ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第16話 騎士の誓い

「お待ちを、マイクロトフ様! 一人でミューズへなど……」

 

 ロックアックス城の城門でマイクロトフさんが青騎士と言い合っている。

 

「大丈夫だから心配するな。ミューズで奴が何を起こすのか、それを確かめてくるだけだ。後を頼む!」

 

 おお、マイクロトフさんが出立していく。早く皆と合流して後を追いかけないと。

 

 急遽決まったミューズ行き。ジェスさんやオウランさんは危険があるので渋い顔をしたが、

 

「一度デュナン城に戻ってミューズに人を送るより、俺達が行った方がはええだろ。ミューズが今どうなっているか、気になるしな」

 

「私も行く!」

 

「僕も賛成かな、リオウの身は僕らで守ろう」

 

 と、多数決でミューズへ行くことになった。馬を飛ばして半日が経った頃、昨日の嫌な出来事が胸をよぎる場所、関所に到着。するとマイクロトフさんがいた。良かった。なんとか追いつけた。

 

「マイクロトフさん!」

 

「リオウ殿……何故このような場所に?」

 

 驚く彼に目的を告げる。

 

「カミューさんとの会話を聞いていたんです。それで駆けつけました。俺達と一緒にミューズへ行きましょう。そしてミューズで起きていることを確かめるんです」

 

 マイクロトフさんは喜色を顔に浮かべた。

 

「リオウ殿……。昨日はゴルドー様の命令で動けませんでしたが、私としては民を助けたかった。貴方達が同行してくれるというなら嬉しいです」

 

 そう言ったマイクロトフさんと一緒に、俺達は関所を越えて進路を南東へ。一路ミューズを目指した。

 

 俺達は王国兵がいやしないかと警戒しながら足を進めた。やがてジョウストンの丘が見えてきた。俺達は辺りを見回しながら正門へ回り込む。しかし、

 

「おかしい……城壁にも門にも兵がいません」

 

 マイクロトフさんの言葉通りだ。おかしい。

 

「ミューズは占領されてるんじゃなかったのか? ……しかし、雰囲気が妙だ」

 

 ビクトールさんも疑問の声を上げる。

 

「確かに、人がいないとか占拠されているとかじゃない。何か別の気配がするね」

 

 ティルさんの言う気配というものを俺も感じ取っていた。前はもっと、明るい街だったはずだ。

 

「潜入、してみますか?」

 

 グレミオさんが尋ねる。その時だった。突然、城壁の向こうから大勢の人々のものと(おぼ)しき悲鳴と泣き声が。声はまるで心臓に刃を突きつけられでもしているかのように震えていた。喉の奥から搾り出されたであろうその響きは、だが人間の声とは思えなかった。

 

 俺はその声を聞いて背筋がぞっとした。中でいったい何が――?

 

 その疑問に応えるように、目の前で不思議な出来事が起こった。狼の如き吠える声が空に響き、風がざざざっと音を立ててミューズへと向かった。俺達がその強き疾風に目を細めると、街の中央に竜巻のようなものが。その竜巻は青い色に染まったかと思うと、段々と巨大な狼の頭へと変貌した。双頭の、おぞましく醜い狼は、大空に向けて恐ろしい咆哮を――。

 

 

     §

 

 

 ……知ってはいたけど恐ろしいまでの気配だね。三年前の竜王剣との戦いを思い出す。真の紋章にある邪悪さ、醜さ、穢れ、そういったものが一緒くたになって襲いかかってくる。確か、中では千人規模の民が虐殺されているはずだ。だが、今深追いすれば、待っているのは確実な死である。千人以上の殺害を行う為に、それ以上の兵士がいるはずだから。その数の兵士が疑問や反抗心も持たずに、ルカの命令で虐殺を行っていると思うと反吐が出そうだが、だからといって特攻することはできなかった。僕は自殺願望の持ち主じゃないから。助けるのはあくまで自分の命が安全な状態にある時だけだよ。死にに行くのはごめんだ。

