ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第19話 狂皇ルカ

「……承知した。リオウ殿。主を変えるは武人としての恥。だがこのキバ、その汚名をあえて受けましょうぞ。貴方と共に戦わせて下さい」

 

「リオウ様、私は貴方に適わなかったようです。私一人の才では……。貴方の下に集った仲間、それこそが貴方の力なのでしょう。今日から、私の才も貴方に使わせて頂きます」

 

 キバ将軍とクラウスさんは仲間になることを受け入れてくれた。

 

 俺達は一昼夜行軍してデュナン城に帰還した。その最中、俺の心中はあることを考えていた。次に攻めてくる将軍のことだ。今のハイランド王国に代表的な将は三人だ。第一軍団長にして元皇子、現皇王のルカ・ブライト。皇都ルルノイエを守護している第二軍団長ハーン・カニンガム。第三軍団長のキバ将軍はデュナン軍に加わってくれた。なら、最後に残るのは第四軍団長ジョウイ・アトレイドしかいない。つまり、次のハイランド王国軍との戦いは、ルカ本人が攻めてくる決戦になるか、ジョウイが攻めてくる心を引き裂く戦いになるかのどちらかなのだ。どちらにしても気の重い話だ。

 

 デュナン城に到着すると、人々が(あわただ)しく行き来していた。これはつまり――。

 

「リオウ殿、シュウ殿!」

 

 城から飛び出して俺達を向かえる、というより用事があるのだろう人はフィッチャーさんだ。

 

「どうしたんですか? フィッチャーさん」

 

「それが、ミューズを探らせていた密偵が急を告げる知らせを持ってきたのです。その内容が……」

 

「とりあえず将兵を休ませよう。報告はそれから聞く」

 

 と、シュウさんは言った。ひとまず密偵の話はシュウさんが聞くことになり、俺は城に帰還する兵士を城門でそれぞれ(ねぎら)うことにした。城門でみなに声をかける。

 

 しかし、シュウさんから報告を聞く前に事態は風雲急を告げることになった。

 

 

     §

 

 

「いよいよ決戦ですね。私達が負けたらトゥーリバーも王国軍の手中に落ちる。そうなれば都市同盟の命運は尽きます」

 

 アップルの言葉に考え込むビクトール。兵は休ませるが、首脳陣は広間で頭脳労働だ。

 

「あんま考えたくはねえな。まさに狂皇子……いや、今は皇王か。のルカ・ブライトが暴虐の限りを尽くす、そうなるだろうな……」

 

「申し上げます! 斥候を行っていたリドリー殿の隊が、敵の待ち伏せにあい包囲されています。このままでは全滅の危険が……」

 

 うぅ、これ救出するのって大変なんだよね。失敗しても原作通りに帰って来る保証なしだし。

 

「敵の待ち伏せ……ハイランドに策を練る人物は……」

 

 考え込むアップル。

 

「レオン・シルバーバーグ……。うむ。戻って来たばかりだが、すぐ援軍をだしましょう、リオウ殿。リドリー殿を救うのです」

 

「わかった。リドリーさんを助けよう!」

 

 シュウとリオウがそう決めたので、寡兵でデュナン城を出発した。取り急ぎ走れる部隊だけでの救出作戦だ。本隊は後からおっつけ来る。僕らはとにかく速度重視で進軍した。

 

 ラダト前の草原に布陣している。王国軍を見据える。僕らはシュウの指示に従い、尖る矢の陣形で包囲網を突破する策に出た。敵は再編成された第三軍と第四軍だ。ということはジョウイとササライだな。

 

「よお! リドリーのおっさん! 助けに来たぜ!」

 

 ビクトールが叫ぶ。僕も馬を飛ばす。

 

「先行する! とにかく合流だ!」

 

 僕はあくまで合流を目的にして他を置き去りにした。

 

 そこに、

 

「やれやれ……あいつが来ているというから参加したけど、面倒だね」

 

 ルックの風魔法が吹きつけた。前方の敵を薙ぐ。包囲網の一方向が崩れた!

 

「今だ! リドリー! 合流を!」

 

「ありがたい。今だみな、脱出するぞ!」

 

 今度は撤退戦だよ。敵の攻撃を振り切って逃げる逃げる逃げる。馬よ走れと鞭を打つ。すると敵は深追いを戒められていたのか、追撃はそこそこにとどめた。陣地へと戻って行く。

 

 あまりの疲れにうなだれながらデュナン城に戻って来た。キバ将軍との戦いから常に動いている。疲れも溜まるよ。リドリーさんの部隊はやはりある程度やられている。だが本人は気落ちしているね。

 

「リオウ殿、申し訳ありません。まんまと敵の策にはまってしまい……。このリドリーの不覚でありました」

 

「そんなことはいいですよ。とにかく無事で良かった」

 

 リドリーさんの無事を喜ぶリオウ。

 

「あ、ありがとうございます。リオウ殿」

 

 感激するリドリー。

 

「情報は、何か敵の情報はありませんか?」

 

 シュウは冷静というか冷徹。

 

「うむ、敵軍はクスクスから進軍して引き続きラダトの占領を続行するようだ。次は定石通りサウスウィンドゥを狙うようです」

 

 まだ戦いは終わらない。なんてノンストップなんだよ。

 

 

     §

 

 

 リドリーさんを含めた将達と共に、俺は広間へと向かった。そこにはアナベルさんやジェスさん、テレーズさんなど城を守っていた人達が緊張した面持ちで立っていた。

 

「皆、よく集まってくれた」

 

