今回いつもより短いです。
第20話 会談
デュナン湖から爽やかな風が吹き抜ける。俺はデュナン城の屋上からその風を受けていた。辺りに広がる景色を眺める。デュナン湖は日の光が当たって
湖の反対側に広がる元ミューズ領を見ては、ため息をつく。ルカ・ブライトを殺してから二週間が過ぎた。デュナン城には平穏な空気が流れていた。ルカを殺した直後に、俺は力尽きて気絶してしまった。しかも一週間も寝込むとは。鍛え方が足らん、と爺さんに怒られちまうな。ナナミとアイリさんが心配して看病してくれた。ナナミのあのクソまずい料理はやめて欲しかったが。
ハイランド王国軍はサウスウィンドゥからミューズに撤退したという話だ。シュウさんは警戒してクスクスとラダトの街に防衛の兵力を備えたが、ミューズの王国軍はそれ以上の動きを見せなかった。
(もしかしたら。もしかしたら、この戦いは終わるかもしれない)
父のアガレス・ブライトと兄のルカ・ブライトが相次いで亡くなったので、現在の皇王は長女のジル・ブライトになっているはずだ。とはクラウスさんの弁だ。キャロの街で引き立てられている時にむかつくことを言われた皇女様だったが、まさかルカのように戦争好きではあるまい。ならば、ここから以前結ばれた休戦協定のような話になる可能性だってあるだろう、と俺は考えていた。シュウさんやアップルさん聞かれたら、甘いと言われるだろうが。でも、ルカを殺す為に情報をくれたジョウイなら……。
「リーオウ!」
ナナミだ。ルカとの戦いを終えて、ナナミは陰りがなくなったように昔通りの笑顔を取り戻していた。きっと同じことを考えているのだろうな。
「おはよう、ナナミ」
服装は普段と変わらないが、何故か背中に旅行用のザックを背負っている。
「どこかに行くのか?」
お使いか?
「えっへへー。それがね。さっきシュウさんのところに行って、リオウを連れ出してもいいか聞いたらね。近場の街ならいい、ってさぁ! ね、ちょっとお出かけしてみない? ミューズから逃げ出して今までゆっくりとできなかったじゃない? サウスウィンドゥだってクスクスだってゆっくり見たことなかったし」
「そう……か。シュウさんの許可が出たのか。……うん。それもいいかもしれないな」
俺とてずっと閉塞された状況では息も詰まる。同盟交渉で外には出ていたが、本当の意味で休んだことはなかった。ナナミと気軽に二人旅というのも悪くないだろう。俺はそう思い、まずは近場のクスクスの街へ行ってみることにした。
すたすたと歩ってクスクスの街へ。
「晴れて良かったねぇ、リオウ」
「最初からこの日を狙っていたんじゃなく、晴れている日に申し出たんだから当然だろ」
そうだけどぉ、と唇を尖らせるナナミ。こんな顔も久しぶりだ。
「えへへ」
「どうした?」
「リオウの憎まれ口も久しぶりだなーと思って」
「……」
同じ、か。傭兵隊の砦からこっち、戦争続きだったからな。
さて、クスクスの街に到着した。色んな店を冷やかして回る。夕方になった頃だろうか、桟橋の方でなにやらざわざわしている気配が。
「どうしたんだろね?」
「行ってみればいいだろ。どうせ暇なんだし」
そう言って桟橋へ、すると――。
「あ!」
「……」
何度か見た相手――名前は知らないが確かにハイランド王国軍の将、その一人のはずだ――がいた。
「貴方は……」
「おお、これは運がいい。まさかこの街で貴方と出会えるとは」
俺に会うつもりだったのか?
「こ、これはリオウ殿。大変であります。この王国軍の将が、突然湖を渡って来たようで……」
報告してくれるデュナン軍の兵。ありがとう、と言っておく。兵士に囲まれるが、動じている様子ではない。落ち着き払っている。何故?
「どうか剣を収めて下さい。私は現在王国軍第三軍の軍団長を務めるクルガンと申します」
「クルガン殿、ですね。私は、存じているようですがデュナン軍のリーダー、リオウです」
「王国軍の軍団長が何用だ!」
用向きを尋ねる兵士。
「ハイランド王国から、和議の使者として参ったのです。デュナン軍のリーダー、リオウ殿と面会する為に」
「和、議?」
和議、だって?