 

 その後、騎士として王国軍を止めようとするマイクロトフによって、仕方なく少しだけ中に入ることに。そこには、一人の人が。

 

「た、たすけてくれぇ……」

 

 ばたんと道に倒れる。それを追いかけて王国軍の兵士がやってきた。戦闘になるが、強気なマイクロトフによって斬られる兵士達。酷く怒っているねぇ。いや、僕だって胸糞悪いけどさ。

 

「大丈夫ですか」

 

 倒れた人物を助け起こす。

 

「ば、化け物……銀色の……みんな……く、食われちまった……妻も……子供も……父も……母も……皆……捕まって……」

 

 その人は、そこまで言って息絶えた。

 

「くっ、ルカめ! リオウ殿、急いでロックアックス城に戻りましょう! ゴルドー様に伝えて、今度こそ軍を動かしてもらうのです!」

 

 僕達を発見した兵士達から逃げて、元来た道を引き返した。

 

「先ほどの人物……まず間違いなく王国軍は虐殺を行っているのでしょう。このことをゴルドー様に報告し、王国軍を打倒します!!」

 

 マイクロトフは強く気を吐いていたが、それは恐らく無理だと思うな……。

 

 僕達は街道を逆戻りした。関所を通り、少し進んで街道の村に差し掛かる。本当に「街道の村」という名称なんだよ。

 

「もう夜だ。今日はこの村に宿泊しよう」

 

 提案する。さて、いてくれるかな……僕らは村に一軒だけある宿に入る。と、

 

「ハンフリー! ハンフリーじゃねえか!」

 

 ビクトールの言葉通り、そこにはトラン解放戦争で共に戦ったハンフリーがいた。相変わらず大刀を背負っている。この場にはいないがフッチも同行しているはずだ。

 

「やあ、ハンフリー」

 

 僕も声をかける。

 

「ああ……久しぶりだな。だが、今は……」

 

 そして始まる説明。ハンフリーは寡黙なので、聞き出すのに時間がかかった。どうもこの村のケントと言う少年が行方不明になったらしい。洛帝山(らくていざん)という場所で竜の鳴き声を聞いたおじさんがいて、その人から話を聞いた、竜に関心のあるケント少年はその山に向かったのではないか、という話だった。

 

「それは心配だね。良ければ僕達も捜索に加わろうか?」

 

「え、お、おいティル……」

 

「ロックアックス城に行くのはリオウ達に任せればいい。僕は、ケントという少年も心配だけれど、本当に竜がいるとしたらそこに行きたいんだ。僕は、“約束“したんだ。友達で仲間のフッチと。フッチの新しい竜を探すって。だから……竜がいるならそこに行きたい。頼むよ、リオウ」

 

「わかりました。俺達は先にロックアックス城に戻っています。子供が行方不明になったというのは心配ですし」

 

 さすがに勝手すぎかな、とも思ったが、リオウは許可してくれた。なんだかんだで優しいリオウだ。

 

「ありがとう、リオウ」

 

 そこにフッチが宿屋の二階から降りてくる。頭に竜の飾りをつけた懐かしい姿だ。一緒に戦った仲間というより、友達という感覚が近い。解放軍の中でも珍しく僕にさん付けや様付けしない人物だし。

 

「ハンフリーさん! 準備できました……って、ティル!?」

 

「フッチ、久しぶり。事情は聞いたよ。ケント君という友達を探しに、強い魔物がいる洛帝山に行くんだってね。僕も一緒に行くよ。ケント君を探して、もしいるなら竜も……」

 

「……あ、うん……」

 

 やはり反応が鈍い。フッチは……。

 

「ありがたい。ティル。すまないが力を借りる」

 

 いいよいいよ。約束があるんだ。大切な、約束が。

 

 ということでリオウ、オウラン、ジェス、ビクトールはロックアックス城へ戻る。僕とグレミオ、テッドとクライブはハンフリーとフッチの二人に付き合う。さあ、ケント君が怪我したりしないよう、早く行こう。