 コツコツと靴を鳴らして、シュウさんがアップルさんを引き連れてやってきた。いつも思うがこの軍師二人には大変な労働を強いていると思う。

 

「先だって戻った密偵の話と、リドリー将軍の報告で、王国軍の動きがほぼ明らかになった。心して聞いてくれ」

 

 シュウさんのそぶりは、ソロン・ジーがこの城を攻めた時と酷似していた。俺達が窮地に立たされた時と同じ……。

 

「王国軍はすでにミューズ南部の前線基地を出発。サウスウィンドゥに向かっている。兵力は合計五万だ。対する我が軍は、キバ将軍と共に下った兵、トラン共和国からの援軍を合わせても二万五千といったところだ」

 

「敵は二倍、ってえわけだな」

 

 ビクトールさんが腕組みして考え込む。

 

「王国軍の部隊は四隊に分かれているそうです。ルカ率いる王国軍第一軍が二万、本国で新たに編成されたジョウイ・アトレイドの第三軍が一万、そして神官将ササライが率いるハルモニアからの援軍が一万、第四軍に合流しているとの情報です」

 

 アップルさんが細かく説明してくれる。ハルモニア神聖国からも援軍が来ているのか。厄介だな。

 

「ハルモニアに援軍を頼むとは、ルカの奴は一気に勝負を決めるつもりのようですな」

 

 キバ将軍の言。

 

「友好国ではありますが、高い借りになりますよ。ルカ様……」

 

 とクラウスさん。

 

「現在王国軍の本隊はコロネに待機。第三軍が先に湖を渡ったそうです。それが軍師の策でリドリー将軍を包囲したのでしょう。……さて、いかが致しますか、リオウ殿?」

 

 確かに五万という兵力は恐ろしい。だが、ここでルカを倒せば戦いは終わる。皇王となったこともあり、権力などが全てルカに集中しているのだ。だから逆に奴さえ討ち取れば、この戦いは終わる。

 

「シュウさん……皆、聞いて欲しい。確かに、この戦いは俺達が不利だ。でもたとえ敵の兵力が多かったとしても、俺達はこの城を守らなくてはいけない。踏みとどまるしか、俺達に生きる道はない。それに、あのルカが直々に出てくるというのなら、逆にチャンスだ」

 

「うん、軍の実権を握り、戦いを推し進めてきたのも、休戦協定を破って都市同盟に攻め込んできたのもルカ・ブライトだ。ルカさえ倒せば」

 

 ティルさんが言う。

 

「シュウさん、俺は戦うよ。この地に平和を、それが俺の望みだから……」

 

 広間の皆は、不安から希望を見る目へとその表情を変えた。

 

「わかりました。では、ルカの第一軍のみに狙いを定めて戦うことにします」

 

「シュウさん、策はあるかな? あのルカを討ち取る策は」

 

「既にあります。二万の軍勢で五万の軍を破るのは確かに難しい。しかし一人の将を討ち取るならば、二万あれば充分です」

 

「シュウ殿! 先鋒は私めに! あの悪の化身ルカは、この私が倒してご覧にいれます!」

 

 マイクロトフさんが先鋒を申し出る。心強い人だ。すると広間には先鋒に名乗りを上げる声でいっぱいになった。これから起きる激しい戦い。だけど、俺の胸は頼もしさで満ち溢れた。

 

「皆の気持ちは嬉しい。が、先鋒はもう決まっている。今度の戦いでも打って出る。キバ将軍を味方に引き入れた、街道の三叉路で迎え撃つ。伏兵を置いてルカを誘いこむのだ」

 

「なるほど、先鋒はルカを誘いやすい将に任命すると……では、リオウ殿か父上か……」

 

 クラウスさんの言葉に答えるシュウさん。

 

「うむ、先鋒はキバ将軍に任せるつもりだ。ハイランドから離反したキバ将軍が名指しでルカを誘えば、必ず食いついてくるだろう」

 

「その任務、確かに承った。しかし相手はあのルカ、どこまで持ちこたえられるか……」

 

「戦いの際には、キバ将軍には撤退して頂きます。街道には、更にリオウ殿の本隊に待機してもらうつもりです」

 

 なるほど、二段構えの策というわけか。

 

「ビクトール、ティル、バレリア殿は伏兵として、街道の両脇に待機してもらい、ルカがキバ将軍を追って街道を進んできたら、ルカのみをやり過ごして後続を断つ。それでルカを孤立させ、他の部隊は遊撃隊として、第一軍の掃討に当たってもらう」

 

 シュウさんはテキパキと皆に役目を割り振る。右の森にはリドリーさん、ハンフリーさん、ハウザーさん、カミューさん、テレーズさん。左の森にはマイクロトフさん、ペシュメルガさん、ツァイさん、アニタさん、スタリオンさん。また、ハルモニアから援軍を率いているという神官ササライを知るルックさんが魔法部隊を率いて対抗。ゲンゲン隊長に斥候隊を任せる。

 

「作戦は以上だ」

 

 質問などがないので、それで作戦の説明は終わった。最後に広間で激を飛ばしてその場は終了となった。うぅ、未だにこういうのは苦手だ。俺はただの少年でしかないというのに。

 

 その日の夜。寝付けなくて屋上で風に当たろうとしたら声が聞こえてきた。

 

「ティルさん」

 

「なんだい?」

 

 この声……ニナさんか。

 

「何をしてるんですか? 皆眠ってるかお酒を飲んでるかなのに」

 

「戦いの前にはいつも思い出すことがあるんだよ」

 

「いいなぁ。私にはそんな思い出ないですよ」

 

