THE WHITE GUARDIAN   作:ひなたロボっち

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11.グロッキーリング

『我らの誇るグロッキー最強軍団に対するのは、一回戦でお邪魔軍団を蹴散らした暴力コックサンジ、懸賞金六千万のロロノアゾロ、それから可憐で可愛らしい少女ソラだ!!』

 

 ボールを渡され、頭にかぶる。これはなかなか…ダサい。けれど二人が被るよりはよっぽどマシだろう。

 

「おうソラ!似合ってんぞ!」

 

 ルフィはそう言って笑っている。よかった、似合ってるらしい。

 

「…って、ゾロって賞金首だったの!?」

 

「あぁ、ルフィもだぞ」

 

「ルフィも!?」

 

 ゾロは…なんとなくわかる気がするけど、ルフィも!?

 

 デービーバックファイトの二回戦はグロッキーリング。相手のボール役の人間を相手のゴールに入れたら勝ち、という実にシンプルで惨たらしい競技だ。

 私なんかが地面に思いっきり打ち込まれたら頭が勝ち割れて即死だ。それを想像して、身震いをする。

 

「お前は逃げることだけ考えろ。あとは俺がどうにかする」

 

「はァ!?ソラちゃんを守ってあいつらを倒すのはこの俺だ!」

 

 なぜか二人で喧嘩を始めてしまう。犬猿の仲とはこのことだろう。

 コインの裏表こちらのチームは表を選んだ。しかし不幸にも裏が出て、相手は有利なボールを取る。私は気合を入れて、敵陣サークルの中に入った。入ったはいいのだけれど…でかい。近くによるとさらに大きく感じる。ゾロでさえ普段大きく見えるけれど、これは規格外な大きさだ。

 巨人族、ではないらしいけれど、これよりももっと大きい人種がいるなんて考えられない。頭を見上げるだけで首を痛めそうだ。

 敵陣のサークル内の中で、呼吸を整える。空島で”サトリ”や神官の使っていたマントラを意識した。

 このコート内にあるのはゾロ、サンジ…それから三兄弟の声。研ぎ澄まされていく感覚に身を委ねる。

 私は球としてゴールされないような逃げればいい。こんなに大きな人の頭についているボールをゴールに叩き込むなんて、できないことはわかってる。私が逃げれば、あとはゾロとサンジがなんとかしてくれる。ふぅ、と息を吐く。

 

 ーー今、開始の合図が鳴り響いた。

 

 こちらに手を伸ばしてきたハンバーグとピクルスを避ける。速さは私の方が勝ってる、動きが読めれば焦ることはない。

 

『おおっと、小さい身体で可憐に避けているぞ!』

 

「うし、俺が一人でカタつけてやる」

 

 サンジは飛び上がり、一番大きいビックパンの腕に乗ってツルツルと滑っていた。

 

「サンジ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬気を取られた隙にビックパンに身体を掴まれる。

 

「あっ…」

 

『ソラが捕まったー!早くも麦わらのチーム、大ピンチか!?』

 

「パンクパス」

 

 身体が放り投げられ、宙を飛ぶ。

 

『出たー!!ビックパンの超ロングパース!!』

 

「ソラ!!」

 

「ソラちゃん!!」

 

『落下地点に回り込むのは、ハンバーグ、と、ロロノアゾロもいるよ!コックのサンジもそのあとを追っているね〜!』

 

 ゾロがピクルスにタックルされ、滑るのが見えた。

 

 ハンバーグは私の身体を空中でつかみ、投げる。

 

「っ!!」

 

「スピニングタックル!!」

 

 フォローにまわっていたサンジがピクルスによって弾き飛ばされ、私の身体もそれにぶつかって宙を舞う。わかっていたから受身をなんとかとったものの、凄まじい衝撃に血が口から噴き出した。

 

「ソラーー!!」

 

 意識を飛ばしそうになったところで、ルフィの声を聞いてハッと我にかえる。私をつかもうとしていたハンバーグの手を身を縮めることで避け、ハンバーグの背中を足蹴にしてビックパンの方に飛び、彼の腕を使ってなんとか地面に着地する。

 

「し…死ぬかと思った…」

 

「よくやったソラ!!」

 

