がっしりとした体格。いかにも騎士らしき人物だ。僕達はそれぞれに挨拶する。

 

 マチルダ騎士団の本拠地はロックアックス城というお城だ。そこに青、赤、白騎士団の三つに分かれた騎士団がいる。マイクロトフはロックアックスまでの間に説明してくれた。青騎士団は主に遠征軍として常に城内で待機。赤騎士団は領内の警備。白騎士団は城内の警備だという話だ。更に白騎士団の団長が全騎士団の団長となる決まりだと。……あのゴルドーなんだよねぇ。困ったものだ。だけど殺すわけにもいかないしさぁ。ルカはさすがに殺さないと止まらない人物だからどうしようもないけどね。ゴルドーは……いや、でも、やっぱり。

 

 リオウはミューズでの一件について、マイクロトフに聞いている。ミューズの国境を越えてきたハイランド王国軍相手に、姿を現しただけで消えてしまったあの醜態だ。

 

「リオウ殿もあの戦いに……。すみません。ゴルドー様の命令により仕方なく撤退したのです。俺もできることならば戦いたかった……。しかし、騎士団において団長の命令は絶対なのです。忠誠を誓った団長に背くことは、騎士として最大の罪です」

 

 これがなければもっと話はスムーズにいくのだが、ゴルドーが団長だから上手く話が運ばないのだ。

 

「終わったことはもういいでしょう。それより、これからは私達と一緒に戦ってくれると嬉しいです」

 

 余所行きの口調でリオウが話す。マイクロトフは騎士として戦えることが嬉しいのだろう。同盟について肯定的な口ぶりだった。

 

 ロックアックス城に到着。ナナミとビクトールを控え室に残して、リオウはジェスとオウランさんだけを連れて広間へ進んだ。さて僕達は僕達で動こう。まずはクライブの用事だ。ロックアックス城内の宿屋へ赴く。宿屋の中で情報収集だ。

 

「おい、エルザという女を知らないか? 金髪で、背の高い女だ」

 

「あ、ああ…………」

 

「知っているのか?」

 

「知っているも、何もなぁ……」

 

「そうさ、ここの酒場にあんまり見ない顔のいいケツした姉ちゃんがいると思ってちょっと、話しかけたらなぁ……」

 

 ケツか。女性のケツはいいものだ。

 

「あぁ、いきなり俺達を蹴り飛ばした上に、魔法の道具を取り出して、俺の髭を吹っ飛ばしやがったんだぜ。忘れられるもんか!!」

 

 銃で髭だけ吹っ飛ばすとか無茶をやるなぁ。それだけ技量が凄まじいということかな。

 

「それで、そいつはどこに行ったか覚えているか?」

 

「あぁ、覚えてるさぁ、覚えてるとも!!」

 

「えっと……確かぁ……」

 

 覚えているんじゃなかったのか。

 

「おい、もう片方の髭も吹っ飛ばしてやろうか?」

 

 短気は損気だよ、クライブ。

 

「おいおい、待ってくれよ。大丈夫だ、確か……ラダトの街だっけ……」

 

「そうさぁ、サウスウィンドゥのラダトの街に行くって言ってたぜ」

 

「ラダトの街……今度こそ……。ラダトの街だ。戻るぞティル」

 

 戻らないよ、このまま同盟を結ぶまでずっとここにいるからね。

 

「くそっ」

 

 イラついているなぁ。まぁ無理もないか。でも確かラダトでは出会えるはずだ。抑えておくれ。

 

 

     §

 

 

 俺は城の広間に通された。そばにはジェスさんとオウランさんがついていてくれる。まるで王のような玉座に腰掛けた白騎士団団長ゴルドーさん。そして隣には赤い軍服を着た騎士。彼もミューズで見かけた人物だ。

 

「マチルダ騎士団団長、ゴルドー殿。今回は会見を開いて頂きありがとうございます。私は新同盟軍であるデュナン軍を率いる……」

 

 言葉は途中で遮られた。

 

「ふん、貴様がリオウか。話には聞いていたが、まだガキではないか」

 

 ……いくらなんでも礼儀知らず過ぎだろう。これが騎士の頭領か。

 