 寂しそうな声。

 

「ね、何を思いだしてたんですか?」

 

「色々だよ。子供が気にすることじゃない」

 

「ああ、ひどぉい。そんなに歳が変わらないのに子供扱いしてぇ。……もしかして……昔の恋人とか?」

 

「……家族のことだよ。君も早く寝た方がいい。眠れない夜なんていいものじゃないよ」

 

 家族、か。俺も……おっと、降りてきそうだ。退散退散。

 

 階段を下に降りるとシュウさんと行き会った。部屋に誘われる。

 

「どうしました? 戦いの不安ですか? それとも友のことを?」

 

「俺は……ジョウイと」

 

「…………。リオウ殿。あなたはデュナン軍のリーダーです。多くの者があなたの姿に希望を見る。多くの兵士が貴方のまなざしに未来を見る。その意味をご理解下さい。歴史は時に人の感情を押し潰すものです……」

 

 俺が希望? 未来? まるで実感が湧かない。だけど、兵士達の声は思い出せる。あの、初めて勝利を掴んだ日のリオウ()を呼ぶ声が。

 

「この戦い、我らは勝ちます。リドリー将軍、キバ将軍、ハウザー殿。いずれも軍の指揮が優れた名将です。ビクトール、ティル、ツァイら一騎当千の戦士。マイクロトフ、カミュー達勇猛な騎士達。アップル、クラウス、いずれも良き軍師になります。フィッチャーの情報もありがたい。ただ、後一つの条件が揃えば……」

 

「それは?」

 

「リオウ殿、貴方の勝つという強き意思です。リーダーの貴方が勝利を信じられなくてどうします。勝てると信じることが大切なのです」

 

「勝つ意思……か。そう、だな……」

 

 俺はぐっと首を反らして上を見上げた。

 

「勝つ、絶対に勝つよ。この地に平和を……その為に」

 

「はい。それでいいのです。後は、ゆっくりと体を休めて下さい」

 

 俺はシュウさんとの会話を考えながら階下に下りる。勝つ意思……か。もう少し誰かと話したかった。戦友と。

 

「リオウ、寝たんじゃなかったのかい?」

 

 旅芸人の三人だ。話しかけてきたのはアイリさん。

 

「誰かさんの願いが通じたのかもね」

 

「アネキ! どういう意味だよ!!!!」

 

 アイリさんはなんだか怒ることが多いような。普段は綺麗だけど、こうして脹れっ面すると可愛いと思える。

 

「リオウ、ゆっくり話すの久しぶりぃ」

 

「そうだな。悪いなボルガンさん」

 

「リオウさん達と会ってから、もう結構な時間が経ちますね」

 

 そうだな。この人達とはそれなりの付き合いだ。

 

「リオウ……ジョウイと戦うのは辛いかい?」

 

「……辛くない、とは言えないな……」

 

「そっか……ゴメンな。でもさ、デュナン軍のリーダーとかハイランド王国の将軍だとか、そんなことにさ……惑わされちゃだめだ、と思うよ」

 

 それは……。

 

「俺、リオウもジョウイも好きだぞ」

 

 ありがとう、ボルガンさん。なんだか嬉しいな。

 

「あたしら旅の一座はどこに行ってもよそ者で……だから一日だけだけどさ、“旅の仲間”になれたのは嬉しかったんだ……本当さ」

 

 この人達はジョウイのことも知っている。だから、

 

「俺……俺は、本当はジョウイと戦いたくなんてないんだ……でも、だから、この戦いを終えたい」

 

 内心を話した。できればすぐにでも、戦いが終わって欲しい。

 

「だったら、終わらせようよ。あたしらも協力するからさ」

 

「ありがとう、アイリさん」

 

「べ、別にいいよ」

 

 俺は少しだけ救われた気分になり、部屋に戻った。

 

「リオウ、どうしたの?」

 

 ナナミだ。頼りなげな姿。

 

「リオウ……どうして、だろうね。キャロの街で私とリオウとゲンカクじいちゃんの三人で暮らしてた時には、こんなことになるなんて思ってなかった。ゲンカクじいちゃんが都市同盟の英雄でリオウがデュナン軍のリーダーなんて」

 

「ああ、俺もだよ」

 

「…………今度はジョウイと戦わなきゃいけないのかな……また、戦いが……。…………リオウ、早く寝なよ。リオウは皆に必要とされてるからね……」

 

 寂しそうに、ナナミはそう言った。いつもこんな顔させちまうな。ジョウイ……平和にはまだ遠そうだよ。だけど、約束は、誓いは、必ず守るよ……。

 

 

     §

 

 

「皆……ついにルカとの全面対決だ。知っての通り、あのルカは鬼神のように強い。率いる部隊も手強く、激戦が予想される。犠牲も少なくないだろう」

 

 そこで、皆の顔を見回して大きく息を吸う。

 

「でも、俺達はこの戦いに勝利しなきゃいけない。この地に平和を、俺は力の限り戦う。皆の力を貸してくれ。皆で力を合わせて戦おう!」

 

将も兵も拳を振り上げては喊声(かんせい)を上げた。広間は皆の声で埋め尽くされる。

 

(リオウも、リーダーらしくなってきたなぁ)

 

 リーダーになり訪れる変化。それには心当たりがある。見知っている。だがリオウは進むだろう、きっと。僕もせいぜい彼をサポートすることにしよう。

 

 夜、僕は屋上に出ていた。戦の前はいつも思い出す。

 

(父さん……僕も、一角の将になったよ。父さんが強く育ててくれたおかげかな……随分遠くに来てしまったけれど)