 

「僕のせいなんだ。僕が竜に乗せてあげるなんて言ったから、ケントは……」

 

「フッチ、自分を責めるものじゃないよ」

 

 自業自得とまでは言わないが、自分の意思で危険な山に入ったんだ。それはそれだ。

 

「今は自責の念に囚われるより、ケント君を無事に助け出すことを考えよう。友達、なんだろ?」

 

「ああ、うん」

 

 急いで洛帝山にやってきたぞ。

 

「化け物が潜んでいる気配だね……気をつけて行こう」

 

「ああ」

 

「待っていろよケント」

 

 霧が体にまとわりつく。それを突っ切って行く。

 

「行こう。早くケント君を!」

 

 急いで山を登る。目指すは山頂だ。行き倒れがそこかしこにいるけれど、無視だ無視。魔物? 火魔法で火達磨&クライブの狙撃とハンフリーの大刀で片付けたよ。時間がないんだ。と、山頂に着いた。

 

「ケントだ!」

 

 ケント少年はそこで寝転がっていた。

 

「待った!」

 

 前を遮る。濃密な気配がする。空から大きな翼を持つ魔物、ハーピーが飛んで来た。ケント少年と僕らを隔てるような位置に。

 

「戦うぞ!」

 

 すると上空からキックしてくる敵。グレミオとフッチが狙われた。

 

「くっ」

 

「うぅっ」

 

「どうやら攻撃パターンは、足蹴りが主みたいだね。上空からの攻撃に気をつけるんだ!」 

 

 ハンフリーとグレミオが前衛。槍のフッチと弓矢のテッド、銃のクライブはそれぞれ適切な距離をとって戦う。僕は、

 

「――雷神!!!!」

 

 水と雷の合体魔法だ。味方を全回復して、敵単体に雷を落とす。これで弱った敵に、更に雷を落とす。いやぁ、上空にいるから雷を落としやすくて助かるな。

 

「――雷撃球!!」

 

 しばらく続いた戦闘だったが、ある程度の被害で倒せた。さて、水の紋章でパーティーを回復しよう。

 

「相っ変わらずお前の魔法攻撃は凶悪だなー」

 

 テッドのそんな声を聞きながらも、ケント君のところへ。

 

「勝てるんだからいいじゃない」

 

「フ、ッチ? 助けに来てくれたの、フッチ?」

 

「竜なんているわけないのに……どうしてあんな嘘の噂話を信じたんだ。馬鹿だな、ケント」

 

 ケント少年を助け起こして、フッチ。

 

「でもさぁ。もしかしたらってこともあるじゃない。それに、友達が竜騎士なら自慢できるから」

 

 少年というより子供だったか。危機意識が低いし甘い。

 

「それに、僕聞いたんだ! 噂の“竜の鳴き声”。本当だよ、嘘じゃないよ。だから走ってここまで来たんだ」

 

 でもここで、転んで足をひねっちゃった、と言うケント少年。おい。

 

「これ、ブラックの鱗。フッチが貸してくれたお守り。これに祈ったら霧も消えてくれてさ。やっぱり、この山と竜には何か関係が……」

 

 この子こりてない。

 

「わかったよ。わかったから戻ろう」

 

 とフッチ。

 

「駄目だよ!! 僕、竜の声を聞いたんだ。もの凄い羽ばたきと地面が割れそうな鳴き声!! この先さ。この先にきっと竜が……」

 

「そんなわけない!! こんな所に竜なんかいないよ!!!」

 

 頑なに拒むフッチ。やっぱり、まだブラックのことを思い続けているんだな。

 

「行くだけ、行ってみよう」

 

 ハンフリーがそう言うので、フッチも渋々という感じで少しだけ先に進む。すると巨大な卵がそこにあった。

 

「そんな……竜の卵は竜洞でしか……」

 

「でも見なよ。こんな卵、他にありっこないって。これでフッチも竜騎士だ」

 

