ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第24話 グリンヒル奪還

 ネクロードは三人の力によって死んだ。三人はようやく奪われた過去を取り戻したのだ。ゾンビは全て土に還った。捕まっていた二人の女性も無事に解放された。

 

「お父さーん。怖かったよぅ」

 

 父親のグスタフさんに抱きつく幼女リリィ。

 

「リリィ、無事だったか!」

 

「おお、ロウエン無事だったか」

 

 山賊のロウエンも。すると彼女は怒りを顔に浮かべて歩いてきた。

 

「ふざけんな、このうすばかやろう!!! コウユウは助けに来たってのに、てめぇはどこにいやがっったんだ!!」

 

 いや、グスタフさんとギジムは兵を率いてゾンビと戦っていたんだよ。軍を率いて雑魚敵とやり合っていたんだ。

 

 さて、吸血鬼問題は解決したが、デュナン軍のリーダーであるリオウが……。と思ったらオウランを連れて現れた。いや、オウラン「が」連れてきた、かな。

 

「おお、リオウ殿」

 

「…………」

 

「リオウ……」

 

 リオウは、精神状態が限界のようだったが、グスタフさんと話をした。オウランが何か言ったのだろうか? とにかく、ティント市国との同盟も結ばれ、占領されたグリンヒルと約半数が残るマチルダ騎士団以外の同盟領が新同盟軍の味方となった。

 

 僕達はラウラと、新しく僕と契約してくれたゲオルグさんを連れて、デュナン城へ戻った。それとマルロもくっついてきた。灯竜山の三兄弟及び山賊達とティントの兵も一緒だ。これで兵力は三万五千に到達。

 

「対する王国軍は総兵力五万。しかし皇都の防衛に、常に二万の兵力を()く。これでこちらの兵力は敵を上回った。だが油断はできん。できんがしかし、攻勢に出る頃合いだろう」

 

 軍師のシュウが言葉を並べる。

 

「いよいよまともに戦えるってえわけだ」

 

 とビクトール。

 

「…………」

 

 ただいまデュナン城の広間で軍儀の真っ最中。当然そこにはリオウもいるが、彼はずっと沈黙したままだった。無理もない。唯一の親族を失ったのだから。そして親友は敵方の将軍で皇王……。むしろ、今ここにいて逃げ出していないのが不思議なくらいだ。

 

「まず攻めるはグリンヒルだ。ここを奪還できれば、後はミューズだけに集中できる」

 

「情報では、王国軍は今ミューズに部隊を集めているようです」

 

 アップルが発言すると、リドリーも口を開いた。

 

「部隊を集結させているということは、再びこちらを攻めるつもりでしょうな。だが同時に好機でもある」

 

「うむ、グリンヒルを攻略する」

 

「いよいよ……グリンヒルに……」

 

 感慨深く呟くのはテレーズさんだ。シンもぐっと頷いている。

 

「グリンヒルには王国軍の新たな将軍、ユーバーという男がいます。正体は不明で、魔物ではないかという噂も……」

 

 ユーバー、出てきたか。ペシュメルガは張り切るだろうね。

 

「ミューズの王国軍にデュナン城を攻められない為には、速戦あるのみだね」

 

「ああ。…………リオウ殿、それでよろしいですか?」

 

 みながリオウを見る。しかし、

 

「うん。それでいいと思います。よろしくお願いします」

 

 リオウは周りの心配とは裏腹に、平静に言葉を返した。

 

 ナナミの死、その知らせがデュナン城を駆け巡り、城は悲しみに包まれていた。リオウの精神状態は、誰にもわからない。ただ、ティントから戻りしばらくの間部屋にこもっていた彼だが、今回の軍儀には出席した。その表情には揺らぎが見えず。態度もおかしいところはなかった。

 

(おかしいところがない、だって?)

