ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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最終章 約束の地へ
第25話 決戦


 取り戻したグリンヒル、その前の陣地で話す。

 

「伝令によると、王国軍は皇都の防衛軍を含む全軍を率いてマチルダ騎士団に攻め込んだという話だ。そして、マチルダだが……降伏した」

 

 その言葉を聞いて顔色を変えるマイクロトフとカミューを始めとする将達。

 

「しかしミューズの国境にはジョウイを筆頭にクルガンとシードもいたんだぜ。いつの間に?」

 

「将が囮で、兵のみがマチルダへ向かった……ということのようです」

 

 ビクトールの疑問に答えるクラウス。

 

「軍師レオン・シルバーバーグが王国軍を率いてマチルダに攻め込んだ。それに対してゴルドーは和解を申し入れた、と」

 

「自治権は騎士団に残すようだが、共同戦線を張るというものだ。つまり残りのマチルダ騎士団は、以降王国軍と共に我らに向かってくるだろう」

 

 苦い顔になるデュナン軍の将達。だが、どの道仲間になってくれなかったゴルドーや彼に従う騎士達だ。これで問題が一本化したのだ。すっきりしていいだろう。

 

 だけどそう思った僕は少数派だったようで、都合六万に膨れ上がった王国軍にみなは脅威を抱いていた。グリンヒルの兵が加わってくれたので、こちらも四万になったが。

 

「こっちは四万、敵は六万、都合1.5倍か……」

 

 呟くリオウ。

 

「リオウ君、シュウ兄さん。すぐにでもミューズへ進軍しましょう。今ならば、王国軍のほぼ全兵力はマチルダにあります。とって返しても、遠征の疲れがでるはずです」

 

 アップルの進言。うーん、確かこれって。でもミューズは奪還したいし……。でもなぁ。しかし……いや、その。

 

「…………そう、だな。それも良かろう。リオウ殿を大将、ハウザー将軍を副将、アップルを正軍師、クラウスを副軍師とする。ミューズへ、進軍してみよう。グリンヒルを拠点にしてな。俺とキバ将軍はデュナン城に戻っておこう。……アップル、虚に実あり、実に虚ありだ。用心するのだぞ」

 

 

     §

 

 

「あの人は……」

 

 グリンヒルでミューズへの出陣準備を終え、休んでいる時だ。見覚えのある女性が目の前を横切った。報告では戦闘したということだったけれど、まだここにいたのか?

 

「行ってみよう、リオウ」

 

 とティルさんにうながされたので、追いかける。何か工作とかされたら厄介だ。と――。

 

「ジョウイ!?」

 

 なんと皇王になったジョウイがいた。い、いくらなんでも無防備すぎるだろう。この場でこいつを捕まえれば……。

 

「ありがとう、ルシア殿」

 

 見かけた女性――ルシアというらしい――が最低限の護衛としてついている。ジョウイの横ですぐにでも彼を守れるように構えている。

 

「ジョウイ、どうして……ここに」

 

 呆然とする。

 

「リオウ、友として頼もう。今すぐデュナン軍のリーダーをやめて逃げてくれ。それと……その手の紋章はトトの村に封印するんだ」

 

 また、か。

 

「僕は……君と戦いたくはない。だから……」

 

「……それを言いたいのは俺も同じだ。お前と戦いたくない。だから皇王なんてやめて逃げろ、と言ったら聞いてくれるのか?」

 

「それは……できない」

 

 当たり前だ。皇王がそんなに軽くてたまるか。

 

「そうか。僕に捨てられないものができたように、君にもそれができたんだね。時が流れて、お互いに、昔のように……とはいかないんだね……」

 

 するとジョウイは自分の右手を掲げた。それに呼応するかのように俺の右手も上がる。またこいつが……勝手に。ああ、いとわしい紋章だ。

 

「リオウ……。この二つの紋章をそれぞれが手に入れたあの時から、僕達が戦うことは、定められていたのかもしれないね……」

 

「定められてなんかいないよ、ジョウイ」

 

 口を挟むティルさん。

 

「君が皇王になったのも、戦いを続けるのも、全て君の意思だろう。定めとか運命なんて口当たりのいい言葉でごまかさないでくれ。戦いで死んだ兵士に向かって、君が死ぬのは運命なんだよ、なんて、言わないでくれ。それは言い訳だよ。全ては自分の意思で行ったこと。これから行うことだって。そうだろう?」

