ゲーム小説 幻想水滸伝Ⅱ   作:月影57令

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第7話 分裂

「君達、まだいたのか。……それならちょうどいい、頼みがある」

 

 俺とジョウイは急に戦いから外されるということに不満を持ちながら、市庁舎を歩いていた。ナナミは喜んでいたが。そこに副市長のジェスさんから声がかかった。

 

「……頼み、ですか?」

 

 この人は俺達を快く思っていないはずだ。それが頼み? 何かあるな。そうしてついてきて欲しいという言葉に従って行った先にあったのは、二つの軍服だった。記憶に残ったままの、ユニコーン少年兵部隊の軍服。

 

「ジェスさん、これは?」

 

 いぶかしみつつも聞く。

 

「ミューズとハイランドの国境付近、そこに王国軍が陣を張っている。……それはもう聞いた通りだ。そこで、王国軍の駐屯地に、変装させた兵を潜入させる。兵糧の数を調べる為に。だが……届いた軍服が少年兵の物だったから困っていたんだ」

 

「じゃあ、ジェスさんの頼みというのは……」

 

 ジョウイが聞く。

 

「リオウ、ジョウイ。君達は元々ハイランドの少年兵だったんだろう? この役目、是非君達にやってもらいたい。兵糧の量がわかれば相手の出方もわかる」

 

 ジェスさんの頼みにナナミが声を上げる。

 

「ええぇぇ。それって危ないんじゃ……」

 

 …………なるほど、俺達を利用しようって腹か。失敗して捕まっても、元々敵方の兵士だった俺達なら損はしない。そんなところだろう。

 

「アナベル様は君達を保護しろと言ったが、俺はまだ君達を完全には信用していない。だが、君達がこの役目を引き受けてくれれば、俺も君達を信じて身の保証をしようじゃないか」

 

「交換条件……ってわけですか。ジョウイ、どうする?」

 

 この男の思惑に乗るのはしゃくだが、確かに兵糧の数がわかれば都市同盟は有利になる。

 

「リオウ、やってみよう」

 

「ええぇ。そんなぁ」

 

 ジョウイが賛成した。これで俺にも断るという道はなくなった。国境は北東に延びた街道の先らしい。番兵には知らせておくから、今夜のうちに出発してくれとのこと。やれやれ、やっぱりこの男に上手く使われている気がする。

 

 三人で宿屋に向かう。

 

「仕方ないから私もついていくよ。一緒だからね!」

 

 ナナミがそう言う。うぅむ。ナナミまで危険に……。

 

「わかったよ、ナナミ」

 

 考えた末、俺はナナミを連れて行くことにした。この手で守れるだろうか? ……不安だ。これでは危険なので、宿屋にいる仲間から誰かを一緒に連れて行くことに……となった時だ。

 

「なぁ~にを話しているのかな?」

 

 ティルさんがカウンターの下からにゅっと出てきた。

 

「……何やってんですか」

 

「ははは。まあいいじゃないか。それより面白い話をしていたね。戦いから外されたのにスパイ任務を引き受けたんだって?」

 

 ゴゴゴ、と笑いながらプレッシャーをかけるということをしてくるティルさん。

 

「あ、いえ、その……」

 

 ジョウイは隠し事がバレたような顔をする。構うことはない。どのみちティルさんとビクトールさんにも報告するつもりだったのだ。

 

「少年兵、特に元々本当にハイランドの少年兵だった俺達に、ジェスさんがお願いしてきた任務です。都市同盟の為になると思って受けました」

 

「…………ほう。悪びれもせずに良く言えたね」

 

「後ろ暗いことはありませんから。それにジェスさんは傭兵隊にとって雇い主のようなものでしょう。でしたらこの任務はそれほどおかしなものではないはずです」

 

「確かにね。だけど、そんなことは許さないよ。ビクトールもアナベルさんもだ。僕がこれからアナベルさんのところに行って『ジェスさんがこういう任務を少年二人にお願いしたようです』といえば、アナベルさんはそれを止めようとするだろうね」

 

「…………」

 