 

 でも、僕はリオウを助ける。「この地に平和を」か……うん。きっと、できるよね。

 

 

 

 翌朝、全軍で移動を開始。既に日は東の空を昇っている。雄大なデュナン湖の湖面は、その光を受けて輝いていた。キバ将軍との戦いから五日が経過し、ルカ率いる王国軍本隊がクスクスを発ったと知らせが届いていた。

 

 先日シュウが割り振った通りに、先鋒のキバ将軍を始めとして二万以上の軍勢が街道を南に下っていた。リオウはシュウと、新しく軍師として加わったクラウスと共に馬を並べて駆けている。リドリーはやはりある程度疲弊している様子だ。

 

 やがて、デュナン軍は木々の生い茂る三叉路に到着。リオウ達は街道を見渡せる小高い丘に陣取った。僕は街道の横に移動だ。その前にリーダーであるリオウの元へ行く。

 

「リオウ、無理は禁物だよ。危なくなったら逃げるんだ。何があっても君を守るからね」

 

「ありがとうございます」

 

 軽く頷くリオウ。戦意は高そうだね。知識は僕の頭にあるが、この一戦でそれは考えないようにしていた。考えるべきは今だ。ルカを討ち取ることに集中する。

 

「来たね……」

 

 僕の言葉通り、左の街道から、砂塵を上げて王国軍の軍勢が。銀色に煌く鎧。白と青に染め抜かれた旗。そしてその先頭には、白銀の鎧を身につけたルカの姿が。いよいよだな……。ルカの部隊があと数百歩の距離に近づく。キバ将軍が口上を上げる。内容は父を殺したルカを糾弾するものだ。それに我慢がならんとばかりに猛るルカ。上手く釣れた。奴はキバ将軍に向かって突撃する。ルカの剣戟は凄まじく、キバ将軍は徐々に押され始めた。

 

「キバよ! その程度の腕で、我が王国の将を名乗っていたか。笑止! 貴様が束になろうと俺の敵ではないわ!」

 

 ルカの剣筋は凄まじい。さすが世界が生んだ天才にして狂皇子……いや今は狂皇か、のルカだ。百戦百勝将軍の父テオを知っている自分すら、身震いするほどの強さ。

 

「くそう、引け、引けぇ!」

 

 やがて時期を見計らってキバ将軍が退く。

 

「おのれキバ! 武人が後ろを見せるか!」

 

 キバ将軍は戦いながら退いた。だがルカも凄まじい勢いで追撃する。おまけにルカが率いている王国軍第一軍は、白狼軍とも呼ばれる王国軍において精鋭中の精鋭だ。いつの間にか、キバ将軍の部隊は左右から囲まれていた。

 

「どうしたどうした! キバよ、俺を倒すのではなかったか!?」

 

 苛烈に剣を叩きつけるルカ。奴の勢いは止まらない。そして、ついにキバの剣が弾き飛ばされてしまった。

 

「裏切り者よ、死ね!」

 

 振り下ろされる剣、だが、キバの背後には流星槌(りゅうせいつい)で攻撃し、割って入った一人の将がいた。第三軍で右の副将を務めていた男だ。

 

 キバ将軍は後をその副将に任せると、右側面を囲んでいた王国軍を崩し、そこから街道を戻り始めた。

 

「リオウ殿、シュウ殿! 間もなくルカが来ます!」

 

 キバ将軍の部隊が三叉路を通過、剣を血で染めたルカが後を追う。そしてルカが三叉路を通り、二万の軍勢、その半数が三叉路にさしかかった時だ。銅鑼(どら)で合図が出される。三叉路の右からバレリアが、左から僕が飛び出す。

 

「我こそはトラン共和国の烈火のバレリア! 今デュナン軍の為に剣を振るおう!」

 

 バレリアは張り切っている。トラン共和国でもカシムやソニアらと一・二を争う剣技の持ち主である。僕も部隊を率いて突貫し、王国軍は部隊を前後真っ二つに割った。

 

「行くぞ! 敵を倒し、この地に平穏を!」

 

 僕は死にものぐるいで棍を振るった。

 

 

     §

 

 

 シュウさんが再び銅鑼を鳴らす。すると右の森からリドリーさんら五将、左の森からマイクロトフさんら五将が躍り出た。ルカから分断された王国軍を包囲する。さらに森に潜ませたテレーズさん、スタリオンさんらの部隊から矢が豪雨のように飛ぶ。王国軍第一軍の後部からは悲鳴が上がった。

 

 シュウさんの策は、形勢を逆転させた。しかし、まだルカはキバ将軍を追っている。三度目の銅鑼、それでビクトールさんが殴りこみをかける。

 

「ルカ・ブライト! 今日こそ貴様の首をとる!!」

 

 同時に、フリードさんも左の森から突撃する。

 

「ルカの部隊を潰すのです!」

 

 第一軍の前部は、二人の部隊によってさらに割られていった。四度、シュウさんが銅鑼を鳴らす。デュナン軍の部隊が流動的に動く。三叉路付近で戦っていたバレリアさんとティルさんが第一軍の前部に回る。第一軍の前部と後部はそれぞれ挟み撃ちにあった。ルカの周辺に従う兵以外は、全てデュナン軍に包囲された。そしてルカを守る軍勢はおよそ三千程度。これなら――期待が胸を膨らます。だがそこに援軍だ。街道の左からやって来た。

 

「数は一万というところか……」

 

「でっかい青い帽子をかぶった子供が部隊の先頭にいたぞ」

 

 ゲンゲン隊長の報告。それに、

 