 

「…………そう、ですね。運命があるとしても、僕は僕の想いを掴みとり、リオウはリオウの想いを広げた……そういうことですね」

 

 空を見上げるジョウイ。

 

「リオウ……ここは、ここはね。この地には、都市同盟とハイランド王国が両立するには狭すぎたんだ……。それが多くの悲しみと戦いを生んだ。ジョウストンの丘で、丘上会議を見たあの時に、僕の中には大きな疑問が生まれたんだ……」

 

「疑問?」

 

「肩を寄せ合う都市同盟の中でさえ、争い、嫉妬、反目があった。だからね、僕は、この地に一つの大きな国を打ち立てるんだ……王国も都市同盟も関係無い。強大な力を持った一つの大国。それこそが、この地から争いを無くす唯一の方法なんだ……」

 

 それは。かつてシュウさんが俺に語ったことでもあった。戦争を無くす方法――。だから、だから巨大な力を持つハイランド王国に戻ったということなのか……。

 

 …………そうか、これは俺と、ジョウイの戦いなんだ。考え方の違い。求める力の違い。つまり考え方の戦い。

 

 俺が全ての同盟領を説得して、力を合わせ、ハイランドを破れば俺の勝ち。力を合わせる、団結することこそが力、という俺の考えの勝ちなのだ。

 

 だが、逆に団結がならず皇王が治める意思統一された一国のハイランドに敗れるようなことがあれば、強大な力を持つ一つの国、ハイランドの方が強い、というジョウイの考え方の勝ち。そういうことなのか。

 

 くるり、と後ろを向くジョウイ。

 

「リオウ、僕はハイランド王国の皇王として、この地に新しい秩序を打ち立てるよ」

 

 ジョウイ、お前がハイランドの王として、一国の強さでこの地を統一するというのなら、俺は新同盟軍のリーダーとして、力を合わせる強さでこの地に平穏を築こう。それが、俺が見つけた、今まで歩いてきた道だ。

 

「さようなら……リオウ」

 

 友が、俺の目の前から、去ろうとしていた……。ミューズのあの時のように。だけどあの時と違うことが一つ。あの時は心までは離れていなかった。お互いを大切に思い合い、それぞれの身を案じていた。だけど今は違う。さようなら、別れの言葉。ジョウイは俺が戦いの中で死ぬことすら考えて、敵対する陣営に戻ったのだ。そして、俺も……。

 

 俺は去ろうとするジョウイにナナミのことを言おうかと思ったが、それを知らせてどうなるのか、と思ってやめた。これ以上悲しみを広げてどうするというのだ。どの道俺が戦いに勝てばジョウイは……。なら、わざわざ悲しむことを知らせる必要なんてない。知らないまま、そのままで……。

 

(ナナミ……お前が生きていたら、ここにいたらどんなことを言ったのかな……昔みたいに……とか、言ったのかな……)

 

「リオウ……戻ろう」

 

「ええ……」

 

 運命なんてない。その言葉はある意味最も悪い言葉なのかもしれない。レックナートが俺とジョウイが戦うことは運命だと言った時、俺の体には怒りが満ちた。ふざけるなと思った。だけど、運命だとしたら、それは自分の力ではどうしようもないことだ。しかし、「運命がない」のだとしたら、俺達は自分の意思で親友と戦う、殺し合う道を選んだということになる。

 

(そっちの方が……残酷だ)

 

 ジョウイはジョウイの意思で俺と戦う。俺は……俺の、意思は……ジョウイと、戦いたくない。だけど、逃げることはできない。もう、逃げたくはないから……。

 

 

     §

 

 

 グリンヒルの北、少し高く丘になっている場所へやってきた。そこに金髪の女性――エルザは無防備に立っていた。

 

「おや、元気にしていたかい、クライブ」

 

 デュナン軍の情報網に引っかかったので、クライブを連れてきたのだ。そして相変わらず綺麗にスルーされる僕。

 

「理由を聞かせてもらおうか?」

 

「理由? いったいなんのことだい?」

 

「貴様が……騎士クラスガンナーが的を外すなどありえない」

 

「それが、聞きたいことなのかい?」

 

「いや……」

 

 思案するクライブ。

 