「それに、前に言ったろう? 僕には独自の情報網……使える潜入工作員がいるんだ。兵糧の量を調べるのは彼に任せるよ。残念ながら、君達の出番はない。悔しいだろうけど、納得してもらうよ。どうしても聞かないというのなら、棍で打ち据えてでも止めるからね」

 

「……わかりました」

 

 この人には敵わない。ここは大人しく白旗を上げよう。

 

 

     §

 

 

 と、いうことで二人にスパイ任務はさせません。これを防げばジョウイの裏切りも起きない……はず、だ。だが油断はしない。油断なんてもっての他である。僕はこれに備えて待機させていたカゲを動かして王国軍の兵糧について調べるよう依頼した。次には市庁舎へ行ってアナベルさんに報告だ。扉の前には警護の兵士もいるが関係ない。無理やり執務室に入る。アナベルさんにジェスだ。フィッチャーもいた。

 

「ティル? どうしたんだ?」

 

「実はですね……」

 

 と、ジェスの独断行動をチクる。

 

「……ジェス……ティルの言ったことは本当か?」

 

 眉間にしわを寄せて、アナベルさん。

 

「ええ、王国軍を破る策を立てる為に必要な情報でしたので、二人に頼みました」

 

 ……この野郎。涼しい顔をしてよくもまぁそんなことが言えたものだ。

 

「ジェス! ……勝手な行動をとるんじゃない。……はぁ。とにかく、ティル。良く報告してくれた。二人は当然止めたんだろうね」

 

「ええ、止めておきました。それと、ジェスさん。どうしても必要な情報というのなら、僕が密偵を放って兵糧を調べさせますよ。……というかもう放ったんですけどね。先ほど依頼しておきました。明日には兵糧の量について報告してくれるでしょう。凄腕の密偵ですからね」

 

 そう言うと、ジェスは僕を睨みつけた。確かこの人って、「都市同盟を守るのは都市同盟の人間だけで行うべき」という考え方なんだよね。僕がトラン共和国の出身なので信用していないのだろう。

 

 旧国である赤月帝国は長年の仇敵で何度も戦争をした。トラン共和国になってからも、総司令官クワンダの下、カシムとソニアで領土奪還をしたからね。解放運動中にマッシュが奪わせたあの北方領土を奪い返す為、戦争をやったのだ。しかもその戦いはサウスウィンドゥ市軍が早々に撤退して、都市同盟側は敗退した。せっかく獲得した領土を失ったんだ。そりゃあその国出身である僕が気に食わないのはわかる、かな。

 

「何から何まですまないね、ティル」

 

 しかしアナベルさんは僕のことを一応信用してくれているようだ。

 

「今の僕は都市同盟に雇われている傭兵ですからね。都市同盟の為に行動するのは当然です。それじゃあアナベルさん、ジェスさん、明日にでもまた来ますよ。王国軍の兵糧について報告にね」

 

 とりあえずそう言って執務室を出る。

 

 さて、と僕は知識を整理した。この潜入任務をリオウとジョウイの二人が行う原作。これがあったからこそ原作のジョウイはあのような行動に出るはずなのだ。つまり、潜入任務をさせなければジョウイはあの行動を起こさない。そうするとジョウイがハイランド王国に戻らない。となるとあの市への攻撃が無血入城にならない。無血入城にならないということは、あの市での戦闘で負傷したり死亡したりする人が多数出るということ。さらにルカ・ブライトを殺す決定打も発生するかどうかわからなくなったということだ。

 

 …………僕は大勢の人間に影響のある行動をしたのかもしれないね。だけど、だからと言って「ジョウイ、ひょっとしたら君は死ぬかもしれないけど、ハイランドに捕まってきてよ」なんてのもごめんだ。なら、僕はこれからも防げることは防ぐ。もちろん、僕にできることなんてたかがしれているけどさ、その時その時で最善と思う行動をとる。未来の為に現在を犠牲にしたりしない。もうそんなのは嫌なんだ。未来なんてわからない。だから、今できることやる。それだけだ。

 

 

     §

 

 

 暗闇で、何かがうごめいている。俺はそれに恐怖を感じながら、「何か」の存在を追う。だがそれは手の中を簡単にすり抜け、頭上から重くのしかかる。

 

 ――なんなんだ。お前はいったい――。

 

 俺が闇に問いかけると、炎が生まれた。そしてその炎は段々と勢いを増して、闇を打ち消した。そしていつしか炎も消え、闇の中に炎で縁取られた漆黒の剣が残る。このままじゃあ俺は剣に斬り裂かれる!!

