THE WHITE GUARDIAN   作:ひなたロボっち

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第1章 空島
1.魚から少女


 ゆらゆら、ゆらゆら。

 

 わずかに揺れるような感覚。ふわふわしたものに包まれていて気持ちがいい。なんだかよくわからないけど、まるで雲のような。いや、実際雲があったら水滴なわけで。ふわふわしてるわけなんてないけれど。あぁ、できることならこのままずっとここにーー…

 

 パァンっ!!

 

 凄まじい破裂音と共に、体が放り出された。身体を硬い何かに打ち付けて、心地よい眠りから強制的に覚まされたことに怒りをおぼえる。

 

「ぅ…いたたた…」

 

 身体をゆっくりと起こす。急に重力のある世界に引き込まれたような倦怠感を感じる。

 

「おい、なんか出てきたぞ!?」

 

「魚から子供が生まれたぞー!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ声に、うっすらと目を開く。眩しい光に、目がチカチカしてよく見えない。身体にもうまく力が入らず、生まれたての子鹿のように足を震わせていた。

 

「あんたら何騒いでんのよ…って、子供!?」

 

 目をこすり、なんとか焦点を合わせた。私の目の前にいるのは可愛らしいオレンジ色の髪の女の子。

 ぼんやりとした頭で、ここはどこだろう、と思う。

 

「大丈夫?」

 

 オレンジ色の髪の女の子に聞かれて、私は口を開いた。

 

「あ、の…ここ、どこ?」

 

 声に出したものの、うまく口が回っていないのがわかる。ラリってるサラリーマンはこんな気持ちなのかもしれない。うまく喋りたいのに、口から出る言葉はたどたどしくて頼りない。

 

「ここは空島よ。まぁ、正確に言えば空島に行く途中なんだけど…自分の名前、わかる?」

 

そう言われて考えてみる。私はなんだったっけ?名前?わからなくて、ふるふると首を横に振った。

 

「なァに馬鹿なこと聞いてんだナミ!こいつは今魚から生まれたばっかなんだから名前なんてわかるわけねェだろ!」

 

「いや、どう考えても魚に食われてただけだろ」

 

刀を持った緑の髪の男が刀を仕舞いながらそう言った。

 

「ならなんで名前がわからねェんだ?おかしいだろーが!よーし、おれが決めてやろう!魚から生まれたから…お前の名前は肉だな!」

 

脇に手を入れられ、持ち上げられる。麦わらを被った赤いベストの少年は、見た目によらず結構力持ちらしい。

 

「にく?」

 

「ちょっと待てルフィ、いくらなんでもその名前はかわいそうだ」

 

そう言ったのはタバコを吸っている金髪のお兄さん。ぐるぐるの眉毛が特徴的だ。

 

「そうね…じゃあソラっていうのはどう?空で拾ったんだし」

 

「おう!それいいな!おれはこの船の船長のルフィだ。よろしくなー、ソラ」

 

「るふぃ…」

 

にししっ、と笑って私を持ち上げながらくるくる回るルフィ。ふと視界に入った頬の傷が痛々しく見えて、手を伸ばした。

 

「ん?なんだぁ?」

 

ルフィはぴたりと動きを止める。

 

「痛く、ない?」

 

 そう尋ねれば、彼は少しだけ目を丸くしてから笑った。

 

「これは子供ん時に作った傷だからな。今は痛くも痒くもねぇよ」

 

 その言葉に、ホッとする。ルフィが私を床に下ろす。視線を感じて見上げれば、金髪のお兄さんと目が合う。彼は目が合うと口元を緩めてしゃがみこんだ。

 

「腹減ってねェか?」

 

くしゃり、と頭を撫でられる。その大きな手のひらと温度に、なんだか懐かしいような気分になる。

 

「おなか…」

 

空いた、と言おうとした時だった。

 

「うぅう…ぅああぁあああっ」

 

 急に変な声がして、驚いて近くにいた金髪のお兄さんに慌てて抱きついた。音源の方を見れば、びしょ濡れになっている長い鼻の少年が妙な震え方をしている。

 

「うるっせぇな、今度はなんだおい」

 

 金髪のお兄さんは私を落ち着かせるように抱き上げると、呆れたような声を出す。

 

「ず、ズボンの中になんがいだ…」

 

 そう言ってズボンの中から魚を取り出すと、また倒れた。…あの人は変な人に違いない。

 

「ウソップ!!」

 