「もう一度だけ、貴様に聞く。何故、兄を殺した?」

 

「兄? ギルドで一緒に育っただけだろう? 優しい男だね、クライブ。その心の幾ばくかでも、ケリィの中に見いだせたら、私は、あんなことはしなかったよ。私はね、嫌気がさしたのさ。ギルドの掟、永遠に続く権力への乾き、聖者がさもしい鬼に変わる悲しみ。あの腐った中庭に、あんたらは育ち……やがてガンとギルドの掟に取り込まれていく。そいつに、ピリオドを打ってやったのさ。このシュテルンとモーントでね」

 

 懐から二丁のガンを取り出して構えるエルザ。

 

「ならば!! 何故、あの時俺を助けた!!!! この俺を撃ち抜いたらどうだ? 女狐!!!!!」

 

 クライブの言葉の途中でガンをしまうエルザ。すたすたと歩ってクライブに近づく。

 

「クライブ、もうおやめよ。ギルドに尽くす理由はないはずだ」

 

 クライブの横を通り過ぎて、彼の後ろに歩く。クライブは振り返りガン――シュトルムを構える。

 

「ギルドと兄は、俺を世界に繋ぎ止めるよりどころだった。お前は、既に兄を奪った。この手に残った、ただ一つの安らぎを消し去る理由など、お前にはない。祈れ、今こそ執行の時だ」

 

 無防備な背中をさらすエルザ。このままでは彼女は撃たれて死ぬだろう。このままなら。

 

「シュトルム」

 

 呟くエルザ。ガチンと音を立てるクライブの銃。

 

「シュトルム、どうして、弾が…………」

 

 やはり弾は出なかった。

 

「可哀想な、ぼうや……ギルドは絶対ではない……ハイランドの皇都ルルノイエの西に小さな村がある。私は、そこにいるよ……」

 

「何故……何故だ、シュトルム!!!! 何故だ!!!!!!!!」

 

 叫ぶクライブ。だが、シュトルムは沈黙を保ち続けた――。

 

「すまない……ティル……ここまで来て……」

 

「彼女……エルザを追おう、クライブ。全ての答えはきっとそこで出るはずさ」

 

 沈むクライブに声をかける。

 

「…………ああ」

 

 長かった彼の旅路も、次で終わりだ。最後は、あの村で。

 

 

     §

 

 

「ミューズが見えたぞ!」

 

 アップルが進言した通り、デュナン軍はミューズへと進軍していた。もう懐かしくなったあの都市が見える。

 

「敵軍の抵抗がありませんでした。何かあるかもしれません。気を抜かないで」

 

 クラウスの助言。ミューズはもう……。

 

 戦場となるミューズ前の草原。そこにはルシアを初めとするカラヤ族が。そうだな、兵力は削いでおかなければならない。ならこの一戦も必要なこと……か。

 

 激突する両軍。デュナン軍は矢の陣形をとった。それに対し王国軍は三列横並びの壁の陣形。デュナン軍が攻め、王国軍が守る。その中で攻撃が乱れ飛ぶ。

 

「矢を放て!」

 

 エイダとキニスンの隊が一斉に矢を放つ。マクシミリアンとペシュメルガ、ゲオルグが騎馬兵で突撃する。その後ろ、ルックとメイザースの部隊から魔法が放たれる。敵の前衛をカラヤが務めているのだ。僕はアップルに提言してカラヤの兵を削らせた。そうして戦いが暫く続いた後、

 

「王国軍が!」

 

「引き上げていくぞ!」

 

 後方の王国軍。ジョウイやクルガン達は引き上げてしまった。その場にはカラヤ族だけが残された。酷い仕打ちだ。しかしカラヤ族とて覚悟の上だろう。

 

「我が身に宿る烈火の紋章よ……!」

 

 メイザースの火魔法が敵軍を燃やす。それをルックの風魔法があおる。びゅうびゅうと吹く風が炎を巨大に……。

 

「うあああぁ!!」

 

 その場にはカラヤ族のうめき声が木霊した。人が燃える残酷な臭いが鼻をつく……。

 

「ルシア族長! 逃げろぉ!」

 

 ルシアを逃がすカラヤ兵。それを程々に追撃しながら、僕らはミューズへと辿り着いたのだった。一応は勝ちの目を拾えた。

 

「奴ら、尻尾を巻いて逃げやがったな」

 

