5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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敵はローズヒップ小隊長率いるクルセイダー巡航戦車一個小隊
はたして、ラミン率いるコメットは如何に立ち向かうのか!!



スワッシュバックラー

 ローズヒップ小隊長率いるクルセイダー小隊は間違いなく、聖グロリアーナ女学院戦勝道部隊の中でも巡航戦車の扱いに精通しているライトスタッフの集団である。

 自分が所属していたこともあり多少、身内びいきな評価であると思うが。御世辞にも機械的信頼性が良いとは言えないクルセイダー巡航戦車を例え完璧な整備下で運用していても、戦車戦中に機械的トラブルで脱落させない手腕と、積極的交戦を挑む戦意。

 そして、人員的な運用面で問題を抱える車両を小隊一つが生物の様に統制がとれている。

 そこまで思考を巡らせた瞬間に、衝撃が来た。

 「被害報告」

 衝撃に耐えながら叫ぶ。

 恐らく防盾に命中弾。

 「主砲、照準器ともに被害なし」

 「砲塔内問題なし」

 『無線問題なし』

 『駆動系問題なし。全速発揮、戦術機動可能』

 素早く全員から返答が来る。その辺は良い兆候だが。

 現在の戦況はあまりよろしくないと言える。

 有体に言えばジリ貧、軍事的用語で取り繕えば消耗戦。

 今は距離があるから、先ほどのラッキーヒットぐらいしか命中弾は無いが。いずれは距離を詰められ、装甲厚に関係ない距離から有効弾を喰らう。

 それに、車体後部を向けているから、撃破される危険距離は近い。

 「主よ…」

 早苗が聖句か、聖書の一文を呟きながら主砲を撃つ。

 

 あぁ、これは本当によろしくない状況になってきた。

 

 ビジョンブロックから、距離をジリジリと詰めてくるクルセイダー4両を睨みながら。私は必死に思考を巡らす。

 

 ―ローズヒップ小隊長の車両の尻を振る癖が、此方の首を狩る鎌の動きに見える―

 

 そう思考が回った瞬間。先輩たちの癖に、付け入る隙があるのではないかと気がついた。

 

 ・ローズヒップ小隊長 車体後部を振る癖がある。

 ・クランベリー先輩 急停止後に車体を左右に振る。

 ・ヴァニラ先輩 咄嗟の判断で機動する時。右方向になる傾向がある。

 ・サクラ先輩 機動時に進行方向に先に砲塔を旋回させる傾向がある。

 

 一瞬で思い出せたのは行幸だった。

 これを上手く使えば付け入る隙は十分ある。

 咄嗟に大雑把な作戦を立案する。入念に検討する時間は無さそうだ。

 私は即決で決断を下し、車内に命令を飛ばした。

 「早苗、射撃中止、命令と同時に砲塔を右90度へ旋回。舞耶、次発から装填は、別名あるまで銀の弾丸―APDS―に。桐花、命令と同時に急停止、その後、発砲と同時に左に90度旋回。菖蒲、衝撃に備えて」

 「「了解」」

 『『了解』』

 了解の返答の声が揃っている。これは、宜しい兆候だと自分に言い聞かせる。

 

 車長―いや、指揮官は不安を見せてはならない。

 