「それって戦争が終わるってこと?」
「はい、現在ハイランドの皇王となられた、ジョウイ・ブライト様にお仕えする者として参ったのです。正式な使者としてお考え下さい」
は?
「え?」
「な、何を言っているんだ? ジョウイが皇王? ブライト?」
そんなわけないだろう。あいつはアトレイド家の人間だ。
「そうですね。知らないのも無理はないでしょう。実は先日、ジョウイ様はジル・ブライト様と正式に挙式なされました。ご結婚されたのです」
はい? けっこん? なにいっているんだ? こいつは?
「えぇーーーっ!! ジョウイが結婚―――!!!」
ジョウイが、結婚した? そしてその相手がジル・ブライトだってのか?
「ええ、そしてジル様がジョウイ様に皇王の位を譲られました故、今はジョウイ様がハイランドの皇王です」
「は、はは……」
乾いた声が漏れる。ジョウイが、皇王? あの裏切った国の王になったってか。なんの悪い冗談だ?
とにかく正式な使者としてデュナン軍リーダーに、公式的に書状を渡したい。ということで、それから馬を借りてデュナン城に戻った。クスクスにいた兵士の一人に先触れとして馬を飛ばしてもらい、デュナン城での受け入れ態勢を作ってもらう。
ジョウイが、あの一緒にどろんこになって遊んだジョウイが皇王。そして和議。俺の頭はしばらく麻痺したままだった。
§
さて、和議の使者であるクルガンがやってきたね。だけどこの城にはピリカがいない。つまりあの場に引き出されたらリオウは死ぬ、かそれに近い扱いになるだろう。手を打たなくては。
「皆、聞いてくれ」
広間でリオウが口を開く。
「既に聞いているだろうけど、ハイランド王国の使者としてクルガン殿が訪ねてきた。彼は、俺達と和議を結びたいと言っている」
リオウはクルガンと一緒に広間の中央へと。
「おいおい、本当かぁ?」
クルガンは集まっている将の顔を見回して、しかし落ち着いた雰囲気のまま言った。……敵の居城だってのに。さすがに肝が据わっている。
「今まで敵同士だったので、突然の申し出に信じられない気持ちもわかります。ですが私はハイランド皇王、ジョウイ・ブライト様の使いとして、正式にデュナン城を訪れているのです」
「ジョウイって、あのジョウイがハイランドの皇王ねぇ……」
ビクトールががしがしと頭をかきながら言う。ジョウイを知るアナベルさんやジェスも複雑な顔だ。
「ジョウイからの申し出というわけですね。ある程度信用はできます。続きを、使者殿」
僕は話の続きを促す。
「はい。先王ルカ・ブライトはすでに亡く、新王ジョウイ様には戦争を続行するお気持ちはありません。我がハイランド王国と都市同盟との間に、休戦協定を結ぶことを望んでおられるのです」
「休戦協定だと?」
ジェスはとても信じられないといった風だ。当然だね。先に休戦協定を破ったのはハイランドなんだから。
「本来ならミューズ市市長であらせられるアナベル様との間に結ぶべきですが、現在ミューズ市は我らが占領しております故、できればアナベル様と新同盟軍のリーダーリオウ殿にミューズまでお越し頂きたく参上いたしました」
「ちょっと待った」
そこで口を挟む。
「デュナン軍の将であるティル・マクドールと申します。少しだけ口を挟ませて下さい」
そう言って進み出る。皆の注目も集まる。
「こう言っては失礼かもしれませんが、確かに今ミューズ市は貴軍に占拠されています。でしたらのこのこと足を運んだら兵士に囲まれる、という危険性を危惧しないわけにはいきません。そちらから申し込んできた、どうしても結びたい休戦協定だと言うのなら、場所はこちらで指定した所にお互いが足を運ぶ、というのはどうですかね?」
「…………」
ふっふっふ。転生者を舐めるな。この状況は想定済みよ。
「まあだからと言ってこちらの支配下にあるクスクスだとかサウスウィンドゥだとかデュナン城に来いというのもそちらに同様の危惧を抱かせるだけでしょう。というわけで、現在誰のものでもない中立地帯での協定交渉を行うというのはどうでしょうか?」
「中立地帯……ですか」
そんな場所ないだろう、という顔のクルガン。ま、ね。まさかトラン共和国にリオウとジョウイが行くわけにもいかんしね。
「一番簡単で罠なども仕掛けにくい場所があるではないですか。……『デュナン湖の湖上』ですよ」