 呟くビクトール。だが()せない、という顔だ。

 

「絶対に何かある。油断しちゃあ駄目だ」

 

 戒める。兵士に無駄死になんてして欲しくない。

 

「伏兵がいるかもしれない。僕が手勢を率いて内部を確認してくる」

 

 グレミオ以下何名か将をまとめる。

 

「わかったわ。お願いティル」

 

 アップルの了解をもらって、ミューズの城壁の中へと。

 

「潜んでいる兵士に注意してくれ!」

 

 グレミオ達に声をかけて中へと。

 

「雰囲気がおかしいですね……」

 

 グレミオの呟き通り、明らかに気配が違う。と、

 

 ぐぉぉぉおおお!!

 

 金色(こんじき)の狼!

 

 がぉぉぉぉぉ!

 

 吠えた狼から紫の光。炸裂弾のようなそれが僕達を襲う。

 

「――守りの天蓋!」

 

 防いで反撃だ。こいつは魔法に強いはず、だから直接攻撃で攻める。

 

「はっ!」

 

 ドコン、と頭を上から打つ棍。そこにグレミオが斧を振り下ろす。テッドも矢を突き立てる。

 

「まったく、飽きねえ戦いだぜ!」

 

 ビクトールの星辰剣が閃く。追撃するゲオルグの剣でとどめだ。狼はいなないて消滅した。

 

「消えた……何がどうなってやがるんだ?」

 

 テッドの疑問はさておき、

 

「とにかく退避だ!」

 

 すると、逃げようとしたミューズの道に多数の狼が。

 

「あちこちにいやがるぜ!?」

 

「上手く移動して逃げよう」

 

 逃げの一手だ。走ってミューズの門から外に出る。すると中を覗いているみなが。

 

「一体……あれは……」

 

「ティル、大丈夫?」

 

「問題はないよ。負傷なんかもなし」

 

 全員の体調を確認していると、

 

「“獣の紋章”の眷属……しもべだね」

 

 ルックが解説してくれた。

 

「“獣の紋章”?」

 

「ああそうさ。ハイランド王国がハルモニア神聖国から分かれた時に、神官長ヒクサクからブライト王家に伝えられたって話を聞いたよ。27の真の紋章なんだ」

 

「その紋章の配下ってわけだね」

 

「では、ミューズの付近で虐殺を行っていたというのは……」

 

 クラウスが思案する。

 

「奴らがいるってことは、“獣の紋章”を目覚めさせるのに、血が必要だったんだろうさ」

 

 それ以上は詳しいことを知らないルックだったが、とにかくまずいことはわかった。それと、

 

「紋章自体はどこかに運び去られたようだよ。力を感じない……」

 

 僕の知識が確かなら、ハイランドの宮殿に運ばれたはずだ。最後はアレと戦うのか……うう、また大勢を引き連れて行くしかないな。

 

「リ.リオウ殿! 王国軍が、王国軍が戻ってきました!!」

 

 飛び込んでくるのはフィッチャーだ。

 

「この時を狙っていたというわけですね……奴らは狼を解き放ったミューズを餌に我々を壊滅させるつもりです」

 

 さすが軍師。冷静だねクラウス。

 

「奴ら、北と東から攻め込んできています。逃げるなら西に……」

 

「いえ! 相手の狙いは、こちらを対応させないことです。攻めてきているのは少数で、西と南には伏兵がいるはずです。ハウザー将軍、軍をまとめて北へ。攻め手の真ん中を突っ切って下さい。それが一番伏兵の恐れがない場所です」

 

 アップルが戦場を読む。それもあって、何とか逃げることができた……しかし、勝った後に敗走……か。なんともしまらない結果になったね。

 

 

     §

 

 

「リオウ殿、マチルダ騎士団を落とされたことは確かに痛手です。ですが、その行動はルカという巨大な戦力を失ったことによる焦りだと思われます。グリンヒルを失うことを対価とした強引な攻めにもそれは現れています。それに対し、我々はティント、グリンヒルと大きく勢力図を広げました。今、勢い、時勢はこちらにあります」

 

 デュナン城に戻って軍議。ミューズではしてやられたが、確かに勢いはこちらにある。

 

「時勢か……確かに、攻めるべき『時』というのは存在するね」

 