 

 俺は心の中で必死に悲鳴を押し殺した。そうすると、俺の右手から白い光が出てきて、剣を包もうとする。俺の周囲は光と闇に分かれた。そして――。

 

「うぅっ」

 

 毛布を握り締めて俺は起きた。なんだかやけに恐ろしい夢を見ていたような、そんな気がする。寝汗に濡れた服をぐいと脱ぎ、窓の外を見た。朝日だ。もう、朝なんだな。

 

 ミューズに来てもう六日が過ぎようとしていた。俺達は紅葉亭の二階で寝起きしている。俺はここのところずっと夢見が悪かった。いったいどういうことなのか、無意識に戦争の不安が夢に出ているのだろうか? 考えたが答えが出るはずもなし、とりあえず起きることにした。

 

「こらぁ! 起きなさい!」

 

 ナナミの大声。姉は今日も元気だ。ジョウイは情けない声でもう少し寝かせてくれと言っている。寝起きの悪い親友だった。

 

「ほらほら、早く起きた。レオナさんに聞いたんだけど、今日は何かがあるらしいよ」

 

 詳しく聞くと、ジョウストンの丘という場所が関係しているとのこと。ジョウストンの丘と言えば、都市同盟の丘上(きゅうじょう)会議が行われる場所だ。軍の知識で知っている。そこに人が集まるなら、

 

「リオウ、もしかして都市同盟の方針を決定する会議なんじゃあ」

 

 ジョウイの言葉通りだろう、きっと。そして、俺はビクトールさんとティルさんに同行してその会議を見物することにした。いつもティルさんについているグレミオさんとテッドさんは兵士を集めるのに奔走しているのだとか。二人を先頭に、俺とナナミ、ジョウイが会議場に入る。

 

 その会議場には様々な人々が列席していた。ミューズ市市長アナベルさん。ミューズ市市軍指揮官ハウザーさん、マチルダ騎士団団長ゴルドーさん、トゥーリバー市市長マカイさん、ティント市市長グスタフさん、サウスウィンドゥ市市長グランマイヤーさん、グリンヒル市市長代行テレーズさん。

 

 ゴルドーさんがナナミを突き飛ばしたり、その部下の騎士がナナミを助け起こしたりということがあったが、まあいいだろう。ちょっとばかり失礼だとは思ったが。

 

 いっぺんに紹介されたので、わかりづらかったが、なんとか顔と名前を覚えた。役に立つとも思えないが。俺はハイランドを倒すいい方法が見つかるといいな、と思った。

 

 会議が始まった。しかし、

 

「現在ハイランド王国軍はミューズとの国境に集結しています。兵糧は計算上残り七日分だと思われます。このことから敵はまもなくミューズに攻撃を仕掛けてくると……」

 

「お待ち下さい。都市同盟とハイランドは休戦協定を結んだはずでは?」

 

「協定はハイランドによって破られました。ミューズ東部に侵攻して多くの村々を焼き討ちにしています」

 

「それに関しては“山賊の仕業である”とハイランドから回答を得たのだが?」

 

「ハイランドが軍を国境に集めているのは厳然たる事実。流言や嘘の情報に惑わされぬよう……」

 

「私がだまされていると言うのか!!」

 

「ビクトールの傭兵隊が、山賊ごときに敗れるとは思えんな」

 

「ハイランドは本格的に攻め入ってきたことはないはず。今回も同じでは?」

 

 会議は踊る。とは小説の一文か何かだったか。各市長の意見はまるでまとまりを見せなかった。それにしても、兵糧は調べられたのか。ティルさんの情報網は凄いんだな。

 

「ミューズの守りが破られれば、各市の連絡は途絶え、都市同盟は滅亡の憂き目にあいます。私は盟主として、盟約に従い都市同盟全軍の集結を命じます」

 