 

 そんなこと、あるはずがない。おかしくないのが逆におかしい。リオウが普通の精神状態でないことは、誰の目にも明らかだった。

 

 だが、表面上はいつもの調子に戻ったと見えるリオウに対して、何かを言える人間などいなかった。僕達は実務的に動いた。リオウについては、彼が自分から内心を語るまで、待つしかないだろう。いつしかそんな雰囲気になっていた。

 

 そうして、グリンヒル攻略戦が始まる。

 

 

     §

 

 

「リオウ殿……ナナミのことは、私も残念に思います。ですが……」

 

「……」

 

「デュナン軍から脱退するという置き手紙。読ませて頂きました。ですが、貴方は多くの人々に必要とされているのです。もし貴方が痛みを感じているのだとしたら、それは貴方を信じて戦っている者達の痛みでもあるのです。その痛み、どうかそれをお忘れなきよう……」

 

 わかっている。わかっているつもりだ。俺はその信頼に背を向けようとした。そうしたら、まるでそれを罰するかのようにナナミが……。

 

「リオウ。辛いかもしれねぇが立ち止まっちゃいけねえ。リーダーとして甘えることは許されねえんだ」

 

 甘えるつもりはない。だけどナナミは俺にとって、たった一人の家族だったんだ。今だけは、ナナミの弟でいたい……。それすら、許されないのか。

 

「リオウ……すまない。僕は君が悩んでいることを知っていたんだ。逃げることは決して悪いことじゃない。リオウがデュナン軍から、リーダーという重責から逃れたいと思うならそうすればいいと思っていた。今も、リーダーをやめたいと言うならシュウやビクトール達がなんと言おうと、やめていいと思う」

 

 この人はずっとそうだ。俺に甘い。何故かはわからないけど。逃げることも許してくれた。

 

「だけど、敵が大勢いる場所だったんだ。君が逃げるなら、僕は君を守るように動くべきだった。せめて一人か二人でも君につけてあげていれば、ナナミは……。すまない、リオウ」

 

 どうして貴方が謝るんですか。ナナミが死んだのは俺のせいなのに……。

 

「少年。俺は新しくこの軍に入ったものだ。ただ、一つだけ約束してくれ。この戦いが終わるまで、俺はお前の為に剣を振るう。その代わりお前はこの戦いを諦めないこと。それを約束して欲しい」

 

 戦い、俺はまだ戦わなきゃならないのか。戦いを続けたらあいつを倒さなきゃいけなくなる。あいつを殺すことになる。俺にあいつと殺しあえって言うのか……。

 

「リオウ。……お前がリーダーとしての責務に傷つき疲れているのだとしたら、そこから降りるべきなのかもしれない。ただ、これだけは言っておく。もし今後もお前がリーダーを続けるというのなら、俺は俺の心に従って、お前を補佐しよう。アナベル様ではなく、お前の為に。人々の期待を一身に背負うお前を支えよう」

 

 わかっている。俺が支えているものもあるけど、俺のことを支えてくれている人達だってたくさんいるってことを。それでも俺は……。

 

 色んなことを考えながら城の中を歩く。

 

「よぉ、リオウか。珍しいな、こんな夜更けに。見回りか?」

 

 と、傭兵砦で雑用係だったポールさんだ。彼もずっとデュナン軍にいてくれる。

 

「なぁ、リオウ。お前は凄いな。俺は最初。お前がリーダーになるって聞いた時は驚いたんだ。皆を守れるのかなってね。でもリオウ、お前は立派なリーダーになったな。お前の為に戦うことが、平和への道なんだって信じられるよ。今は、辛いだろうけど。頑張れよ、リオウ」

 

「……ありがとう。ポールさん」

 

 人の優しい気持ちに触れる。すると少しだけ楽になった。階下に降りる。するとまた旅芸人の三人がいた。

 

「なあ、アネキ……この戦いがおわってしまったら……あたし達、やっぱりさ……」

 

「そうねぇ。やっぱり旅の暮らしに戻ることになるでしょうね。旅の一座が留まるわけにはいかないわ」

 

 ……戦いが終わったら、この賑やかな城ともお別れか……寂しい、な……。

 

「だいじょうぶだぁ」

 

「?」

 

「リオウも一緒に旅をする。そうすれば皆一緒!」

 

 三人と一緒に旅……か。そんな風に、なれたらな……。

 

