ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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前書き
 事前に注意しておきます。何度もしつこいですが、念には念を入れて最後の注意です。このSSは多くの人が喜ぶような結末にはなりません。完全無欠のハッピーエンドしか認めない人は読まれない方がよろしいでしょう。






第一章 裏切りの祖国
第1話 ハイランド王国軍ユニコーン少年兵部隊


 俺――リオウがハイランド王国軍ユニコーン少年兵部隊に入隊してから、二年が経っていた。敵国、ジョウストン都市同盟との戦は激しくなり、重要な任務も任されるようになった。戦争が始まったのは入隊して半年後。それから一年半、戦争が続いていた。俺達がいるこの天山(てんざん)の峠は、戦略上重要な拠点だ。キャロの街と皇都ルルノイエを結ぶただ一本の道。もしここが敵に奪われれば、キャロの街は孤立する。俺達の故郷であるキャロを守りたい、その為に俺達は働いていた。未熟な少年兵部隊にここを任せていたのは、都市同盟からは断崖の渓谷を越えてこなければ来られない場所なのだ。だから未熟な少年兵でも防衛できるだろう、という意向だった。

 

 ちなみに都市同盟とは、五つの市国と一つの騎士団領からなる、同盟国だ。国の中央にデュナン湖という巨大な湖がある。その湖がある為、各市国は離れ、移動に難があり、足並みは乱れがちと言う話だ。絶対的な君主、皇王が治める俺達のハイランド王国とはかなり違った国家である。都市同盟については、軍人である為最低限の知識は叩き込まれている。だが大体の兵士にとってはただの敵国だ。

 

 そして、峠に駐屯して約半年が経ったある日、吉報が舞い込んだ。両国が休戦協定を結んだという話だった。知らせを聞いた部隊の皆は喜んでいたな。そして数日が経った夜、テントの中では明日のキャロへの帰還に備えて、みなが楽しげに荷造りを行っていた。俺も少しは心が高揚している。義姉のナナミがいるキャロに帰れるから。

 

「リオウ、気が早いね。もう着替えたのか」

 

 テントの入口から入ってきたのはジョウイ・アトレイド。俺の親友だ。同じキャロの街で育ち、俺と同じように軍へ入隊した。キャロの街では有名な地方豪族、アトレイド家の長男。歳は一つ上だが、俺達は妙に馬が合い、同じ街で育つ中、とても仲良くなった。子供の頃、俺をいじめる街の子供達に立ち向かってくれたりした。情に厚い性格だ。姉のナナミに冷たいと言われる自分とは正反対だな。俺を育ててくれたゲンカク――血の繋がりがない養父(祖父)だ――によって、武術を教え込まれ、二人共に腕を競い合ったりもした。そのゲンカク爺さんは二年半前に既に亡くなっている。

 

 軍隊に入隊したのはそれが理由だ。爺さんが亡くなってからは収入のあてがなくなった。ユニコーン隊に入れば、賃金が出るという話だからそうした。武術を習っていただけの自分にできることなんて戦うことだけだったから。そして――。

 

「君が行くなら僕も行く。兵舎に志願届けを出したんだ。だから、僕も君と一緒に入隊する」

 

 長男のくせに、家には弟がいるから、と言ってジョウイは自分に付き合った。優しい性格だとは思っていたが、この行動はさすがに予想外だった。

 

「リオウ、一緒に頑張ろう。ナナミとキャロの為に……」

 

 やれやれ、これで戦の中で命を落とす訳にはいかなくなったな、と思った。もちろん自分の命は最上級に大事だが、ジョウイのことも大切だ。彼と一緒に生き延びる、その気持ちが生まれた。そして今、街に帰還しようとしている俺達だ。俺は早々に軍服を脱いでしまっていた。バレなければいいんだよ。バレなければ。大体ジョウイや他の奴も着替えているからな。

 

「ジョウイだってその気だろう」

 

「そりゃあそうさ。キャロに戻れると思ったら、軍服なんて着ちゃいられない」

 

 青いシャツ、背中で束ねた亜麻色の髪。逞しく育った体は、武術を扱う者特有の気配を発している。

 

「ナナミも君を待ってるだろうね。君が帰ってくるのを」

 

「あのうるさい姉はこれぐらい離れているのが丁度いいんだ」

 

「ははは」

 