 アナベルさんがそう言った時だ、一人の男が駆け込んできた。ジェスさんに封書が渡される。ジェスさんは書面を確認すると、

 

「ただ今入った情報では、ハイランド軍が前進したとのこと。既に国境の部隊は壊滅し、このミューズ市を目指しています!」

 

「もう一度、盟主として命じます。即刻、ミューズ市に全軍の集結を命じます!!」

 

 それで会議は終わった。ビクトールさんとティルさんは席を立つ。しかしジョウイは放心したような様子だった。

 

「ジョウイ? どうした?」

 

「い、いや……なんでもないよ。なんでも」

 

 少し気になった。ジョウイも俺と同じように今の会議で失望したのだろうか?

 

「ビクトールさん、都市同盟は本当に大丈夫なんですか?」

 

 気がかりな為、聞いてみる。

 

「ああ、こんな酷い状況だとは思わなかったな。しかし敵が出てくりゃあ戦うしかあるまい」

 

 眉をひそめるビクトールさん。

 

「しかし、参ったね。王国軍が進軍を開始したということは、一週間と経たずにミューズへ攻め入るだろう。果たして他の市から援軍が間に合うか、そもそも出してくれるのか……」

 

 ティルさんも渋い顔だ。確かに、ミューズ単体で王国軍とやりあえば敗北は免れないだろう。だとしたら……。

 

「ん? ジョウイ、どうかしたか?」

 

 またジョウイの様子が変だ。思いつめた表情というか、いわくありげな顔つきをしている。

 

「……なあ、リオウ。この戦いを終わらせる為に必要なものってなんだと思う?」

 

 突然、そんなことを聞いてきた。

 

「……力、あるいは団結、かな」

 

 というより、団結することが力なのかもしれない。だが、今の都市同盟にはその力がないように見えた。

 

「一人一人の力は小さいけれど、集まれば、集団になればその力は大きくなる。ユニコーン隊でも、傭兵隊でも、王国軍でもそれは一緒だ」

 

「うん……きっとそうだ。あのルカを超える力、それさえあれば……」

 

 どうしたんだ? ジョウイ。やけに考え込んでいるような……。

 

 考えながら、紅葉亭に戻る。中は緊迫した様子だ。みな武器の手入れに余念がない。すると、なんとアナベルさんが訪れた。

 

「よう、こんな所にどうした? 会議なら見てたぜ」

 

「ビクトール、すまないが頼みがある。国境からミューズへは五日あれば来られる距離だ。そこで、二日、二日だけ時間を稼いでくれないか」

 

 王国軍の足止めをしろってことだろうか?

 

「全軍が集結するのには七日はかかる。だから二日だけ敵を足止めしてくれれば、マチルダ騎士団の部隊を筆頭にみなが順次到着する。そうすれば持ちこたえられる」

 

「二日。確かにミューズ市外で戦闘を行い、出鼻をくじければ、それぐらいは時間を稼げるかもしれませんね」

 

 地図を確認しながらアップルさんが言う。

 

「あんたも無茶なことを平気で頼むねえ。あのルカ・ブライトを俺達だけでってのは、ちょいと骨が折れる」

 

 無精髭をさすりながら思案するビクトールさん。

 

「足止めでいいなら、なんとかできるかもしれないよ。ビクトール、アナベルさんの苦しさを理解してあげよう」

 

 説得するように、ティルさん。

 

「ミューズにいる兵士は一万五千。そのうちの二千をあんたらに預ける。これでなんとか頼めないか」

 

「……わかったぜ。こっちもそれが仕事だしな。あんたの頼みなら断れねえ」

 

 ニヤリと笑うビクトールさん。さっきまでは不安だったが、これならなんとかなるという気分にさせられる。ビクトールさんにはそういう人徳、頼もしさがあった。

 

「……ビクトールさん。アナベルさん。やっぱり俺達も戦わせて下さい。俺達を大切にしてくれるのはわかります。だけど俺達はただ黙って守られているだけの雛じゃない。王国軍を止める為に、力を尽くしたい。お願いします」

 

 俺は二人に頭を下げた。このまま黙ってはいられない。自分には一人分の力しかないだろう。だがその一人にすらなれないのは嫌だった。ジョウイとの誓いが、俺にその気持ちを抱かせた。