 また、少し歩く。

 

「いいか、明日は大きな戦いだぞ!! いっぱい、いっぱい、かつやくだ!! コボルトの勇気を見せるんだぞ!!」

 

 ゲンゲン隊長だ。

 

「はい、ゲンゲンさん!!」

 

「でも、皆ゲンゲンのそばを離れるな!! あぶなくなったらゲンゲンが皆を守るぞ!!」

 

 守る……守る、か。俺は、守れなかったな。こんな紋章を宿しておいて、力を得ていて。たった一人の家族すら守れなかった……俺は駄目だな。爺さん……。

 

「もう、父さんてば! いつになったらお母さんに会いに行くの?」

 

 ツァイさんと娘のトモだ。

 

「あ、あぁ……それは、まぁ、この戦いが終わって平和になったら……」

 

 ここにも、平和を待つ人が。

 

「でも! 戦いなんだよ。お父さんがいくら強くてもさ……」

 

 心配そうに言うトモ。家族、なんだな。

 

「そうでしょうね。私も命を落とす危険がある」

 

「なら、なんで!」

 

「だからこそ、ですよ。……なぁ、トモ。私が戦いで死んだら、母さんには私は見つからなかったと伝えて欲しい」

 

 そんな。そんなの……悲しい。悲しいことを言わないでくれ。今、貴方達は生きているじゃないか。

 

「お父さんのばか……」

 

 涙を目に浮かべて走り去るトモ。…………俺は、守ってあげられるだろうか。こんな俺に……。人が死ぬのは悲しい……そうだ。悲しいんだ。爺さんが死んだ時も、天山の峠で仲間が死んだ時も、傭兵砦やミューズが落ちた時も……。俺は、ずっと、悲しかったんだ……悲しかったんだよ……。 

 

 そんな沈んだ気持ちで歩いて行く。酒場に人がいると思ったから。そしたらレオナさんに話しかけられた。

 

「レオナさん特製のホットレモンだよ。これでよく眠れるんじゃないかい?」

 

 気を使われた。優しい人達ばかりだ。

 

「ありがとうございます」

 

「…………リオウ、あんたはよくやってきたよ…………今までだって、頑張った。……だからね、もうちょっと、ちょっとだけ頑張ってごらんよ。それでも駄目なら、お姉さんが少しだけ慰めてあげる。だから、あと少しだけ……」

 

「はい」

 

 もう少し。俺は、勝てるだろうか。この戦いに。あの時なんの気なしに約束したジョウイとの誓いが、俺の胸を支配する。この地に平和を――。皆が、笑って暮らせるといいな……俺は、もう無理だけど……。守ってやれるだろうか。皆の笑顔を……。

 

「リオウ」

 

 声をかけられた。ティルさんだ。

 

「これから、戦いが終わるまで、僕は君を守る。今までもそう思っていたけど、これからも、だよ。ナナミの代わりはいないけど、代わりなんてできないけど、きっと君を守るから……」

 

 俺を……? 俺を、か。でも、俺はナナミ一人すら守れなかった、逃げ出したリーダーなんだ。そんな俺でも、もう一度立ち上がるべきなんだろうか? 人が死ぬのは悲しい。だからそれを回避する為に戦おうとすると、親友のあいつが、あいつの命が(おびや)かされる。親友を助けたければデュナン軍や都市同盟が脅かされる。また、二律背反だ。

 

 俺は呆然としたまま、機械的に言葉を発した。

 

「ティルさん。俺、……戦い、ます。もう……誰かが死ぬなんて悲しいことは嫌だから……」

 

 決意なんて定まっていない。気持ちのこもっていない言葉を吐いた。そしたら、

 

「うん、君は、それでいいと思うよ。誇らしい、僕達のリーダーさ」

 

 それが、正解なんだと言われた。俺は戦っていいんだろうか? ジョウイと、戦うべきなんだろうか? 定まらない気持ちを抱えて部屋に戻る。明日は、戦いだ。グリンヒルの攻略戦。その作戦はこうだ。グリンヒルにキバ将軍を大将とした軍を進める。援軍として攻めてくるであろうミューズの王国軍には、ハウザーさんを大将とした残存兵で防御する。また戦いだ。できるなら誰にも死んでは欲しくないな。そのことを考えながら、部屋に入った時だった。

