5月に飲むラミンーある少女の挑戦―   作:飛龍瑞鶴

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今回から、乗員集めがスタートします。


一人目の乗員

 午前の授業が終わり、昼食とアフタヌーン・ティータイムを含んだ昼休みに入る。

 私は、テイクアウトしたサンドイッチのランチボックスを片手に図書館に向かった。

 「こんにちは」

 司書のサックス女史と司書室に良くいるスマイリー先生に挨拶して。人を探して、広大な図書館を歩く、目星はついている。

 飲食可能な個人用閲覧室に、目星通りに彼女が居た。

 控えめに扉をノック、返事は直ぐ返ってきた。

 「あいていますよ。ラミンさん」

 「相変わらず。長く良い耳をお持ちの様で。藤原菖蒲さん」

 私はドアを少し開けて、滑り込むように室内に入る。音を立てないのは、図書館でのマナーであり、少し神経質な彼女への配慮である。

 藤原菖蒲―ふじわら・あやめ―私と同学年で、情報処理学部に所属し、戦車道を受講している。私が早生まれなので、年齢は一つ上の16歳。

 私とは、中学時代からの付き合いになる。最も、リアルで友人関係になったのは、聖グロリアーナ女学院に入学してからだが。

 「貴女が。私をフルネームで呼ぶときは、長い話になりそうね。あぁ、先に返しとくわね」

 彼女は私に一冊のハードカバーを差し出す。タイトルは『欲望の倫理』、著者はナワダイク・モーガン。確かに先々週に貸した本だった。

 「ありがとう。参考になった?」

 本題に入る前の軽い雑談として、感想を尋ねる。彼女はそれを承知しているのであろう。話に乗ってきた。

 「拝金主義と言うか資本主義これに極まりね。逆に清々しいくらい。本題に入りましょうか」

 相変わらず。無駄が嫌いと言うか。デジタル的と言うか。公的な場面では見事に猫を被っているが、個人的な場面では、こうも簡素な会話を好むのだ。その切り替えは称賛するべきなのだろうか?

 まぁ、言いたい事を包み隠さずに行ってくる相手は、話しやすいのも事実だ。

 「知っているなら。話は簡単。私の戦車に無線の専門家として乗って、専用の無線機も操作してもらう。どう?」

 「で、電子戦でもしろと?車載無線、それもWWⅡの無線じゃできる事は少ないわよ」

 シグナル・インテリジェンス方面に、歳の割には造形が深い彼女は私に言う。

 「ならできる事は」

 私は質問で彼女の説明を促す。以前も聞いていたので、コメットを改造し、彼女を引き抜く予定をたてていたのだが。もう一度、本人から説明を聞いた方が、間違う可能性は少なくなる。

 「受信状況が良ければ、発信方位の概算の推定は出せる。他車の協力と、相手がそれなりの時間、無線を発信してくれたら、フォックス・ハンティングのやり方で、三角測定や定位置観測で移動経路の推測は出来る。でも、それは戦車道だと邪道になりそうね。貴女が私を必要としているのは、概算の測定と、送信量からの敵指揮車を探る事。それに、確実に味方指揮車または、両車に情報を送信できる事でしょ」

 「お見事。で、やる?」

 答えは判っていたが、尋ねる。

 「あんた。性格悪いわね」

 「知ってるくせに」

 私だって好きでこう言う正確になった訳ではない。

 その理由も知っている菖蒲の言葉に私は、表情を消した笑顔で答える。

 菖蒲は諦めた様に首を振った。

 「私がやりたいと言っていた構想を、「出来ますよ」って言ってくれば、やるしかないじゃない。私の構想を他人に横取りされるのはゴメンよ」

 そう言うと思っていた。菖蒲は自分の発想を実現化するのが一番好きなのを私は知っている。

 だから、返答が決まっている質問を態々言った。

 彼女の「やる」の一言を引き出すために。

 多分、志願してくるだろうが、私が引き抜いた方が色々とやりやすい。

 もし、失敗しても彼女は被害者で済む。

 「じゃぁ。交渉成立ね。よろしく、菖蒲」

 「了解しましたよ。ラミン。して、最初の命令は?」

 ワザとらしく敬礼をして尋ねる菖蒲に、私は命じた。

 「コメットの副操縦士席周辺に上手く無線機を詰め込む算段を付けてください。アンテナについては、整備課の顧問、ミスター・ブースロイド氏と協議して進める事。以上です」

 車両整備を統括的に支援する立場にある。ミスター・ブースロイド氏の協力があれば、レギュレーション違反の改造はしないだろう。

 改造に関する書類は、昼休み開始と同時に、担当教官に提出して、判子を貰っている。

 「ラミン。昼を済ませて行かない?具合よく、椅子は二つあるわ。食事は一人より、二人の方が楽しいわよ。それに午後に向けて、アフタヌーン・ティーの時間にどうせ暗躍するのでしょ?」

 「さて、どうでしょう?」

 そう答えると同時に、私はベーコン・ポテトサラダサンドを口に含んだ。

 

 