 

「ちょ、ちょっとリオウ!」

 

「お願いします。僕らもミューズを守ります」

 

 ナナミが声を上げたが、ジョウイも立ち上がって頭を下げる。

 

「……そこまで言われちゃあ私には何も言えない。あとはビクトールに相談することだね。ただ一つだけ。死ぬんじゃないよ。それと、リオウとナナミ。戦いが終わったら私のところにおいで。ゲンカク老師の話をしてあげよう」

 

 アナベルさんはそう言ってこの場を後にした。よし、決して死なずに生き延びてやろう。

 

 

     §

 

 

 アナベルさんが去った後、リオウとジョウイ、ナナミの三人が傭兵部隊に加わった。現在の傭兵隊は兵力一千。あちこち回ってなんとかそれだけの戦力をかき集めた。ミューズ市から借りられる兵士は二千なので合わせて三千だ。だけどミューズ兵の準備がいつ整うかわからないので、僕が一千の兵を率いて先行する。ビクトールはミューズ兵がまとまり次第追いかけてくるはずだ。三人は僕の部隊に組み込んだ。そして、僕は部隊を三つに分けた。一つは騎兵、残り二つは歩兵だ。三人には歩兵隊として参加してもらう。歩兵部隊にはそれぞれグレミオとテッドが隊長になった。準備が整ったのでさあ出陣だ。

 

 ミューズを出発した翌日。昼になった頃、街道を北上していると視線の先に王国軍。先行させていた斥候の報告を聞く。ふむふむ、ソロン・ジーが一千。その部隊より先行している五百ほどの傭兵、率いているのは赤いマントを纏った男らしいと。確かここで出る傭兵は……彼、か。説得ってさぁ……無茶だろ。どう考えても。いや一応やるけどね。無理だろ。

 

 そうして接敵する。軍と軍が向かい合う。

 

「ハイランド王国軍! 民間人のいる村を襲撃し焼き払った悪鬼のごとき所業、許しがたし! 恥を知る心があれば大人しく投降せよ!」

 

 言うけどさ。

 

「何を! 休戦協定を破って少年兵を殺した貴様らが言えたことか!」

 

 ですよねー。

 

 というか、僕は確かにあの傭兵の赤マント、ギルバートを知っているけどさ。だからって戦場で、お金で雇われている傭兵に「裏切って下さいお願いします」なんて言葉が通用するわけないだろう。常識的に考えて。説得とかどう考えても無理。しかも向こうには休戦協定を破ったのも、少年兵を殺したのも都市同盟の仕業として伝わっている。その上、住民全員を避難させたから(いや、それはいいことなんだけどね)、ルカ・ブライトが民間人虐殺をしていないのである。よってここでギルバートを仲間にするのなんて無理! ……ま、まあしょうがないよ。108星揃わなくても戦いには勝てるって。たとえ負けても国が統一されることにかわりはないし。ルカは殺さなくちゃ駄目だけど。

 

 僕は騎兵で正面を抑えつつ、側面から歩兵を突入させた。凹型になって敵を覆い、兵力を削る。そして、

 

「ティルか!」

 

「悪いけど倒させてもらう、恨むなギルバート!」

 

 剣を弾いて頭を一撃。

 

「ぐぁあっ!」

 

 ギルバートは僕が打ち倒した。これで敵傭兵の指揮はなくなった。僕は部下に旗を振らせて兵を引かせる。陣形を整える。と、ソロン・ジーが突撃してきた。

 

「歩兵は両翼に! 僕の部隊は前へ!」

 

 同じように敵を囲う作戦だ。だが敵の兵数が多い。そう簡単には作戦通りにいかず、血みどろの白兵戦が展開される。

 

「貴様、傭兵砦にいた将だな! 今度こそケリをつける!」

 

「やれるものならね!」

 

 ソロンの剣に棍を打ちつける。さすがにギルバートよりは強く、しばらく打ち合う。そこに。

 

「我はマチルダ騎士団、青騎士団団長マイクロトフなり! 加勢いたす!」

 

 兵力は大体五百といったところか。部隊は二つに分かれていて、青い軍服を着た青年と、赤い軍服を着た青年が率いている。目にも鮮やかな二つの色。増援が来てくれた……が、何故か、騎士団は草原に雁首そろえて並んでいるだけ。一向に戦いに参加してくれない。

 

(やっぱりね! わかっちゃいたけど士気が下がるよ!)