 少しばかり苦い顔をした自分に笑いを向けるジョウイ。姉はまさに自分とは正反対の明るく人懐こい性格をしているのだ。時にその過保護なまで愛情がわずらわしくなる時もある。少し離れて思うくらいが丁度いい姉だ。……こんな風に思うから自分は冷たいと言われるのだろう。そんな俺に付き合うジョウイやナナミは優しすぎるくらいに優しい。何故自分に構うのか。

 

「あまりそう言うものじゃないさ。ゲンカク師匠が亡くなってからは、君だけが唯一の家族なんだから」

 

「わかっているつもりだ」

 

 自分だとてジョウイ相手でなければ、表情も言葉も崩したりはしない。ちなみに俺達家族三人には血の繋がりはない。ゲンカク爺さんが俺とナナミをそれぞれ別に引き取って養子にしたのだ。

 

「それはそうと、ジョウイ。そろそろ床についたらどうだ。明日の出立がいつになるかは知らないけど、早く寝た方がいい」

 

「そうだね」

 

そうして夜の帳の中で目をつぶる。……しかし、休戦協定か。急な話だったな。まあ前線の兵士である自分達に、そんな情報なんて早々と知らされるわけもないが。そんなことを考えながら眠りについた。

 

 

     §

 

 

 それは、一切の前触れなどなく、やってきた。

 

「敵襲! 敵襲だ! 都市同盟が攻めてきたぞ!」

 

「まさか!? 休戦協定が結ばれたってのに!?」

 

「囲まれたぞ! 東の森に、がぁっ」

 

「何かの間違いだ。きっと。絶対。だって、そうじゃなきゃ――」

 

 俺は闇の中、ばさりとベッドの毛布を払った。

 

「ジョウイ!」

 

「リオウ!」

 

 お互いを呼ぶ。

 

「敵襲だって!? 都市同盟との休戦協定は……」

 

「考えるのは後だ。今は現実に対処するのが先」

 

 素早くジョウイの疑問を封殺し、動く。

 

「とにかく指示を仰ごう。ラウド隊長の(もと)へ」

 

 テントを出ると丁度ラウド隊長がいた。丁寧に油で髪を撫でつけた軽薄そうな優男。仲間の噂では、剣術を頼りに地方から皇都へ仕官に来たらしい。だけど本人の思惑とは裏腹に、出世の見込みがない少年兵部隊の隊長を任命され、たいそう腐っているということだった。特に少年兵が自分の言うことを聞かないと、かんしゃくを起こすのだ。あまり良い上官ではなかった。しかし指示は仰がねばならない。

 

「ラウド隊長、これは一体?」

 

 既に周囲のテントは全てに火がかけられている。火矢か。焼き殺すつもりなのだろう。都市同盟め。

 

「都市同盟の奴らの奇襲だろう! 協定破りで攻めてきたんだ。ここは囲まれている。お前らは東の森から一目散に逃げろ。山道を通れば助かるはずだ! 早く行け!」

 

 どうやら隊長として部下を全員逃がすまで逃げないつもりらしい。これは少し彼をみくびっていたようだ。

 

「逃げるぞジョウイ」

 

 自分に付き合ってくれたジョウイを死なせるわけにはいかない。何をしても――。俺はジョウイの肩を叩いて走り出した。

 

 道を走る。仲間達がそこかしこに倒れているのが目につく。

 

「リオウ!」

 

「今は自分達が逃げるだけで精一杯だ! 構うな!」

 

 冷たいようだが自分を優先させる。悪いが自分の面倒は自分で見てくれ。胸の疼きを無視してひたすらに森へ向かう。と、

 

(待て……よ)

 

 ざざざざっと土を踏みしめて止まる。

 

「どうしたんだいリオウ!?」

 

「……おかしい、東の森から逃げるしかない。それは敵だって知っているはずだ」

 

「――! なるほど、確かにおかしい」

 

「敵はこの先で待ち伏せしている可能性がある。戻るぞジョウイ。このことをラウド隊長に報告だ」

 

 伏兵がいるなら他の仲間達にも知らせてやらないと。

 

 だが、自分のその考えは無駄になった。戻る道すがら、少年兵達はみな死んでいたからだ。

 

「あ……」

 

「…………」

 

 仲間は、少年兵は、全て骸と化していた。血溜まりがあちこちにあって血生臭い。

 

 くそ。仲間が死んだ。少し間違えば自分もジョウイも死ぬ。くそ、くそくそ。何とかジョウイを生かす。一緒に生きるんだ。そう思いながらも走る。隊長を探す、と。

 

「……っかり手はず通りです。ルカ様。奴らは何も知らないまま森へと逃げ込み伏兵のえじきかと」

 

「――!!」

 

 その声に、自分の心臓がひょいと跳ねた。伏兵のえじきに? 何故兵が死んだことを、この声の主――ラウド隊長はいいことのように報告してやがるんだ? まさか、隊長は都市同盟と内通していた?

