5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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紅白戦が終わりました。
終わった後は、感想戦です。


AAR

 戦車道の授業は終了し、私達はトランスポーターに運ばれ格納庫に帰還した。

 その途中、私はコメットの砲塔上面を軽く撫でて。

 「コメットもお疲れ」

 と、物言わぬ鋼鉄のチームメイトを労った。

 帰還した先では、ブースロイド氏が整備班と修理班を総動員して待っていた。

 「ハデにやったのぉ」

 ブースロイド氏は呆れた様に言う。確かにコメット外見は酷い事になっていた。

 「すいません」

 謝罪の言葉が自然と出た。

 「気にせんでも良い。見た目は派手だが明日までには修理可能じゃよ。どこぞの毎回、破壊して返してくる悪ガキとは大違いじゃ」

 「「「「「お願いします」」」」」

 全員が声を揃えて、頭を下げた。

 「作業の邪魔になるから、お嬢ちゃんたちは戦車乗りから、淑女に変身すると良い」

 ブースロイド氏はそう言って、私達を格納庫から追い出した。

 

 ブースロイド氏の忠告通り、全員が汗を流した後。

 紅白戦後には必ず。AAR-アフター・アクション・レヴューが行われる事になっている。練習試合や試合の後もそうであるが。

 私達の模擬戦―つまり、コメット―ダージリン様的に今はガウェイン―の乗員全員と、ローズヒップ小隊長のクルセイダー巡航戦車部隊の全乗員が『紅茶の園』の円卓に揃って着席していた。

 目の前には、ティータイムセットと、各自一人につき一つのタブレットが置かれている。空いている席は3つ。ダージリン様とアッサム先輩、それにオレンジペコさんが来るのを私達は、表面上は紅茶を優雅に飲みながら待って行った。実際には全員が胃をキリキリさせながら待っている。

 その証拠にスコーン等に手を出している人は…ローズヒップ小隊長が、スコーンを割りジャムとクリームを載せ食べている。

 ―この人は肝が据わっている。流石だ―

 私は感心すると同時に、キリキリさせながら待つのは変わらないなら、少しでも食べ物を入れておこうと開き直り。胡瓜のサンドイッチを一つ手に取り、ゆっくりと音を立てずに咀嚼をはじめた。

 ―クラブハウスごとに胡瓜のサンドイッチの味が違うのよね―

 食べ終わり、周囲を見ると早苗と舞耶が目を見開いて驚いており。桐花と菖蒲、それにクランベリー先輩が呆れたように私を見ていた。

 ―何か変なことしたかな?―

 私は少し首をかしげると、ナプキンで口の周りを拭い。紅茶を補充し、ティータイムを再開する。

 

 それから、少しした後。ドアが控えめにノックされる。

 全員が、同時に音もたてずに起立する。

 「失礼しますわ」

 ダージリン様を先頭にその左右にアッサム先輩とオレンジペコさん。

 「では、AARを開始しましょう。ペコ」

 「はい。皆さま、お手元のタブレットをご覧ください」

 ダージリン様は座り、オレンジペコさんが注いだ紅茶を一口飲んで、口を湿らすと。オ レンジペコに命じてタブレットに戦闘記録を時系列順に表示させる。

 表示されるのは、上空から観測機器を満載したエアスピードAS39が収集した各種情報、各車に搭載された記録機器からの情報を統合した俯瞰映像。

 一度目は、コメットが撃破されるまでを全員が無言で見ていた。

 二度目は途中で映像を停止させ、その瞬間の行動について。

 ダージリン様とアッサム先輩からその戦術的意図、判断の理由を尋ねられる。

 これだけなら、車長のみで良いが。他の乗員もその時の行動の意図、自らの判断、行動に容赦なく批評と指摘が下される。

 全部の行動に対する批評と指摘が終了すると。

 今度はどのタイミングで、どう動くのが最良なのか感想戦が行われる。

 感想戦は両者が勝利を収めるまで続けられた。

 「これにて、AARを終了いたします。各自、今回で判明した課題点の克服に努力をお願いいたします」

 AARはダージリン様の言葉で締めくくられた。

 「では、次の組のAARがありますので、失礼いたしますわ」

 ダージリン様はそう言うと、アッサム先輩とオレンジペコさんを引き連れて『紅茶の園』の別の部屋へと向かった。

 