 

「デュナン軍のリーダー、リオウだな。覚悟!!」

 

 いきなり攻撃された。体が反射的に動いてトンファーで弾く。

 

「誰だ!」

 

「問答無用!!」

 

 部屋の中にいた、褐色の肌に長い髪を独特な形でまとめている女性が襲いかかってきた。トンファーで彼女の武器、鞭を受け止めようとした瞬間。

 

「らぁ!!」

 

 部屋のすぐ外にいてくれたオウランさんが現れて女性を殴りつけた。すると開いたままの扉から、ティルさんも入ってきた。女性の放つ火魔法を土魔法で防いでくれた。こんな狭い部屋の中で無茶をする。

 

「くっ」

 

 三対一だ。女性はすぐに捕まった。

 

「リオウは傷つけさせないよ」

 

 ティルさんが女性を拘束しながらそう言う。……早速有言実行された。その時、気づいた。

 

『大丈夫だよ。お姉ちゃんがちゃんと守ってあげるからね。大丈夫だからね!!!』

 

『リオウ。リオウは生きなきゃ。生きるんだよ。リオウは私が守るんだ。じいちゃんと約束したんだもん!!』

 

 ……そう、か。ここで、俺が死んだら、ナナミが俺を守ってくれたことが全て無駄になる。それは、嫌だな……。死にたくないという気持ちより、ナナミの行動が無駄になるのが嫌、という気持ちが強くなった。ナナミ……。

 

「何故、リオウを? ハイランドの人間ではないだろう、君は」

 

「話すことはない。ただ一つ、リオウが死ねば、このくだらぬ戦いが終わるのだ」

 

 俺が、死ねば……。だけど、俺は死ぬわけにはいかない。ナナミの死を無駄にしない為にも。

 

 捕まった女性は牢屋に入れた。処遇は明日決める。俺の部屋、扉の外側には見張りの兵士が置かれることになった。

 

 そうしてベッドに寝転がる。考える。

 

(ナナミ……)

 

 俺が意識を失わなければ。紋章を使いすぎなければ。俺が二人で逃げ出さなければ、もっと人数が多ければ。そもそもあのタイミングで逃げるのではなく、安全なデュナン城にいる時にでも逃げ出していれば。逃げるにしても瞬きの手鏡を持って出ていれば。ティントになんて行かなければ。デュナン軍のリーダーにならなければ。シュウさんを仲間にしていなければ。新同盟軍に参加しなければ。ジョウイと戦いを終わらせる約束をしなければ。力を求めて輝く盾の紋章を宿さなければ。傭兵のように戦う道を選ばなければ。都市同盟に留まり続けなければ。傭兵砦から逃げ出していれば。あの滝に飛び込まなければ。ルカがユニコーン隊を殺さなければ。そもそもユニコーン隊に、軍に入らなければ。金に困っていなければ。爺さんが死ななければ。ジョウイと友達になっていなければ。俺が爺さんの養子になっていなければ。俺がいなければ。

 

 ナナミは、死ななかったのに。

 

 ずっと、それを考えていた。どこか一つでも違っていれば、ナナミはあそこで死なずにすんだ。俺がいたから、俺が生きていたから、ナナミは死んだ。

 

 夜はずっと考えて過ごした。眠れるわけもなかった。ただ、寝転んで考え続ける。

 

 一度は逃げ出した人間なのに、逃げてしまったリーダーなのに、皆は今まで変わらず接してくる。俺はまだリーダーでいる。ナナミが嫌ったリーダー。やめたらどうなるのだろう。いや、

 

『僕は誓うよ。この地に平和を取り戻そう。ほんのわずかな力しかない僕だけど、僕はその為に戦うよ……』

 

『ジョウイが戦うなら、俺だって一緒だ。一緒に、戦おう』

 

