5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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紅白戦が開始されます。



五月の鷹

 午後の戦車道の授業。仕掛けてくることは、授業開始前の上級生たちの士気を見ていた人間ならだれでも察知できるぐらいの闘志を感じられた。

しかし、現状はまだ仕掛けてこない。

 

 菖蒲に全周波帯を探らせているが、それらしい通信は無い。

 先輩方の練度だと無線連絡無でも襲撃を仕掛けられると判断。

 私自身は先ほどから、コマンダーハッチから上半身を乗り出し、兄からのプレゼントの多機能双眼鏡で周囲警戒をしている。砲手は照準器で、装填手もビジョンブロックから周囲を窺っている。

 「ラミンはどの部隊が仕掛けてくると思いますか?」

 戦車の中では胡瓜の様な―英語圏で常に冷静沈着な人の比喩―早苗が尋ねてくる。

 一瞬、車内に視線を向けると、早苗は照準器のアイピースに目を押し当てているのを確認する。仕事をちゃんとしている姿勢はたいへん好ましい。

 私もハッチから身を乗り出し、上半身を砲塔に押し付けながら周囲を確認しつつ答える。

 「多分…クルセイダー小隊だと思います」

 これは、本当に勘だった。

 なんとなく、ローズヒップ小隊長の感じから、そう思えた。

 「賭ける?賭けるなら。私はチャーチル小隊に崎陽軒の弁当」

 「じゃぁ。私はマチルダⅡ小隊に同じく、崎陽軒の弁当」

 車体前方の二人が勝手に賭け事を始める。

 私はその二つの小隊が相手としてくる可能性を考える。

 対大洗想定だと、チャーチルとマチルダⅡでは走力は遅くなるが、それ以外は、一部の車両を除けば装甲は厚い物になる。砲力はチャーチルの方が近い。可能性はあるかもしれない。

 

 任務面から敵を想定してみよう。

 このコメットが相手する可能性が高いのは、これまでの大洗の戦歴、戦術からすると、89式とM3と偵察中に遭遇し、そのまま混戦になる可能性が高い。

 それがなく偵察が上手くいけば、大洗の主力に最良のタイミングで切り込めるだろう。

 問題はどの車両も練度がそれなりにあり。そして、殆どの乗員の肝が据わっている相手と言う事なのだが。その辺は最初から承知している事だし気にしないことにする。

 では、何が来るだろうか?

 「菖蒲、なんか兆候ある?」

 私は周囲警戒を続けながら尋ねる。

 「飛行場から観測機が離陸しそう…エアスピードAS39?良く実機が在ったと言うか…図面から創ったの??ウチの技術屋ども。岡部先生歓喜な機体じゃない、駄作機だけど」

 菖蒲が何かに驚いている様だが、観測機が離陸したと言う事は、襲撃があるのは、長くても数十分後になる。

 観測機からのデータは今後に活かせるからだ。

 「戦闘準備、咄嗟戦闘に備えよ」

 私はそう命じると、ヘッドセットを片方ずらして耳を澄ませる。

 

 擦過音が聞こえた瞬間。私は反射で命じる。

 「戦車、前進、全速。砲塔6時」

 同時に車内に落ち込む。自分の重さと勢いを筋力に足して、コマンダーハッチを閉める。

 「なんです」

 ビジョンブロックに齧りつきながら、後方へ回転する砲塔から周囲に視線を走らせながら、舞耶の質問に答える。

 「缶切りが来ます」

 「要するに曲射で上面を狙う射撃」

 私の発言を早苗が補足説明する。流石、砲手良く知っている。

缶切り、要約すれば砲弾は重力によって山なりの弾道を描く。それを利用して装甲の薄い車体上面に砲弾を命中させる技術である。

 無論、それを行うには砲に精通した精兵が必要になる。

 後方から衝撃、土煙が上がる。四度、衝撃を感じたから、相手は一個小隊。

 ―何処で何だ?―

 私は必死に周囲を索敵する。

 後方なのは間違いない。土煙の高さから砲弾を推測する。マチルダⅡやヴァレンタインではないと計算。

 チャーチルか?クルセイダーか?それともクロムウェルか?