「じゃあ、これからマチルダ騎士団を攻めるんですか?」

 

「そうです。時を置けば王国軍は再び侵略の手を伸ばしてくるでしょう。王国軍が一箇所にまとまっている今こそ、更に打って出るべきかと」

 

「わかった。シュウさんがそう判断したなら俺は信じるよ。軍を進めよう。……戦おう」

 

 という話し合いの結果、マチルダ騎士団への進軍が決定された。斥候からの情報によると、王国軍はロックアックス城に駐屯したままらしい。これはつまり、防備に適した城でこちらを迎え撃つつもりなのだろう。

 

 ミューズから撤退したのだ。ロックアックス城から、マチルダ騎士団領から敵を撃退できれば、王国軍の領土は元のハイランド王国内だけになる。ミューズが獣に占拠されてはいるが。

 

 この戦が決戦になる。ここで勝てればほぼデュナン軍の勝利は確定したようなもの、もちろん油断はできないけど。しかしここで負ければこちらの軍は崩れるだろう。そして各個撃破されていく。負けるわけにはいかない。

 

 広間に、主だったメンバーが集結した。

 

「みな、聞くのだ。王国軍はマチルダ騎士団を指揮下に収めた。ルカ亡き今も侵略を続けているのだ。兵力はおよそ六万、それに対する我がデュナン軍は四万ほどだ」

 

 シュウさんは言葉の内容と同じく厳しい目つきだ。

 

「明日、我々は王国軍を倒す為にマチルダ騎士団領に向かう。策はこうだ。我々は軍を二つに分ける。キバ将軍に五千の兵を率いてもらい、ミューズ東部に進みハイランド南東部のキャロを攻めると見せかける。キャロはハイランドの喉元、王国軍も軍を分けて防衛に向かわせるだろう」

 

 そこで言葉を切る。みなに策が浸透していくのを待つように。

 

「次にグリンヒルを通り騎士団領に攻め込む。恐らくマチルダに残る王国軍は三万と見た。我々は対する我が軍は三万五千」

 

 しんと静まり返る広間。俺は口を開く。

 

「……シュウさん、そうするとキバ将軍は五千で三万の軍を相手取ることになるよ」

 

「リオウ殿、心配めされるな。我らは囮に過ぎません。敵を限界まで引きつけたら、退却します。南に下ってラダトを通り、橋を落とせば良いのです。さすれば三万の軍でも恐れることはありません」

 

 嘘だ、と思った。本当は死を覚悟して徹底抗戦するつもりなのではないか? 言葉通り退却しようとしたら、敵はマチルダの方に戻るだろう。だからキバ将軍は最後までそこに留まり戦い続けるつもりなのだ。……捨て石。なんだ。だけどそれしかデュナン軍が勝つ方法はない。そうシュウさんは判断したということか。きっと事前にキバ将軍とは話してあったのだろう。

 

「皆、この戦いは、大きな賭けになる。我が軍と王国軍は全力でぶつかりあうことになるだろう。今までにない熾烈な戦いとなる。追いも咎めもせぬ。命を惜しむものはこの場から去って良いのだ」

 

 広間はざわめきに包まれる。しかし立ち去る者は誰もいなかった。やがて静まる広間。みなの目は自然、リーダーの俺に注がれる。

 

「俺はやるぜ! 今更惜しむ命でもなし。心臓が破裂するまで戦い抜いてやる!」

 

 ビクトールさんが吼える。

 

「僕も、最後までこの軍と命運を共にするよ。皆の力を合わせて王国軍を破るんだ!」

 

 ティルさんも意思を表明する。

 

「いくぞぉ、リオウ!!」

 

 ボルガンさんが叫ぶ。

 

「コボルトの強さを見せてやりましょう!」

 

 リドリーさんも拳を握る。

 

「この命、都市同盟の為に!」

 

 マイクロトフさんが手を心臓に。

 

 やがて広間はみなの声で溢れた。そして、俺は――。

 

「マチルダで、決戦だ。皆がいたから俺は戦ってこられた。今度も思い切り戦う。この胸の誓いに恥じない戦いを。そして、この戦いを終わらせるんだ! 力を貸してくれ!」

 

 俺が革手袋を外した右手を掲げる。そこには光輝く紋章が――。

 

「おおおおおおおおお!!!!!!」

 

 叫びが城に木霊する。行くぞ! 決戦だ!!