「ゴルドー殿、ご無沙汰しております。ミューズで副市長をしておりましたジェスと申します」

 

「覚えておるとも。貴様も新同盟軍とやらの世話になっておるのか?」

 

「はい。我らのリーダーであるリオウはかつて都市同盟を導いたゲンカク老師の子息であり……」

 

「ゲンカクか。その名は知っているが、今はなんの価値もなかろう。それにしても、こんなガキが率いている軍にしてやられるとは、王国軍も大したことはないな。その王国軍にやられたとはミューズも不甲斐ない。それで? 我が城に何用だ?」

 

 遮り過ぎだろ。最後まで話させろよ。ミューズまで馬鹿にしやがって、ジェスさんの目が更に鋭くなったぞ。俺は、これも無駄かもしれないと思いながら言葉を紡ぐ。

 

「ゴルドー殿、ルカ・ブライト率いるハイランド王国軍は、ミューズを陥落させて以降、各地に軍を派遣しては都市同盟の領土を奪い続けています。トゥーリバーはかろうじて持ちこたえましたが、サウスウィンドゥとグリンヒルは既に敵の手に落ちてしまい、残るはこのマチルダ騎士団領とティント市のみとなっております」

 

「だからどうしたと言うのだ?」

 

 不遜な態度を続けるゴルドー。敬称なんてもったいない相手だ。

 

「我々、新同盟軍は、王国軍の手から同盟領を守り、戦いを終わらせる為に結成されました。願わくはゴルドー殿、我らと共に戦っていただきたいのです。そしてこの地から王国軍を退けましょう」

 

 態度を変えずに俺の言葉を鼻で笑うゴルドー。

 

「なるほど、口上だけは一人前のようだな。だがな、我らは王国軍と戦う気はない」

 

 やっぱりか。ミューズで戦わなかったんだもんな。そう言うだろうと予想できた。

 

「何故ですか?」

 

「決まっておる。王国軍にも我々と戦う気がないからだ。王国軍は我々騎士団を恐れているだろうからな」

 

「確かにマチルダ騎士団の戦力は王国軍にとっても脅威でしょう。しかし、敵は領土を広げ、それに伴い軍の規模も膨らんでいます。このまま敵を放っておいたらいずれは……」

 

「ふん、王国軍が我が領土を侵そうとしているなら、撃退すればすむことよ。貴様に心配してもらう筋合いなどない。それに貴様が率いる軍に破れる王国軍など恐ろしくもなんともないわ」

 

 ゴルドーは玉座から立ち上がり、横に控えている赤騎士に声をかけた。

 

「カミュー、リオウ殿を客室に案内せよ。数日休んでもらったら、国境まで付き添ってやれ。もう用件は終わっただろうからな」

 

「承知致しました」

 

 カミューと呼ばれた騎士が答えると、ゴルドーは巨体をゆさゆさと揺すって広間から出て行ってしまった。

 

「リオウ様、こちらが客室です。あまりお気を悪くされませんよう……」

 

 赤騎士団長のカミューさんはそう言ってくれたが……俺は暗澹(あんたん)たる気持ちだった。

 

 その夜。なんと突然の訪問があった。訪問というか何と言うか。

 

「リオウ……起きなさいリオウ……」

 

 説教強盗じゃないんだから。夜やってきて「起きなさい」はないだろう。レックナートさん。突然出現しやがって。

 

「強くなりましたね。リオウ。ですが戦いはしばらく続くでしょう。それは牙を向き、多くの血と涙が流されることでしょう。しかし、それに背を向けてはいけないのです。目を背けては……。貴方には、多くの人の想いが集まっているのですから。それを無駄にしてはなりません」

 

「……はい」

 

「貴方の右手にある紋章は、やがて貴方を最後の戦いへと(いざな)うでしょう。その結末は貴方にしかわからないのです」

 

「最後の……戦い」

 

「運命を……未来を切り開きなさい……リオウ」

 

 そうして、現れた時と同じように光を散らして彼女は消えた。……なんだったんだろう。混乱だけが残ったぞ。

 

 ………………………………。

 

