ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第18話 王国軍第三軍

「トラン共和国との同盟は無事結べたようですな。お疲れ様ですリオウ殿」

 

 シュウさんも心なしか笑顔だ。これでようやく対等に戦えるもんな。

 

「ロッカクの里で副頭領を務めるカスミと申します。レパント大統領の命により、共和国からの義勇兵を指揮します」

 

「トラン共和国六将軍が一人、烈火のバレリアだ。同じく兵を指揮する。よろしく頼む」

 

「頼りにしてるぜ二人共」

 

 ビクトールさんもかつての戦友が加わり嬉しそうだ。

 

「これで勝機が増えたね」

 

「油断はできませんよ。情報によると、第四軍が援軍に加わったという話です」

 

「次の相手は第三軍と第四軍の混成部隊か……」

 

 三万に増えた陣容だが、敵の総合兵力はそれを軽く上回るのだ。上手く各個撃破していかなければならない。

 

 王国軍がサウスウィンドゥ領に進軍して一週間が経った。サウスウィンドゥに進軍した狙いはどう考えてもデュナン城しかない。その為に戦の機運が高まったのである。俺達はその対応に大わらわになった。トゥーリバーに使者を出して防備を固めてもらい、なおかつ物資を送ってくれるよう要請した。

 

 カミューさん、マイクロトフさん、バレリアさんなどが兵の訓練を行う。王国軍の動きを逐次察知する為、斥候としてリドリー将軍配下のコボルト兵が動いた。激戦が予想されるので、救護班を結成し、ホウアン先生の元で応急処置の手ほどきを受ける。

 

 城の全ては戦に向けて動き出していた。その中で俺はずっと軍務を見ていた。しかし、俺は王国軍の軍団が何より気になっていた。この戦にジョウイは参加するのだろうか……。いや、クラウスの言葉を信じるならあいつは今皇都にいるはずだが……。

 

「リオウ」

 

 と、ナナミが部屋を訪れた。

 

「どうしたんだ?」

 

「これ、ビクトールさんが用意してくれた新しいトンファー」

 

 ああ、昔のはもうボロボロだったから、ビクトールさんがあつらえてくれたのだ。リーダーなんだからいい武器を持て、と言われて。

 

「リオウ……。私、ちょっと寂しい。私の知ってるリオウが、どんどん知らない人になっていくみたい……。このトンファーと同じように……」

 

 戦いの中で、変わっていく自分、か。意識はしていなかったが、確かに変わっているのかもしれないな。……ジョウイが、変わったように。

 

「変わらないものなんて、何もないのかもしれないな……」

 

 俺とジョウイの関係も変わった。今は敵同士だ。やるせない気持ちでいっぱいになる。そして、そんな俺を見て更に顔を陰らせるナナミ。こんな顔はして欲しくないのだが。

 

「リオウ殿、広間へ来て下さい。いよいよ戦です!」

 

 フリードさんが部屋に飛び込んできた。やれやれ、感慨にふける間もないな。

 

 

     §

 

 

 広間にはデュナン軍の主要なメンバーが顔を揃えていた。皆の顔は自然、厳しいものになっている。ついにこの時が来たのだ――そう思っていることを、表情が告げていた。リオウが到着したので、シュウが口を開く。

 

「王国軍第三軍が本格的に活動を始めたようだ。キバ将軍は近々こちらに進軍するつもりだと、斥候から報告があった」

 

 第三軍。トゥーリバーでの戦いは記憶に新しい。戦いの前には敵の兵数を削る策を用い、戦いの中にあっては統制のとれた指揮をしていた。手強い相手だ。

 

「シュウさん、キバ将軍達の強さは俺も知っている。だけど、ラダトは重要な街だ。できれば奪還したい。それにミューズでの虐殺も気になる。サウスウィンドゥから敵を叩き出してミューズへこちらが進軍したい。どうだろう?」

 

「ええ、リオウ殿。今の我々はこれまでのような脆弱な軍ではありません。トゥーリバーの協力、マチルダの騎士にトラン共和国の援軍。こちらの強さを王国軍は思い知ることになるでしょう」

 

 リオウが自分の希望を並べる。だいぶミューズの虐殺を気にしているようだな。それに答えるシュウだが、こちらもやる気だ。

 

「へへ、やる気に満ちてるねえ。命令さえありゃ、すぐにでも俺達が王国軍を蹴散らしてやるぜ」

 