 

 

     §

 

 

 俺は朝早く目覚めて、キバ将軍の見送りにきていた。シュウさんの策では、キバ将軍の囮部隊が先に出発する。騎士団領から敵を誘い出す為に。その場にはシュウさんや他のメンバーもいる。みなの声に馬上で頷くキバ将軍。

 

「将軍、どうかお気をつけて!」

 

 キバ将軍はにっこりと微笑んだ。いつになく優しげな表情。それで、確信が持てた。やはりキバ将軍は……。

 

「将軍、俺達もマチルダで戦います。だから将軍も……無事に帰ってきて下さい」

 

「わかっております、リオウ殿。その温かいお言葉、胸に染みます。どうかご武運を。そしてクラウスをよろしく頼みます」

 

 俺の隣にクラウスさんが寄った。

 

「クラウス、リオウ殿にお仕えするのだぞ。お前のような息子をもって、わしは誇りに思う」

 

「父上も、私の誇りでした……」

 

(ああ、クラウスさんも気づいているんだな……)

 

 肉親を戦場に送る。その内心を思って俺は心を乱した。だが、ここで戦をやめることはできない。最後まで戦い抜かなければならないのだ。でなければ、今までの犠牲が無駄になる。たとえ両手が、いや、全身が血に塗れようと、進むしかないのだ。俺達は。

 

 キバ将軍が出立すると、本隊の方も素早く出陣の準備に追われた。大勢の人が動いている。その一人一人が心を持っているのだ。俺はその事実に体を震わせた。

 

 デュナン城を発つ。トゥーリバー、グリンヒルを通って騎士団領へ。一歩進み、一夜野営するごとに、決戦に向けて気持ちが高まる。部隊は俺や軍師がいる本隊。騎馬隊のビクトールさん、バレリアさん、マイクロトフさんにカミューさん。歩兵のリドリーさん、ハンフリーさん、ティルさんにアニタさん。弓兵のスタリオンさんにローレライさん。

 

 デュナン城を出発して十日以上経ち、ようやく騎士団領内に進入する。その間、敵は一切姿を見せなかった。どうやらロックアックス城で戦う腹積もりらしい。行軍中には何度も伝令が行き来し、それによってキバ将軍の元にレオン・シルバーバーグ殿率いる三万の王国軍が向かっているらしい。

 

(俺達が素早くロックアックス城を落とせば)

 

 そうすれば、キバ将軍も……。

 

 騎士団領に入って二日目の夜。俺達はロックアックス城を遠目に見える丘へと辿り着いていた。その明かりを眺めながら、軍儀を開く。

 

「ロックアックス城はその背後に岩山がある。そう簡単には落とせぬ堅固な城だ。真っ向からでは歯が立たん」

 

 俺達は頷いて話を聞く。

 

「そこで危険ではあるが策を打つ。騎馬隊及び歩兵二隊を城手前の草原に展開。王国軍に挑む。敵は打って出てくるだろう。それを引きつけながら、後退しながら戦うのだ。城から引き離す」

 

「残りの部隊は?」

 

「第二陣として攻撃する。山伝いの森を潜行してもらう。敵の本隊が城から離れたのを確認して背後から急襲するのだ」

 

 いつになく厳しい表情のシュウさん。

 

「リオウ殿、この戦いに勝利する為なら、私は将にも兵にも命を捨てさせる所存です。勝利の為ならデュナン軍にいる全ての人間を戦場に立たせましょう」

 

 シュウさんは苦しい瞳をしていた。いつかのラダトでの会話が思い出される。戦で失われる命を背負うのはごめんだと言った彼を。この戦いで、一番苦しんでいるのはシュウさんかもしれないと思うと、俺はそれ以上何も言うことができなくなった。ただ彼を、俺達の軍師を信じるだけだ。

 

作戦が決まった。俺達はシュウさんの指示通りに動く。ビクトールさんら騎馬隊は森に兵を伏せ、陣を張って英気を養う。俺達歩兵は一足先にロックアックス城へと向かう。

 

 朝になった。俺達は夜通し山沿いの森を歩いてロックアックス城へと迫った。少しばかりの仮眠をとり、戦いへと備える。やがて、ビクトールさん達の部隊が草原を進んでくるのが見えた。城内にもざわめきが生まれる。

