10.割れ頭フォクシー
名残惜しく思いながらも空島を後にし、次に着いたのは広々とした島だった。
「っていうか、何もないわね」
「うっひょー!」
真っ先に島に上陸したのはルフィ、ついでチョッパーとウソップも上陸する。島に上陸してはいけない病はすぐに治ったらしい。後先考えず上陸し、パタパタと走っていく三人にナミは大きなためいきをついた。
「ほんっと、考えなしなんだから…」
「とりあえず上陸してみるか。こんなところに危険なんてねぇだろ」
そう言って船から降りていく。私もロビンに手伝ってもらい、船を降りた。ナミのお下がりの服をリメイクしたものを着ているが、可愛らしくて落ち着かない。
ざわり、頭の中で何かの”声”がした。
「なんかくる!!」
「なんかって…何あれ!?」
海の方に現れた大きな船はメリー号に近づくと、逃げられないように囲った。
「なんだ?」
「なんでわかったんだ、ソラちゃん」
「わかんないけど…声が聞こえて…」
「それってマントラじゃない?アイサが使えてた」
頭に響いてくるたくさんの”声”。船の中から出てきた男たちは、ルフィに決闘を申し込んでる最中だという。こんな大勢と戦うの?
ルフィ断って!!と願うのも虚しく、2発の銃声が草原に鳴り響いた。
デービーバックファイト、と呼ばれる競技。負けた場合相手チームの船員を奪うというなんとも非道なものだった。私が欲しい、なんて万が一にも思わないと思うけれど、麦わらの一味の誰かがいなくなるのは嫌だ。
ゲームの試合数は5ゲーム、一つはレースで、その次が球技、それから団体戦があって、再び球技があり、団体戦があり、最後に一対一のゲーム。
レースには私以外の三人、球技にはゾロとサンジとチョッパー、団体戦にはルフィとロビンとナミとウソップ、それから私が出ることになった。
まるでお祭りのように騒ぐフォクシー海賊団。仲間を奪われるかもしれないのに、どうしてそんなに楽しめるのだろう、と思いながらもリンゴ飴を食べてその甘さに口元を緩ませた。
「みんな、頑張って!!」
「おうっ!任せとけ!」
ルフィの乗ってる、まぁいっかーだ号は一番頼りないけれど、一番元気よく返事をしてくれた。きっとみんななら大丈夫だろう。なんせ、空島で神様を倒しちゃったのだから。
ーーそう、思っていたのに。
ゴール直前、ナミとウソップとロビンが乗っていた船が急激に遅くなり、その間に抜かされてしまった。
「嘘…」
レースは島一周、だから私はスタートとゴールしか見られなかった。けれど目の前で負けたのは事実。
後から聞いたところによると、割れ頭から発せられたのろのろビームを浴びると遅くなってしまうらしい。そんなこと知らない。知らないけど…勝負はもう、ついてしまった。
「俺らが指名するのは…船医、トニートニーチョッパー!!」
高らかに宣言された声に、頭が真っ白になった。チョッパーは嫌だと泣き叫んでる、でも助けてあげられない。胸が張り裂けるように痛む。
「チョッパー…」
「見苦しいぞチョッパー」
ダンっ、と酒を地面に置くゾロ。その低い声に、身体が震えた。そうだ、これは遊びじゃない。”海賊”はゲームじゃない。
そんなことわかっていたはずなのに、本当のところではわかってなかったのかもしれない。あそこで嫌だと泣き叫ぶのは、チョッパーじゃなくて私だったかもしれないのだ。
現実を、突きつけられた気がした。
「でもちょっと待って、チョッパーがいなくなったら…メンバーが足りなくなるわ」
『それもこのゲームの見どころ!補充することは…』
「まぁ待て、補充を認めてやろう」
そう告げたのは、割れ頭。その視線が私に向く。何を言うか、手に取るようにわかる。でもそれは、私にとって好都合だ。
「ただし…補充のメンバーはその白い嬢ちゃんだ」
「なっ…なによそれ!」
「他の奴が出たら一人二回というルールが破られるだろう?だからその嬢ちゃんなら特別に認めてやる」
チョッパーを見る。チョッパーが捕まってるのに、不利な状況で戦ってこれ以上船員を奪われたくない。人は多いほうがいいに決まってる。
「…私、出る」
「でもソラ!危ないのよ!?さっきみたいになにが起こるかわからないのよ!?」
ナミがしゃがんで私の肩を持つ。
「だけどチョッパー、取り返したいっ…私だって、戦える!!」
「いーじゃねェか、ナミ」
フッとゾロが笑う。
「あんたねぇ!そんなこと言ってもし何かあったらっ…」
「そんくらい覚悟決めてんだろ、そいつも。何かあってもそいつの責任だ」
「大丈夫だよナミすわん!俺がちゃんとソラちゃんを守るからねんっ」
見てるだけなんて嫌。チョッパーは私の仲間だ。
「すばしっこさなら、負けない!」
ニヤリと笑うフォクシーを、睨みつけた。