黙々と歩いていく。ただ怪我のせいか、意識が朦朧とする。血を流しすぎたのだろう。
目の前がチカチカして、その場に倒れる。
「大丈夫か!?」
「っ…」
「ったく、仕方ないのう」
ひょいっと米俵のように身体を持ち上げられる。
「っ!パンツ、見える!!」
「誰もお主のパンツなんて気にしとら、っいてて、頭を噛むんじゃない!」
失礼なことを言おうとしたカクの頭に噛み付けば、持ち方をお姫様抱っこに変えた。
「まったく、世話がやけるのう」
ポツリと呟いたカクの呟きは、聞かなかったことにした。サンジは大丈夫だろうか?あんなにひどい怪我をして…他のみんなはどうだろう。ロビンが恐れているバスターコールって、一体何なのだろう。前を平然と歩くロビンを見ながら、そう思った。
「おー!よく連れてきたな!」
顔にサポーターをしてる変な男。歌舞伎役者みたいな男や、口がチャックになってる男、長い髪を団子みたいに区切ってる男がいた。なんてむさ苦しいんだろうか。
「ん?それが青キジが言っていたやつか?随分と弱そうだが…こんなガキに何ができるっていうんだァ?」
「お前、嫌い!卑怯者!!」
こいつがロビンを脅したに違いない。弱そうだけど。
「どーせお前なんてニコロビンと設計図を持つフランキーのオマケだろうが。オマケの分際で俺に楯突くんじゃねェ!さっさと鎖に繋いどけカク!俺はガキが嫌いなんだ!!」
それからプンスカと怒る男。カクは私を連れて、人気のないひんやりとした場所に連れてきた。ガチャリと音がして、壁についた鎖を嵌められる。
二人きりになって、カクを見据えた。
「…メリー号のこと、嘘だったの?」
「あの剣士と同じことを聞くんじゃな。残念ながら、わしは仕事に手を抜いとらん。あの船はもう走れん」
剣士、というのはゾロだろうか?いつの間にゾロに会ったのだろう。
「…」
どっちにしろ、ルフィとウソップの戦いは避けられなかったということなのか。カクの離れていく足音を聞きながら、目を閉じた。
少しして、スパンダムという男がルッチと一緒にロビンとフランキーを連れて来た。
「随分と弱ってんじゃねェか?」
しゃがみこみ、私の顎を持ち上げる。
「離、せっ…」
「お前もニコロビンも、生きてちゃいけねェ存在なんだよ!死ぬことでしか人様の役に立てねェ」
その間にロビンとフランキーが私と同じように壁に繋がれる。スパンダムという男はゲラゲラと笑う。ああ、なんて耳障りな声なんだ。
ふつふつと体に怒りが湧く。
「せいぜい苦しんで死ね」
その言葉に、プツリと何かが切れた。
「ふざけるなっ!!」
私やロビンが生きてちゃいけないなんて、なんでお前が決めるんだ。耐えきれなくなってそう叫んだ。スパンダムは目の前でガタガタと震え、尻餅をついた。
「な、なんなんだお前…」
ふーっ、ふーっ、と息を吐く。
「嬢ちゃん…」
フランキーの驚いたような声に、スパンダムはハッとしたように我にかえると思いっきり私を殴った。
「ソラ!!」
ロビンの声が聞こえる。
「何をしているの!?その子は無事に政府に保護されると約束したはずよ!」
「無事ィ?こんなガキ一人、政府にいようがいまいが関係ねェだろ。そんなことよりこの俺に恥をかかせてくれたんだ」
「うっ…」
「てめェ…卑怯だぞ!!」
何度も殴られ、何度も蹴られ、何度も痛めつけられて意識が朦朧とする。フランキーやロビンの声が、遠くなる。
動かなくなった私に満足したのか、男は足を止めた。
「大人に逆らうからこうなるんだ、ガキ。ってもう口もきけねェか!」
笑い声が耳の奥にこびりついて離れない。私はこのまま、死ぬのだろうか?
