少しして、姿が見えなくなったナミがもしかしたら神の国、アッパーヤードに行ってしまったかもしれない、とコニスは顔を青くした。アッパーヤードという場所は、この島の隣にある島で神が住んでいるらしく、足を踏み入れたらいけないらしい。そのことを聞いてルフィは目を輝かせていた。
兎にも角にも私たちはパガヤさんの家を出てメリー号でナミを探すことになった。
「ナミ、大丈夫かな…」
「うん…でもナミなら、大丈夫」
比較的背丈の近いチョッパーの横に並んで船に向かって歩く。心配そうにつぶやいた彼に、私もナミが心配になったが彼を安心させるために手を繋いで微笑んだ。
するとチョッパーも、そうだよな!と笑ってくれた。
そんな一人と一匹の様子を見て、ロビンはふふっと微笑んだ。
「可愛らしいわね」
「…つーかルフィ、本当にソラちゃんを仲間にしてよかったのか?まだほんの子供だぞ」
「魚から生まれるなんておもしれェじゃんか!それにあいつ、帰るとこないんじゃねェか?」
ルフィにしては鋭い指摘に、サンジは言葉を詰まらせた。ソラが魚から生まれた、とは到底考えにくいが、故郷があるならそこの名前を言うはず。言わないということは元いた場所に帰りたくないか、もしくは覚えていないか、だ。名前も覚えていなかったのだから、覚えていないという可能性のほうが高いが。
そんな少女をたった一人、誰も知り合いのいない海に置いていくのも可哀想な気がした。どこか儚げな白い少女は今はまだ幼いが、成長すれば目を見張るような美人になるような素材を持っている。幼いながらに人を気遣うことのできる、優しく無垢な彼女は自分たちと別れた途端、人攫いにつかまってしまうかもしれない。彼女には守る者が必要だ。となればやはり、取るべき行動は一つである。
「ゾロ、ソラちゃんは女の子なんだからな。保護者なら傷一つつけるんじゃねェぞ」
「なんで俺が保護者になってんだよ…」
などと言いながらも、ゾロはソラに優しい目を向けている。自分では気づいていないようだが。そんなサンジの思考は、現れた白いベレー帽を被った男たちによって遮られた。
「あなたたちですね。青海からやってきた、不法入国者八名というのは。天の裁きにかけさせていただきます!」
不法…入国?
それを聞いて思い出したのは、あのおばあさん。払わなくても通ってもいいと言っていたけれど、こんな罠を仕掛けていたなんて。私たちの方を見て、写真を撮っていたのはそのためだったのか、と納得する。
「しかし慌てることはありません。不法入国というのは第11級の犯罪でしかありません。この場で罰を受ければ、あなた方は安全な観光者となります」
その言葉にホッと胸をなでおろしたが、次の言葉に固まった。不法入国料に本来必要だった額の十倍、八百万ベリーを払えというのだ。
そもそもお金を一銭も持ってない私には、土台無理な話。
「私、お金…持ってない」
顔を真っ青にして彼の服を引っ張って見上げれば、落ち着け、と抱き上げられた。サンジは神官の言うことに聞く耳を持たず、ナミを探し出すための話し合いを始めた。ちらりと視線を白いベレー帽の隊長らしき男に向ければ、ギロリと睨まれて速攻視線を逸らしたのは言うまでもない。
神の土地に冒険する気満々でナミを探しに行こうとするルフィを、ウソップが慌てて止めに入る。ナミなら八百万ベリー持ってるかもしれない、いや、持ってるに違いない!と断言した彼は神官に耳を揃えて払うと約束した。
それから神官に罪をきせられそうになっては巧みな話術でそれを止め、ルフィやゾロが神官相手に暴れそうになればそれを止める。彼の見事なまでの働きぶりに感心した。
「ルフィーー!!その人たちには逆らわないでーー!!」
と叫びながらウェイバーにのって戻ってきたナミに、ホッと胸をなでおろしたのは一瞬。八百万ベリーが必要だと言われた彼女はウェイバーで隊長に突っ込んだ。
「八百万ベリーって…高すぎるわよ!!」
吹っ飛んだ白いベレー帽の隊長…マッキンリー隊長を見て、思わずウソップと一緒にナミにツッコミの手を入れてしまったのは不可抗力だ。先ほどまでのウソップの努力が水の泡である。