 後ろを見ればなぜかハンバーグとピクルスは場外で伸びていた。どうやらゾロとサンジが倒したらしい。さすがだ。

 

「ゾロ!サンジ!今のうちにっ…」

 

「てめェがモタモタしてっからソラちゃんが死ぬところだっただろうがクソまりも!!」

 

「あぁん?それはお前だろうが!!」

 

「二人とも、喧嘩は…っ」

 

 ガクン、と足をつく。ガタガタと足が震え、うまく動かない。あれだけ空を飛べば、そうなってもおかしくないのかもしれない。

 

「何やってんのよ二人とも!!喧嘩してる場合じゃないでしょう!?」

 

 ナミの罵声が響く。

 

「っ、足がっ…」

 

 こちらに向かってくるビックパンの足の裏には凶器が付いていた。避けなきゃ、と思うのに身体が動かない。ゾロが私の異変にいち早く気づき、私を背負って逃げる。

 

「あれはどう見ても武器だろうが!!」

 

 サンジは審判に抗議をして、イエローカードをもらっていた。それからナミの激励を受け、戻ってくるが追い掛け回される状況は変わらない。

 

「大丈夫か、ソラちゃん!」

 

「うんっ…だけど足、うまく動かない!」

 

ゾロの背中から、サンジに叫ぶ。

 

「わかった!っ…拉致があかねェ!」

 

「武器持ってるってわかってんなら、対処のしようもある」

 

 ザザッと地面をすり減らし、敵に向き直る二人。

 

「お前はここで待ってろ」

 

 ゾロはそう言って私を地面に下ろすと、二人でビックパンに向かっていく。けれどそれは協力して、というわけではない。

 ゾロがビックパンの背中に乗り、サンジも乗ってしまう。それから滑る二人はまるでハムスターの運動に使う道具に乗っているかのようにクルクルとまわりだす。

 

「ゾロ!サンジっ…」

 

 不意にハンバーグとピクルスが復活する兆しを感じ取り、震える足でよたよたとリングから離れる。汗がポタリと地面に落ちた。

 こちらを心配そうに見るチョッパーが目に入る。助けなきゃ、仲間を…取り戻すんだ。ビックパンの攻撃をうけ、宙に舞い上がったゾロの身体が思いっきり地面に撃ち落とされる。

 

「ゾロ!!」

 

 そのあとのハンバーグの攻撃が読めて、とっさにゾロをその場からどかした。

 

「っああっ!!」

 

 ハンバーグの鉄のサポーターが、身体に思いっきり食い込む。引きちぎられるような痛みと身体に奔る衝撃を感じた。

 

「「「ソラ!!」」」

 

 みんなが私を呼ぶ声を最後に、意識が途絶えた。

 

 

 観客の視線は、一人の少女に向けられていた。真っ白だったはずの少女の身体は血に塗れ、もともと白い顔は青白くなっている。小さい身体はピクリとも動かず、細い手足が投げ出されている。

 

「あ、ああ…」

 

 静まり返る麦わらの一味と、あまりの惨さに息を飲むフォクシー海賊団。

 

「っ、離せ!離せよ!俺は医者だ!あんなのっ…あんなの酷すぎる!すぐに治療しなきゃ死んじゃう!!」

 

 涙をこらえ、戦況を見守っていたチョッパーはもがき始める。

 

「ソラ…」

 

口元を押さえ、ナミはポツリと少女の名前を呼んだ。けれど彼女がその声に反応することはない。

 

『グロッキーリングは死者が出ても終わらない!!あとはボールの少女を棺桶…いや、リングに運ぶだけだ!』

 

 地面で横たわっていたゾロとサンジは身体を起こした。

 

「おいコック…10秒手ェ貸せ」

 

「妥当な時間だ」

 

 それからのゾロとサンジの猛攻によって、グロッキーリングは麦わらの一味の勝利で幕を閉じた。

 

 

「ソラ!!」

 

 麦わらの一味はソラに駆け寄り、声をかける。しかし赤く染まった少女は動かない。

 

「チョッパー!早くみてやってくれ!」

 

 ルフィが叫ぶと、チョッパーは走ってくる。その間にナミがソラの胸に耳を当てて心臓の音を聞く。

 

「息が…な、い?」

 

「嘘つけ!!息がないなんてそんなことあってたまるかっ!」

 