 

 いよいよだ。いよいよ決戦の始まりだ。デュナン軍はビクトールさんとバレリアさんの二隊を前衛に、両翼にマイクロトフさんとカミューさん、後衛にハンフリーさんとアニタさんの二隊がつく。軍師はアップルさんだ。

 

 ごごご、と音を立てて城門が開いた。クルガンと、いつも彼と共にいるシードが先頭だ。それに王国兵と騎士団の連合部隊が続く。その数はあまりに多い。だがデュナン軍も負けてはいない。負けていないぞ。戦端を開こうと、ビクトールさんが口上を上げ、それに王国軍の将も答える。将達は号令を下した。お互いが前進しぶつかりあう。

 

 火花散る。それは前衛の剣であったり、矢を防ぐ盾であったり、魔法であったりした。草原に戦いの花が生まれる。その中でお互いの命が少しずつ消費されていく。

 

「今だ! 後方から挟み撃ちに!」

 

 敵の背後を突く。兵力は劣っているが、この攻撃で敵を引き裂く!

 

 そう意気込んだ時だった。

 

「あれは!」

 

「草原の彼方に……兵が」

 

 しかも、デュナン軍の旗を掲げている。誰の部隊だ? もうこちらには兵なんて……。すると、王国軍は兵を大きく引いた。ロックアックス城には間に俺達がいるので戻れない。なので唯一包囲されていない北の方角へ兵を退けた。

 

「こちらの誘いには乗らない、そう判断したようですね」

 

 シュウさんの冷静な声。これも彼の策か。

 

 草原に戦闘をやめたデュナン軍が並ぶ。援軍がこちらに――。

 

「これで良かったかい? シュウさん」

 

「上出来だ。二度はできぬ策。すぐ城攻めに行くぞ」

 

 そこには、バーバラさんやレオナさん、ヒルダさんにアレックスさんら非戦闘員達だった。彼らに旗を持たせて伏兵のように見せかけたのか。

 

「シュウは相変わらず無茶な策を立てるね」

 

 ティルさんの言葉。その通りだと思った。バレたらこちらが負けて、被害も甚大だったろうに。

 

 デュナン軍は一度軍を下げた。北に移動した敵軍もロックアックス城へと戻っていく。しかし、

 

「カミューさん配下の赤騎士を、先程の戦闘でマチルダに残った赤騎士にまぎれこませ、既に城内へ潜入させています。これから始める城攻めの最中、合図を出して南門を開けてもらいます。そして、城門が開いたなら……」

 

 アップルさんがリドリーさんを見る。

 

「リドリーさんに潜入させて城に火を放ち、屋上にある旗も焼き払います。そしてデュナン軍の旗を掲げて占領を示すのです。そうすれば、王国軍に協力しているマチルダ騎士団の者は意気を失うでしょう。投降してくれるかもしれません」

 

「潜入って……リドリーさんは大丈夫なんですか?」

 

 尋ねる。敵の懐に入るなんて……。

 

「リオウ殿、ご心配ありがとうございます。ですが勝利の為に必要とあらば、私は喜んでその任務を引き受けましょう」

 

 リドリーさんはドンと胸を叩く。また、危険な役目を任せてしまうな。俺は、ロックアックス城を落とす決意を強く固めた。あの城を落とすのだ。そして勝利を。

 

 ロックアックス城の前に兵を並べ、攻城戦だ。しばらくの間、矢を射かけ、兵が城壁を昇ろうとする。

 

「射ろ! 矢を飛ばせぇっ!!」

 

 くそ、見ているだけで味方が被害を受けていることがわかる。早く合図を……。

 

「今だ、合図を!」

 

 シュウさんから合図が飛ぶ。が、リドリーさんは城門の中に入れなかった。何故なら、南門から多数の敵兵がどどっと押し寄せたからだ。読まれていた!?

 

「まずい、リドリーさんが!」

 

 リドリーさんが押し戻されている。策が破られる! その時、ティルさんが動いた。リドリーさんの部隊を押し返す敵兵の隙間をぬって中に――!

