第2話を投稿させていただきます。
不思議な声だった。
男のような、女のような。老人のような、幼子のような。
ともすれば不気味に聞こえるかもしれない声が、どうしてかひどく心地よいもののように聞こえた。
ーさ…み…よ。さま…るよ。左馬 満よ。
「ん…」
その声に反応するように、満の意識が覚醒する。
がばっ、と起き上がり、辺りを見回す。
(まずいまずいまずい!早く逃げ…?)
ヤツがいない。
ヤツどころか、叩きつけられた壁もない。
廃屋すらなく、身体にも損傷が無かった。
(…死んだか?死後の世界って奴か?)
満は、仄暗い空間に立っていた。
先は見通せず、ただただ困惑する。
(あれか?ここは冥府か?これから閻魔大王にでも裁かれるのか?)
ともかく、ここから移動しようと一歩踏み出そうとした瞬間、ボウッと炎が上がる。
満はびくっ、と反応し、その炎を見る。
奇妙な炎だった。
炎だというのに、こちらに放射される筈の熱を感じない。色は紫色で、どこか神聖な、それでいて不気味な様子を見せていた。
(紫の炎…カリウムだったか?)
学校で習った金属の炎色反応を思い起こしながら、その炎に近づいていく。
近くで見ると、その炎はまるで人の憤怒した時のような顔にも見えた。
ー左馬 満よ。
突然、炎から声が聞こえた。満は咄嗟に飛びすさり、その炎から距離をとる。
ー左馬 満よ。
警戒する満だが、ふと気づく。
男のような、女のような。老人のようでもあり、幼子のようでもある不思議な声。
満の意識を覚醒させた、あの声だった。
なおも警戒しつつ、声をかけてみることにした。
「誰だ?」
ー我らにはすでに個を示す名は無い。
「何者だ?」
ー我らはすでにこの世に在らず、またあの世にも在らぬものなり。
「そういうことを聞いているんじゃない、あるだろう、その、種族とか、群れとか、部族とかを示す名が。我らとか言ってるんだから、集合意識とか、情報統合体とか、そんなんだろう?」
まさか幽霊か何かじゃないだろうな、と満は若干怯えながら問う。
ー…我ら、「鬼」なり。
「お…鬼?」
ー左様。我ら、鬼なり。人を守り、神をも斬る、鬼なり。
満は混乱していた。
鬼といえば、人を襲い、財宝を奪い、人の英雄に倒される、昔のおとぎ話に登場する化け物しか浮かんでこないからだ。
人を守る?神をも斬る?まるで正反対の事を聞かされ、満の脳内は混乱の極みであった。
「オーケー。よ、よくわからんがまあいい。それで、その鬼さんが何の用だ?」
ー我らは古より人を守り、見守ってきた。しかし時が移ろうにつれ、我らの力も弱まり、現世に関わることが出来なくなった。
ー故に我らが見出した者達や、我らの血を引く者に、人を守る役目を託してきた。
ー我らは見出した者に力を与え、その者達はその力を使い人を、人の世を守った。
満はだんだん話が読めてきていた。自分がその、「見出された者」なのだろう。
自分を襲った怪物を倒し、人の世を守る。
刀を振るい、力を示すことに、満は内心で歓喜していた。
満の脳裏には、化け物どもをまとめてなます切りにする自分の姿がすでに浮かんでいた。
ーだが。我らの力を使うには資格がいる。覚悟がいる。確固たる意思が。守ろうとする意志が。それが無ければ、その者は我らの力に飲み込まれ、欲望のままに暴力と災厄を振りまく怪物となり果ててしまう。
心せよ、と「鬼」は続ける。
ー我ら鬼なり。人を守り、神をも斬る、最強最悪の存在なり。人の、人間の最後の切り札なり。ただ己がために力を振るえば、汝は守りたいものすら斬る、悪鬼となろう。
その言葉を聞いた瞬間、満は冷水を浴びせかけられたような気持ちになった。自分が傷つける?大切な者を。守りたいものを。これから大切になるであろう様々なものを。その可能性があるというのはわかっていたのに、何を自分は浮かれていた?
思い出せ、と満は自分に言い聞かせる。刀を持つ者とは。剣を持ち、自らを示し、
顔が引き締められたのがわかったのか、先程より心なしか穏やかに、「鬼」は続けた。
ー善い顔だ。かつて我らが力を与えた者達も、同じ顔をしていた。
ー復讐に身を焦がす者や、自らの目的のために我らが力を使おうとした者達もいたが、その心根には優しさがあった。愛があった。
ー家族のため。愛する者のため。これ以上自分のような者を生み出さないようにするため。
ー皆、何かを守るため、何かを為さんとするために必死だった。
ー問おう、左馬 満。
ー汝は何を守り、何を為さんとする者なりや?
満は芯の通った、鋭い眼差しを向け答える。
「俺は守る。家族を。友を。あんな
一拍置いて、満は叫ぶ。
「俺は神だろうが、悪魔だろうが、
ー天晴れなり。
ーおお、これぞまさしくもののふの顔よ。
ーなんぞ、今の世なぞ、腑抜けた者ばかりと嘆いていたが、少しは見れる者もおる。
いつの間にか周りには紫の炎に囲まれており、口々に満の覚悟を褒め称えていた。
ー見事なり。左馬 満。汝は資格を、覚悟を示した。
ー我らは汝に力を貸そう。我らは汝に人の世を託そう。
ー右手を前に。
言われるがまま、右手を差し出す。
そこに向かって、周りの紫の炎が集まってくる。
熱い。
熱を発してはいなかったはずの紫の炎は、しかし狂おしいほどの熱をその内に秘めていた。魂を焦がす、熱き炎。
歯を食いしばりながら熱に耐えていると、次第に熱が収まってきた。
右手には、奇妙な形状をした、丸い窪みのある籠手が装着されていた。
目の前には、こちらに初めて話しかけ、覚悟を問うてきた炎だけが残っていた。
ー決して忘れるな。汝は今から、人を超え、鬼を超えた者となる。
ー迷うのはいい。だが、決して揺らぐな。その魂の根底にある叫びを忘れるな。
ー我らは常に汝を見ているぞ。
最後の炎が籠手の窪みに飛び込んでくる。
これまでで最も強い熱に、視界がぼやけていく。
ー行け。
意識を保つのが困難になり、倒れ伏す。
ー鬼武者よ。
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満を襲ったはぐれ悪魔、バイサーは舌舐めずりをしていた。
わざわざ夜道を彷徨い、ニンゲンどもを探さなくてもよくなったからだ。
若いニンゲンだった。若いということは、柔らかい。柔らかいってことは、ウマい。
ドスドスと、倒れ伏した憐れなニンゲンに近づいていく。
と。
バイサーは、そのニンゲンに違和感を感じた。
先ほどまでは、こちらに噛み付いてくる虫ケラのようだったニンゲンが、何か違う。
そう感じた瞬間、目の前のニンゲンから、紫の炎が上がる。
素早く距離を取り、様子を伺っていると、炎の中でニンゲンが立ち上がる気配がする。
唐突に、炎が消える。
そこには、目玉のようなものが付いた、奇妙な籠手を付けたニンゲンがこちらを睨んでいた。
そのニンゲンはこちらを睨んだまま、
「さあ、化け物退治だ。」
と、笑みを浮かべた。
如何だったでしょうか。
剣を持つ者〜の部分は、ぶっちゃけこじつけに過ぎないので、あまり本気にしないでいただけると助かります。
次回からは本格的な戦闘に入ります。
上手く描写できると良いのですが…