マッキンリー隊長の手当てをするためにパガヤさんの家に向かった白いベレー帽の軍隊。コニスに今のうちに逃げて、と言われたのだが、ルフィとナミが揉めててなかなか来ない。私は船から降りて二人のところに戻ると、ルフィの手を掴んで声をかける。
「ルフィ、逃げないの?」
「逃げても無駄だと思うぞ」
「そうなの?」
「あぁ」
「そうなの?じゃなくて!ソラもルフィを説得して!」
そうこうしているうちに、隊長が復活してきてしまった。
雲流し、というよくわからない刑罰を言い渡される。さっきより罪が重くなってしまったのは、火を見るよりも明らかだ。
「ひっ捕らえろー!!」
その声を合図に、矢が放たれる。
「ナミ、ソラ、先に逃げろ!」
「でも…」
そう言われて一瞬躊躇したら、矢がこちらに向かってきた。それを慌ててジャンプして避けたらそこが雲になり、乗ってしまった。
「っ!」
「行け!ホワイトベレー部隊!」
こちらにものすごいスピードできた彼らを、間一髪のところで避ける。
「死ぬっ!!」
半泣きではあるがひょいひょいと作られた雲を移動し、なんとか逃れる。火事場の馬鹿力ってやつかもしれない。
「ソラ!」
あと一歩で捕まってしまう、というところでルフィは私をひったくるように脇に抱えて飛んだ。
「きゃあぁあああ!!」
ルフィの腕が伸びたのだ。ゴムみたいに木にクルクルと巻きついている。
「ゾロ!」
ぽいっと投げ捨てられ、急降下する体。けれど落ちることなく、受け止められた。
「ったく、なにしてんだテメェは」
「あ…ありがと…」
そうこうしてるうちに、ルフィはホワイトベレー部隊を倒してしまった。ルフィはどうやらすごく強いらしい。
それからホワイトベレー部隊は退散し、一時の平穏が訪れる。けれどそれが長く続かないだろうというのは、ここにいる誰もがわかっていた。逃げることを主張するナミと、アッパーヤードに行くことを希望するルフィ。
結局、ルフィの頑固さが勝ち(ナミが宝につられたせいもあるが)、残した料理をお弁当にして冒険の準備を始めることになった。
「私も、お弁当!」
お弁当、という響きにトキメキを感じ、船に戻るナミ、ゾロ、チョッパー、ロビンとは反対の方向に行く。
「おぅ!じゃあソラも行くぞ!」
ルフィに肩車されながらパガヤさんの家に着き、料理をお弁当箱につめる。みんなのためのお弁当なはずなのだけれど、サンジはなぜかコニスのために随分と凝ったものを作っていた。それに肝心のルフィは、お弁当を詰めずにつまみ食いしてる。言い合いをするサンジとルフィを尻目に、せっせとお弁当箱に料理を詰めているときだった。
「おい!なんか船の様子が変だぞ!」
ウソップの声に、お弁当をつめる手を止めて走ってバルコニーの方に行く。そこには妙な動きをする船、かと思いきや、後ろ向きに発進しだした。
「な、なな、」
あっという間に見えなくなった船。サンジはナミがTシャツを着ちゃったことにショックを受けてるみたいだけど、正直そんな場合ではない。
「ナミ、ロビン、チョッパー…ゾロ」
パガヤさんがいうことには、あの超特急エビというのはアッパーヤードにある生贄の祭壇とやらに向かっているらしい。試練を試されているのは、彼らではなく私たちだということに驚きながらも、安堵した。彼らは傷つかないで済むというのだから。
「早い話がその神官ってのを、ぶっ飛ばしゃいいんだろ」
軽々とそう言ったルフィ。その自信はどこから来るのだろうか?
コニスが親切にも、アッパーヤードに行くための案内をしてくれることになった。サンジと手を繋ぎながら、コニスを先頭にしてその後ろについていく。
ルフィは終始楽しそうだ。
「大丈夫か、ソラちゃん」
サンジは心配そうに私を見てくる。きっとサンジは心配なんだろう、私がお弁当を持っていることが。でもそんなに心配せずとも、お弁当くらい余裕で持てる。
「うん!お弁当、守る!」
ニコッと笑いかければ、サンジはそっちじゃないんだけど、と言いながら少し苦笑して私の頭を撫でた。
「そうか…じゃあ君は俺が守る」
「ありがと!」
ミッション、お弁当を守れ!だ。