『うん……戦いを終わらせよう。僕らの大切なものの為に』

 

 戦いをやめたら。それもまた、ここまで歩いてきた道を、努力を、否定することになる。最後まで戦い抜くしか、ない、のか。

 

 俺に残されたのは、輝く盾の紋章、力。デュナン軍、リーダーという立場。そしてジョウイとの誓い。

 

 …………この地に平和を取り戻す。誓いは、果たせば消える、なくなるんだ。平和になればデュナン軍のリーダーでいることもなくなる。輝く盾の紋章はまた封印すればいい。

 

 ……………………なんだ。今までと変わりないじゃないか。戦争を終わらせる。それだけを、考える。そして、皆を、人を、誰かを、守るんだ。もう、人が死ぬなんて嫌だから……。

 

 

     §

 

 

 やはり暗殺者ルシアが入り込んでいた。何とかリオウは殺されずにすんだ。無気力になって無抵抗になったりもしていなかった。それは、いいことだ。だけど……。

 

 そしてルシアは牢を破って即日逃げ出した。そうなると知っていたが別にいいかと思った。彼女は三度こちらに立ちはだかる相手だが、殺さずにはすむ相手だ。彼女については襲ってきたら迎撃する。必要以上に殺したくない。甘いかな。リオウやデュナン軍の皆を考えたら、殺しておいた方がいいのだろうか。だけど、ただ殺すだけの戦いなんてしたくなかった。人が死ぬのは悲しいことだから。捕らえ続けておくのも……テレーズさんとの因縁を考えたら、ね……。

 

 グリンヒル攻略戦の日になった。僕はグリンヒルを攻略するキバ将軍の部隊に割り振られた。リオウは、中間地点で待機だ。全体の指示を出す。ミューズとグリンヒルの境には、ミューズからの王国軍であるジョウイやシード、クルガンに攻められるはずだ。しかしそちらは囮で、本命の王国軍、大軍がマチルダ騎士団に進軍するのだ。僕はその可能性をシュウに示唆しておいた。

 

 デュナン城からレイクウェストに移動し、トゥーリバーとグリンヒルの関所を通過する。ここは王国軍に占領されていたはずだが、水色の地に流水のような白い紋様が描かれた旗が見えた。トゥーリバーの旗が立てられていたのだ。トゥーリバー全権大使のマカイさんがいる。王国兵が守っていた関所を攻略していてくれたマカイさんに、挨拶とお礼をしてグリンヒルに向かう。

 

 大将はキバ将軍。部隊として僕、リドリー、バレリア、ペシュメルガの騎馬隊。アニタ、カスミ、ツァイの歩兵部隊。スタリオンの弓兵部隊。ルックとメイザースの魔法部隊。テレーズさんとシンも一緒だ。これだけの陣容でグリンヒルを攻める。……うん、やっぱり108星は頼もしいね。将の質は確実にこちらが上だ。そしてハウザーやビクトールを中心とした残りの将兵は関所で防衛戦だ。

 

 随伴しているシュウの指示通りに陣形を整え、突入する。敵は、防御を選んだ。グリンヒルの城壁に矢と魔法が飛ぶ。外に出ている敵兵には騎馬隊らが攻撃を仕掛ける。

 

(もろいな)

 

 主だった将は関所を攻める方に回しているのだろう。将がいない敵の兵はもろかった。こちらの攻撃にいとも容易く切り裂かれる敵軍。左側から矢が射掛けられる。そこに突撃。散々に敵を打ち破った。

 

 と、あれは――。

 

「ユーバー!」

 

「ペシュメルガか!」

 

 黒騎士ユーバーだ。奴が大将のようだな。ならば、ペシュメルガを中心に攻めるか。ルックから風魔法が、メイザースから火魔法が撃ち出される。敵軍に着弾したそれは、兵士を雲のように散らした。

 

 その時、右手側の森から伏兵が飛び出してきた。しかし地図を丹念に読み込んだこちらの軍師に隙はない。

 

「させません!」

 

 ツァイの槍兵部隊がすぐさま動いて伏兵を正面にとらえる。だが、左手側からも勢いのある部隊が突撃してきた。あれは――。

 