 ゴルドーとの最初の交渉ですげなく一蹴されてしまった俺達だが、その後もなんとか交渉を続けようとした。たとえ足並みそろえて戦わなくても、「同盟を結んだ」という事実があれば、王国軍はこちらにも軍を割かねばならない。それは王国軍の力を削ぐことになる。

 

 だが、ゴルドーはもはや俺と面会することすらしなかった。あまり長居はできないが、マイクロトフさんとカミューさんが何度もゴルドーに掛け合ってくれたので、少しばかりの日数を城で過ごすこととなった。

 

 そうしてロックアックス城に滞在して三日になろうかという時だった。マイクロトフさんからその知らせが飛び込んできたのは。

 

「大変です! 元ミューズとの国境近くに、王国軍が軍を進めているという情報が入りました!」

 

 廊下でばったりと会ったマイクロトフさんは、このままゴルドーに報告しに行くという。せっかくなので同行させてもらい、ゴルドーの決断を聞こうと思った。二人で広間へと向かう。

 

「騒がしいぞ」

 

「はっ。ゴルドー様、ただいま知らせが入りましたところによると、王国軍が我が国境を目指して部隊を進軍させているということです」

 

「ふむぅ、そうか。それで、奴らは我が領内に侵攻してくるつもりなのか?」

 

「ミューズ領内の村を王国軍が荒らし回っていることはゴルドー様もご承知の通り。王国軍の略奪に耐えかねた者達が、流民となり我が騎士団を頼って来たようです。それを王国軍が追ってきたと。ゴルドー様、すぐにも軍を出しましょう。そして、ミューズからの流民を助けだすことができれば!」

 

 ゴルドーは少しばかり考えていたようだが、軽く息を吐いて立ち上がった。

 

「ふーーむ。…………出撃する。準備を整えよ」

 

「はっ」

 

「わかりました!」

 

 どうやら最低限の良識はあったようだ。流民を助けてくれるらしい。俺は部隊を率いてこなかったが、カミューさんに同行を願い出た。皆と一緒に出撃の準備を行い、共に城を出発する。馬を走らせて半日、俺達は元ミューズとの国境に設けられた関所に到着した。

 

「総員、関所の守りを固めよ!」

 

 マイクロトフさんはそう言葉を発し、出撃できるように青騎士団を待機させた。俺達は一緒に関所の城壁に上がった。そこから元ミューズ領の様子を伺う。すると草原に流民の一団が見えた。みなそれぞれに荷物を背負い、家族同士で手を引き合っている。その数は五百人ほどに見えた。王国軍の横暴に、住んでいた場所を捨てて騎士団領へと移動してきたのだろう。なんとか助けたいと思った。

 

 だが、草原の彼方には砂煙。王国軍だ。数はせいぜい三百といったところだろうか? 数は少ないが、先頭にはあのルカの姿があった。

 

「ようし、囲め囲め! 一人も逃がすな!!!!」

 

 俺がその姿に畏怖を覚えていると、カミューさんとゴルドーも城壁に上ってきた。

 

「どうだマイクロトフ。王国軍の様子は?」

 

「はっ。ルカを先頭に、今にも流民に襲いかかりそうな様子。敵は三百と少なく、今ならばルカの首級を挙げることもできるでしょう! ゴルドー様、出撃の許可を!」

 

 ところが、ゴルドーの下した決断は、

 

「ならん。このまま待機だ」

 

「な!? 何故ですか、ゴルドー様!」

 

 俺達も驚きに包まれた。このまま放っておけば、流民はルカの部隊に蹂躙される。だというのに――。

 

「では、ゴルドー様、彼らを見殺しにせよと!? 目の前で殺戮が行われようとしているのに、それを……!?」

 

 悲痛なマイクロトフさんの訴えも、ゴルドーには通じない。

 

「マイクロトフ。我が騎士団領の国境外のことよ。手を出す理由も権利もありはせん。それよりも防備だ。王国軍だろうと流民だろうと中には入れるな」

 

 ……なんて最低の命令だ。このクソ野郎。

 

「そ、それでは……ですが、納得できません!!」

 

 じろり、とマイクロトフさんを睨み、ゴルドーは言った。

 

「主人の命令は絶対だ。貴様の騎士としての忠誠はどうした?」

 

