第3話、投稿していきます。
初めての戦闘シーン、どうかお付き合い下さい。
バイサーは困惑していた。
目の前のニンゲンは、自分の脚に打ち据えらえ、壁に叩きつけられ、瀕死の状態だったはずだ。
まかり間違っても、こんなにもしっかりと自分の足で立ち、不敵な笑みを浮かべながらこちらを睨むことが出来るような状態ではなかったはずだ。
神器か。
バイサーはそう判断する。回復系の神器ならばあの状態からの生還は難しいことではない。
ならば恐れることはないと、こちらも負けじと笑みを浮かべる。
いかに回復速度に優れていようが、一撃でケリをつけてやれば良いのだ。
生きたまま喰らい、悲鳴を楽しもうとでも思っていたが、仕方がない。
(果たしてドロドロに溶けてもその余裕の笑みを浮かべられるかねぇ…?)
内心でほくそ笑み、バイサーは自身の「切り札」の準備に入った。
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「さあ、化け物退治だ。」
(と、大見得を切ったのはいいものの…)
満は満で、絶賛困惑中だった。何をすればいいのかわからない。
身体能力が上がっているような様子はなさそうだ。
この籠手で殴ればいいのだろうか?模擬刀は効かなかった、というか攻撃させてもらえなかったし…
半ば思考を放棄し、この籠手でロケットパンチでも撃てるかな、なんて考えていると、
「…ん?」
バイサーが何かをやっている。
具体的には、自身の胸に両手を当て、何やらしている。
はたから見れば、完全に痴女だった。
「…あの、なにをなさっておられるので?」
半目になりつつ、満は何故か敬語で疑問を発した。
バイサーは扇情的な笑みを浮かべると、
「ふふ、それはねぇ…」
「オマエを天国に連れて行ってやるのさァ!」
その顔を瞬時に般若のような形相に変え、バイサーが叫ぶと、その両胸から何か液体が放たれる。
「うおっ、あぶねっ!?」
どんな代物かわかったもんじゃないので、咄嗟に避ける。
すると、その液体がかかったものや床が、みるみるうちに溶けてゆく。
その様子に、満はゾッとなった。
(あれはマズい。鬼の力とかいうのを貰ったって言っても、実際こっちにゃ何が強くなったのかがまるで分かってないんだぜ?)
「ほらほらァ!」
バイサーはいまだ液体を噴射し続け、満を狙ってくる。
それをやっとの思いでかわしつつ、満は考えを巡らす。
(どうする、どうすればヤツを倒せる?斬ることが出来る?)
そこでふと思い立つ。
(…ん?「斬る」?)
そして、右手に持ったままの、模擬刀を見やる。
(…もしかすると)
満は、噴射液を避けつつ、慎重にバイサーの様子を観察し、隙を見つけると、
「そこだあぁぁぁぁっ!」
ガラ空きの下半身、人間の腕のような脚に向かって手にした模擬刀を振るった。
斬ッ!
驚くほどのしっかりとした手応えとともに、バイサーの脚、その一本が切り離される。
「ギャアァァァァァッ!?」
バイサーは悲鳴をあげ、バランスを崩して倒れこんだ。
(やはり…!)
満は自分の考えが当たっていたことに、安堵を感じていた。
(鬼の力、っていうのは斬る力。武器の切れ味を上げる力か!)
満の考えは厳密に言えば違うのだが、それを指摘する者はここにはいない。
あるのは、脚を切断され、痛みに呻くバイサーのみである。
「こ、の…ニンゲン風情ガァァァァァ!」
逆上し、もはや上半身も獣のような姿に変え、満に襲いかかるバイサー。
対して満は冷静に襲いくる巨体を見上げていた。
(斬れるってんなら…)
斬ッ!
「アガァァァァァァ!?」
「問題ねぇなっ!」
もう1つの前脚が切断される。
続けざまに、ガラ空きになった胴体に向かって、何度も斬りつける。
斬斬斬斬斬斬斬ッ!
幾筋もの剣閃がひらめき、バイサーに傷を作っていく。
「調子ニ…ノルナァァァァ!」
傷だらけのバイサーは怒りに任せ咆哮し、その衝撃で満は距離を取らされる。
その時、満の脳内で何かが閃き、満は眉をひそめる。
身体を走る痛みに呻くバイサーは、満のその様子には気づかなかった。
「フゥッ、フゥッ…ニンゲンガ、コノママ楽ニ死ネルト思ウナヨ…!」
眉をひそめていた満はそれには応えず、真剣な面持ちで模擬刀を構え直す。
その剣気は、バイサーに鬼の姿を幻視させた。
(ナ、ナンダトイウノダ!?ナゼ、ナゼコノ我ガ下等ナニンゲンゴトキニ…)
恐怖に顔を引きつらせたバイサーは、苦し紛れの特攻を仕掛ける。
(ヤツノカラダハ一度砕ケテイルハズ!イクラヤツノ刀ガ切レ味ガヨカロウト、叩キ潰セバ問題ハナイ!)
