5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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今回、コメットの乗員がついに決定しました。
また、今回は、故伊藤計劃氏のリスペクトを多分に含みます。


短剣と外套…コメットの乗員決定

 兄の襲来と言うサプライズは在ったが、砲手の選別は残り日が20日を切る前に終わった。

 選別を残ったのは、雨月早苗―うげつ・さなえ―最初から砲の狂いを見抜き、爆発後も冷静に同軸機銃―以下、連装と表記―で試射し、修正射撃を行う冷静さを持っていた。また、その後の交流や他の人間の評価もおおむね良好で、他の戦車道履修者からも評価は良い。

 性格は、まぁ、私ほどではないが、疑り深く、職人気質を持っている。

 あと、感情の起伏がフラットで表情の変化を読むのが難しいが。これは、報告を総合すると戦車に乗る時にそうなるらしい。

 私と違い、パンツァー・クールとでも言うべきか。

 

 これで、面子は揃った。一覧にするとこうなる。

 

 車長:私ことラミン

 砲手:雨月早苗

 装填手:吉田舞耶

 操縦手:卯月桐花

 副操縦手兼無線手兼前方機銃手:藤原菖蒲

 

 この五名で協力し、いち早くチームとして戦えるようになり。

 来る19日後の大洗との練習試合に、実践投入可能にしなければならない。

 訓練メニューは大きく簡略化する必要がある。まるで、戦時動員の即席戦車兵だなと、内心で呆れと笑いの感情が交差する

 真っ先に削るのは、聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の十八番である統制のとれた行動。

 これは、単独先行するコメットには現状必要ない。

 とりあえずは、動いて射撃をする事と、偽装やら隠密偵察やらの訓練を重点的に行うことにしよう。

 私はそう決めると、流石に三日連続で徹夜したら体力が持たないと判断して、簡単なテンプレートを作成して眠りについた。

 体は正直で、布団に潜り込むなり。私は深い眠りに墜ちた。

 

 ラミンが深い眠りに墜ちているころ。

 聖グロリアーナ女学院戦車道部隊の格納庫に、彼女の血縁者とその夫が在る人物を待っていた。

 「こうするのも久しぶりですね。義兄さん」

 ラミン、つまり皐月の一つ上の姉。葉月の夫であり、考古学および民俗学者である。渡良瀬総一郎が義兄たる高野善行に言う。

 彼は前人未到の無名都市の発掘調査時に善行と知り合っている。

 それが遠因で、義兄弟になるのだから、世界はわからない。

 「まぁ、貴様が倫敦の魔術教団を潰した時以来か?」

 倫敦のとある魔術教団をこれから合流する人物と共に、徹底的に壊滅させた事を思い出して言う。

 魔術教団、あるいは魔術結社と言うのは欧州が特に熱心だが。古くから世界中に存在して、彼らなりの独自の知識を蓄積し、大量の希少書を保有して現在に至るまで、離合集散しながらも存在する。

 「あれは、貴重な文化財を競売で売り払おうとした馬鹿と。資料を持ち逃げしようとした阿保を始末する必要があったんですよ。女王陛下の魔術師からの依頼でした」

 「それで、私様な間諜―スプーク―の幽霊―スプーク―まで動員されたわけか。どうせなら、魔法学院の人員を動員すればよいだろう。丁度、眼鏡の若き英雄が活躍していた頃だろう?」