 ウソップがボロボロと涙や鼻水を流しながら叫んだ。チョッパーは到着するとすぐにソラの身体を診る。

 

「…ひどい、骨折だ…折れた肋骨が内臓に刺さってるのかもしれない!すぐに、手術しないとっ…」

 

 ポタポタと涙をながすチョッパー。その小さな身体はわかっていた。もう少女の心臓が、動いていないことを。いくら心臓マッサージをしても少女が息を吹き返すことはない。

 これがゾロやサンジ、ルフィだったなら、助かったのかもしれない。けれどソラは少しすばしっこいだけのただの少女。

 

「くそっ、動け!動けよ!」

 

「そんな…嘘でしょ」

 

「おい…起きろよソラ!!お前勝ったんだぞ!!チョッパー取り返すために頑張ったんだろ!?こんなところで寝てる場合じゃねェだろ!!

 これから一緒に冒険すんだろうが!!」

 

 ルフィが怒ったように叫ぶ。けれどその声が届くことはない。ソラは空島で会ったばかりの少女。出会ってからの日にちは少ないけれど、彼らにとって大切な存在となっていたのは間違いなかった。

 周りにいるフォクシー海賊団のメンバーさえも、気の毒そうに少女を見つめていた。

 ナミが少女の手を握る。女のナミでさえも、少女の手より一回り大きい。あのとき自分が無理やりにでも止めていれば、と思わずにはいられなかった。

 

「起きろソラっ!!」

 

 ルフィが叫び、パキッと何かの割れる音がした。ナミが握っている手がピクリと動く。

 

「ソラ!?」

 

「いててて…はぁ、死ぬかと思った!」

 

 むくり、と身体を起こしたソラに、その場にいる全員が目を丸くする。

 

「「「いや、死んでたよ!!」」」

 

 みんなのツッコミを受け、イマイチ状況を理解していないソラは首を傾げる。そんな彼女に感極まったようにチョッパーが抱きつき、ナミが抱きついた。

 

「ソラが死んだら意味ねェんだぞバカっ!!」

 

「あ、チョッパー!」

 

 ほんの1分前まで死にかけていたというのに、仲間が戻ってきたことに目を輝かせて喜ぶ。

 

「大丈夫かい、ソラちゃん」

 

サンジに言われて、コクリと頷く。

 

「私より、酷い怪我、してる」

 

血だらけになった二人の姿を見て言うと、二人とも軽く息をついた。

 

「いや、俺らは平気だ」

 

「お前が一番重症だろうが」

 

そう言われて自分の体を見る。

 

「え?わっ…」

 

服を埋め尽くす血の量に目を丸くする。よくこれで生きていられたな、なんて思う。一瞬お花畑見えたのは幻ではなかったらしい。

 

「でも私、もうだいじょう…ゲホッ」

 

「全然大丈夫じゃないわよ!!」

 

吐血した私に、ナミが勢いよく突っ込む。だけど本当にどこも痛くない。

 

「なっ…異常、なしだ」

 

診察をしたチョッパーがそう言って目を丸くする。

 

「さっきまで骨もぼきぼきで内臓もぐちゃぐちゃだったはずなのに…」

 

その表現にゾクリと鳥肌がたった。

 

「もしかして、何かの能力者なんじゃないかしら?」

 

考えてからそう言ったのは、ロビン。

 

「能力者?」

 

「そう、手足が伸びるルフィや、私、チョッパーのように」

 

能力者というのは悪魔の実を食べないとならないらしい。私は悪魔の実を食べた覚えがない、もしかしたら失った記憶の中で何か食べていたのかもしれないけど…

 

「ねぇ、もしかしてその腕輪って海楼石じゃない?」

 

ナミが今にも外れそうな腕輪に触れた。パキパキ、と音を立てて崩れる。

 

「ほんほら…ひからがれねェ…」

 

石に触れたルフィが地面に突っ伏す。

 

「でも変わったこと、ない…」

 

手をグーパーしてみるが、なんの変化もない。ルフィみたいに伸びることも、ロビンみたいに手を生やすことも、チョッパーみたいに動物になることもできそうにない。

 

「まぁよかったじゃねェか、助かって」

 

にししっと笑うルフィに、大きく頷いた。

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