「くっ……。しかし、このまま民を見殺しにするなど、騎士の名折れではありませんか……!?」

 

 その時、草原に悲鳴が轟いた。ルカが剣を振り上げて叫ぶ。

 

「ようし、追いついたぞ! 刃向かう者は殺せ! 従う者は捕らえてミューズへ連行しろ!」

 

「ゴルドー様! このままでは流民達が殺されてしまいます!」

 

 マイクロトフさんはなんとかゴルドーから命令を引き出そうとする。

 

「領内に侵攻してくるならいざ知らず、領外で何をしようが我らには関係なきことよ」

 

 こいつ……っ! 俺はゴルドーを睨む自分を抑えられなかった。だが、こんな奴に言葉を並べ立てても無駄だ。

 

「ゴルドー様……。このまま待機という命令でよろしいのですね?」

 

 いつも爽やかな笑みを浮かべている赤騎士カミューさんの表情も、今は苦しげに歪んでいた。

 

「うむ、王国軍が我らに矛先を向けた時のみ動く。準備は整えておけ」

 

 もう限界だった。恐怖に怯えていたあの時とは違う。力があるから、じゃない。意思があるから、約束があるから、俺は動こうとした。

 

「なら俺達が行きます! こんな形で人を見殺しになんてできるか!」

 

 俺は皆に視線を送る。真っ先にビクトールさんが反応してくれた。

 

「ようし、この際あのルカの野郎もぶっ倒してやろうぜ!」

 

 俺達が動こうとした瞬間、

 

「そやつらを止めよ!」

 

 背後からゴルドーの声が響いた。白騎士団が剣を抜き、あっという間に俺達を囲む。

 

「てめえらぁ! 何しやがる!」

 

 ビクトールさんが叫ぶ。

 

「馬鹿な真似を。貴様らが出たら王国軍を刺激してしまうではないか。無用な争いなど起こす必要はない」

 

「ふざけるな! 放せぇっ!」

 

 俺達はみなでなんとか動こうとしたが、体をつかまれ、喉元に剣を突きつけられてしまった。

 

「くそ、放せ、放せぇぇぇ!!!!!」

 

 俺はこれ以上ないほどに叫んだが、その拘束を解くことはできなかった。草原にはますます悲鳴と血しぶきが上がった。カミューさんは俯き、マイクロトフさんは固く歯を噛み締めて耐えていた。ナナミは行われる殺戮を見て涙を浮かべている。だが、その時。

 

「あっ!」

 

 誰かの声が上がった。草原に、また別の一団が現れたのだ。それは素早く移動して王国軍に迫った。

 

「あれは、いったい……」

 

 疑問の声は喧騒に消えた。その一団を見て静かに頷いている人物がいたが、俺はそれに気づかなかった。

 

「ちぃっ! 豚どもを連行しろ! 」

 

 その一団は、少なくない流民を助け出し、現れた時と同じく素早く引いていった。ルカはそれを追うことをせず、確保した流民を連れてミューズの方向へと引き上げた。

 

 

     §

 

 

 転生者の面目躍如。僕はこうなることを知っていた。ルカが多数の民を生贄にすることを。そのことを知っていたので、あらかじめ手を打っておいたのだ。ミューズでアナベルさん達を護衛させたカゲだ。虎の子の契約相手。彼に命じて、ミューズ付近で潜伏し、密かに戦える一団を組織してもらった。その一団の使命はミューズ市国の村々を回り、住民を他の地へ逃がすこと。住民を殺戮しようとするルカに対抗することだ。今回の一件もあらかじめ知っておいたので頼んでおいた。グリンヒルが王国軍によって陥落する。その後にマチルダ騎士団領とミューズの境で流民が王国軍に追いかけられ虐殺の憂き目に遭うだろうから、それを阻止してくれ、と。普通の人間なら「なんでそんな未来のことがわかるんだ?」と疑問を呈すところだが、契約だけに忠実なカゲは余計なことなど一切聞かずに対応してくれる。お金で動くカゲだが、こういう風に使うと凄く頼もしい契約相手だ。

 

(さすがに、全員を助けることはできないけどね)

 