「カラヤの意地を見せろ!」

 

 族長ルシアを中心とした、カラヤ部隊だ。カラヤは都市同盟の西方に位置するグラスランドの部族だ。都市同盟とは、主にティントが国境争いをしている関係なので、ハイランドは都市同盟と戦う為に同盟を結んだのだろう。僕は馬を操ると、カラヤ部隊を相手にすべく自分の部隊を移動させた。

 

 

     §

 

 

 シュウさんはキバ将軍やティルさんの方、グリンヒル攻略に向かった。ビクトールさん達はミューズとの間にある関所を起点に防御戦だ。俺は中間地点に陣を張り、そこからアップルさんと共に指示を出す。

 

「申し上げます! ハウザー将軍の隊がミューズからの敵と遭遇しました!」

 

 最初の伝令だ。まずはそっちで戦いが始まったか。

 

「ミューズからの軍には、皇王ジョウイ・ブライトの姿あり! クルガンとシードの二将も同行しているようです!」

 

 ここでの指示は……。

 

「敵が押してきたら引き、引いたら押し、時間を稼いで戦うんだ」

 

 アップルさんも頷く。よし、あちらは本格的な戦闘をする必要はない。時間稼ぎで充分だ。

 

「申し上げます! グリンヒルで戦闘が始まった模様! 敵将ユーバーと、グラスランドの部隊がいるようです。」

 

「時間がかかってもかまわない、慎重に、被害を少なく、少しずつ攻めるんだ」

 

「はっ!」

 

 指示を出すのも忙しい。

 

「報告です。ミューズでの王国軍にはまるで戦う意思が見られないようです。ご指示を仰ぎたいとのことです」

 

「誘いには乗らず、慎重に攻め、守るんだ。向こうが戦わないなら、こちらも無理をする必要はない」

 

 上手く両方の軍を動かす。

 

「伝令です! ハウザー将軍は王国軍を退けたとのこと。グリンヒルへの援軍は防げました」

 

 よし、後はグリンヒルを攻めるのみ。

 

「シュウ軍師からの知らせです。王国軍はグリンヒル内部に、完全に退却したと。リオウ殿はこちらへ来て下さるように、とのことです」

 

 グリンヒルの攻略は上手くいったようだ。よし、行こう。

 

 

     §

 

 

 リオウの指示もあり、僕らはグリンヒル攻略戦に無事勝利できた。ユーバーとルシアという二人の将、そして彼らの兵に意思の疎通がまったくとれていなかったのである。楽に落とせた。まあこれは王国軍が本気ではなかったから当然なのだが。この間に王国軍はマチルダ騎士団を攻めているはず。元々グリンヒルは兵力も物資も少ない。うまみの少ないグリンヒルを占領し続けるより、騎士団を手に入れる。名を捨て、実をとったのだ。

 

「戦には勝利しました。しかし敵兵は中に閉じこもって篭城しているのです。市門が固く、攻めあぐねています」

 

 キバ将軍がリオウに報告する。

 

「なら内部から崩すしかないね。僕が手勢を率いて進入する」

 

「中へは私もついて行きます」

 

 テレーズさんが言い出す。

 

「お嬢様、そのように危険な……」

 

「私はグリンヒル市長代行。私が行かねば誰が行くというのです。私は行きますよ」

 

 さすがに肝が据わっている。では進入ミッションだ。テレーズさんとシンを連れて中に入る。仲間はグレミオ、テッド、ツァイ、トモ、カーン。近接、中衛、後衛と隙なく配置した。カーンに加えて僕も破魔の紋章を宿してある。土の紋章はテッドが。これで備えはばっちりだね。よし、それじゃあ抜け道は把握しているのだ。森の中にあるその道を歩いて行こう。魔物が出るけど人一倍張り切るシンがざくざく切り刻んでくれる。

 

「よし、行きましょう」

 

 進入すれば当然王国兵と戦闘だ。テレーズさんの前で人殺しは……と思うが、この人も市長(代行)。あまり軽く考えるのは侮辱か。と、待ち伏せだ。

 