 

「ジョウイ、隠れろ」

 

 ジョウイの身を抑えてテントの影に隠れ潜む。あれは……。

 

「ふはははは!! 都市同盟の協定破りによって死んだ犠牲者というわけだな」

 

 そこにいたのは背が高く体格も良い、黒髪に秀麗な白い顔をした男だった。真っ白で頑丈な鎧に青いマントを羽織っている。あまりにも美しいその顔が、火に照らされて赤く染まっていた。そしてその背後には軍服を纏った兵士が数十名はいる。

 

「俺も剣を振るえば良かったな。しばらくあのジジイにかかりきりだったから、腕がなまって仕方がない」

 

「……え、ええ。いやぁ、ルカ様が剣を振るっても物足りなかったでしょう。少年兵相手では」

 

 馬鹿な――。その時思考が止まりかけた。

 

「ルカ……だって? 確か皇子がそんな名前だったはずだ。あの男が皇子なら、ここを襲ったのは都市同盟ではなくハイランド王国軍ということに……」

 

 呆然としかけた自分の呟きがジョウイにも聞こえたのだろう。信じられないような顔をしていた。現在の皇王アガレス・ブライト。その息子の名が確かルカ・ブライトだった、はず。

 

「休戦協定なぞくだらん。都市同盟のクズごとき、恐るるに足りん。そのことを証明してくれるわ! 皆殺しだ!」

 

 都市同盟をクズ呼ばわり、やはりハイランド側の人間だ。隊長、いや裏切り者のゲス、ラウドは「ルカ様の下ハイランド王国は栄光を手に入れることになりますよ」などと太鼓持ちのようなことを言ってやがった。死ねあの野郎。

 

「逃げるぞジョウイ」

 

 俺達はその場から北の方向に走った。死んだ仲間達には悪いが、生き延びさせてもらう。ことにジョウイを死なせるわけにはいかない。自分に付き合ってくれた心優しい友人には。

 

「あっ! 貴様ら……」

 

 ラウ……いや、ゲスがこちらに気づいたようだが知ったことではない。ひたすらに逃げるのみ。北の崖を登って……と北端に辿り着いたが、そこには絶望しかなかった。ルルノイエに通じるはずの道は、倒木と土砂で完全に塞がれていた。おまけにその前には凶刃に倒れたと(おぼ)しき少年兵達の骸が。

 

「くそがっ!」

 

 地面を蹴りつける。

 

「だ、大丈夫かリオウ。しかしラウド隊長は何故……」

 

 渓谷に面した断崖だ。左側には轟音を立てる滝が流れている。俺は、決断した。

 

「……行くしかない、か。ジョウイ、この滝に飛び込もう。他に生き残る可能性はない」

 

 ゲスのそばにいた王国兵は二十名を超えていた。見つかったら即殺(そくさつ)されるだろう。

 

「で、でもリオウ……」

 

「他に方法はない」

 

 俺は決断した。後はジョウイが納得するかどうかだ。

 

「早くしてくれ。決断できないなら俺だけでも飛び込むぞ」

 

「……わかった」

 

 するとジョウイは短剣を懐から取り出すと、近くにあった大きな岩に印を付けた。一筋の傷がついた岩。

 

「もし、僕らが生き延びて、でも離ればなれになってしまったら……。その時は、ここに戻ってくることにしよう」

 

「わかった。再会の約束だな。ジョウイ」

 

 俺はジョウイから短剣を受け取ると、斜めに交差する形、つまり×印に傷をつけた。

 

「ああ、ここで再会するんだ」

 

「行こう、ジョウイ」

 

 そして、俺達は滝に飛び込んだ――。

 

 

     §

 

 

「おーい。いい加減目を覚ませよ。もう一回流しちまうか」

 

 その声と周囲に響く水音で、俺は目を覚ました。少しずつ脳裏に駐屯地で起きたことが思い起こされる。テントを焦がす炎、炎の合間で血溜まりの中に沈む仲間達。自分とジョウイを流す多量の水。