 「早苗、連装の短連射をローズヒップ小隊長車に二回」

 「了解」

 早苗は77㎜砲HV砲の右側に据えられた7.92 mmベサ機関銃を短い間隔で二度、連射する。

 同軸機銃とも呼ばれるが、私は自衛隊式に連装機銃と呼んでいる機銃から放たれた銃弾は、クルセイダー巡航戦車の砲塔に火花を散らした。

 砲塔に機銃弾が弾かれると同時に、ローズヒップ小隊長車は急停止、他の車両は素早く散開。

 「急停止」

 私は命じると同時にコメットが急な制動をかける。

 体が慣性に引っ張られるのに耐えつつ、搭載されている即時発射可能な全ての発煙弾を発射、同時に煙幕を展開する。

 「砲塔旋回」

 制動に旋回の機動が加わり、耐えるのが辛くなってくるが。私はビジョンブロックから外の監視を強引に続ける。

 筋肉が悲鳴を上げているが、その悲鳴を無視する。後で、湿布でも塗り薬でも、針治療でも受ける。

 影がビジョンブロックに飛び込むと同時に私は叫ぶ。

 「撃て」

 轟音と振動、そして無煙火薬の匂い。それに旋回の慣性、それを無視し車体が向いている方を強引に見る。こちらにも影が飛び込む。

 「全速前進、衝撃に備え」

 600馬力のロールスロイス・ミーティアMk.III 12気筒ガソリンエンジンが咆哮を上げる。私はその後に来る衝撃に備える。

 そして、金属が奏でる不協和音じみた悲鳴と共に、前進を揺さぶる衝撃がコメットを襲った。クルセイダー巡航戦車の横っ腹に体当たりをする事に成功した様だ。

 『ヴァニラ車、命中、有効弾、撃破』

 一両を撃破する事に成功したのを審判部からの無線で判明する。

 私は無線から流れる判定より大きい声で、次の命令を下す。

 現状は至近距離での乱戦。煙幕が晴れる前に戦果を稼がねばならない。

 「後進、砲塔正面、射撃自由」

 少し、嫌な音がしたが。コメットは後進を開始する。砲塔も異常なく回転する。舞耶が次弾を急いで装填しているのが目の端に見えた。

 「装填完了」

 「撃ちます」

 爆音、振動、排莢、排煙。

 『サクラ車、命中、有効弾、撃破』

 これで二両目。ビジョンブロックに張り付いて、必死に周囲を確認する。

 「現状報告」

 忘れていた事を問う。

 ラム・アタックもどきをしたから、何かしら被害はあるだろう。

 その被害が少なければ良いが。

 「砲、照準器、戦闘に支障なし」

 「装填には問題ありません」

 「無線…アンテナは調べないといけないけど、受信、送信に問題なし」

 「操縦系統…現在は戦闘機動可能…正面は凹んでる可能性あり」

 「了解」

 少なくとも、この煙幕の中で、乱戦をするだけの余裕はありそうだ。

 私がそう考え、勝つための算段をしようとした瞬間。コメットの砲塔横で榴弾が炸裂した。破片が砲塔を叩く。同時に砲塔周辺の煙幕も吹き飛ばされる。

 榴弾で煙幕を吹き飛ばしたのは、クランベリー先輩の車両。流石に私の元車長は私の作戦を読んだらしい。

 「後進を継続、ジグザグ機動できる?」

 徹甲弾が飛んでくる前に、機動戦に移行したい。

 「可能、最初の数十秒は少し遅くなるけど」

 「任せる」

 私は桐花にそう言うと、周囲を必死に確認する。

 ローズヒップ小隊長車の行方が判らない。クランベリー先輩車の主砲は、此方を向いているが左右に揺れているので、まだ時間的余裕がある。

 これが、上下に揺れたら余裕はない。

 故に残った煙幕に車体を突っ込ませて、同時にクランベリー先輩車を撃破する必要がある。

 「捉えた。主よ…撃ちます!」

 発砲の振動。

 『これが本当のラム・アタックですわぁぁ!』

 ローズヒップ小隊長の絶叫と共に、先ほどのこちらがした体当たりとは比べ物にならない衝撃がコメットを襲う。

 『これはオマケですわ。じっくり味わいなさいませ!』

 砲塔側面から凄まじい衝撃。思わず横に吹き飛ばされるが、舞耶に腕を引っ張られ、早苗に受け止められる。

 『クランベリー車、ラミン車、有効弾、撃破』

 審判部から、撃破された事を告げられる。

 私は二人に礼を言ってから、車長席に体重を預けて力を抜く。

 「もう少し、上手くやれたかな?」

 私は自己評価を呟いていた。

 「上手くやった方じゃないですか?足りない分はこれからと言う事で」

 「3両撃破出来たし上出来。でも、満足はしないから練習は必須」

 『次に活かすこと、皆で探しましょう』

 『まぁ、即席チームだし。これからも練習あるのみだね』

 全員がそれぞれの感想を述べだす。全員が向上心を持っていることは理解できた。

 今日は、良い意味で一区切りの日になった。

 『こんな言葉を知ってる?』

 ダージリン様の声が無線から急に流れる。

 『なにごとも努力なくして勝利なし』

 「三宅義信ですか…」

 『えぇ、その通りよ。今日はよろしい戦いでした。更なる成長を期待します』

 ダージリン様なりの労いの言葉と、これからのも努力を続けよと言う叱咤激励なのだろう。

 無線はそれ以降、沈黙したままである。

 私は割れない様に収納していたティーカップを取り出し、陶器製に見える強化セラミック製のティーポットから紅茶を注ぐ。

 

 冷めているが、まぁ良いだろう。

 

 ハッチを開け、上半身を外に出す。前方のクルセイダーでも同じようにクランベリー先輩が紅茶を片手に出ている。

 彼女は私に気がつくと、軽くカップを掲げて見せてから優雅に飲み始めた。私も先輩にカップを掲げてから飲み始める。

 

 その日の紅茶の味は少し、渋みが強かった。

 




 対ローズヒップ小隊戦はこれにて終了です。
 戦果は撃破3両
 しかし、最後に撃破と言う結果になりました。

 この経験から彼女たちが何を学び、成長していくのか。

 次回もベストを尽くして書くつもりです。
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