各校では来年度に向けて、新たな体制作りが開始される。
それは、聖グロリアーナ女学院も例外ではなかった。
任命、挑戦の日々の始まり。
「こんな言葉を知ってる?『挑戦せずにして、成功はない』私は貴方に挑戦をお願いしたいの」
私の目の前の居る彼女、ノーブルシスターズのエルダーにして、我が校の戦車道部の隊長であるダージリン先輩は、その優雅さを崩さずに私に言う。
―今の言葉は野茂秀夫の言葉だったと、記憶している居るのだが。この場面では、その事を言うべきなのだろうか?-
昼休み、図書館での楽しい読書タイムから、校内放送でこのサロンや、ティールームと呼ばれるクラブハウス。その中の戦車道部の部室、それも全校生徒垂涎の的である『紅茶の園』に呼ばれたので。私は戸惑いと混乱にいささかの恐怖を覚えていた。
少なくとも…いや、確実に面倒ごとの中核に落ちたのは確かであると判断できる。問題は、その面倒ごとが何であり、私がどう関係するかである。
私は確かに、戦車道の授業を受講しているが、部活動は文芸部で、委員会活動は図書委員である。
まだ、入学一年目でなので、この学園、聖グロリアーナ女学院の流儀を完璧には理解していない。確かに、この学園艦と言う所は、丘とは違う論理で動いている。慣れるにはそれなりに時間が必要だと実感している。
それに私は姉達や、あの兄と違い。人との距離感の測り方が上手ではない。
僅かに目線を動かし、周囲を観察する。
目の前のティー・テーブルには、俗にいう「ノーブルシスターズ」の面々。
つまり、ダージリン先輩、アッサム先輩、同級生のオレンジペコさんが座っている。
空気的に、私の返答を待っているのを感じ。私は脳みそを全開で回して、何とか言葉を返した。
「『成功しないと失敗する可能性があります』って言葉がありますけど、私は『成功は決定的ではなく、失敗は致命的ではない。大切なのは続ける勇気だ』が必要なのでしょうか?」
何かつかめないかと思い、名言と迷言の二つを返してみる。
-さて、どう言う反応が来るかな?-
「ダン・クエールとチャーチルですか」
オレンジペコさんが、意外そうに言う。
彼女はダージリン先輩が言う名言の解説役、つまりは女房役と言う噂を聞いていたが、それはどうやら本当らしい。
「その二人の言葉を並べて言うのは、独特な感性を持っていますね」
アッサム先輩が呆れと興味の混じった声で言う。
-えぇ、完全にミスマッチな選択であるのは、理解していますよ。-
私は内心で反論しつつ。それを一切表情に出さずに、ダージリン先輩に視線を固定していた。
「『成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである』とも言うわ」
ダージリン先輩が有名なチャーチルの言葉を出しながら、口元に笑みを浮かべている。
『成功』どうやら、私が呼ばれたのはどうも、このワードが鍵らしい。
これに現状から関連付けられる事象を考えると、戦車道だろうけど、私にその事がどの様に関連するのか?