「待っていたぞ。そこの女、貴様、テレーズだな。そいつらとまとめて首を叩き落としてやる」

 

 デュナン城に潜入してリオウを暗殺しようとした女性、ルシアだ。褐色の顔に怒りをにじませている。

 

「貴方は……?」

 

「カラヤ族の族長キヌア、その娘ルシア。それが我が名だ!!!」

 

 戦闘だ、カラヤ族の戦士も剣を構えている。

 

 僕は棍で空気を切り、ルシアに迫った。グレミオとツァイも近づいて戦士と切り結ぶ。

 

「ヤッ!」

 

 テッドの矢が戦士に刺さる。それで体勢を崩した相手に刃が斬り、突く。

 

「ぐっ、くそっ!」

 

 仲間を打ち倒されてルシアが苦汁に顔を歪める。

 

「都市同盟めっ」

 

 鞭が振られる。普通の武器とは違うまとわりつく、軌道。棍を旋回させて弾く。

 

「つぇあっ!」

 

 石突きで右腕を強く叩く。これで攻撃できなくなっただろう。

 

「もう武器も持てないだろう、降伏しろ」

 

 力量差さえあれば殺さずにすむ。父さんの時とは違うんだ。

 

「くっ…………!!!」

 

「何故、グラスランドのカラヤ族がこの戦争に関わっているんだい?」

 

 知っているが尋ねる。

 

「そうです、何故……?」

 

「貴様がそれを言うか、グリンヒルの娘が!!」

 

「どういうこと?」

 

「我らカラヤの民。貴様らの戦いでとばっちりを受けては、虐げられているのだ。そして! 我が父は、貴様の父アレクとマチルダ騎士団のゴルドーに誘われ、出席した友好の会議で毒殺されたのだ! 私が、小娘が族長を継げば、カラヤが大人しくなるとでも思ったのだろうが、下らぬ策略よ! カラヤの戦士は男も女も関係ない!」

 

 先代の都市同盟はホントだめだめだな。

 

「父上が、そんな……」

 

 顔を曇らせたテレーズさんが、シンを連れて進み出る。

 

「わかりました。この戦が終わったら、貴方の言っていることが本当かどうか調べます。そして、それが真実であったなら、我が父の罪を公表して報いを受けましょう。ですが、私と父は違います。そして今、立ち上がろうとしているリオウもまた、今までの都市同盟のリーダーとは違う方です。私達の戦い、それを見て判断して下さい」

 

 さすが、立派な人だ。それにしても、このルシアの父を謀殺した件は本当だったのだろうか? 結局作中では完全に明らかにならなかったと記憶しているが……。

 

「……私は敗北した。敗者には何も言えん」

 

 そう言うルシア。

 

「なら、ここを通してもらいましょうか。行こう、皆」

 

 ルシアやカラヤ戦士をそこに残して進む。相変わらず魔物や王国兵は出るが。ささっとやっつける。ルシアほど強くはない。僕は相変わらず必要以上に殺さないよう棍を振るう。

 

 抜け道からニューリーフ学院の中に入れたぞ。では市門を開けに行こう。

 

 さて、だだっと走って門の所に来た。王国兵の小隊と二回ほど遭遇したが倒して進んだ。と、いうところでこいつだ。ユーバー。ペシュメルガと同じ全身を黒い鎧と兜で覆った姿。

 

「ティル……真の紋章を破棄した……呪われし子……我が憎悪の元凶……我が悪夢の元凶……我がしもべ……悪夢から現れし別天地の化け物により、この世界から消え去れ!!!」

 

 この言いぐさ……やはりこいつも真の紋章に関係のある存在なのだろうか? 確か……八房の紋章、だっけか? そして召喚されるボス魔物。ボーンドラゴン。骨だけの恐竜だ。

 

「――守りの天蓋!」

 

「――破魔!」

 

「――破魔!」

 

 うーむ。ティントでの戦闘と変わらないなぁ。でもこいつにも破魔が効くんだから仕方ないじゃない。同じ展開になることを許しておくれ。

 

 ごっぉぉぉお!!