「竜の、卵…………」

 

 複雑そうなフッチ。

 

「竜洞騎士団長ヨシュアが言っていたな……。この世界には竜洞以外で生まれる『はぐれ竜』がいると……クリスタルバレーの“一つの神殿”を目指して旅をしていたのも、その理由を調べる為だった。だが、こんな所で竜の卵と出くわすとはな」

 

 おお、珍しく長文を話すハンフリー。

 

「とにかく、竜が見つかったんだな。良かったじゃないかよフッチ」

 

 気楽に言うテッド。

 

「ほら、来なよフッチ。ここに新しいフッチの竜が……」

 

 フッチを呼ぶケント少年。だけど、

 

「違う!!!!」

 

 頑なに否定するフッチ。

 

「僕は……僕は、本当は……竜なんていらない……いらないんだ……ハンフリーさんも、ヨシュア様も、ティルも……ケントも……」

 

 涙を浮かべるフッチ。

 

「フッチ……」

 

 肩に手を置く。いたわるように。

 

「皆、僕が竜騎士に戻れるようにって、僕のことを想ってくれていたから……優しくしてくれてるのがわかったから……だから言えなかったんだ……。僕は、僕はブラック以外の竜に乗りたくなんかない……ブラック、以外の、竜なんて……」

 

 その時だ。ハンフリーが前に進み出て、剣を抜き、卵に向かって構えた。

 

「それでは、この卵とこの中に眠るものは必要ではないな。この剣にて、砕く」

 

 ハンフリー渾身の演技である。ホントは壊す気なんてないのに。優しい人だ。ヨシュアさんが彼にフッチを預けたのも頷ける。

 

「…………」

 

 僕は見守る。グレミオやテッドも静かにしている。フッチは息を呑んだ。

 

「なんでぇ! せっかく見つけたのに!」

 

「竜の子は、弱い生き物。母竜も、竜騎士もいなければ、弱って死ぬだけだ……」

 

 ハンフリーは剣を掲げる。

 

「それに、もし生き残ったら主のいない竜は人々に災いをもたらすかもしれないしね」

 

 それなりにフォローしてみる。

 

「だからって!! ねえフッチ!! 止めなよフッチ!! お兄さんも止めてよ!! せっかくの竜の卵なのに……!」

 

 ケント少年は純粋だなぁ。

 

「……待って下さいハンフリーさん!!」

 

 フッチが動いた。と、パキパキパキパキ、と音が鳴り、なんと卵が孵った。中からは白い、竜? なのか? という生き物が。かなり小さい。かつて乗ったブラックとは比べものにならないほど小さい。

 

「くぁあ」

 

 鳴く生き物。その生き物はフッチの目を、顔を見た。

 

「りゅ、竜ってこんなに小さいの!?」

 

「こんなに小さい竜は初めて見たな。それに白い竜というのも聞いたことがない」

 

「でも、竜には違いないんじゃないかい? 手を、とってあげないか? フッチ」

 

 震えるフッチ、その肩を少し押す。

 

「でも……僕はもう……」

 

「じゃあ、なんでさっきハンフリーを止めたんだい?」

 

「…………」

 

 沈黙するフッチに口を開くハンフリー。

 

「新しい竜を得ること。それは裏切りなどではない。ブラックの死を悲しむ心は尊い。その記憶も、忘れる必要などない」

 

 重みのある言葉。そこに付け足す。

 

「大事なのは。過去に囚われて未来を閉ざしてはいけないってことだよ。ここに新しい命が産まれた。それをただ祝福してあげることはできないかい?」

 

「…………僕は」

 

顔を上げて、生き物を見るフッチ。

 

「………………怖がることはないよ……大丈夫……今日から、君はブライトだ……おいで、ブライト……」

 

