5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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今回から、コメットの練成開始です。
先ずは、紅白戦に向けた準備


二歩目
練成開始


 結論から言えば、父と母が紹介してくれた革製品の店は凄かった。

 五人全員の細かく複雑な注文を、彫刻の様に深く皺が顔面を美しく飾っている老人は、瞳は真剣だが、頬は緩みながらも各自の注文を見事に果たした。

 それは調律が完璧のピアノの演奏の様であった。

 「凄かったですね」

 帰りのタクシーの中で舞耶が、自分の掌に密着し、装填手としての動作がスムーズに出来るように工夫された黒革の手袋をはめた手を何度も開いたり閉じたりしながら言う。

 全員が、出来上がったばかりの手袋と騎乗ブーツが非常に体に馴染む感覚を不思議に思い、そして楽しんでいた。

 

 「さて、今後の方針についてです」

 桐花が唐突に音頭を取った。

 気がつけばタクシーは寮より学園の方へと向かっている。

 「これから、19日。実際には18日で我々は大洗相手に実践投入されます。末期の武装SSといい勝負ね。相手は中東戦争を戦い抜いて、訓練と休養をとったイスラエル国防軍並み。これから毎日、ラミンの過酷極まる最低限度の訓練が時間ギリギリまで続きます。それの訓練を可能にする為に、私は共同生活と学園近くへの引っ越しを提案します」

 桐花がそう言いきると、タクシーが目的地に着くのは同時だった。

 「まぁ、共同生活するかは置いておいて、とりあえず。中見てよ」

 タクシーに料金を支払った桐花が、最新式のカードキーを取り出すのを見て。

 私はある事を悟ったが、念のために確認の言葉を述べる事にした。何事も確認せねば勘違いが時に大きな齟齬を生み出す。

 「もしかして、もう何人か住んでいるの?」

 私と砲手の早苗以外は手を上げた。なんとまぁ、いつの間に。この団結力は何だろう?

 「いつの間に」

 私の代わりに早苗が言う。彼女も呆れているようだが、空室の中をよく観察している。

 私も見たところ、通常の学生寮より少し間取りが広い。各部屋ユニットバス、キッチン付きで、後は一階には食堂が付いている。部屋数は八室で、上の階は半分、下の階は一部屋埋まっている。

 全体的に狭い印象を覚えるが、部屋間を移動する通路などが英国式アパートをモデルにしているようだからその様に感じられるのだろう。

 「家賃は?」

 私の問に、桐花がカード型電卓を叩いて数字を出す。ついでに、スマートフォンで現在地を表示する。

 学園から近く、現在住んでいる学生寮より安い。

 私は驚くと同時に、地図を再度確認する。義兄が経営する古書店の裏の場所だった。以前、空き地にするより、有意義な使い道をすると言っていた気がする。

 ガレージ付き、私の愛車も運び込める。

 私は古いタイプの赤いミニ・クーパーを入学祝に貰っている。広い学園艦内を移動するのに足が必世だろうと、兄が何処からか手に入れてくれた。

 戦車道履修者は追加試験を受ける事で、自動車免許を取得することが出来る。まぁ、取得しなくてもフィールドで運転はできるが。

 その、愛車を久しぶりに乗り回せる時間ができる事に気がついたが。それは、共同生活を始めてからであり。そして、乗る機会は遅刻しそうな早朝に全員を詰め込んでの登校になりそうだと予測がついた。

 また、古き英国式アパートを模しているが、ユニットバス・キッチンは日本製の最新のもので、光ファイバーケーブルのオンデマンド環境も整っている。

 恐らく、落ち着くまでは毎日、くたくたになるまで練習漬けだろうから学校から近いのも良い。仲間との共同生活というのも経験してみたい。気がつけば全員が共同生活に同意していた。

 引っ越しの準備や手続きを超特急で、私と早苗がする事になるのだが。それは別の機会に語ろう。

 

 