 昼食を早めに切り上げ。菖蒲と別れた私は、その足で戦車格納庫に向かった。彼女より先にコメットを実際に目で見たかったからだ。

 格納庫の中の空気はひんやりとしていて、私は一瞬、冬の新体操の練習場を思い出した。

 それはあまり良い思い出ではない為、その記憶を振り払うように格納庫の端に向かって歩き出す。

 コメットは整然と並んでいる他の車両と違い、一両だけで予備部品の箱の山と一緒に格納庫の一角を占領していた。

 

 クロムウェルを発展させた車体。

 

 溶接と鋳造を組み合わせ、一種の芸術に到達した砲塔。

 

 17ポンド砲よりは威力が落ちるが、取り回しやすさを向上させるのと同時に。1000m先の圧延防弾鋼に対して、APCBC弾で110 mm、APDSで165 mmの貫通力を実現させ。17ポンド砲よりも弾道が低進して、命中率が向上した77㎜砲HVの砲身が雄々しく伸びている。

 

 砲塔に一気に登り、ハッチが開くのを確認して、中を除く。

 砲塔と車内は予想通り、無人だった。

 そのまま、車内に入り、ハッチから上半身のみを出す。

 ここからの風景が、これからよく見る風景になる。

 「戦車、前進」

 小声で呟く。何とも言えぬ高揚感と全能感が全身を駆け巡る。

 これが私の力なのだ。そう、無力な私を変えてくれる力だ。

 女性としての根源的な部分に力が満ちるような感覚が脳内を奔り、私は溢れ出る思いを一気に叫んだ!

 「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」

 あぁ、気持ちいい。

 「随分、気に入ったようだね。ミス・ラミン」

 私が絶叫から冷静になる瞬間を狙ったかのように、悪戯に成功した少年の様なニュアンスを含んだ老人の声が耳に届いた。

 「は、はい。気に入りました。ミスター・ブースロイド」

 電動車椅子に座り、左足をギブスで固めた老人が私を微笑ましく見ていた。

 

 み、見られた。

 

 私はなんとかして、この暖かく微笑む老人の視線から逃れようとして、無理やり話題を逸らそうとした。

 「左足の怪我は、どうされたのですか?自動車事後でしょうか?それとも、転倒で?」

 「いや」

ブースロイド氏は車椅子の向きを変え、車載機銃や同軸―連装とも言う―用の射撃標的にギブスに包まれた左足を向ける。

 

 爆音、擦過音、爆発。

 

 「ハンティングだ」

 ドヤ顔で私に言う。

 この人は車両整備部門の顧問をしているが、趣味なのか、IG6の要請なのか知らないが、妙なアイテムの制作と生産にも定評がある。

 「すまないが、お嬢さん。ギブスを外すのを手伝ってくれんか」

 「わかりました」

 私は戦車から降り。手に持っていたマニラ封筒を、車椅子の右に付けられたトレーの上に置く。

 トレーは他にもフランスパンを一つ使ったサンドイッチが置いてあった。

 「引っ張るだけで取れるから。くれぐれも慎重に頼むよ」

 私はその言葉に、他にも謎装備が付いているのではないかと、疑いながらゆっくりと、両手でギブスを引き抜いてゆく。

 「ふむ。コメットの無線装備の強化の申請書類か…」

 引き抜き終わった私は、驚きを隠せずにブースロイド氏を見る。氏は自由になった両足で、地面を踏みしめ、トレーを指で軽くたたいた

 「X線透過装置内蔵だよ」

 「は、はぁ」

 トレーにそれを仕込んで使う場面なんてあるのだろうか?いや、今あったから、使う場面は在るのだろう。

 「コメットの指揮統制車両は存在したからレギュレーション違反にはならんね。問題は無線を置くところだが、君は副操縦席周囲に置くのを希望か…それも正解だ。この戦車は砲塔が狭いのでな。アンテナは目立たぬように工夫しておこう。後で、増設した無線を操作する子を連れてきてくれ。彼女にフィットさせるのでな。使いやすい配置と言うのは個人で違う。他に付けたいものは?5インチロケットの発射レールなんてどうじゃ?」

 ブースロイド氏はコメットの周囲を回りながら言う。

 私はトレーのフランスパンに興味があった。これも、特殊な装備を組み込んでいるのだろうか?手を伸ばして確かめるか躊躇する。

 「それに触っちゃイカン!」

 ブースロイドが猛然と近寄ってきて、フランパンサンドを荒々しくつかむ。やはり、特殊な装置なのか。

 「ワシの昼飯だ」

 一気に脱力した。

 「では、マチルダⅡの発煙弾発射器を砲塔の左右前方に付けてもらえますか?あと、発煙装置も」

 「そう言う現地改造の例はあるから問題なかろう。明日までには終わらせる。今日は乗り回すのは止めてくれると、作業が捗る」

 ブースロイド氏はそう言うと、色々と作業の準備を始めた。

 「承知いたしました。それと、改造と一緒に少しお願いが」

 私は悪戯を思いついた時の様に、微笑んでブースロイド氏に耳打ちする。氏は共犯者の笑みを浮かべて、親指を立てる。

 これで、砲手選別の準備は整った。

 




 まずは、一人目の乗員をゲット。
 ついでに、ラミンのパンツァー・ハイをちょこっと出してみる。
 やっぱり、叫ぶならあのセリフじゃないと。
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