 フッチは、ブライトと名付けられた生き物を、そっと抱きしめるのだった。良かったね、フッチ。レパント大統領に頼んで、トラン共和国内ではぐれ竜がいたら知らせるように布告してもらったりしたけど、それもここでの出会いで報われた。別れは寂しい。永遠の別れである死は特に。だけど、暖かな出会いもある。心を満たす出会いが。きっと、フッチは大丈夫だよね。

 

 

     §

 

 

 ロックアックス城へ戻ってきた。玄関に飛び込むなり、マイクロトフさんはゴルドーを探す。広間で訓辞をしているというのですぐさま広間へ。と、その途中にカミューさんだ。

 

「戻ったのかマイクロトフ。無事で良かった」

 

「途中でリオウ殿が同行してくれたので、何とかな。それよりゴルドー様だ。どこにおられる? 王国軍はとんでもないことをしているのだ!!」

 

「まあ落ち着け。血気に盛るばかりが騎士ではあるまいよ」

 

「どうしても心を抑えられないのだ。どいてくれ、カミュー!」

 

 廊下を走って広間へと。広間には右側に青騎士、左に赤騎士が並んでいた。ゴルドーの話を聞いていたのだろう。さて、この男は動いてくれるのか――?

 

「ゴルドー様!」

 

「何事だ?」

 

 眉根を寄せるゴルドー。

 

「ゴルドー様、お願いであります。騎士団の全部隊、いえ、それが叶わぬなら我が青騎士団だけでもミューズへ出撃させて下さい!」

 

「何故そんなことをしなければならぬ? 王国軍は我々と戦うつもりがないのだぞ。それをこちらから……」

 

「我々と戦うつもりがなくとも! 王国軍はミューズで虐殺を行っているに違いありません! 俺はそれを見過ごすことはできないのです! 騎士の誇りにかけて!!」

 

「マイクロトフよ……。では貴様、王国軍が虐殺を行う現場をその目で見たというのだな?」

 

 マイクロトフさんが言葉に詰まる。それは、確かに現場は見ていないが……。

 

「現場を見たわけではありませんが、私達はミューズ市の城壁の外から、中で人々が苦しむ声を確かに聞いたのです。みな、死に追いやられるような苦しみもがく声でした。死した人も一人いたのです。間違いないかと」

 

 証言を添える。が、

 

「ふん、貴様はまだいたのか。貴様の言うことなど信用に値せん。我ら騎士団には我が領民を守る責任があるのだ。いたずらに外へ兵など出せるか」

 

 ゴルドーは横柄に言い返す。

 

「それでは、ゴルドー様はこのまま王国軍を放っておかれるつもりなのですか!?」

 

「黙れ、マイクロトフ!!」

 

 ゴルドーが玉座の肘掛を殴りつけ、激発する。

 

「マイクロトフ、貴様は先ほど言ったな。『騎士の誇り』と。貴様は騎士団長であるこのわしに忠誠を誓ったはずであろう? 貴様のそのエンブレムは、その証しだろうが。誓いを破るのが貴様の『騎士の誇り』か!?」

 

 マイクロトフさんは悔しげに「くっ」と呟き、拳を強く握りしめた。場に、沈黙が下りる。それを破るように俺は言った。

 

「マイクロトフさん、もういいです。ミューズのことは、俺とデュナン軍が対応します。王国軍は、必ず倒します。非道な行いも、必ず止めてみせます」

 

「リオウ殿……」

 

 マイクロトフさんは俺の顔を見て、目を(みは)ると、ゴルドー向き直って左胸のエンブレムに手をかけた。

 

「ゴルドー様……忠誠の誓いを破るのは、騎士として最大の罪。ですが、俺は、俺は!! 俺は騎士である前に人間だ!!! 命令のままに人を見殺しにするのが騎士なら、エンブレムなどいらない!! 俺は騎士でいたい、騎士の魂を持ち続けたい!! その為なら誓い破りの恥辱も甘んじて受けよう!!」

 

 そのままエンブレムを引きちぎり、床に叩きつけた。軽い音を立ててエンブレムが床に転がった。俺は心が高揚するのを感じていた。この人となら、共に――。

 