「――!」
驚くクルガン。
「都市同盟はクスクスから出航し、ハイランド王国はコロネから出航する。そしてデュナン湖の中央で、お互いが船に乗った状態で交渉を行うんですよ。これなら兵士を伏せられる危険性をある程度削ぐことができます」
船に乗れる人数なんて限られるからね。それに外から見れば乗っている人数はある程度わかるし。続きを話す。
「例えば、都市同盟側の船で交渉を行いましょうと言って、リオウとアナベルさんがいる船にジョウイ皇王を乗せたとします。そうすると、ハイランド側としては、皇王が謀殺されるかもしれない、と不安になるでしょう。しかしそれは防げます。いざとなったら、『ジョウイ皇王を害するつもりなら、こちらの船から火矢などを飛ばして攻撃するぞ』と宣言しておけばいいのです。もし都市同盟がジョウイ皇王を害する気配を感じたら、そちらからの攻撃で船ごと沈めてしまえばいいのですよ。そうすれば皇王は殺されても、そちらも都市同盟のリーダー二人を殺害できます。ね? 『そうされる恐れ』があれば、片方が船の中に兵を伏せることはできなくなります」
今話したのは都市同盟側の船にジョウイ皇王を乗せるという話だが、ちょっと考えればわかるだろう。「ハイランド王国側の船にアナベルさんとリオウを乗せる」場合でも同じことができると。つまり、二人を謀殺しようなんて考えるなら、デュナン軍が船ごと攻撃してジョウイ皇王も殺すぞ、というわけだ。お前らの思い通りになんてさせるかよ。
そんな事態になったら、リオウというリーダーを失うデュナン軍だが、ハイランド王国もせっかく立てた皇王が死ぬことになる。それならば、この船上での交渉という話には頷けないだろう。だが和議を申し込んできたのはそちらだ。場所ぐらいはこちらが指定するということにしてもいいだろう。これで「いや、場所はあくまでこちらが指定したミューズで」と言い張るなら謀殺の可能性百パーセントだ。リオウもアナベルさんもそんなところには行かないよ。
「…………」
「…………」
「…………」
広間には沈黙が下りた。それは無茶だろう、と皆の顔が言っている。ふふふ、でも、
「そういう状況なら、片方が兵士を伏せることはできなくなります。撃墜される恐れで互いを縛りあいますからね。と、言うことで、そちらが『どうしても』休戦協定を結びたいなら、船上での交渉、事務手続き、協定への調印を認めて下さいよ。どうしてもと言うならね。まさか……断りませんよね? どうしてもミューズ市へ来てくれとか言いませんよね? そんなことはないですよね? 兵士を伏せるのでなければ、場所の指定を認めて頂けますよね? ということで、ジョウイ皇王に私の意見(場所の指定)について問い合わせてくれると嬉しいです」
はっはっは。答えられまい。ミューズで兵を伏せるつもりのそちらにはなぁ!
§
……………………結局、クルガン殿は「ジョウイ様にご確認しませんと……」と言って帰って行った。彼が哀れに見えたのは気のせいではあるまい。それにしても……。
「ちと、腹黒すぎやしないかい? ティル」
アナベルさんの言葉、みなもうんうんと頷いている。
「ふふ、ミューズで兵を伏せるつもりがないのなら、了承してくれるはずですよ。逆にどうしてもリオウやアナベルさんを殺したい気なら、あの帰って行ったクルガンさんはしばらくの間、再度の訪問はしないでしょうねえ」
そりゃあそうだ。兵を伏せて害する気持ちなら、こちら(ティルさん)が要請した“場所の指定“には簡単に頷けないだろうし、「場所はそちらが指定したところでいいですよ」と答える使者を送るのもできないだろう。ティルさんの打った一手は、ハイランドの真意を図る一手となったのだ。
……………………………………結論から言おう。それから一月経っても、場所の指定を了承したという使者がやってくることはなかった。ハイランドの協定を結びたいという意思は、嘘っぱちだということが判明したのである。
後書き
これはひどい。話の内容も酷い。会談というタイトルなのに会談していないのも酷い。
この話の冒頭にジュドの守護神イベントを入れておいたのですが、雰囲気に合わないので削除しました。まあこのイベントを楽しみにしていた人なんていないでしょうが、そういうわけで守護神イベントはなくなりました。