「そいつがササライさ。やっと僕の出番だね。リオウ達はここで待っていなよ。あいつには僕が当たる」

 

 そう言ってルックさんはふっとかき消えた。さすが真なる風の紋章を宿した人だ。そして遠くに見えるハルモニアの援軍だが、突如戦場に巨大な風が吹き荒れた。それはハルモニアの軍勢を包み込む。と、(まばゆ)い光が現れ、それが消えた時には敵の姿も消えていた。ハルモニアの援軍は全て消えてしまった。

 

 あっけにとられた俺達だったが、とにかく、ルックさんは敵を退けてくれた。チャンスだ。

 

「リオウ殿。今こそ勝機です」

 

 シュウさんと素早く言葉を交わす。王国軍にはまだ第三軍、第四軍が残っているのだ。その二軍が到着していない今。ルカのいる部隊に狙いを定めて総攻撃をかける。五度目の銅鑼も鳴り、デュナン軍の部隊が動く。全ての部隊がルカ本隊を攻める。だが奴は崩れない。白銀の鎧、その周囲には血しぶきが上がり、兵の悲鳴が轟く。逃げ場がないというのに、ルカも兵士も一歩も引かないのだ。おまけにルカは一番弱っているキバ将軍の部隊を狙って攻撃を続けている。もしキバ将軍が敗れれば、包囲網は解け、ルカには逃げられてしまう。

 

「さすが……というところか。ルカ・ブライト。鬼神と言われるだけのことはある」

 

 悔しそうに呟くシュウさん。

 

「シュウさん。このままじゃ包囲を突破されかねない。無傷で残っているのは俺の部隊だけだ」

 

 俺とオウランさんを始めとするリーダー親衛隊。それを中核となす本隊がまだ残っている。

 

「わかりました、リオウ殿。頼みます」

 

「皆、俺に力を貸してくれ! あのルカを倒す為の力を!!」

 

 叫び、号令を下し。兵士は歓声を上げて突撃を開始した。丘を下り、キバ将軍の部隊、その後ろにつく。

 

「キバ将軍! リオウです! 援護に来ました!」

 

 声を張り上げて合流する。その中で俺はルカを捜した。馬を駆って兵の隙間を進む。すると黒髪を振り乱して剣を振るうルカの姿が。かつて自分の命だけを考え、立ち尽くしたことを思い出す。そこから前進するんだ。これから――。

 

「ルカ! ルカ・ブライト!!」

 

 叫び、注意を向けさせる。奴はニヤリと笑った。

 

「リオウ殿! 危険です」

 

「危険は百も承知、ここでルカを倒します!」

 

 その会話にルカが笑む。そして声を発した。まるで獣のうなるような声。

 

「貴様がデュナン軍のリオウか……見覚えがあるぞ」

 

「そうだ、お前とは因縁がある。天山の駐屯地で俺が所属するユニコーン少年兵部隊を虐殺しやがった。傭兵隊の砦を壊滅させた……」

 

 都市同盟の村を焼き払い、民を虐殺した。

 

「ふん、口上などいらん。貴様を殺せば都市同盟の息の根は止まる。せいぜい楽しませろ、道化が!!」

 

 ルカが俺に向かって剣を振るう。俺も奴に向かってトンファーを。激しい衝撃で身が吹き飛ばされそうだ。これが、ルカ・ブライト。今まで立ち向かわなかったそれに、俺は己が武を極限まで絞り尽くした。

 

「リオウよ! その程度の技量で俺を討てると思ったか!」

 

 振り下ろされる一撃を両の手に持ったトンファーで受け止める。いつ壊れてもおかしくない攻撃だ。そこに、

 

「リオウ殿!」

 

 キバ将軍が加勢に来てくれた。

 

「ふっ、構わん。二人まとめて殺してやろう!!」

 

 だが、奴は二人でかかってもまったくといっていいほど動じなかった。それどころかその剣技はますます冴え渡るような気がした。長い剣を操り、時に切っ先で、時に柄で俺達の攻撃を防ぐ。そして隙を見せれば容赦なく攻撃が襲いかかる。俺のトンファーとキバ将軍の剣が何度振るわれても、ルカには傷一つ負わせられない。

 

 そのうち、戦局は動き続けていた。デュナン軍の包囲が狭まり、王国軍の兵力を削るのだ。将達の奮戦により、第一軍は徐々に壊滅していった。

 

「ルカ、ここが年貢の納め時だ!」

 

「観念しろ、ルカよ!」

 

「ふははは、この程度の(はかりごと)、蚊の痛痒ほども感じんわ!! 無駄だ。無駄なのだ! 俺は死なん。都市同盟の全てを荒野にするまではな!!」

 

 打ち合いは奴の主導になった。俺達を圧倒し始めたのだ。その時だった。

 

「ルカ様……」

 

 不気味な声。ルカの横に妖しい光が。するとそこには黒い馬にまたがり、前進を黒い鎧で包んだ男が。ペシュメルガさんに似ている。だが雰囲気は水のように静かなあの人と違って、総毛立つような殺気を全身から発していた。音もなくルカに馬を寄せると、

 

「ルカ様、お迎えに上がりました。このような虫けらども、いつでも殺せます。ですが今は部隊が崩されてしまいました。一旦お引きになり。態勢を整えるべきかと……」

 

「ま、待て!」

 

「ふはははは!! リオウよ、覚えておけ!! 貴様ら如きでは俺は倒せぬとな!! また剣を合わせる時が、貴様の死ぬ時よ!!」

 

 そう言って、黒騎士の呪文、魔法によりルカは姿を消してしまった。

 

