船に戻る途中、ゾロとサンジの患部を治そうとしたが止められた。それくらいさせて欲しかったのに。
「ナミ、ロビンは?」
「大丈夫。気を失ってるだけみたい」
「よかっ、た…」
ガクン、と力が抜けて膝をついた。
「ソラ!?っ、酷い熱!チョッパーに診てもらわないと」
それからナミにチョッパーのところまで運ばれ、医務室で寝かされた。
薄暗い部屋、正義と書かれた上着がやけに重く感じた。
”俺はただ、真実を知りたいだけなのに”
そう言ってすすり泣く男の額に手を当てる。
”やめろ、やめてくれェ!!”
”
ガクン、と動き、気を失った男。自分の手のひらを見つめた。政府の矛盾を隠すことが正義だと、言えるのだろうか。人から記憶を奪うことが、正しいと言えるのだろうか。
”お前、俺と一緒に来ないか?”
麦わら帽子を被った男はそう言って笑った。
”俺がお前を、自由にしてやる!”
私は海軍でありながら、心のどこかで憧れていたのだ。海を自由に駆ける海賊を。何にも縛られず、何にも囚われず、自由に動く彼らを。
”私はっ…私は間違ってたの?”
”んなこと知らねェよ。でもそんなに苦しんでまで、お前が海軍にいる必要あんのか?”
”一緒に来いよ!俺が世界を見せてやる!”
「っ…」
目を覚ませば見慣れた天井。身体が寒さのせいか、ぶるりと震えた。隣に眠っているのはルフィ。ものすごい寝相だ。それとベッドに突っ伏しているのはチョッパー、きっとずっと看病をしてくれていたのだろう。それにしても、何か懐かしい夢を見ていた気がする。それがなんだったのか、よく思い出せないが。
「青キジ…」
みんな無事だったのだろうか。ルフィがここにいるってことは、多分大丈夫だったんだろうとは思うけど。
甲板に出てみると既に辺りは暗くなって、静まり返っていた。唯一明かりのある厨房を覗いてみる。キィ、と音がした。
「なんだルフィ、もうメシは…」
呆れたような言葉を口にしながらこちらを向いたサンジが、私を見て目を丸くする。
「起きたのかソラちゃん!」
食器を洗っていた手を止め、笑顔を浮かべてこちらにくる。私もサンジのほうに歩けば、サンジは私を軽々と抱き上げた。目線の高さが同じくらいになる。
「よかったよ。腹は減ってないか?食べたいものがあるなら何か作るけど…」
ふるふると首を横に振った。
「それより、みんなは?」
「メシ食って寝たよ。ルフィのやつはすぐに元気になったのに、ソラちゃんがずっと
「そんなに?」
「あぁ…青キジのヤローが来たのは昨日。ソラちゃんは凍らされてからずっと熱を出して眠っていた。あの大将とかいう青キジが言ってたことは、どうやら間違いじゃないらしい」
私は、私は役に立たないのか。
「ごめん、なさい…」
「なんでソラちゃんが謝るんだい?」
「だって、役に、立たなかった」
ルフィを置いて、逃げることしかできなかった。
「俺だってゾロだって、あいつの前じゃなんの役にも立たなかった。だけどソラちゃんはロビンちゃんを助けたんだ。役に立たなかったなんてことない」
「っ…でも、」
生温い液体が頬を伝う。今回はなんとかルフィが助かったけれど、もしかしたら失ってしまっていたかもしれないんだ。逃げるだけじゃなく、他に何かできることがあったんじゃないか?悔しくて、涙が止まらなかった。
サンジは腕の中で泣き疲れて眠ってしまった少女を見ながら、軽く息をついた。見た目は可愛らしい、ただの小さな少女。ぎゅっと自分の服を掴みながら眠っている姿は、庇護欲をそそるような弱々しく儚いものに見える。
ルフィが氷漬けにされて、あの青キジがいなくなった後、ロビンちゃんは言った。ソラちゃんの能力と、彼女が関わっているかもしれないという人物について。
”名無しの少女 懸賞金三億二千万ベリー”
掛けられた額は船長であるルフィのおよそ三倍。誰も名前を覚えていないが、最年少で海軍本部の中将になったという少女。ハクハクの実の能力者で、海賊に寝返り尋常じゃない額の賞金をかけられた。けれどその情報のどれもが曖昧で、その存在は伝説化しているという。それがソラちゃんに関係しているかもしれない、とロビンちゃんは言っていた。
熱を発し、小さな身体をカタカタと震わせている。まだ熱が下がっていないんだろうその身体を、チョッパーのいる医務室へと運ぶ。
”ごめん、なさい”
そう言って泣いていた少女が、そんなヤバそうな人物と関わっているとは到底思えなかった。
「チョッパー」
「ん…どうした?」
小さな獣は目をこすり、こちらを見上げる。
「ソラちゃんがさっき起きて、また寝たんだけど熱出してるみたいなんだ、ちょっと診てやってくれないか?」
「起きたのか!?」
くわっと目を開け、大声を出す。
「声がでけェよ、起きちまうだろ」
「あ…そこに寝かせてくれ」
今度は気をつけているのか、素直に小さな声でそう言ったチョッパーに、すこし笑みが零れる。
「っ、あれ、」
小さな手がサンジの服を掴んでいて、離れない。
「どうしたんだ、サンジ?」
「…離れん」
「じゃあサンジも一緒にそこで寝てくれ」
チョッパーはなんでもないようにそう言って、サンジは内心ドギマギしながらベッドに横になった。
「少し熱が上がってるな…でも汗をかいてるみたいだから明日になればきっと下がってるだろう」
ブツブツとチョッパーがしゃべっているが、サンジの耳には入ってこない。なんせ小さくて、柔らかくて、いい匂いのする可愛らしい少女が腕の中にいるのだから。
「じゃあサンジ、なんかあったらまた起こしてくれ」
そう言ってベッドに突っ伏し、眠り始めたチョッパー。サンジは眠れそうになく、起き上がろうとした。
「いか、ないで…」
けれど弱々しい声でそんなことを言われてしまえば、移動などできない。サンジは諦めてベッドに体を沈めると、眠りについた。
ーー翌朝サンジが変態認定されたのは、言うまでもない。