 ビクトールが顎をさすりながらそう言う。

 

「油断はならんぞビクトール。まず、クスクスとサウスウィンドゥにも兵が存在する。そこを抑える。カミューとマイクロトフには、それぞれ部隊を率いてもらい、各街から援軍が出た場合に備える」

 

「喜んでその任務、受けさせて頂きます」

 

 マイクロトフは強く意気込んでいる。都市同盟を守る為の戦い。ようやく戦えることが嬉しいのだろう。

 

「先鋒は斥候部隊を率いているリドリー将軍にそのままお願いするつもりだ。彼らとは現地で合流する。残りの者はそれぞれ兵を整えるように。出発は明朝、相手の勢いをとどめ、後に繋げる為にも、この戦いは負けられぬぞ!」

 

「おお!」

 

 将達はそれぞれ応答の声を上げた。そして準備に入る。それじゃあ僕達も抜かりなく準備を始めることにしよう――。

 

 

     §

 

 

 翌朝、デュナン城の前にある草原で部隊を整えたデュナン軍。ラダトを奪還するべく大規模な野営を繰り返して軍を進めた。途中でクスクスに向かうカミューさん、サウスウィンドゥに向かうマイクロトフさんと別れてさらに東へ。デュナン軍も頼もしくなったものだ。最初は三千の兵しかいなかったのに、今や兵力は軽く万を超える。俺は後続の兵達を振り返る度に鳥肌が立ちそうになった。兵士はみな胸を張り、深紅と白に染めた無数の旗が風にたなびく。将の数も多く、ビクトールさん、ティルさん、ハウザーさん、バレリアさん、ペシュメルガさんの騎馬隊。ハンフリーさん、フリードさん、ハンナさん、ツァイさんの歩兵部隊。ローレライさんとスタリオンさん、そしてテレーズさんが指揮する弓兵部隊も続く。ルックさんの魔法部隊も。思いはみな同じ。ラダトを奪還するんだ。その意気が感じられた。

 

 進軍を開始して五日目の夕方、俺達はラダトを視界に収める位置に到着。キバ将軍は既にこちらの動きを読み取っていたのだろう。街手前の草原に本陣を張っていた。兵力は二万といったところだ。部隊は三つに分けられ、騎馬隊が先頭、両翼に副将と(おぼ)しき将軍達。左右後方の歩兵は旗の色が違うので、これが報告にあった第四軍だろう。

 

 シュウさんが声を上げる。

 

「立派な陣ですな。キバの武力にクラウスの策略。王国軍第三軍は決して侮れません。しかし、気がかりなことが。リドリー将軍の部隊が、どこにも見えないのです。我らと合流するように伝えた伝令はとっくに戻ってきているというのに……」

 

 リドリーさんがいない? どういうことだ? すると少しして、デュナン湖の方角にコボルトの集団が現れた。少なくはない兵数。だが、何故か彼らは動こうとしなかった。合流するのではなかったのか? するとどうだろう、部隊の中から数人の兵士を残すと、リドリーさんの部隊は草原の彼方へ消えてしまった。それを不審に思った兵士達が動揺する。まずい。何が起きているかわからないけど酷くまずい。

 

「おい、軍師さん! コボルト隊が消えちまったぞ! どういうこった!」

 

「彼らがいるといないのとでは大きな違いです。どういうことでしょう?」

 

 ビクトールさんが怒りながらシュウさんの所へやってきて、ツァイさん達将も首をひねりながら駆けつける。

 

「私にもわからん。とにかく、伝令が来ている。話を聞いてみよう」

 

 伝令に来たコボルト兵達が俺達の前に(ひざまず)く。

 

「リオウ殿、シュウ殿、将軍からの伝令だワン。申し上げます。リドリー将軍はえらいご立腹だったワン。『我らコボルトを斥候という危険な役目に任じたばかりか、さらに危険な先鋒を務めさせるとは、納得できない。このような戦いに参加して、我が同胞の命を危険にさらすつもりはない。やはり人間は信用できない――』と、そう(おっしゃ)っていたワン」

 

 愕然とした。リドリーさんが戦いを放棄した。トゥーリバーでの出来事が思い起こされる。コボルト族を守ろうとし、言葉が届かなかったリドリーさん。まさか、今になって――?