 新たな声が、暗闇から自称した様に亡霊の囁きの様に響いた。同時に、青い瞳の年齢不詳の美男子が姿を現す。

 「お久しぶりです。ミスター・b」

 総一郎の声を美男子が遮る。

 「その名前は今の私では無いよ。後進に譲ったんだ。もう、女王陛下の間諜―OHMSS-ではないからね」

 「でも貴方は女王陛下の臣民―サブジェクト―であるのは変わりない…もしかしたら、所有物―プロパティ―では?五代目」

 善行は世界的に有名になる事で、自らを幽霊と同等の存在に昇華させた伝説的スパイの五代目を名乗っていた男に言う。

 「それは、解釈次第だね。さて、魔術師に忍者、そして時代遅れの恐竜が揃っている訳だが」

 五代目は両手を広げる。

 今宵この場所で時代遅れで、危険が伴う情報交換を提案してきたのは彼である。

 その為、善行はヘリを見送ることになった。

 「では、プレゼント交換といきますか」

 魔術師と言われた総一郎が言う。

 彼は二人分のマイクロフィルムを用意していた。他の二人も同様の物を差し出す。電子データにできない物がどれも映っている。

 五代目の恐竜が着るブリオーニのスーツ―これともう一つの要素が彼を五代目であることを語っている―の腰の部分から軽い電子音が響く。

 「どうやら、招かざる客人が入り込んでいる様だ」

 五代目はごく自然に、ワルサーP99を抜き、消音器を取りつける。

 義行も無言で、ブローンングHPを抜き、消音器を取り付ける。

 渡良瀬はティザー銃をとり出した。

 全員、悲しいことに荒事に慣れている。

 「我が学園の生徒ではない様です」

 渡良瀬が言う。生徒手帳に仕込まれたチップが発する信号を調べるアプリを彼は、教員としての義務から、自身のスマートフォンに仕込んでいた。

 「では、ご挨拶と行くか」

 自身もスマートフォンを見ていた五代目が言う。彼は、この学園艦の至る所に設置された各種センサーの情報を警備上の理由から閲覧できる権限を持っている。

 「そこに隠れているのは判っている。素直に出てくることをお勧めするよ」

 センサーが捉えた潜伏地点に向かって、警告を発する。侵入者に動きは無い。

 「仕方ない。歯を全部折って、金網に巻いて海に捨てるか」

 善行がわざわざ聞こえるように言う。

 「日本の伝統では、ドラム缶にコンクリートじゃないのかい?」

 五代目が茶化す様に言う。

 「あれだと、死体の浮力で浮かんでくるんですよ。金網なら、膨らむ前に魚が食べてくれます。ついでに歯を全て折るのは…」

 「本人確認できなくするためだね」

 五代目が引き継いだ。

 「義兄さん。なんでそれ知っているんですか?ヤクザの手口でしょう」

 総一郎が尋ねる。

 「潜入捜査で半年ヤクザの若頭に成り代わっていた。その時に覚えたのさ」

 「多忙だね。君も」

 五代目が皮肉げに言う。

 「係る仕事が世界を救うハメになる貴方よりはマシです」

 善行が皮肉で返す。

 「で、どうするんですか?」

 総一郎が焦れたように言う。

 投降を促す様に言っていた会話が、盛大に脱線している事に気がついたのだ。放置すれば、朝まで軽口と皮肉の応酬が行われる。

 「他校の生徒だろう…手荒に扱う訳にはいかないな」

 五代目は得られるセンサーの情報から侵入者が、おそらく女子高生であると検討をつけていた。

 彼はキーホルダーを取り出し侵入者が隠れている場所に投げ込み、口笛で「ルール・ブリタニア」の一説を吹く。

 その瞬間、電子音と共に黄色い煙が周囲にまき散らされる。

 煙の中で咳き込む声と、屈んだ位の態勢をした人間が倒れる音がした。

 「前任者のだが…使えるね。スタンガスだよ」

 五代目はそう言って油断なく銃を構え、潜伏地点に向かう。義行も続いた。

 彼らがたどり着く頃には煙は散っていた。そこには特徴のある癖毛の少女が倒れていた。

 「大洗女子の秋山か」

 携帯端末の顔認証システムを作動させ、戦車道関係の人物データから人物を特定した善行がそう言って銃を収める。五代目も総一郎も得物を収めた。

 「まぁ、練習試合前の偵察だろう…私が大洗に送り返す。存在しない公務を見られたので、その辺りを忘れるように言い含めておくよ」

 五代目は彼女の荷物を改め、メモリー関係の機器を素早く抜き取る。そして、金額を書いてない小切手を善行に渡した。

 「これで、新しいメモリーを買ってあげてくれ。我が校のセキュリティ上、映ってはならない物があるかもしれないのでね。ついでに謝罪も」

 そして、彼は立ち上がり。

 「さて、スプークは幽霊らしく消えるよ。これから約束があるのでね。遅れる訳にはいかないのだよ」

 そう言うと、影の様に消えて行った。

 「総一郎。彼女を頼む。俺は…車を用意してくる」

 善行はそう言うと、今消えた幽霊から貰ったオメガ「シーマスター ダイバー 300M」で時間を確認する。

 明日の訪問先が大洗で、学園艦が入港していると言う行幸に感謝しながら。

 彼女に言い含める事と、大洗まで車を飛ばすことを考える。どう考えても徹夜の仕事になりそうだ。

 「最後の定期便に間に合うな…それで学園艦を離れるよ」

 「昔話は次の来艦時にでも…一九日後ぐらいですか?」

 善行はそれに苦笑いで返す。

 「多分な」

 