 

 そうだ、俺はジョウイと一緒に天山の滝に飛び込んだんだ。しかし長い間水につかっていたからか、体は冷え切って思うように動かない。

 

「くぅ……」

 

 ジョウイ、ジョウイはどうなった。あいつは――。

 

 濡れた岩に手をついて、体を起こした。

 

「がはっ、くっ、ふぅっ」

 

 水を吐く。ごろっと岩ではなく草の上に転がる。苦しい。くそ、それもこれもあのルカとかいう奴とゲスのせいだ。まあいい。助かったのにいつまでもあいつらのことなんて考えていてもしょうがない。復讐なんて馬鹿らしいしな。

 

「おう、やっと気づいたか。お前、名前は?」

 

「………………」

 

 近くに何故かたき火があった。この声の主が炊いたのか? 名前を名乗るべきだろうか? 考えをまとめる為の時間稼ぎをしようと、水にむせて喋れないフリをする。

 

「まだ苦しいか?」

 

 ぽん、と背中をさすられる。何とか水に濡れた目を見開く。そこには、革のブーツに黒いズボン。革のベストを着けた筋骨隆々の胸板。ぼっさぼさという表現が似合う黒髪に、無精髭。そして腰に()げた大剣。傭兵だろうか? だとしたら所属を知られるのはまずい。と、タオルがばさっと被せられた。これで体を拭けということだろう。ごしごしと髪を乾かしながら言う。

 

「名前は……リオウです」

 

「やぁっと喋れるようになったか。なんだってこんな川に? 急流だってのに、足でも滑らせたか?」

 

「そんなところです」

 

 適当に答える。だが、

 

「ジョウイ……ジョウイはどこですか。俺と一緒に流された友達いるはず……」

 

「お前の友達か。一緒に流されてきた青いシャツの奴なら、流れが速すぎてお前を引き上げるだけで精一杯だった。一応俺の相棒が追いかけちゃあいるが……な」

 

「くっ」

 

 何とか体に力を入れて立ち上がる。

 

「無茶するなよ。まだ唇が紫色じゃねえか」

 

 俺だけが助かったって意味がないのだ。助かったことは素直に嬉しいが、ジョウイが行方不明なんて……。

 

「ばーか。そんなふらふらした状態で足場の悪いここを歩いてみろ、まーた川に落ちちまうぞ」

 

 それもその通りだ。仕方なく相手に従う。

 

「あの、貴方のお名前は?」

 

 俺にだけ名乗らせてそちらは名乗らないとはいい性格をしているじゃないか。

 

「俺? 俺は傭兵をしているビクトールってんだ」

 

 傭兵。まずい、ここがどこだかわからないのが最高にまずい。都市同盟なら敵国だ。ハイランド王国…………いや、俺達はハイランド王国に襲撃されたんだ。どっちにしろまずい……いや、正規兵でない傭兵なら問題ないか。ここは正直に話すべきか……。

 

 ビクトールという大男は値踏みをするようにこちらを見ている。思考をまとめよう。この男は傭兵。ハイランド側の傭兵なら都市同盟に急襲されたと言ってしまおう。そして都市同盟側の傭兵なら、…………どうする? 話すか? でも「自分は都市同盟の人間です」なんて嘘をついて、所属を聞かれたり照会されたりしたら終わりだ。……正直に話すことと、嘘をつくこと、それぞれの利点を考えて……不利益が出るのは……うぅむ。ここは……やはり……。

 

「俺は、ハイランドの人間です。都市同盟が急に攻めてきて……でも」

 

「うん? お前ハイランドの人間なのか? しかも都市同盟が攻めた……? 何を言ってるんだ? 休戦協定が結ばれたばかりだぜ。都市同盟が動くなんざ……」

 

 この言い草、都市同盟の人間だな。なら、正直に話す。その方がいい。利点がある。せいぜい都市同盟に協力的な態度をとることとしよう。それにこの男は川に流れている子供を救出しようとする人間だ。ある程度の善性は持ち合わせているだろう。ならすぐに首を切られることもあるまい。……甘い見通しだろうか?