 私の疑問を一瞬で吹き飛ばす。聞きなれた特徴的な笑い声が、オープンに開いている無線から聞こえた。

 『ラミン。貴女達がどれほど成長したかを私達が試して差し上げますわ。ダージリン様のお紅茶の時間までに、終わらせて差し上げますわ』

 ローズヒップ小隊長のノリノリの声が響く。

 耳を澄ませば、ローズヒップ車のカリカリにチューンされた豪快なエンジンの爆音が響いてくる。距離を詰めてくる様だ。

 「桐花、履帯に無理させずにジグザグ機動。命令と同時に全力前進用意」

 「了解」

 私は桐花に命じながら、「缶切り」の後に距離を詰めてくるクルセイダー小隊の戦術を予想する。

 かつて所属していたから当たりはつけられる筈だ。

 おそらく、行進間射撃を榴弾オンリーにして、履帯の切断狙うだろう。

 また、遅延信管を利用し、榴弾をバウンドさせて曳火起爆で装甲の弱い部分を狙ってくるかもしれない。

 思考をめぐらしていると、新たな無線が入電した。

 『ラミン。聞こえていますね』

 ダージリン様からである。

 これはよろしくなさそうな展開だと直感が言う。

 無論、よろしくないは聖グロリアーナ女学院的な婉曲的な表現である。

 直接的な感情表現をすると、とても淑女たる乙女が抱くべきでない表現の羅列になる。

 『貴方のコメットは現在より『ガウェイン』のコールサインで呼ばれます。戦車道授業終了まで生き残るのが目標です。では』

 「『ガウェイン』了解。最善を尽くします」

 『五月の鷹』―ガウェイン―とは、『「タカ=鷹」ノ・「サツキ=5月」』と言う名前のモジリか、皮肉な事で…太陽が出ている間は撃破されるなと、湾曲的に言ってるのだろうか?

 内心から漏れそうになる悪態を自制し、周囲警戒を続ける。

 「早苗、照準器にクルセイダーを捉えたら射撃自由。弾種、榴弾」

 「了解」

 車外の監視を一瞬中止して、マップケースに視線を落とす。

 テープで括りつけた懐中電灯によって、暗い車内でも細部まで見える様に工夫した。 舞耶の提案で行ったが大正解だった。

 ダージリン様は、クルセイダー小隊だけを敵として用意してないだろう。

 クルセイダー小隊は、例えればキツネ狩りの猟犬。このコメットを任意の場所に追い込む為に放たれたと思われる。

 キツネが猟犬に食い殺されればそれでよし、猟犬に牙を剥いて襲い掛かるなら、射座から撃てばよし。その様なプランだと推測する。

 アッサム先輩も17ポンド砲を大洗戦まで行動中の戦車に命中させておきたいだろう。

 地図で仕掛けてくると思われる地点に目星を付けるのと、早苗の冷静な報告が届くのは同時だった。

 「クルセイダー、サイトイン。撃ちます」

 車内に轟音と振動、そして無煙火薬の匂い。

 薬莢がはじき出され、舞耶が次弾を素早く装填する。

 私もビジョンブロックに視線を戻し、砲弾の行方を追う。ジグザグに機動しながらの行進間射撃が命中する確率は皆無に近いが。榴弾の破片効果を期待していた。

 放たれた砲弾は、クルセイダー小隊の急速な減速によって。榴弾の効果範囲すら躱される。

 ―やはり、練度が高い。―

 流石はローズヒップ隊長の部隊。

 本人は『聖グロ一の俊足』を誇っているが、その能力の本質は高速機動するクルセイダー部隊を手足の様の操る統率力と判断力。そして旺盛な戦意。

 まさに現代の騎兵将校である。  

 アート・オブ・ウォーを自己の流儀で演出できるダージリン様とはタイプは違うが。現在の聖グロリアーナ女学院の戦車道部隊の背骨を担う人物である。

 次の世代。

 いや、パイオニアになれと言われている私が挑み、乗り越えなければならない壁である事は間違いない。

 私は口の中にアドレナリンの味が広がりつつあるのを感じていた。

 




紅白戦が開始されました。

さて、ラミンはどの様に戦うのか。
次回もベストを尽くして書きあげるつもりです。
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