 

 しかもマイクロトフと名乗った人物と、赤い軍服の男が言い合いを始めた。仲間割れかい。そうして時間が過ぎると、なんと二つの部隊は引いて行ってしまった。

 

「ははは、なんだ。増援が消えてしまったではないか!」

 

こいつ調子に乗ったな。ならここは、それを逆手にとってやろう。

 

「ぐっ、うぅ」

 

 少しずつ、本当に少しずつだが押されているフリをする。そしてガキンッと棍が弾かれたように見せて、隙を演出。そこに、

 

「もらったぁ!」

 

 剣を振り下ろすソロン。引っかかった!

 

「はぁっ!」

 

 素早く持ち替えた棍で剣の柄尻を下から叩いた。そのまま反動を使って棍を回転させ、逆側の柄で眉間を狙って振り下ろす。だが、直前で首を曲げたソロン。攻撃は首筋に当たった。だがそれでも充分な打撃になり、奴は落馬した。

 

「ぐわぁ、くそ、俺が……」

 

 よし、これぐらいでいい。これ以上は兵を損耗させるだけだ。ビクトールの部隊もそろそろ追いついてくるだろう。僕は全部隊に撤退を命じた。敵の追撃はソロンを打ち倒したので遅れるはず。

 

「引け、引けぇっ!」

 

 僕の部隊が下がると、ちょうど街道の南からビクトールの部隊が――。

 

 

     §

 

 

 俺とジョウイ、ナナミは戦いを終えた傭兵達と共に帰還した。アップルさんの言った通り、出鼻はくじけた。なのでビクトールさんの指示でミューズへ引き返すのだ。だが、作戦が成功したとはいえ、俺はやるせないような、情けない気持ちでいっぱいだった。ソロンの部隊は退却させたとはいえ、勝ったとも負けたとも言えない結果だ。しかも丘上会議での問題が戦線にしっかりと反映されていた。意思が統一されていないのだ。これでは勝てるものも勝てない。戦を避けたがる弱腰の市長達が恨めしい。

 

「なあジョウイ、どうして皆で力を合わせて戦えないんだろうな。協力さえすれば勝てた戦いだった。ハイランドにだって対抗できるはずなのに」

 

「……ああ、僕もそう思うよ。リオウ、こんな調子で都市同盟がハイランドに勝てると思うかい?」

 

 都市同盟が一つにまとまりさえすれば……と考えて、その方法がわからないことに歯噛みする。

 

「そんな方法があれば、アナベルさんがとっくに実行している……か」

 

 自分の声なのに、まるで他人のような無責任さで発せられた声。虚しさが満ちる。

 

「お帰り。良かった、無事だったんだね」

 

 レオナさんだ。迎えてくれるとほっとする。

 

「聞いたよ。王国軍を追い返したって」

 

「まあ、そうです、ね……」

 

 曖昧に頷く。

 

「とりあえず休みな。二階に行けば、ベッドはちゃんと整えてあるからね。……まだまだ戦いは激しくなるよ。なんでも、ティント市のグスタフが出兵を拒否する通達をアナベルさんに送ったって話だよ」

 

 更に気分を暗くさせるような追い討ちが待っていた。

 

「そうそう。さっきアナベルさんから使いが来てたよ。話をしてあげるから市庁舎においでってさ。夜中には手が空くからって」

 

「じゃあ、俺は一休みしてくるかな。疲れた頭で話を聞くのも嫌だしな。……? ジョウイ、どうした。休まなくていいのか?」

 

 またジョウイがぼうっとしていた。ホントに大丈夫か?