 戦いは、終わった。俺達はルカを殺すことができなかった。事実上の敗北だ。街道から、撤退せざるをえなかった。被害こそ多くないものの、シュウの策と勇士達の力をもってしても、あのルカを討ち取ることはできなかったのだ。ルカだけを討ち取る策、それを破られてしまった以上、次にはもう同じ策は通用しないだろう。そして第三軍と第四軍が合わさった敵の総攻撃が開始される。デュナン軍が敗れれば都市同盟は死に体だ。滅亡の危機。

 

 俺達は街道を半日ほど退却した場所にある森、そこに陣を張って踏みとどまることにした。デュナン城に戻って囲まれたら終わりだからだ。俺達は追撃に注意しながら、負傷兵の手当てを行い、携帯食料で食事をした。そして西の山脈に夕日が沈んだ頃になり、やっと落ち着けるようになった。だが俺はじっとなんてしていられなかった。キバ将軍と共に戦っても、奴の鎧にすらトンファーを当てることができなかったのだ。

 

 戦いを終わらせたい。その気持ちがあるのに、勝てる展望がまるで見えない。それはシュウさん達軍師も同じようで、「策が……知が武に負けるというのか……」と呆然とした様子だった。

 

 俺は兵達が眠る天幕をあてどなくさまよった。ある天幕からは兵のうめき声が聞こえ、また別の場所からは仲間を失った嘆きが聞こえてきた。その声を聞く度に、俺の心はルカを殺せなかった悔しさで満ち溢れた。

 

 そんな時だ、兵士達が俺を呼びに来た。なんでもティルさんから集合がかかったということだった。いったい、何が? そう思いつつも俺の胸には一筋の希望があった。あの人なら何とかしてくれるかも知れないという希望が。

 

 

     §

 

 

「久しぶりですな、ティル殿」

 

 僕は陣地の端っこにいた。彼が訪れるであろうことがわかっていたからだ。

 

「うん。久しぶりだね、レオン」

 

 レオン・シルバーバーグ。トラン解放戦争では共に戦った軍師の一人だ。だけど彼はリオウの108星ではない。今はハイランド軍に籍を置いているはずだ。彼はポケットから一通の書状を出すと、こう言った。

 

「多くは語りますまい。これを貴軍の軍師、シュウにお渡し願います。今、貴方達が必要としているものが、ここに記されています」

 

「わかったよ、『ありがとうレオン』」

 

「……相変わらずですな」

 

 だからさ、皆それを言うけどどういう意味?

 

 それから二・三言葉を交わしてレオンは帰って行った。

 

「……ということがあったのさ」

 

 と、シュウの天幕に集まったみなに報告する。

 

「ああ、それからリオウ。彼はこうも言っていたよ。『私は王国軍の軍師であってそうではない。ジョウイ殿の為にのみ、策を講じています。そしてジョウイ殿は、今でも貴方を信じていらっしゃいます』とね」

 

「ジョウイが……」

 

「で、これが書状ね。シュウ、きっとこの内容は信じていいものだと思うよ」

 

 そう言い、書状をシュウに渡す。中身に素早く目を通すシュウ。

 

「リオウ殿、この書状には大変なことが書かれています」

 

「大変なこと?」

 

「今夜、我らの陣にルカが単独で夜襲を仕掛けてくるとのこと。恐らく、一気に勝負を決める腹積もりなのでしょう」

 

「!?」

 

 騒然となる天幕。ま、当然だね。

 

「何故奇襲の内容など……まさか、罠では?」

 

「いや、罠じゃないと思うよ。レオンはジョウイの為に策を講じているということだった。そしてジョウイの望みは……わかるだろう? リオウ」

 

「………………ええ、ジョウイの望みはわかっているつもりです。じゃあ、ホントに……?」

 

「明らかな優位に立つハイランド軍が罠を仕掛けるとは考えにくい。ルカにしてみれば、このまま我らを蹂躙すればよいのです。…………もしこの情報が本当だとすれば、我々にとって最後のチャンスです。闇に乗じて待ち伏せすれば、あのルカを討ち取ることすら可能でしょう。……どうされますか、リオウ殿。この情報を貴方は信じますか?」

 

 シュウがリオウに判断を仰ぐ。ここでリオウが頷いてくれなければ全ては水の泡だ。だがそんな心配はしていなかった。リオウは冷静に考えて罠である可能性を排除するだろう。そしてジョウイとの思い。彼との約束が頭にあるリオウなら……。

 

「この書状には、ルカが通る道筋までが詳細に記されています。もし、信じるのであれば……」

 

「……俺は、信じてみようと思う。レオン殿も、ジョウイも……。やろう、シュウさん。俺達はルカを倒さなければならない。戦争を終わらせる為に、皆の為に……」

 

「わかりました。みな、聞いたな。今夜ルカの夜襲が行われる。我らはその想定の元に動く。これが最後だ。力を、尽くすぞ」

 

 力強い言葉。そうして僕達は動き出す。

 

 森が深い闇に沈んだ。デュナン軍は部隊の再編成を終えた。各将がそれぞれの部隊を率いて陣を出発する。レオンの書状には、ルカと彼の部隊は街道を避けて、森の小道を南から真っ直ぐ北上すると書かれていた。シュウはルカを包囲する為の小道、その東西にビクトールと僕の部隊を、また森の南にはカミューとマイクロトフの二隊を配置した。各兵力は歩兵二千、うち三百は弓兵だ。闇に乗じて遠方から矢を射掛け、ルカと白狼軍をとことんまで弱らせる方策だ。そしてリオウはオウランやハンフリー、その他の将と共に二千の本隊を率いて小道の北側で伏せる。シュウはレオンが指定した場所で五百の射手と共に待ち伏せだ。