 数百人程度の傭兵だろう集団を組織したカゲ。それでもある程度の人数は助けられるが、殺される全員を救うことはできない。これが僕の限界だった。ここから先は僕ではなくデュナン軍と、ハイランド王国軍のジョウイと彼に付き従う者達が頑張る場面だ。

 

 ロックアックス城に帰ってきた。みなは失意の表情で沈んでいる。流民を完全に助けることができなかったから。ゴルドーさえ命令を下していれば、騎士達がその誇りにかけて民を助けてくれただろうに。

 

「皆……俺達はマチルダ騎士団と同盟を結びにきた。だけどこんな非情な相手と同盟を結んだところでいったいどうなる? こんな騎士団相手でも、俺は同盟を結ぶ為に働きかけなきゃいけないんだろうか」

 

 そのリオウの言葉に、ビクトールが怒りを顔に浮かべて答える。

 

「騎士団の兵力は確かに魅力的だがよ、やっぱり相手は選ぶべきだ。自分達のことしか考えねえような奴と同盟を結んだって、意味ねえよ」

 

「だが、騎士団がいなければ、兵数では王国軍に太刀打ちできないぞ」

 

 ジェスの冷静な一言。それも一理ある。だから原作のような展開にもっていくのが一番いいんだろうね。騎士団の中でデュナン軍に加わりたい人だけ加わってもらうという。

 

「だがね、ジェス。同盟ってのは最低限の約束をするってことだろう。私は今のゴルドーが約束を守る相手だとは思えないよ。形だけの同盟を結んだって裏切られちゃあ意味ないだろう」

 

 とオウランさん。さすがに契約で人を守るボディガードだけある意見だ。

 

「あんな奴、顔も見たくないよ!」

 

 憤慨して感情論を述べるのはナナミ

 

「僕もだいたい同意見だけど、それより気になることが。ルカはミューズで何かをしようとしているみたいだ。ここは早急にデュナン城に戻って、ミューズに密偵を放ち、内情を調べた方がいいかもしれない」

 

 僕の意見に軽く頷くリオウ。さて、できればこの後マイクロトフと接触したいところだが……。

 

 

     §

 

 

 俺は皆の意見を聞いた後、もう日も暮れる頃なので一晩だけ泊まった。翌日、今日にはロックアックス城を発つと告げる為、朝早く広間へ向かった。そしたらマイクロトフさんとカミューさんが言い合いをしていた。

 

「落ち着け、マイクロトフ。お前が一人で行ってもどうにもならんだろう」

 

「だが放っておけるか! 止めてくれるな!!」

 

 そんな二人を驚いて見ていると、マイクロトフさんはカミューさんを振り切って城の外に出ようとする。

 

「俺はこの目で確かめたいんだ。奴が、王国軍がミューズで何をするかを。お前が止めても俺は行く!!」

 

 城を出て行くマイクロトフさん。急いでカミューさんに話しかけた。

 

「ああ、リオウ殿。これはお見苦しいところをお見せしました」

 

「そんなことは構いません。それより、俺もミューズのことが気になっていたのです。マイクロトフさんはミューズに?」

 

「ええ。王国軍は流民を狩ってミューズに集め、何かを企んでいるようだと。あいつは直接行ってそれを調べ、結果をゴルドー様に突きつけて軍を動かしてもらおうと……。偵察隊を出せる状況ではないので、一人で行くと言って……。できれば私もあいつと共に行きたいのですが、ゴルドー様の補佐もあり、マイクロトフの不在をごまかしたりする必要がありますし……」

 

 それなら。

 

「カミューさん、俺達が同行します。ちょうどデュナン軍でも本拠地に戻ったらミューズに密偵を出すという案があったのです。ここからなら直接ミューズに行けます。マイクロトフさんと共にミューズへ行ってみますよ」

 

 カミューさんはそれを聞いて笑顔になった。

 

「それはありがたい。ここを出発することは、私がゴルドー様に伝えておきましょう」

 

「わかりました。お世話になります」

 

 俺はそう言って皆のいる部屋へ戻った。急いでマイクロトフさんを追いかけよう!

 







後書き
 転生者ティルとカゲが作者に都合のいい存在と化している気がする……。
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