THE WHITE GUARDIAN   作:ひなたロボっち

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17.死を待つ船の上で

少しして、スタッと知らない男が船に乗った。

 

「…ウソップ?」

 

あんなに身軽だったっけ?

 

「失礼」

 

いや、違う。鼻が長いのは確かだけれど、カクカクしてるし波動も違う。

 

「…だれ?」

 

「わしか?わしは造船所の船大工、カクじゃ。お前らの船の査定に来たんじゃよ」

 

「船大工さん…」

 

立ち上がり、いつの間にか自分にかかっていたタオルケットをゾロに掛け直す。船のあちこちで何かを確認しているらしい彼の後ろを追いかけ回す。

 

「…なんじゃ?」

 

「見張り」

 

「はは、見張りか。怪しいもんじゃないんじゃけどなぁ」

 

「お兄さん、強そう」

 

そう言ったのは、マントラで読み取った彼の波動が大きかったから。

 

「そうかのう?」

 

「うん」

 

マントラの波動が大きいということは、蓄えられている力が大きいということ。この船で一番波動が強いのはルフィで、ゾロとサンジも同じくらい。彼はそれに匹敵するほどの強い波動を持っている。

さっきの人たちのほうが顔は怖かったし人数も多かったけれど、気を抜いていたら気づかないほど波動は弱い。それに引き換え一見優しそうなこの人は、強烈な波動を持つ。人は見た目によらないとは、まさにこのことだ。

 

「これは…」

 

船の底を見た大工さんが、顔色を変える。

 

「おい誰だテメェ!!ソラとなにしてやがる!!」

 

起き上がったゾロが、私と船大工さんのいる男部屋を覗き込んでくる。

 

「おお、すまん。起こしてしもうたか」

 

「あ、ゾロ!この人、船大工さん!」

 

「そうか。…で、お前はなにしてるんだ?」

 

「見張り!」

 

「わしは別に怪しいもんじゃないんじゃが…ところでお前さんたち、この船のことじゃが…この船はもう、走れんよ」

 

その言葉に、一瞬にして思考が固まる。

 

「走れんって…どういう意味だ?」

 

「船が傷みすぎとる。この下にある木が見えるじゃろ?あれは竜骨と言って、船の先頭から船尾までを貫く木なんじゃが、それが傷みすぎとる」

 

「そんなっ…」

 

「これはもう、わしらの力を使ってもなおせん」

 

平然とそう告げるカクに、頭が真っ白になる。この船はみんなにとって大切な船で、大切な仲間。それが直せない?直せないってことは、この船を…捨てなきゃいけないってこと?

 

「そんなの、やだ!!直して!!」

 

カクの胸ぐらをつかんで揺らす。けれどその表情は変わらない。

 

「やめろソラ!」

 

「だってゾロ!!」

 

私をカクから引き離したゾロ。

 

「メリーとお別れ、やだ…!」

 

ゾロに抱きついて、しゃくりをあげて泣き始めた。

 

「…すまんのう、嬢ちゃん。わしは査定の結果を報せに戻らないといかんのじゃ。失礼するぞ」

 

カクがいなくなった船内で、涙をこぼす。私が落ち着いてきた頃に、ゾロは口を開いた。

 

「お前に船を、直すことはできないのか?」

 

その言葉に、ふるふると首を横にふった。

 

「ごめん、なさい…」

 

ぽたり、ぽたりとこぼれ落ちる涙。私の力は、戻す力だ。この船が今ここで衝撃を受けてボロボロになったなら直せたかもしれないけど、航海してる中でだんだんと傷ついたものを綺麗な状態に戻すことはできない。

 

「お前が謝ることじゃねェだろ」

 

「っ…この船、どうなるの?」

 

「わからねェ。俺らはルフィの…船長の判断に従うだけだ」

 

 

***

 

 

「大変なの!!ウソップが…」

 

そう言って夕暮れ時に船に飛び込んできたのは、ナミだった。話を聞けば、フランキー一家にやられてウソップは重症、お金が二億ベリー奪われたらしい。

 

「っ…場所はどこだい、ナミさん」

 

「今案内する!」

 

「いや、ナミさんはソラちゃんと一緒にここで待っててくれ。ロビンちゃんがいなくなったんだ、ナミさんやソラちゃんまでいなくなったら収集がつかなくなる」

 

そう言ったサンジに、ナミは頷くとウソップが倒れているという場所をサンジに説明した。それからサンジとチョッパーとゾロは船から降りると、駆けていく。

 

「私が迂闊(うかつ)だったわ…換金したあと造船所に行かずにすぐ船に戻って来てれば、こんなことにならなかったのに」

 