 

 デュナン軍の陣地、その少し手前に木々が途切れた草原があり、その中央には森でも一番の大木が。レオンの書状には、そこにルカを誘い込むようにとも書かれていた。そこで、あの合図を待つのだ。

 

 全ての部隊が配置につき、後はルカが来るのを待つだけとなった。万の兵がいるのにもかかわらず、森はとても静かで木の葉もそよがない。だけど僕は森のそこここに、兵士達の鋭気が感じ取れた。

 

 森の南に、物音が。耳を澄ますと鎧の金属音だ。味方の兵士達は、音を立てずに厳しく言い含めてある。ならばこれは――。

 

 来た。今だ!

 

「矢を射ろ!!」

 

 僕とビクトールの声によって、矢が放たれる。小道の中央で悲鳴が上がった。東側でビクトールの声。

 

「王国軍を蹴散らすぞ! 今をおいて、ルカを討つ時はねえ!!」

 

 静かだった森が一瞬で戦場へと変わった。ビクトールの部隊がその刃を振るう。逃れたルカ達はこちらに寄った。

 

 僕はその一瞬の交差に力をかけた。

 

「――火炎陣!!!!」

 

 僕にはもうソウルイーターがない。だが心配はいらない。ソウルイーターがない分は他で補えばいいのだ。僕の魔力は一線級の魔法使い(たとえばティント市の坑道に身を隠しているあいつ)と同レベルに高い。それでもって単体の敵には一番ダメージの大きいこの魔法を使えば、ルカだろうがその身を焼くことができる。白銀の鎧に身を包む、ルカの肉が焼ける臭いがした。

 

 ルカは身をよじりながら、うめきながらリオウの方向に逃げる。やはりそうなったか。僕は後を追いかけた。王国兵とぶち当たらないように迂回して、ルカだけを目指す。さあ、最後だ。

 

 

     §

 

 

 ティルさんの魔法が炸裂して周囲は一瞬だけ昼間のように明るくなった。……相変わらず凄い威力の魔法だった。ルカはその身を焦がしながら、数十名の兵を率いて小道をこちらに進んでくる。

 

「ルカ……これで最後だ」

 

 奴は血に濡れた剣を手にして、恐ろしい形相でこちらに歩いてくる。大きな鎧にはあれだけ射掛けたのに数本しか矢がささっていない。兵士が身を呈して守ったのだろうか? だがその胸当てには斜めに切り傷がついていて、腕には流れる紅、血だ。ルカが傷を負っている。

 

「最後だと……? 言っただろう、どんな策を用いようと、どんな将を使おうと、俺を倒すことはできん!! リオウ、今ここで貴様の首を落とす!!」

 

「させないよ」

 

 ヒュッと風を切り裂く音。ティルさんの闇と同じ色をした棍が振るわれる。寸前で受け止めるルカ。

 

「リオウ、いくよ。二人がかりだ」

 

 その言葉と共に最後の戦闘が始まった。背後に控えた将兵が、周囲の王国兵達に襲いかかる。その中で、俺とティルさんがルカに当たる。

 

「やぁぁぁぁっ!!!」

 

 俺の双つのトンファーとティルさんの棍、合計で三つの武器がルカを襲う。さすがにダメージが大きいからか、動きが鈍い。横殴りに振るわれたルカの剣は棍と左手のトンファーを弾いた。しかし唯一払われなかった右のトンファーがルカのわき腹に当たった。その瞬間、俺は弾けた。

 

「うぁぁぁぁ!!!」

 

 体の底から大きな叫びを上げ、一気呵成にトンファーを叩きつける! 力の限り俺は腕をぶつけるように振るう。この戦いを始めた男。この男さえ休戦協定を破らなければ、天山(てんざん)の峠で仲間を殺さなければ。親友が去る場面を含め、色んな思い出が去来する。その全てがこの男の行動によって生まれていた。この男がいなければ、俺はピリカちゃんの願いを聞いてミューズに行ったり、都市同盟の為に戦ったり、デュナン軍のリーダーになることすらなかっただろう。おかしな巡り合わせだ。だが、時が経つにつれて、俺の心は、ただ「ルカを殺す」そのことだけに突き詰められて、尖っていくのを感じた。ただ、こいつを殺す。そうすれば全てが終わる。

 

「ルカァァァァ!!」

 

 ルカが大剣を縦に振り出す。ティルさんの棍がそれを止めた。俺は両方のトンファーを奴の両肩にぶち込む! すると次の瞬間には棍の先端がルカのこめかみに当たった。ガガッと激しい音がして鎧や奴の体が鳴る。

 

「ルカ、残念だけど、君の野望はここまでだ……」

 

 ティルさんの言葉、そこには何故か悲しみが含まれているように感じた。何故かはわからないが、ティルさんはルカを殺すことにも悲しみを感じているらしい。だが俺の気持ちは単純だった。ただこいつを殺すことだけを考えていた。

 

「くっ……何故、だ。この俺が負けるというのか……。この俺が!!」

 

 ルカが俺達を睨みつける。

 

「何故貴様らが勝ち、この俺が負けるのだ。それが運命だとでも言うのか!?」

 

「運命なんてない」

 

 即答するティルさん。

 

「ただ人の思いと行動があるだけだ。君は今まで多くの人の思いを踏みにじり、殺してきた。その報いが今ここに結集されているんだ。君が人を殺さなければ、ここで死ぬこともなかっただろう」

 

 やはり悲しげに呟くティルさん。

 

「平和になった世の中さえ享受できていたなら。君はひょっとしたら、平和になったハイランド王国で皇王になり、名君と呼ばれるほど人に慕われる人物になっていたかもしれない。それだけの能力を持ちながら、人を殺すことにだけ思考を、心を傾けずにはいられなかった。それが残念でならない……」

 

 名君? 残念? この男が?