 

 骨しかないのに何故口からブレスが吐けるんだ?

 

「土魔法が切れたぞ。注意してくれ!」

 

 テッドから声かけがなされる。ならば、

 

「散開!」

 

 できるだけ散って全体攻撃の被害を少なくする。

 

「いきますよっ!」

 

「てぇーい!」

 

 ツァイとトモが連携して攻撃する。

 

「タランチュラよ、唸れ!!」

 

 シンの紋章による特殊攻撃も頼もしい。僕とカーンはひたすら破魔連打。それで、

 

 ぎぃぃぃ。

 

 仕留めた。消えていくボーンドラゴン。うん、やっぱ魔物は弱点を突くのが常道だよ。弱いところを攻める。これ常識。

 

「やったぁ! あの化け物が退治されたぞ!」

 

「王国兵が逃げていく……やったのね」

 

 市民が出てきて喜びの声を上げる。

 

「まだ……力は足りぬ……ティルよ……真の紋章に認められし者よ……戦いの炎を消すのは、容易くはないぞ……」

 

 ユーバーの言葉。知っているよ。戦いを治める辛さ苦しさは。それでも止まることはできないんだ。そう思っていると瞬間移動して消えやがった。くそ、全然仕留められないな。

 

 市門を開放する。外から入ってくるリオウ達。

 

「テレーズ様……やっと」

 

「ええ……」

 

「テレーズ様ぁ!」

 

「テレーズ様がお戻りになった! これでグリンヒルは元通りだ!」

 

 喜びに溢れるグリンヒル。だが。

 

「伝令ー! 伝令です」

 

 凄まじい速度でスタリオンが登場した。あの知らせか。

 

「シュウさんから伝令です。急ぎ陣に戻れと」

 

 やはりマチルダは落ちたか。次の戦いは厳しいものになるな。

 

 それはそれとして、グリンヒルの宿屋で最後の仲間、ピコが加入。ピコピコ。

 

「なによ! なんなのよ! 誰なのよ、その『アンネリー』って!!」

 

 こいつもたいがいナンパ野郎で、グリンヒルの女性に声をかけていたのだ。

 

「違うよ、メイリ。よく聞いてくれ。アンネリーっていうのは、俺の大事な……」

 

 アンネリー、アルバート、ピコで音楽隊をやっていたのだ。アンネリーがいれば問題はない。仲間になってくれる。

 

「あああ……酷い、酷いわ……。私にあんなに『愛してる』だの『君だけだ』なんて言っておいて!!」

 

「違うよ。アンネリーっていうのは俺の妹みたいな……」

 

「酷い! 酷い! 妹みたいに可愛がってるのね!!」

 

 あのー、アンネリーなら今デュナン城で歌ってくれていますよー。

 

「…………そうか、よかった。無事なんだな。あの娘が一人でいるかと思うと、夜も眠れなかったよ。わかった。僕もデュナン城ってところに行くよ」

 

「うわあああーーーん」

 

 一人の女性が不幸になってしまった。すまんメイリさん。

 

 ……しかし、この人が最後かぁ。なんだか締まらないなぁ。三年前はソニアが最後だったから余計に。……比べるのも無粋か。それに最後と決まったわけでもない。まだここから仲間に加わるかもしれないからね。

 

 

 

 現在の仲間、105人――。

(うち宿星でないティル、グレミオ、テッド、アナベル4人)

(戦死者ナナミ1人。彼女を含めると106人)

 







後書き
 リオウの思考が支離滅裂、ぐじゃぐじゃになってまとまっていないのは、意図してそうしています。彼はまだナナミの死を完全に受け止められていないのです。精神がガタガタに壊れて治っていないのです。

 ユーバーの正体……頼むから原作の続きで判明させておくれよ……。

 仲間にならなかった108星、フリック、ムクムク、ギルバート、アダリー、チャコ、シド、ホイの7人。106+7=合計113人、ティル以下4人と本来なら片方しか仲間にならないカスミとバレリアの重複分を差し引いて113-5=108人。
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