「ーーい、おい嬢ちゃん、大丈夫か?」
不意に、フランキーの声が聞こえた。
「…」
「今からニコロビンをあいつらに会わせる。お前も会わせてやるから、それまで辛抱しろ」
そう言われて思い浮かんだのは、みんなの顔。途切れそうになる意識を必死で手繰り寄せる。それから身体が吹き飛ばされた。痛みに顔を歪める。
意識が朦朧とする中で、ルフィの声が聞こえた。
「まだお前の口から聞いてねェ…生きたいと、言え!!」
「っ…生ぎだい!!」
ロビンの声。彼女は会った時から強かで、芯が強くて、世渡り上手で…けっして泣いたりしなかった。
「ろ、びん…」
そんな彼女が”生きたい”、と叫ぶ。助けてあげたいのに、身体が言うことを聞かない。指先一本、動かすことすらできない。
「来やがった!!お前らさっさとあいつらをぶちのめせ!ルッチは俺と来い!何があっても俺を守れ!」
ロビンを連れて歩いて行こうとするスパンダムの足をつかんだ。
「ロビン、を…返せっ…」
ぽたり、血が流れ落ちる。
「なんだこの死に損ないが!汚らしい!」
蹴られた身体は簡単に吹っ飛び、床に叩きつけられた。
「…この子供は?」
「そんなの放っておけ、どうせすぐに野たれ死ぬ」
遠ざかっていく足音に、ゆっくりと目を閉じた。
「ーー!ソラ!!」
「…る、ふぃ…」
重たい瞼を開けると目の前にはいつもの穏やかな表情からは考えられないような、切迫した彼の顔。
「おいどうしたんだ!?こんなひでェ傷…早くチョッパーに診てもらわねェと!」
「…び、」
「ん?なんだ?どうした」
「ロビン、を、助けて…」
掠れた声しか出なかった。私のことはどうでもいい、ロビンを助けてあげて。生きたい、と言った彼女を早く助けてあげて。
「っ…あぁ、必ず助ける!でもおめェが死んだら意味ねェだろ。ちょっと我慢しろよ、すぐぶっ飛ばしてくるから」
「うん…」
ルフィは私の頭を撫でると、駆けて行った。ルフィが来たってことは、みんながいるってことだ。痛む身体に鞭打って起き上がった。頭はフラフラするし、身体もあちこち痛む。とにかくこの錠を、なんとかしないと。
壁に沿ってゆっくりと歩き出す。いろんなところから爆発音が聞こえてくる。
「いったい何が…起きてるの?」
多くの声が、消えていく。それが恐ろしくてたまらなかった。とにかく人の多い場所に向かう。
「ヴオオオオオオオ!!」
「きゃっ…」
そこにいたのは大きな化け物…その頭に乗った帽子に、背筋がゾクリとする。
「チョッパー…?」
「ソラっ!?」
「ナミ!」
聞き覚えのある声と気配にそちらをむけば、ナミがいた。
「よかった!!さっき姿が見えなかったから心配してたの」
ぎゅうっ、と抱きしめられる。
「イタタタ!!」
「おーい小娘!…と嬢ちゃん!?なんでこんなところに…つーかあの化け物はなんなんだ」
「わからない…けど私たちの仲間よ」
チョッパーはこちらを向くが、私たちがわかってないらしく攻撃してくる。慌ててその場から飛び退いた。
「海楼石、取れれば…チョッパー、戻せる」
「ほんと!?」
「じゃあこれ試してみるか」
フランキーが持ってる鍵を入れる。カチャリ、と音を立てて外れる。
「やった!」
「っ、よし」
チョッパーの前に立ち、手のひらをチョッパーの方に向ける。
「
光が弾ける。風が吹き、チョッパーの身体をキラキラとした光が包み込んだ。
「っ…なにこれ、すごい…」
チョッパーだけでなく、ナミやフランキーの傷も浅くなる。チョッパーはみるみるうちに小さくなり、腕の中に降りてきた。
「ナミ、フランキー…後は、お願い」
力尽きて、パタリと地面に倒れこんだ。