 

「奴ら、この期に及んで何を言ってやがる!」

 

 ビクトールさんが怒りだした。

 

「シュウ、どうする? もう王国軍は目の前だよ」

 

 ティルさんはさすがに冷静だが、表情には少しばかりの焦りが。

 

「トゥーリバーでの雪辱、今ここで晴らさせてもらおう!」

 

 その時、王国軍の陣頭に二人の男が姿を現した。キバ将軍とクラウスだ。こちらの不備を悟られてしまったか。キバ将軍は手に持った剣を振り落ろした。それによって王国軍第三軍が動きだす――!

 

「シュウさん! これじゃあ!」

 

 心が焦りながらも、言葉を押し出すが、

 

「退却しましょう。ここで無駄に兵を失うわけにはいきません」

 

「なんだと!? ここまで来て逃げるってのかよ! 当てにならねえリドリーなんざほっとけ、俺達だけでも戦えるぜ!」

 

 シュウさんは退却を選んだ。それにビクトールさんが噛みつく。しかし重ねて命令が下される。

 

「……もう一度言うぞ。退却だ。しんがりはティル。君に任せる。敵のクラウスは知恵者だが、それが彼の欠点でもある。後ろを見せても伏兵ありと見て深追いはしないはずだ」

 

「やれやれ、こういう時重責を背負わされるときついね。だがやってみせるよ」

 

 軽く言って、ティルさんは馬を返した。

 

「全軍退却! 退却だぁ!」

 

 俺はリーダーとして、屈辱の命令を下した。

 

 

     §

 

 

 ラダトから部隊を退いた俺達は、日の落ちた草原をデュナン城に向けて進んでいた。部隊が全て反転した後にキバ将軍が突撃してきたが、ティルさんはよく敵の攻撃を跳ね返してくれた。その戦いぶりはさすがという他なく、被害は最小限に抑えられた。シュウさんの言った通り、その後の追撃はなく、やがてティルさんの部隊は追いついてきて、同時にカミューさんとマイクロトフさんの二隊も合流した。敗戦である。みなに城を出た時の勢いはなくなり、一番肝心な士気がなくなってしまった。皆で気持ちと力を合わせる。それが俺達の強みだが、同時に欠点でもあるのだと思い知らされた。

 

 だが、このまま王国軍の進軍を許しては、デュナン城が危険にさらされる。次の決戦、文字通りの血戦となるであろう戦いに向けて、俺達は体を休めた。

 

 翌朝、疲れが残った体で身支度を整えた俺は、天幕に向かった。他の将は既に結集していた。いけない、俺が最後か。

 

「さすが、リオウは肝が据わっているね。ぐっすり眠れるとは器が大きい証拠だよ」

 

「す、すみません」

 

 遅れてしまったが、みなは俺を責めなかった。そして不思議なことに、昨日は散々だったみなの気持ちは、今朝はすっきりとしているように感じた。

 

「皆どうしたんです? やけに張り切っているというか……」

 

「当然さ。このまま引き下がることなどできやしないよ」

 

 バレリアさんが微笑む。

 

「シュウ殿はこの場で敵を迎え撃つと仰って下さった。我が心にも力が入ろうというものです!」

 

 マイクロトフさんは意気込む。

 

「士気は失われていないようだな。では策を発表する」

 

「俺にとっては戦があれば本気で望む。それだけだ」

 

 ハウザーさんも高い士気を保っている。そしてシュウさんがみなの顔を見回す。

 

「我々はこの街道の左右にある森、これを利用する。街道は三叉路になっているからな、キバ将軍は左の道から進んでくるだろう。彼らが勇んで来たところを伏兵で叩く」

 

「森に誘いこむのですね」

 

 頷きながら、フリードさん。

 

「そうだ。少々危険だが、部隊の半数をリオウ殿の率いる本隊とし、街道の中央に配置する。キバ将軍は本隊に向かってくるだろう。そこを街道の左右に分けた残り半数で挟み撃ちにするのだ」

 

「ふむ。しかし確かに危険ですね。リドリー殿が抜けてしまった今、我々の兵力は王国軍に劣ります。リオウ殿の本隊が敵を支えられなければ……」

 

 カミューさんが危惧を口にする。そこは俺達が頑張るしかないな。

 

「私に任せてくれ。キバ親子では、我が策は破れぬよ」

 

 自信たっぷりに答えるシュウさん。そうだ、俺は軍師の頭に任せるしかないのだ。信じよう。

 

「……軍師殿に従おう」

 

 と、ハンフリーさん。

 