パズルのピースが足りない…歴史のスマイリー先生や、政経のマクレディ先生ならこういう状況でも的確に答えを導き出せるのかもしれない。
「混乱するは当然ですわ。では、順を追ってお話いたしましょう」
ダージリン先輩は、ティーカップを置き、二枚の写真と数枚の書類をとり出す。
「我が校にも、新戦車が入りました。と、言っても僅か2両ですが。一両はブラックプリンス」
「やっと、17ポンド砲の戦車ですか長かったですね」
隊長車砲手のアッサム先輩が感慨深そうに言う。確かにドイツやロシアの化け物と戦うには、我が校の戦車では、いささかの知恵と旺盛な勇気。そして、多大なる幸運が必要になる。
「そして、もう一両はコメット巡航戦車」
私は思わず目を見開いた。英国巡航戦車の完成形。この車両ならパンターやT-34辺りとも十分に戦え、ティーガー等にも対抗することができる。
しかし、よく導入できたものだ。OGの声がデカい我が校では、新型戦車を導入するのは色々と難しい。
今年から校長に就任した。「データの魔女」「鉄の女」と言われているモズレー女史が、OGの面々を数字で黙らせることに成功したのかもしれない。
「ユニバーサル貿易の方が、東南アジアの某国から入手してくださりました。色々と改修されたのを戦前仕様に戻すのに時間がかかったので。全国大会後のタイミングになりましたが」
ユニバーサル貿易は我が校のスポンサー企業の一つであり、本社は英国の倫敦にある…と言われている。名前からして代表がイニシャル一文字で、ウォッカマティーニを愛する美男子が居そうだけど。
このユニバーサル貿易のおかげで、我が校は英国戦車の必要な部品と弾薬の安定供給が可能になっている。
「今度はトータスでも探してもらおうかしら」
ダージリン先輩は冗談のように言う。目は本気に見えるのだが、あの車両は確かに欲しいと言えば欲しいと思う。
特に黒森峰がマウスを出してきた今回の全国大会からすると、来年はJS-3とかT28とか出てくるんじゃないだろうか?
故にOG達の声を黙らせることに成功したのだろう。現在保有しているクロムウェルも、全国大会後に追加された一個小隊の車両と、元から運用され、現在入院中の一個小隊、合計二個小隊、8両が実戦投入可能な
「話を戻しましょう。貴女にはこの戦車を任せます。つまり車長として、この戦車の運用法を確立して下さい。二年、三年生は現行の戦車で練度を上げた方が全体的な戦力は向上しますので」
確かに道理だ。新規増加分のクロムウェルも、同じような理由で一年生のみで運用している。
「私たちに必要なのはパイオニア。私の言葉に独特の発想で返してくる。そう言う所が必要とされます。だから、あなたを選びました。我が校初のコメット巡航戦車、その車長にはパイオニアとなって車両の運用法を確立する必要がありますわ」
そこで、ダージリン先輩は言葉を区切る。
「タイ王国で初めて茶畑を開拓し製茶工場を創設した。お茶のパイオニアであるラミンの名前を今日から名乗ってください。高野皐月さん。いえ、ラミン」
彼女はそういって、優雅に微笑む。
紅茶に因む呼び名を与えられる幹部・幹部候補生になれとは…正直、お断りしたい。
しかも、新戦車の車長である。誰から恨まれるか判った物ではない。
しかし、ダージリン先輩の私を見る目は、真っ直ぐに私を見据えている。それに、断ったら断ったで、何処から恨まれるか判らない。
どうやら私は、逃げることは出来なさそうだ。
私は蛇に睨まれた蛙の様に硬直し、ぎこちなく45度の角度に腰を曲げ、無帽での敬礼を行い。彼女に対して敬意を示しながら。
「謹んでお受けいたします。身に余る栄誉と重責、それに相応しく成る様、誠心誠意努力いたします」
そう答えるのが精一杯だった。
緊張しているが、同時に自分が選ばれたことへの幸福も感じていた。評価されている事は間違いないからである。私もそれなりに認証欲求は持ち合わせている。
一つ確かなことは、私、高野皐月改め、ラミンの戦車道は新しいスタートが決まったと言う事だ。
「『ミスを犯さない人間には、何もできない』と言います。貴女の戦車道は何度も躓くことになるでしょう。ですが、『つまずきは、転落を防いでくれる』とも言います。貴女のこれからの戦車道は、そういう事になると考えなさい」
ダージリン先輩は英国の諺を引用して締めくくった。
私はそれを聞きながら『すべって転んだことのない者は、安全確実に立っているとは言えない』と言う諺を思い出していた。
はじめまして、飛龍瑞鶴と申します。
ガールズ&パンツァーの二次創作を投稿いたします。
舞台は、私の故郷を母港とする。聖グロリアーナ女学院。
伝統ある学校であり。英国色が強い学校でです。
この学校を舞台に、来年度に向けて、努力する少女たちの姿を上手く描けたら良いなと、思っております。
新参者ですが、何卒よろしくお願いいたします。
感想、また、ご指摘はドシドシ募集しています。