「貴様ぁ! 誓いを破るのか!!」

 

「マイクロトフ……」

 

 背後から声が響く。カミューさんだ。

 

「しょうがない奴だ。もう少し頭を冷やせ」

 

「カミュー。よいところに来た。マイクロトフを捕らえろ。牢にぶち込んでやれ!」

 

「ゴルドー様、私にはそれができかねます」

 

「何!?」

 

「こういうことですよ、ゴルドー様」

 

 カミューさんはそう言うと、胸に手をやりエンブレムを引きちぎった。この人も……。

 

「これで私も反逆騎士ということですね。貴方の命令を受ける身分ではなくなりました」

 

「貴様らぁ!!」

 

 ゴルドーは勢いよく立ち上がると、二人をねめつけた。

 

「みな! 何をしておるのだ! この二人を捕らえろぉ!!」

 

 叫ぶゴルドー。しかし、騎士達はその場から動かなかった。と思ったら、二人と同じようにエンブレムを床に投げ捨てた。

 

「マイクロトフ様、カミュー様。私はあなた方についていきます。どうか、共に戦わせて下さい」

 

 青騎士の一人がそう言う。すると赤騎士も続けて口を開く。

 

「私もです。もうこの方の下で働くのはごめんです」

 

「き、き、きさ、まらぁ。覚えておれよ!! すぐに捕らえてやる。そこを動くな!!」

 

 ゴルドーはそう言い捨てて広間を飛び出て行った。

 

「お前達……。お前達の気持ちは嬉しい。だが、俺には……」

 

「なに、心配はいらない」

 

 騎士達を見回して、カミューさんが言う。

 

「新しいエンブレムがあるじゃないか。深紅と白の美しいエンブレムさ」

 

「それって……」

 

 デュナン軍の旗の色?

 

「リオウ様、私とマイクロトフの二名。そして付き従う騎士達を、デュナン軍の末席にお加え下さい。騎士の名はなくとも、剣の技と心があります」

 

「リオウ殿、我ら、騎士の魂と技をもって、あなたにお仕え致します」

 

 マイクロトフさん達が、デュナン軍に……。

 

「もちろん喜んで! 一緒に戦いましょう!」

 

 団結することが力。いつか言った言葉だ。ジョウイ、都市同盟も捨てたもんじゃないぞ。こんなに熱い思いを抱いた人達がいるんだ。

 

 俺達とマイクロトフさんは一緒に広間から、城から抜け出した。カミューさんは「私はできるだけ多くの仲間を説得して連れて行きます」とのこと。多くの騎士が仲間になってくれるかもしれない。俺達は喜びの感情そのままに走り、来る時に通ってきた抜け道へと急いだ。

 

 俺達が森の入口に辿り着いた時、背後から騎馬隊が迫ってきた。

 

「来たか。カミューか、それともゴルドーが放った追っ手か……」

 

 マイクロトフさんが呟く。追っ手だとしたら厄介なことに……と思ったら、反対側、森の奥側からシュウさんの声が。

 

「シュウさん!?」

 

「リオウ殿、ご無事で何よりです。王国軍の動きを察知したので、手勢を率いてお迎えに参りました」

 

 さすがシュウさんだ。これで……。

 

「ゴルドーの追っ手が来たとしても戦えるぜ」

 

 意気込むビクトールさん。だが、来たのはカミューさんを筆頭とした騎士達だった。

 

「待たせたな。ふふ、私達が思った以上に、ゴルドーに不満を抱いていた騎士は多かったようだ」

 

 そう言ってカミューさんは笑った。本当だ。思ったよりも大勢の騎士が来てくれた。そこにはティルさん達の姿も――。俺達は、大勢の人を味方につけ、本拠地へと帰るのだった。そこには、確かに未来への展望と、皆の笑顔があった。

 

 

 

 現在の仲間、77人――。

(うち宿星でないティル、グレミオ、テッド、アナベル4人)

 

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