「よし、では後ほど細かい指示はアップルから各部隊に伝達させる。この一戦、敗北すれば次に戦うのはデュナン城となってしまう。各員奮起せよ!」

 

「おう!!」

 

 みなが声を合わせる。だけど少し寂しかった。ここにリドリーさんがいないことが残念だったのだ。共に勝利の喜びを分かち合えたら、あの頑ななリドリーさんだって笑ってくれただろうに。

 

 いけないな、俺は気を引き締めなおすと、戦の準備に入った。俺の本隊は全軍の半数を統括するのだ。気持ちを切り替えよう。

 

 昼になった頃には、全ての準備は整っていた。俺達は軍師二人に指示された通りに部隊を置いた。俺と共にハンフリーさん、ツァイさんの遊撃隊が三叉路に陣取る。背後にハウザーさんが元ミューズ兵を率いて後詰めに。左手に延びる街道――キバ将軍が現れるであろう道だ――の脇にある森には、ビクトールさん、カミューさん、ハンナさん、フリードさん、ローレライさんの五将が身を潜めている。ティルさん、バレリアさん、マイクロトフさん、スタリオンさん、ルックさんの五将は、俺達の背後、森の右手にいる。キバ将軍が現れたら、後退しながらそこに誘いこむのだ。

 

 俺達は果たして勝てるだろうか。手綱を握る手にもじっとりと汗をかいてきた。軍師のクラウスはかなりの策士だ。伏兵に気づかれたら苦しい戦いとなるだろう。

 

 やがて、街道にキバ将軍の部隊がその威容を見せた。ラダトと同じく部隊を三つに分けている。先頭にキバ将軍、両翼に副将という配置だ。あと五百歩ほどの距離という所で部隊を止めると、遠方からこちらを見やる。そして剣が抜かれた。

 

「デュナン軍のリーダー、リオウよ!! わざわざ我らを迎えるとはご苦労なことだ。だが、そんな仲間割れなどしている軍で我らに勝てると思い込むとは、舐められたものだな!!」

 

 負けてたまるか――。そんな思いで叫び返す。

 

「都市同盟の地を踏みにじる王国軍よ! 我らは決してそれを許さない! このリオウが相手だ!! 恐れなければかかってくるがいい!!」

 

 背後にいる兵士が沸き立った。俺も覚悟が決まる。戦うのだ。どこまでも、皆と一緒だ。生も死も、共に――。それが俺達の強さだ! 負けるものか!

 

「来い、キバ将軍!! 貴方の振るう剣を、俺の力で叩き折ってやる!!」

 

「よく言った!! では、貴様の力で止めてみせよ!!」

 

 叫ぶと同時にキバ将軍は進撃を命じた。ついに王国軍第三軍との激突が始まる。王国軍の(ひづめ)の音が迫る。シュウさんが部下に指示をだして銅鑼(どら)を叩き鳴らす。そして本隊の横からハンフリーさんとツァイさんの部隊が走り出す。

 

「……ここは通さん」

 

「リオウ殿、必ずお守りいたす!」

 

 大刀と槍を振りかざして二人が激を飛ばす。しかし二隊がキバ将軍の部隊をぶつかり合う時、軍の中でクラウスが指示を出した。キバ将軍の部隊が更に三つに分かれ、左右の二隊がハンフリーさんとツァイさんを止める。

 

 混戦状態となった敵と味方の二隊。それを尻目に、キバ将軍がもの凄い勢いで中央突破してきた。その勢いに負けじとシュウさんが指示を出す。銅鑼の音で左の森からビクトールさん達が攻め入る。

 

「王国軍をぶっ潰せえ!!」

 

 王国軍の横腹に突っ込む。だがクラウスはそれを見やると、右翼についていた副将を動かす。右翼が方向を変えてビクトールさん達と剣を交える。伏兵が出ても王国軍に動揺は見られない。恐らく想定していたということだろう。そしてもう一人の副将が支配する右翼は無傷のまま、俺達のいる場所へと向かってくる。

 

「作戦通りに引きます。ティル達の所まで退くのです」

 

「わかった!!」

 

 俺はシュウさんの指示通りに兵を動かした。

 

「くそっ!」

 