落ち込むナミに、私は気の利いた言葉一つかけることができなかった。

 

 

 

 

フランキー一家にやられていたウソップが目を覚まし、メリー号が直せるのか聞いたウソップにルフィが話し出した。

 

「いや、それがよお、ウソップ…船はよお、乗り換えることにしたんだ」

 

ルフィが言った言葉も、昼間のカクの言葉を聞いていたから反論することはできなかった。だけどウソップはそうじゃない。メリーがもう走れないことも、何も知らない。

 

「冗談きついぞ、バカバカしい。なぁ?ほらみろ、チョッパーのやつ、間に受けちまったじゃねェか。全く、困ったもんだぜ!ウチの船長さんはよお。

なんか、言ってやれよナミ」

 

そう言って茶化そうとするウソップ。けれどみんなの深刻な表情は変わらない。お金が足りなくなったのか、とウソップはルフィを問い詰める。お金だけの問題だったなら、今よりはマシだったかもしれない。けれどお金をいくら積んだところで、メリー号はもう…

 

「はっきり言えよ!俺に気ィ使ってんのか!?」

 

「つかってねえよ!!」

 

「じゃあなんでっ…なんで乗り換えるなんてくだらねえこと言うんだ!!」

 

「やめろ二人とも!言い争ってどうなるんだ、もっと落ち着いて話をしろ」

 

ゾロがそう言ったが、ウソップの興奮はおさまらない。無理もないだろう、だってウソップはメリー号のことを一番気にかけて、一番大切にしていたのだから。

 

「落ち着いてられるか!寝ぼけたこと言い出しやがって…」

 

だけどルフィも決断するのには勇気がいったはずだ。その決断を、ウソップはまるで聞こうとしない。耳が、心が痛かった。

 

「簡単に決めやがって!!」

 

「簡単じゃねぇよ!!俺だってちゃんと考えて悩んで決めたんだ!!」

 

「何をどう悩んだらこうなるんだ!!こんなものチラつかせやがって!!」

 

ルフィの持っていたカタログを床に叩きつける。

 

「目障りなんだよお…おいルフィ!金を取られたからじゃねぇっていうならどういうわけだよ!!」

 

ウソップがルフィを挑発するように、言葉を募らせていく。

 

「っ、メリー号はもう…なおせねぇんだ!!どうしてももう…直らねぇんだ」

 

その言葉にウソップが膝をつく。

 

「この船だぞ!今俺たちが乗ってるこの船だぞ!?」

 

「そうだ、もう沈むんだ…この船は」

 

「何言ってんだ、ルフィ…」

 

ルフィの言葉に、ウソップは耳を傾けようとしない。

 

「落ち着いて、ウソップ!ルフィだって、考えて…」

 

「そうだ、ソラ!ソラならこの船直せるんじゃねェのか!?船大工達ができなくてもお前の力があればっ…」

 

そう言って私の肩を掴むウソップが、初めて怖いと思った。それはゾロに、確認された。ルフィにも直接聞かれたし、サンジ、ナミ、チョッパー、みんなが私に聞いた。けれどその期待に応えることはできない。

 

「わ、私、」

 

「な?怪我治すのも船直すのも、そんなに変わらないじゃねェか!力もコントロールできるようになってきたんだろ!?」

 

ぎゅっと拳を握り締める。

 

「でき、ない…」

 

私は震えた声でそう告げた。

 

「なんでだよ!?この前の青キジの氷消した時みたいにメリーの傷も治してやればいいんだよ!!」

 

「っ…」

 

「お前はこの船に乗り始めて日も浅いけどな、俺はっ…」

 

「やめろウソップ!!」

 

ルフィの声にウソップの身体がびくりと震えた。

 

「ソラは俺たちの仲間だろ…浅いとか深いとか、そんな問題じゃない!!ソラができねェって言ってんだ、責めるのはおかしいだろ!」

 

その言葉に、ウソップが私から離れる。ナミが私を気遣うように、私の頭を撫でた。

 

「それならお前はっ…どんな波も戦いも一緒に乗り越えてきたこの船を、ここで見殺しにする気かあ!!?」

 

ヒートアップしていく会話に、もう口を挟むことはできなかった。ルフィが口走りそうになった時、サンジがルフィを蹴り飛ばした。

謝ろうとするルフィに、ウソップが静かに言葉を紡ぐ。それがお前の本心なんだろ、と。弱い仲間はいらないんだろ、と。

そんなはずないのに。ルフィがそんなこと思ってるわけないのに。

 

「俺は、この一味をやめる」

 

そう言って出て行くウソップを、私はただ呆然と見ることしかできなかった。

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