 

「はい。ハイランド王国軍ユニコーン少年兵部隊の一人、リオウです。ただ、ユニコーン部隊は壊滅しました。皆殺しにされたんです。そして、俺はそこから逃げてきた」

 

「………………………………んんんん゛ん゛? ど、どういうこった?」

 

 ビクトールさんは混乱している。しばらく煩悶していた彼だったが、少しして落ち着くと、

 

「と、とりあえず、ハイランドの軍人なんだな。なら俺達の敵ってこった。ジョウストン都市同盟に味方している傭兵隊の隊長をやってるんだ。すまねえが捕虜にさせてもらうぜ」

 

 傭兵隊の隊長か。それなりに身分のある人間だったか。これは偽りを述べないで良かったな。下手に都市同盟の人間だとか言っていたら、同盟の人間に照会されて身元を確認されてしまうところだった。正直に話すことで突破できるものもある。ここは信用を得よう。それにやはり善良な人間らしい。捕虜なら生き延びる目はある。たとえハイランドの情報を流すことになっても、都市同盟におもねって生きてやる。ハイランドの方が先に俺達を裏切ったのだ。情報を流しても批判される筋合いなどない。

 

「それで構いません。詳しい事情は後でたっぷり白状しますよ」

 

 ……ここはそれが最善だろう。この男は川に流れていた少年を助けるお人好しだ。逆に詳細に説明して同情を引こう。そして時間がかかってもいいからジョウイを見つけて、キャロに帰らなければ。

 

「ビクトール! 戻ったけど……君、また子供をいじめて遊んでいるのかい?」

 

 そうして、俺はその人に出会った。

 

 

     §

 

 

 ハイランド王国軍のユニコーン少年兵部隊が、主である皇子ルカ・ブライトと王国兵によって皆殺しにされる。そのことは知っていた。だけど防ぐことはできなかった。僕は都市同盟の側につくことを選んだから……。僕が、ハイランド側につく選択をした場合はどうなったんだろう? 戦争はどうなったか知らないが、ユニコーン部隊は助けることができただろうな。僕はまた人を見捨てたんだ……。だけど、ハイランド側につけば二つの村が虐殺される。ハイランド側についたらそれは防げないのだ。それに、都市同盟側にはビクトールや色んな知り合いがいるが、ハイランドにはそういった知り合いがいないのだ。だから僕は都市同盟を選んだ。すまない、ユニコーン部隊の少年達。

 

 そしてまた僕は一人の人間を助けられなかった。いや、知識の上ではこの後助かると知っているけど、それはあくまで“知識の上では”でしかない。現実は違う。僕は流されていくジョウイ・アトレイドと思しき人物を助けられなかった。一つの国を解放しても、できないことはある。体は一つであり、動ける範囲は限界があるのだ。今の僕にできるのは、この後部下の傭兵を動かして捜索させることぐらいだ。

 

「ビクトール! 戻ったけど……君、また子供をいじめて遊んでいるのかい?」

 

 そこにはビクトールと数人の兵士、そして一人の少年が。

 

 これから起きる戦乱の中心であり、新たな天魁星(てんかいせい)の宿星を背負う人物だ。名前はなんだろう?

 

「冗談よせよ、ティル。俺がそんなことすっか。これでも優しい優しい人間様なんだぜ。それより……もう一人はどうだった。このガキがだいぶ心配してるみてえだぞ」

 

「駄目だったよ。流れが速くなっている場所があって、途中で見失ってしまった。どこかに打ち上げられていればいいんだけど……」

 

「そうか」

 

 頷くと、少年の方を向く。

 

「お前さんを、とりあえず捕虜として連れて行く。しばらく不自由させちまうかもしれねえが、我慢してくれ」

 

「この隊長さんは自分で言う通り優しいお人好しだよ。きっと君のことも上手く計らってくれるさ」

 

 うるせえぞ、ティル。というビクトールの言葉を流しながら、僕達は傭兵隊の砦に戻るのだった。トラン解放戦争が終わって三年。いよいよ物語……じゃないな、戦乱が始まるのだ。僕は彼を助けよう。困難で辛い境遇となった彼を。

 

 

 

 ――そうして、新しい幻想が始まる――

 







後書き
 主人公リオウの名前はやっぱり公式小説から。リオウの性格が原作と違いすぎやしないか? と思われる方もいるでしょうね。コンセプトは「できるだけ冷静な人物」です。できるだけ、であり完璧に冷静ではありません。また、冷静=頭がいい、ということでもありません。例えば軍師のあの人は冷静で頭が切れる人物ですが、リオウ君は冷静だけど頭の出来は普通です。落ち着いていることと、頭の回転が速いかどうかは別物なのです。
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