 どうしたらこの獣の如き勢いをもつ王国軍を止められるんだ――? 部隊を退かせながら、混乱する戦場の中、俺は考えていた。俺達は手はず通りに右の森から伏兵を動かし、挟み撃ちにするつもりだった。だが、またもやクラウスだ。彼は左翼の副将に指示を送り、すかさずティルさん達を止めてしまった。街道周辺はすっかり混戦模様となった。しかも、無傷のままでいるキバ将軍の小隊が、しつこく俺を狙ってきている。

 

「シュウさん! このままじゃあ!」

 

 叫ぶ。だがそれに、

 

「もうまもなくです……リオウ殿」

 

 シュウさんは冷静に返した。その時だった。戦局に大きな変化が起こった。右の街道、王国軍の背後から一隊が押し寄せて攻撃を開始したのだ。

 

「あ、あれは……まさか!?」

 

 それは戦いから退いたはずのコボルト部隊だった。

 

「リドリーさん!?」

 

 だが、何故――?

 

「私の策です。伏兵はクラウスに読まれました。しかし別働隊なら読まれる心配はありません」

 

 そう、か。そういうことか。敵を欺くにはまず味方から。シュウさんは味方すら欺きリドリーさんにだけこの策を伝えていたのだろう。皆に本気でリドリーさんは退いたと思わせた。その動揺は敵に伝わる。キバ将軍とクラウスを陥れる為に、こうしたのだ。全ての策はなった。リドリーさんの離反も、ラダトからの退却も、全ては今この時の為に。

 

「シュウさん! 俺も!」

 

 俺と親衛隊を中核とした部隊、そして後詰めのハウザーさんとテレーズさんも動かし、敵を完全に潰す! 今が勝機だ。

 

「わかりました。ですがリオウ殿、決して無理はなさらないよう」

 

「わかっている。俺は負けないよ!」

 

「――総攻撃だ!!!!」

 

 シュウさんが総攻撃を叫び、合図が飛ぶ。俺は一気に馬を走らせて、キバ将軍の元へと駆ける――!

 

「キバ将軍! 勝負!」

 

「貴様なぞに、このわしが倒せるかぁっ!」

 

 がつっと音を響かせて、俺のトンファーと将軍の剣がぶつかり合う。(きらめ)く剣閃。だがそれを両手で捌く。

 

「やるな、小僧!!」

 

 キバ将軍と撃ち合うこと十数合。トンファーには何度も衝撃が走る。だがこいつなら耐えられる! 俺は骨も砕けよとばかりに腕を振るった。

 

「何故そこまで戦う!」

 

 何故? それは、その答えは。

 

「守りたいものがあるからだ! この魂に誓ったんだ! この地に平和を――!!」

 

 たとえ道が分かれても、誓いは胸に。皆の為にも負けられない!

 

「おおおおっ!!!」

 

「わしとて守るものがある。負けんぞっ!!」

 

 キバ将軍が横腹を狙って一撃を繰り出す。それを左のトンファーで止め、右で将軍の側面を狙う。そうして戦っている時だ。

 

「父上、父上!」

 

 クラウスが馬を走らせてきた。まさか敵が。

 

「どうしたクラウス、何があった!」

 

 戦いの手はそのままに、問いかけるキバ将軍。

 

「だ、第四軍が、退却したのです!! 我々を見捨てて、クスクスへ……!」

 

 その言葉は俺と将軍に驚愕を、そして両軍に決定打を届けた。

 

 激しい戦いは、あっけなく幕切れとなった。第四軍の退却が伝わった第三軍の兵士は崩れ、デュナン軍が完全に勢いで押し、勝利は決定的なものとなった。それでもキバ将軍は俺に向かってきたが、兵の波に飲まれた。

 

 やがてデュナン軍が歓声に沸いた。中心にいるのはリドリーさんだ。味方に疑われても、部下に非難の目で見られても、何も言わずにシュウさんの策に従って、この勝利の立役者となったのだ。

 

「リドリーさん!」

 

「おお、リオウ殿! 此度の勝利、おめでとうございます」

 

「リドリーさんが働いてくれたおかげですよ」

 

 リドリーさんがその言葉にかかと笑うと、周囲は笑い声に溢れた。しかし俺には気にかかることがあった。

 

「シュウさん、どうして第四軍は退却したんだろう。これではまるでキバ将軍を……」

 

「ええ。王国軍にはどうやら複数の思惑があるようです」

 

 そうして話していると、捕らわれたキバ将軍とクラウスが到着した。何でも、シュウさんの指示だとか。もしかして……。

 