 

「くっ、ふざけたことを……! 貴様ら全てをこの地上から消し去るまで、全てを清めるまでは死ぬわけにはいかぬ!!!」

 

「残念だ……本当に残念だよ……ルカ・ブライト。君はここで死ぬ。殺されるんだ」

 

「ルカ様をお守りしろ!!」

 

 闇に乗じ、包囲網を脱した一隊が、ルカの救援に駆けつけた。白狼軍はルカと向かいある俺達二人に突撃してきて、ルカとの間に割って入った。ルカは、森の奥へと姿を消した。

 

「ルカ様を貴様ら都市同盟の手にかけさせるわけにはいかない!!」

 

 兵士達が必死に行く手を塞ぐ。俺は輝く盾の紋章を使い、白狼軍を蹴散らした。必死にルカの後を追う。ここで逃がしたら、全てが無駄になる!

 

 そうして、その場所に辿り着いた。事前に決めていた大木の下。そこにルカはいた。

 

「蛍か……? 誰が、こんな下らぬ真似を……」

 

 ルカは光が漏れる何かを手にしていた。闇の中でそのちっぽけな光は、しかし目立っていた。

 

「下らぬ……。下らぬ。虫けらに、命を奪うほどの価値などない……」

 

 ルカは呟く。俺はどうやって殺してやろうと隙をうかがっていた。

 

「下らぬ……。都市同盟も、ハイランドも……。そして、この世界も……」

 

 光が、灯っていた。そこに、シュウさんが最後に放つ攻撃が。

 

「あれを射よ!!」

 

 矢が飛ぶ。ルカの体に、突き刺さる。

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

 あの怪物のようだったルカが、ついにその膝を大地についた。

 

 その時、何故か、悲しみを感じた。

 

 ティルさんの悲しげな様子が、今ならば少しだけ理解できる気がした。ルカに対する恨み、憎しみ、敵意。それは確かに俺の心にある。だが、弱りきったルカを目の前にして、俺の心の中には哀れみも生まれていた。ティルさんの言う通り、ルカは自分が起こした戦いに、自らが呑まれてしまったと思った。

 

 ――人が死ぬのは悲しいことだからだよ。

 

 少し後のことになるが、ティルさんは俺にそう言った。それが誰であれ、人が死ぬことは悲しい――と。

 

「おおおおおおおお!!!!!」

 

 ルカが持てる力で向かってきた。俺は、

 

「ぶち、砕くっ!!!」

 

 左のトンファーで受け止め、そこに右のトンファーを斜め上から叩きつける。剣が、折れた。

 

 そして、

 

 とどめの、

 

 一撃を!!!!!

 

「うらあああっ!!!」

 

 頭に、振り下ろすっっ!!!

 

「ガッ、ぐ、ぉおおお」

 

 ルカは、力を失い。倒れた。俺は崩れ落ちる奴を見る。

 

「ついに、剣も折れ……。それを振るう力も尽きた……か。リオウよ、貴様は何故戦う!? 俺を殺し、何を思う!!!!」

 

 ルカの目を見て、答える。

 

「俺の願いは、一つだけだ……。この戦いを終わらせる。この地に平和を……ただ、それだけだ」

 

「笑わせるな。そんなもの、夢物語よ。子供に聞かせるおとぎ話に過ぎん……」

 

 歯を食いしばり、ルカは立ち上がった。本当に最期の力か。ルカは、笑っていた。戦いに敗れたというのに、笑っていたのだ。まるでこれが自分の望みだとでも言うかのように。

 

「聞け、リオウ。俺を殺して王国を奪ったとしても、後に残るのは平和などではないぞ。ただ恨みの声が木霊する荒野だけだ!! 俺を見るがいい、憎悪に満ちた、この俺を!!」

 

 ルカは夜空に向かって雄叫びを上げた。残るのは、恨み、憎悪、それだけだと言うのか。

 

「ふはははははははは!!!!!! 聞けリオウよ!! 都市同盟の者どもよ!!!! 貴様らは何千もの兵で俺を殺したが、俺はたった一人で貴様らの同胞を殺した!! 俺は、俺が思うまま、望むまま!! 邪悪であったぞ!!」

 

 そして、ルカは、その場に崩れ落ちた。

 

 俺は無言のまま、背中に何本もの矢を突き立てたルカの体を見つめた。ルカの手元から、一匹の蛍が舞い上がった。

 







後書き
 ティルぼっちゃんはⅠでも魔力が高かったですが、Ⅱでも高い高い。作中に書いてある通り、完全に魔法使いの人物であるメイザースと同じ設定ですからね。

 合体魔法「火炎陣」と「雷神」の単体ダメージは二千です。作中に登場する各魔法の中で最もダメージが大きいです。輝く盾のレベル四魔法「許す者の印」で最高の威力を叩き出すのと同じなのです。

 このSSを書いてやりたかったことは四つありますが、そのうちの一つ。ティルとリオウでルカを倒す。それが書けて満足しています。二人がかりでやっと倒せる、という描写にしたかった。ルカはそれぐらい強くないとね。あとはアレとアレだな……。
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