 

「……ああ、そうだね。行こう」

 

 ……………………………………。

 

 うぅん。何か、聞こえる……。

 

「わかり申した。では、そのように……」

 

 ベッドの中で休んでいた俺は、ジョウイ以外の声を聞いてはっとなった。

 

「リオウ」

 

 ジョウイが俺の顔をのぞきこむ。

 

「ジョウイ、今、誰か……」

 

 ぼやけた頭で言う。

 

「ああ、ごめん。起こしちゃったか。でももう帰ってもらったよ……」

 

 そうか。

 

「ふわぁぁあ」

 

 思い切り伸びをする。外は夜だ。そうしてアナベルさんのことを考えていると。

 

「リオウ……この戦いは、すぐには終わりそうにないよ。ナナミを連れてどこかへ逃げた方がいい」

 

「……? どうした? 急に」

 

 ジョウイも、戦うって決めたんじゃなかったのか? 一緒に、戦うって。

 

「俺とナナミが逃げたらジョウイはどうするんだよ」

 

「僕は……戦うよ。この戦いを終わらせたい。そう思うから……」

 

「ジョウイ?」

 

 部屋を出て行ってしまった。いったいどうしたんだ? 言いようのない不安が俺を襲う。ジョウイがどこかへ行ってしまう気がして……。

 

 いや、最近のことを考えると、ジョウイはどこかおかしかった。色んな場面でぼーっとしているというか、考え事をしているように見えた。はっきりと意思を聞いておいた方がいい、か。

 

 そう思って追いかけようとした時、ナナミが現れた。

 

「もう! とっくに夜中だよ。早くアナベルさんのところに行こうよ」

 

「ナナミ、ジョウイの様子、変じゃなかったか」

 

「あぁ、うん。確かに今すれ違った時、『戦いが嫌ならリオウを引っ張ってでも逃げた方がいい』って言ってた。何かあったのかな」

 

「俺も気になっているんだ。アナベルさんとの話が終わったら二人でジョウイと話をしよう」

 

 二人で、話をするんだ。聞いて、話して、それで……。

 

 その時の俺はジョウイの心に気づいていなかった。それに、まさかあんなことが起こるとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 

     §

 

 

 ビクトールがアナベルさんの執務室を訪ねた。僕の知識が確かならこの後にアレが起きるはずだ。だけど……本当にそうなるかはわからない。だから僕は市庁舎の入口で身を潜めていた。

 

 だが、ジョウイは市庁舎にやってこなかった。そして、

 

「奇襲だ! 王国軍だぁっ!」

 

 と、ハイランド王国軍が入り込んだと声が上がる。きっと何人もの密偵が入り込んでいるだろう。今僕がやらなきゃいけないのは――。

 

「カゲ、アナベルさんとジェスの護衛を」

 

 市長と副市長のアナベルさん、ジェスを守らせる。

 

「承知」

 

 そして傭兵隊のいる場所へ向かう。心は既に戦闘状態になっていた。

 

 

     §

 

 

 アナベルさんに会いに市庁舎へ向かう。そうして歩いていると、声が飛び込んできた。

 

「奇襲だ! 王国軍だぁっ!」

 

「門が中から開かれた! 誰かが奇襲を手引きしたんだ!!」

 

 ――王国軍!

 

 俺は何をすれば、どうすれば――と考えたところに、

 

「ジョウイ!?」

 

 ジョウイが道を横切って行った。物凄い速度で駆ける。しかもその方向は――。

 

「ジョウイ!」

 

 ナナミの叫び。二人でジョウイを追う。

 

 だが、

 

 ジョウイは、

 

 親友は、

 

 俺達の手をすり抜けて、

 

 行ってしまった。

 







後書き
 はい、ギルバートさん仲間になりませんでした。当然この後に仲間になるという展開もありません。これはティルが動いた結果です。二つの村を救う行動をした為、結果的にルカが民間人虐殺をやっていないというね。ルカの悪行とギルバートの仲間条件は繋がっていたのです。妻と子を持つギルバートが、女子供まで殺戮するルカを引き合いに出されて仲間になるのが原作です(それでもかなり無茶な話だけど)。だけどこの世界ではルカは虐殺まではしていないのです。ユニコーン隊の虐殺は、王国側では都市同盟の仕業となっていますからノーカン。これで原作通りにギルバートが仲間になったらおかしいですよね。ということで幻想水滸伝Ⅱ、108星揃いません!
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