 

 翌朝、時間通りに目覚めたラミンは、学園に向かう道すがら出会った戦車道チームの人間から。昨晩、格納庫に侵入者があり、今日は入れないと事を知らされた。

 午後の時間に自由時間が出来てしまったので、決まったメンバーを連れて父の紹介の革製品の店で、おそろいの手袋にブーツを作ることに決めた。

 電話で礼を両親に言った時に、母が「クルーの人たちのも作って貰いなさい」と言われたので、これで気楽に行ける。

 「買収工作ですか?」

 その話を聞いた早苗が平坦な声で言う。短い時間で会話をした結果。この声色は、色々と楽しんでいる声である事を理解できた。

 「それ、以前。オレンジペコさんにも言われた。今回は…士気向上と連帯感を作りたいからかな?」

 目的地の住所を教えたタクシーに五人で座りながら会話を楽しむ。この面子では変に格式ばった会話をしないことに流れで決まった。

 「でも。革製品五人分って、結構お高いんじゃ?」

 舞耶が言う。確かに両親の趣味趣向と兄の言葉から考えると。フルオーダーで作ってくれて、細かい注文にも応じてくれるだろう。

 「脛肉は太い内に齧るのが一番」

 菖蒲が容赦のない事を言う。

 「確かに、私の財布から出る訳じゃないですよ」

 私の拗ね方が面白かったのか、他の全員が笑った。

 この面子は良いチームなりそうだ。

 

 そのころの大洗

 「西住殿ぉ~申し訳ありません」

 秋山優花里は敬愛する隊長の腰に縋り付いて泣いていた。

 「聖グロの偵察に行きましたら。怖い人たちと鉢合わせして、デーダを没収されてしまいました」

 西住みほはこの友人に対して、どう対応するかを悩んでいた。

 今の場所は生徒会室なので、視線が色々と痛い。

 「と、とりあず。優花里さんが無事で良かった」

 「ありがとうございますぅ。偵察は記憶だけになりますが、しっかりと覚えて来ました」

 「で、その怖い連中は何処のどいつだ?聖グロの警備なら、まだ帰って来れない筈だ」

 河嶋桃が疑問に思ったことを口に出した。それを聞いた途端、優花里は真っ青になる。

 「答えられません。答えたら。自分はアンコウの餌ですぅ」

 優花里がまた盛大に泣き出す。よほど怖かったのだろう。みほの腰に回した腕は小刻みに震えていた。

 「彼女は何を見たんだろう?」と、みほは思いながら。

 何処かは防衛省ナンバーのクラウンで送られて来たから、予想はつくのだが。

 彼女は詮索しない事にして、口に出すのもやめた。

 優花里さんから聖グロの最新情報を聞くのはもう少し時間を置いてからじゃないと無理だろうと思い。少しでも早く、彼女が平常心に戻る様にゆっくりと頭を撫でた。

 




やっと、コメットの乗員が決定いたしました。
次回辺りから、練習試合などが書けると思います。

そして、モヤッとさんにラミンの立ち絵を頂きました。

【挿絵表示】

彼女が立ち絵で持っている本は『欲望の倫理』(ハードカバーのタイトル)と『On Her Majesty's Secret Service 』(文庫本のタイトル)です。

そして、今回はついに"彼”が登場してしまいました。声の吹き替えは田中秀幸氏です。
流石に秋山殿でも彼には敵わないと言う事で…

魔術教団ですが、面白いことに実在したりします。
英国や欧州、そしてアメリカにも今も実在していると記憶しています。
まぁ、現状は希少書のコレクション団体になっていたりしますが。

そして、善行さんも退場。次の暗躍は当分先です。
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