 ドアが静かに閉じられた瞬間、その場の殆どの人間が安堵のため息を漏らした。

 「相変わらず容赦がないですね。先輩方は」

 サクラ先輩がそう言うが、彼女の手元のメモ帳は遠目には黒く見えるほど書き込まれている。

 「自分たちが去った後の事を考えてくれているから。それに答えないとね」

 ヴァニラ先輩がそう言う。それは全員の心情の代弁でもあった。

 ―来年は我々で強豪相手に戦わなければならない―

 クルセイダー小隊の車長達は2年が多い。故に責任感と、様々な重圧を今から感じているのだろう。

 先日、個人的に会った。クロムウェル巡航戦車小隊の指揮官ドアーズも、主力となる可能性を考え、部隊練成に必死になっていると言っていた。

 ある意味では、私は比較的楽な仕事なのかもしれない。そうであるならば、仕事は完璧にこなすべきだ。

 私は手元のノートに書き込まれた事と、タブレットに入っている情報をどう活かすかを考えだした。

 「ラミン達は大変だな」

 クランベリー先輩がカップを置いて、座席の背に体重を預けこちら側を俯瞰するように見ながら言う。

 「大洗との練習試合を皮切りに、各校の精鋭とやりあう事になる。クロムウェル小隊もだけど」

 ―それ、聞いていない―

 私の内心に衝撃が走った。

 「一年生に経験を積ませる為に、各校の現在の面子が揃っている今の内に練習試合の予定をダージリン様は立てていらっしゃいますわ」

 ローズヒップ小隊長が補足するように言う。

 「オレンジペコ、ラミン、ドアーズ辺りが指揮官候補かな?」

 ヴァニラ先輩がとんでもなく恐ろしいことを言う。

 「その組み合わせだと、隊長、オレンジペコ。参謀、ラミン。副隊長、ドアーズ。って感じの編成かな?」

 サクラ先輩が続いて、あまりにも想像したくない事を言う。

 今年の戦車道は人材が豊作で、戦車道には人財となるだろう。とも言われている。

 大洗の人々は説明不要であるとして、他校も指揮官層はダージリン様を筆頭に、黒森峰の西住まほさん、プラウダのカチューシャさん、サンダースのケイさん等が揃っており。

 砲手も参謀もこなすアッサム先輩、名砲手と雑誌で取り上げられるサンダースのナオミさん、プラウダのノンナさんが居る。

 これを相手に何処かは判らないが練習試合で戦う事になるとは、胃薬が急に欲しくなった。それも、強いのを大量に。

 「まずは目の前の事に集中するべきよ。ラミン」

 桐花が私に言う。

 付き合いが長いから私の思考を読んだのだろう。

 「大洗が一番大変なんだけどね。あのゲリラ戦特化集団相手に全軍の長い耳と良い目になるんだから」

 策は考えてある。戦場の霧がどうなるかによる部分もあるが。

 そう考えながら、周囲を見れば全員が雑談に突入していた。

 私達コメット組もクルセイダー小隊人たちと上手く交流している。同じ、巡航戦車乗りと言う心理もあるだろうが、全力で殴りあったから生まれる友情もあるだろう。

 ―交流をさらに深くするのも良いだろう―

 私はワザとらしく、腕時計に視線を落とす。

 視線を戻す時に桐花と視線が交わる。

 彼女は私の意図を理解したらしく、親指を一瞬立てる。

 「そろそろ良い時間です。夕食を皆で食べませんか」

 「ラミン、まさか負けたからって、こっちが奢るつもり?」

 桐花が予定通りのセリフを口にする。

 もう一人、私の絵図を理解した人物が、私に合図を送ってきた。私は周囲を見つつ、彼女なら解るだろう返事を返した。

 「だって、撃破されたし・・・」

 「それならこっちは、私を含めて3両撃破されている。こっちが奢るのが筋だろう」

 クランベリー先輩が予想通りのセリフを言ってくれる。

 私は彼女に視線だけで一礼すした。

 「では、割り勘と言う事で」

 全員がそれで良いと同意した。

 此処までは予定通り。

 「それで、どこのお店をラミンは選びますの?」

 ローズヒップ小隊長が尋ねる。

 「この時間だと。ダイニング・サンダーランドを考えていました。丁度、ディナー・ビュッフェの時間が近いですし」

 私は英国製飛行艇の名前を冠した。ダイニング・レストランの名前を上げる。

 自分の舌で確かめたので、良い料理を出せる店だと自信を持って人を誘える。

 「おいおい。あそこのディナー・ビュッフェは一人、2720円だ。割り勘も何も無いじゃないか」

 クランベリー先輩が突っ込みをいれる。

 「おまけに。我が学園の生徒は220円引き」

 行った事があるらしいヴァニラ先輩が付け足す。

 「あ、そうでしたね。うっかりしていました」

 私は赤面する演技をして、下を向く。室内が笑いに包まれる。

 結果的に全員でそこに行くことになった。

 部屋を出る際に桐花が私に近寄り。

 「相変わらず。心を許させるのが上手いことで」

 と、耳打ちする。

 私は軽く肩を竦め。

 「天性の人誑しが親族に居れば、嫌でも身に付くわよ。最も、アレは私に方法を懇切丁寧に教えてくれたけど」

 苦笑いを漏らすしかなかった。

 




紅白戦も終了し反省会も終わりました。
次の課題は、他の部隊との連携になりそうです。
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