 そう言って駆け寄るのは青い鼻の…タヌキ?そのあまりの奇妙さに、目を見開く。二足歩行で歩いて、帽子をかぶってて、しかも喋るタヌキ。

 

「しゃべる、タヌキ?」

 

「俺はタヌキじゃなくてトナカイだ!」

 

 そう反論したタヌ…トナカイ。トナカイってあんなに可愛い生き物だったっけ、と思考を巡らせる。ーーそして、一つの結論に至った。私はトナカイを見たことがない。

 

「…ん?ナミさん、ソラちゃん寒くて震えてるみたいだから、風呂に入れてやってくれないか?」

 

「うん、わかった」

 

「その間におれはなんかあったかいスープでも作っておくかな。それにしてもソラちゃんは軽いなー」

 

「ほんと!すごい軽いのね」

 

金髪のお兄さんからナミへと渡される。

 

「子供と戯れるナミさんもすてきだぁ〜」

 

そんな声を軽く無視したナミに風呂へ連れて行かれると、身ぐるみを引っぺがされて(と言っても白いワンピースとパンツだけれど)風呂に入った。

鏡に映るのは10歳くらいの少女。長い白い髪、白い肌、それから青色の瞳。

 

「ひどい痩せ方をしてるわね。チョッパーに診てもらったらサンジくんにたくさん料理を作ってもらいましょう」

 

「チョッパー?サンジ?」

 

「あぁ、説明してなかったわね。私たちはルフィが船長をしている海賊なの。あのトナカイが医者のチョッパーで、金髪の男がコックのサンジくん、刀を持った緑の頭がゾロよ。あとさっき倒れてた鼻の長い男が狙撃手のウソップで、それから…」

 

トントン、とドアをノックされる。

 

「航海士さん、ここに着替え置いておくわね」

 

「ありがとうロビン!」

 

大人っぽい声が聞こえて、ナミがその声に返事をした。

 

「えっと、今のがロビン。うちの考古学者よ。この船に乗ってるのはこれで全員」

 

身体を洗い、頭を洗われて、湯船に浸かる。身体の芯から温まる温度が心地よい。それから風呂を出ると、服を着せられた…が、いかんせん大きい。Tシャツ一枚でワンピースみたいにすっぽりと身体を覆う。

 

「やっぱり大きいわね…あとでリメイクしようかしら」

 

ナミは私の手を取ると、なにやら騒がしい部屋へ連れて行った。

 

「チョッパー、ちょっと診てもらえる?」

 

「おぅ!」

 

勢いよく返事をしたのは先ほどのトナカイのチョッパー。別の部屋で身体を診てもらったあと、再びあの部屋に戻れば豪勢な料理が並んでいた。

 

「お、チョッパー!大丈夫だったか?」

 

「うん、身体に異常はない。ただすごく痩せてるからちゃんと栄養のあるものを食べさせないと」

 

「そうか。じゃあたらふく食ってくれ」

 

イスに座り、目の前にはこれでもかというほどの料理が並べられた。

 

「いただき、ます…」

 

一口食べて、その美味しさに感動する。それから夢中になってパクパク食べていると、外が騒がしくなる。

 

「ん…なんかあったみたいだな」

 

サンジの後ろについて外に出ると、そこには大きな門があった。

 

ヘブンズゲート、天国の門。

 

「なにあれ!」

 

目を輝かせて、みんなのいる方へ走っていく。

 

「お!来たかソラ!」

 

「うん!」

 

 話している間も船は進む。おばあちゃんみたいなしわくちゃの人が写真を撮っているのが見えて、首をかしげた。それから背中に小さな羽の生えている彼女は、一人10億エク…なんとかを払えと言う。お金の単位はよくわからないが、10億という値段がとても高いものだというのは私にもわかった。

 払わなきゃ通れないのかと思いきや、彼女は払っても払わなくても通っていいという。

じゃあ、行くぞ!俺たちは空島に!と船長のルフィが宣言し、なんでもいいけど乗るぞ、ばあさん、とウソップが言うとエビが船体をつかんで思いっきり動き始める。

 その急な出来事に、身体が思いっきり後ろに持って行かれた。ふわりとした浮遊感に襲われ、全身に鳥肌が立つ。

 

「っ、きゃっ…」

 

 吹き飛ばされそうになった私をつかんだのは、緑色の頭のゾロだった。

 

「ちゃんと捕まっとけ」

 

 その言葉に私はコクコク頷いて、悠然と立つ彼の腰に抱きついた。

 

 

不法入国者八名、天の裁きにかけられたしーーそんな密告を、知らないまま。

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