「うぬぅ! 捕らわれるなど、武人として最大の恥辱! 早くこの首を落とせ! 我は誇り高きハイランドの将、キバなるぞ! 一時たりともこのようなみっともない姿でいられるものか! さあ、殺せ! デュナン軍に情けはないのか!」

 

 俺は二人に近寄ると、部下に命じて縄を解かせた。

 

「リオウ……どうするの?」

 

 不安そうに言うナナミ。

 

「ふっ、リオウよ。このキバの負けだ。この上は(いさぎよ)く首を落としていただこう」

 

 そう言われるが、俺にその気はなかった。戦争でなら人も殺そう。だけど、戦が終わったのなら、捕虜にしたりするだけだ。殺しはしない。俺達はルカじゃない。あんな風に民間人すら虐殺する暴虐の男とは違うのだ。どっかりとその場に腰を下ろすキバ将軍。クラウスも膝をついた。

 

「キバ将軍。今日の敗戦はあなた方の責ではないはずです。王国軍第四軍が撤退したから……」

 

「それも天命です」

 

 クラウスは言う。

 

「我らは本来ならば、援軍が来なくとも勝たなければならなかったのです。第四軍の動きは問題ではありません」

 

 あくまで負けたのは自分達に責任がある、と。俺はこの二人の首を切る気にはなれなかった。そのうち、俺の心には別の思惑が浮かんだ、この二人とも、友誼を結べないだろうか? 力を、合わせられないだろうか?

 

 ――と。

 

「リオウ殿、シュウ殿!」

 

 衛兵が兵士をかきわけてやって来た。

 

「どうした。何が」

 

 尋ねると、

 

「それが、王国軍から書状が届いたのです。今読み上げます」

 

 兵士は書状を読む。

 

「デュナン軍の勇士達へ――。ハイランド王国皇王ルカ・ブライト様が、貴軍の戦いぶりに大いなる称賛を送っておられる。皇王共々、私も次の戦いを楽しみにしている。と書かれております」

 

 場が静まりかえった。俺達はみな知っている。今の皇王はアガレス・ブライトだ。それなのにルカ・ブライトが皇王を名乗った。それはつまり……、

 

「兵士よ……。間違いではないのか? ルカが皇王など、そんな馬鹿なことが!!」

 

「いや、確かにそう記されている」

 

 シュウさんが書状を取り上げて目を走らせた。

 

「送り主……王国軍第四軍軍師、レオン・シルバーバーグ……。レオン、あの男が……」

 

 シュウさんはそう呟くと、クラウスに体を向けた。

 

「クラウス。この書状、お前ならどう読む?」

 

 クラウスは唇を噛み締め、(うつむ)き、顔を青ざめさせた。

 

「くっ……。アガレス様は、暗殺されました」

 

「何!? クラウス、滅多なことを言うな!」

 

「いえ、父上、間違いありません。ルカはアガレス様を暗殺し、同時にアガレス様へ深い忠誠を誓っている我らを疎み、サウスウィンドゥに派遣してデュナン軍と戦わせて葬ろうと……。そして暗殺後に皇王に。それしか、考えられません」

 

「……ルカが、皇王に――!」

 

 場が驚愕に包まれる。みな奴の脅威を感じ取った顔だ。

 

「ぬううう! ルカめえええ!!」

 

 凄まじい形相で奥歯をギリギリと噛みしめるキバ将軍。俺は二人の前に跪いた。

 

「キバ将軍、クラウス殿。今のハイランド王国は、もう昔の誇りあるハイランド王国ではなくなっているのでしょう。皇王アガレスが暗殺され、ルカが王座についた今、ハイランドは中も外も大きく荒れた国となるでしょう。それでも、あなた方はハイランドに尽くすおつもりですか?」

 

 シュウさんも重ねて二人に言葉をかける。

 

「ルカ・ブライトの望み、それは王国の繁栄などではなく、ただただ都市同盟を攻めること。都市同盟にいる市民全ての命を奪うことです。彼の野望は都市同盟だけでなく、ハイランドも食いつぶすことになりましょう」

 

「将軍、クラウス殿。我らに力を貸して下さい。私はあなた方と共に戦いたい」

 

 俺は二人に降伏を勧めた。そして――。

 







後書き
 書いている時は勢いで書いていましたが、この辺りが最も盛り上がるところかもしれないですね。この辺りの戦いが終わったら色々と……転げ落ちていきますから。
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