 秋山優花里が平静を取り戻したのは翌日だった。

 普段の調子に戻った彼女は、友人たちが心配する中。聖グロリアーナ女学院の偵察情報を纏め上げて報告を開始した。

 「次の聖グロの演習試合に向けて、偵察を行ったのですが。その結果、聖グロは戦力を増強しています」

 秋山は記憶を頼りに製作した戦力表をホワイトボードに貼る。生徒会長室に集合していた面々が、それを注視する。

 「まずは、ブラックプリンスを入手したようです」

 「17ポンド砲が厄介だね」

 誰がと言う訳ではないが、全員の心象を代弁したセリフが出る。

 対サンダース大学付属高校戦でも17ポンド砲搭載のファイアフライはその優秀な砲手であるナオミともども強敵だった。

 「それに、クロムウェル巡航戦車を4両確認しました」

 「こちらのほうが厄介かも」

 みほが呟く、砲力と装甲、そして運動性の良い戦車を揃えた聖グロは間違いなく強敵になると。

 彼女は直観と指揮官としての経験、そして対戦した時の実感として感じていた。

 「あと、最後の一台ですが。恐らく巡行戦車です」

 秋山は自信なさげに言う。

 「砲塔をシートで覆っていました。また、突起が砲塔から前方に伸びていました。もしかしたら、陣地突破用のロケット弾発射レールを付けているクロムウェル巡航戦車かもしれません。足回りはクリスティー式でしたから」

 「つまり。楽な試合じゃないと言う事だな」

 生徒会広報、河嶋桃が現状を簡潔に表現した。いろいろと言われることの多い彼女だが、状況の把握力はなかなかのものである。

 「前から、楽な戦いは無かったよ。桃ちゃん」

 副会長であり、河嶋桃の女房役、小山柚子が突っ込む。

 確かに、大洗女子の戦いは常にそうであった。

 「桃ちゃん言うな」

 本日の会議もいつもと同じように予定調和で終わった。

 

 

 共同生活七日目、コメットの乗員として訓練を開始しても七日目の朝。私は香ばしいパイ生地の焼ける匂いに連れられて、共同食堂へと向かった。

 「おはよう、舞耶。今日は、ミートパイ?」

 私は装填手に尋ねる。この7日間で分かったことは、彼女が迅速な装填ができて、なおかつ料理の手際と腕が良いことである。その為、最近は彼女に弁当を作るのを任せきりにしている。

 「おはようございます。ラミン。今日はミートパイの上をマッシュポテトで覆って焼いています。美味しいですよ」

 彼女は歌うように言う。私はそれをしり目に、二つの水筒にゆっくりと、炭酸飲料を詰めていた。

 「マウンテンデューにセブンアップですか…紅茶も飲むのに…」

 舞耶が私の糖分過多な水筒の中身を見ながら言う。車内で紅茶を淹れるので、水分摂取量は結構多くなるが、汗をそれ以上にかきそうだから問題ないだろう。塩分が問題になるかもしれない。

 「今日は、頭が糖分を必要としそうだから」

 私には予感が在った。

 ここ数日は、射撃コースを爆走して、射撃し、基礎戦闘能力を上げる事を目標にしていた。

 そして、昨日、その目標値を超えた。

 つまり、今日は先輩方のサプライズ・テストがあると危機感地センサーが告げていた。

 「カロリー使いそうですね…少し多めにしときます」

 「御願い」

 私は舞耶に頼むことにした。

 私も朝食の手伝いをすることにする。

 イングリッシュ・ブレックファーストも自分で作れば納得のいく味になる。

それにこの近所には、美味しいパンを焼くベーカリーがある事を早苗が発見してくれた。

 我々の共同生活での食生活は、良好であり全員が個人の嗜好を考慮しても、おおむね満足できる状態を維持している。

 共同生活で分かったことは、舞耶の料理の腕と。早苗は気分が良いと、風呂で様々な曲をハミングすること。桐花が時折、イヤフォン忘れて乙女ゲーを大音量でしたりと、全員の良い面や悪い面、そしてどうしようもない面が解る様になった。

 その為に、変に全員が気負いすることなく意識統一をできる事ができた。

 しかし、菖蒲宛に良く分からない電子部品が世界中から、毎日のように届き。彼女が換気を忘れると、アパート中に配線を繋ぐ匂いが充満するのは勘弁してほしい。

 戦車道の方では上手く、チームとしてまとまってきている。

 そこまで行くのに全員が数え切れない失敗をしたが、なんとかそれを乗り越えていくことに成功している。しかし、そろそろ気づかれもしている。

 今日あたりに精神的な一区切りをできるイベントが欲しいと、私は考えていた。

 その予感は、見事に当たる事になる。

 




次回辺りは、紅白戦が出来ると思います。
EUになってから、イギリス料理は良くなっているらしいです。
出店は、当たり、外れの差が大きいのですが…値段に合った味は食べれるとも…


ちょくちょく改稿
誤字脱字を減らすのが今後の課題だなぁ…
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