 

「伝令。ティル様から伝令であります! リドリー殿が入り込めないのなら、自分が手勢を率いて中へ侵入すると。城を燃やすことができなければ我らの敗北は必至。その為に持ち場を離れることをお許し下さい。とのことです」

 

 伝令がそう伝えてくる。

 

「シュウさん。確かに城に侵入、焼き討ちができるかどうかが勝敗の分かれ目だ。ここはあの人に任せよう」

 

「ええ……仕方ありません。ティルには戻ったら灸を据えてやることにしましょう」

 

 

     §

 

 

 本来であればリオウとそのパーティーが行う城への潜入。しかし当然のようにこの世界では違った。シュウがリオウにそんな危険な役目を押しつけるわけがない。なので僕が動いた。あいつの行動を予想している僕が。ある程度敵兵を吐き出した門に、するっと中に入る。当然騎士は剣を振るうが、棍で受け流す。刀傷は覚悟の上だ。

 

「リドリー! 中へは僕が行く。その場で持ちこたえてくれ!」

 

「了解した! 気をつけろ!」

 

 リドリーが指示を出して僕を妨害する敵兵を分断してくれた。さすがだ。部隊の指揮はテッドに任せ、僕とグレミオだけで内部へと。

 

 城門をくぐると既に潜入していた赤騎士が。彼ら曰く、南門を固める指示をジョウイ皇王が出したとのこと。やるなジョウイ。だがこの戦では負けないぞ。

 

 門の中から城の中へと移動する。大通りを避けた。遠回りになってしまうが、とにかく上を目指す。城内には警護の白騎士がいるが知ったこっちゃない。棍で打ち倒して先へ進む。すると遠くに白い軍服、剣を持った少年の姿が。

 

「ジョウイ!!!」

 

 僕らの敵となった少年を呼ぶ。だが彼は素早く身をひるがえして行ってしまった。賢明な判断だよ。君が黒き刃の紋章を持とうが、僕は負けない。

 

 後もう少しで屋上へ出られる。その時だ。

 

「矢を射よ!!」

 

 やはり、だが想定内よ!

 

「やあっ!」

 

 棍を旋回させて、離れた場所から打ち出された矢を全て叩き落す。舐めるなっ!

 

「ぬううう! 続けて矢を――」

 

 命令を下している男、ゴルドーに向けて火魔法を解き放つ。集中する間がいらない札を使って。僕の手で破られた“踊る火炎の札”は敵を燃やした。僕は一気にゴルドーへ近づくと、棍で急所を一撃してやった。体を燃やしながら剣を振り回していたが、余裕でかわすことができた。こいつが倒れれば配下の騎士も折れる。せいぜい役に立っておくれ。

 

 その時、城門からリドリーの部隊がなだれ込むのが見えた。僕は確かな勝利への道筋を感じていた。

 

 

     §

 

 

 ティルさんやリドリーさんは上手くやってくれたらしい。城のあちこちから火の手が上がり、屋上にあったマチルダ騎士団の青・赤・白で染まった旗が取り払われ、デュナン軍の深紅と白の旗が掲げられたのだ。それで形勢が決定的なものとなった。城内の白騎士はゴルドーが捕らえられたことを知って投降し、草原で戦っていた騎士団も城に上がった煙を見ては戦意を喪失、マイクロトフさんらの説得もあって寝返った。王国軍はロックアックス城を捨ててハイランドへと退却して行ったのだ。だが……。

 

「キバ将軍が……」

 

「はっ。私がキバ将軍最後の伝令であります。我、善戦せり、と」

 

 それを伝える伝令を最期に、キバ将軍は……。クラウスさんが耐えるように顔を上に向けた。彼は泣かなかった。ただ、父は立派でしたとぽつり呟いたのだ。

 

 ジョウイ、また悲しみが生まれたよ……。お前の言った通りだ。こんな下らない争いなんて続けちゃいけない。誰かが、戦いを終わらせなきゃいけないんだ。人と人が争うなんてもう止めなきゃいけない。人が死ぬのは悲しいことだから――。俺は、一人、決意を固めた。それは、誰にも言えない俺だけの決意。ジョウイ、俺は、きっと――。

 







後書き
 ミューズが解放されると同時に皇都ルルノイエに進軍するのが原作。そして現実的に考えても、すぐに進軍すべき場面です。その為、エルザと邂逅する場所を変更しました。本来ならミューズにあるジョウストンの丘なのですが、皇都に一日も早く進軍する場面でミューズになんて寄っていられません。なのでグリンヒルの近くに変更したのです。
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