「ゴアアアアアッッッッッ!」
突っ込んでくるバイサーに対し、満は模擬刀を構えたまま動こうとしない。
バイサーはニヤリ、と笑みを浮かべると、
「バカガッ!モウ避ケラレン!脱出不可能ヨッ!」
と叫び、満に突っ込む。
と、そこで満が口を開き、
「馬鹿はてめえだ、化け物。俺が狙ってたのは…」
バイサーの突進をすれ違うように避けつつ、渾身の力を込め、刀を振るう。
車 斤 ッ ! ! !
「…この瞬間よ。」
模擬刀はバイサーの身体を両断し、上半身と下半身を泣き別れさせた。
突進の慣性のままフワリと浮かんだ上半身は、奇しくも満がバイサーに叩きつけられた壁に叩きつけられ、自身と壁を陥没させつつ、ベチャリと落ちた。
訪れる沈黙。
脅威はないと判断した満は、フーッと息を吐き出しながらその場にへたり込んだ。
(で、出来た…!)
最後の最後、バイサーが突進してきた時、満が冷静なように見えたのは、何も本当に冷静だったからというわけではない。
(「一閃」…!あんな
一閃。
人を守る戦いの中で、歴代の鬼武者たちが考案し、使ったとされる必殺剣である。
あらゆる生物には、戦闘行動時において、致命的な隙、思考の空白が生ずる場合が3つあるとされる。
1つ、攻撃が当たったと確信した瞬間。
1つ、攻撃を弾き返された瞬間。
1つ、仲間が一瞬で倒された瞬間。
この瞬間を狙い、渾身の斬撃を見舞うことで必殺とするのが、一閃である。
戦いの最中、この技の記憶が籠手から流れ込み、満は実戦でそれを使用することに成功したのだ。
(役に立つ技、ってんならそうなんだろうが、もう、ニ度とやりたくねぇ…!)
裏を返せば、ギリギリまで相手に無防備な状態で相対するということであり、精神的にも、肉体的にも極度の緊張を要求された満は、すでに疲れ果てていた。
満が辺りを見渡すと、刀袋は既にバイサーの溶解液で溶けており、模擬刀は抱えて持って帰るしかなかった。
疲れ切っていた満はバイサーがどうなったのか確認もせずに、模擬刀を抱え、なるべく人に見られないようにアパートに帰って行った。
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メチャクチャになったバイサーだったが、辛うじてまだ息があった。
(ク、クソ、ニンゲンめ。こんなに斬りやがって。必ず、必ず力をつけ、貴様に復讐しに戻ってきてやるからな。畜生、痛ェ…)
と心の中でで雪辱を誓うバイサー。満がいなくなった今、ゆっくりと傷を癒し、力を更につけるべき雌伏の時だというのはバイサーも分かっていた。
(だ、だが、やられっぱなしというのは許せん。力を蓄える過程で、ヤツの周りのニンゲンたちを根こそぎ喰らってくれるわ…!)
そうやって満への復讐を考えていたバイサーには、そこに現れた新しい闖入者に気づくことができなかった。
バイサーがふと顔を上げると、誰かが立っているのを見た。
顔の潰れたバイサーでは朧げなシルエットしか判別できないが、どうやら女のように見えた。
ツヤのある、黒髪が揺れている。
(しめしめ。この惨めな姿をニンゲンに見られるというのは業腹だが、まずはこいつを喰らって傷を癒せば問題はない!)
そう思い、バイサーはその女に飛びかかった。
飛びかかったバイサーが最後に見たものとは、三日月のようにつり上がった笑みと、その頭頂部にある尖った2つの耳だった。
はい。というわけで、初めての戦闘はこんな感じです。
今回、満が無傷で勝利したのは、ゲーム本編と違って満は回復アイテムありきで戦っていたわけではないことと、あくまで身体能力は一般人に毛が生えたぐらいのレベルなので、一撃でも食らうと勝てる展開が考えつかなかったからです。
左馬之介たちとは違って満は痛みにそれほど慣れているわけでもないし、鬼の力や幻魔の力を得た鎧なんて持ってないですからね。