コニスは震えていた。私もどうしたのだろう、と気にはなっていたがルフィが指摘すると、”本当のこと”を彼女は話した。私たちに話してはならなかったのに。
「神の裁きだ!!」
一瞬のうちに眩しい光に包まれ、私は勢いよく腕を引かれた。サンジに体当たりする勢いでぶつかる。後ろを見れば先ほどまでなかった大きな穴が開いていた。
「っ、ルフィ!!コニス!!」
二人の名前を呼ぶ。まさか、なんて考えたくないけれど、穴があるのは先ほどまで二人がいた場所。
「二人は無事である」
その声に上を見た。ルフィとコニスは見たこともない空飛ぶ鳥と鎧を着た騎士に助けられていた。ルフィとコニスが無事だったことにホッとして胸をなでおろす。空の騎士を名乗るその人は、”神”に狙われるコニスを連れて行った。おそらくコニスはもう、大丈夫だろう。
「俺が押すから、勢いよく出発しろ!」
「お前も来るんだよ」
そう言ってウソップもボートに引き込まれた。
「よし!行くぞ、アッパーヤード!」
発進し始めたボートに、もう後戻りはできないのだと覚悟をした。楽しそうに笑うルフィ、落ち着いてるサンジ、それからガタガタと震えて泣いているウソップと、サンジの膝の上に座る私を乗せ、ボートは動き出した。
***
「玉、紐、鉄、沼?」
「どうする!?」
「よし!!「玉」いこう!!楽しそうじゃねェか?」
「試練だぞ、どれも楽しいもんか!!」
「いや…だが「玉」はおれも賛成だ!唯一暴力的な響きがない…ような気がする」
私もそれに賛同し、うんうんと頷く。
「よし!じゃあ「玉」行くか!」
ボートは玉の試練へと、走り始めた。真っ暗なトンネルのような場所をボートが走る。アタリとかハズレとかいうルフィの言葉に顔が青くなったり白くなったりした。
トンネルを抜けると下がなくて、死ぬかと思った。ガタガタと震えながら、サンジに抱きついていた。
「はぁ、はぁ…」
ちゃんと雲があって、心底良かったと思う。
「だ、大丈夫かい、ソラちゃん…」
「う、うん、身体、ふわってした…」
ウソップが驚きすぎて目と歯が取れてることの方が怖かった。あれはホラーだ。一旦深呼吸し、周りを見渡すとアタリ一面に白い玉があった。
「…玉?」
見た限り、害のなさそうな玉がいくつもある。サンジが運転に変わり、ルフィとウソップと一緒に周りを見張っとくように言われる。
「せんべい食うか?」
「うん!」
それを嬉々として受け取る。パリパリとおせんべいを食べながら、玉で遊んでいる二人を尻目に辺りを見張る。特に変わったことはないようだが、これは試練。何が起こるかわからない…と、考えていたら、船内に悲鳴が上がった。
「うわっ、」
玉からよくわからない蛇のようなものが顔を出していたのだ。ウソップが食われそうになり、ルフィが蹴り飛ばす。
「なんだこりゃ…ここに浮いてんのは全部、ヘビの巣だってのか」
と、前にある玉を蹴ったサンジ。その瞬間、玉は爆発した。
「…けふっ」
爆発に巻き込まれてこの程度で済むとは…運がいい。と、ボサボサになった髪を整えながらおもう。
「ほっほほう!!へそ!!よくぞ我が”玉の試練”を選んでくれた」
出てきたのは、赤茶色の長い髪をして玉のような丸いお腹を持つ、変な人だった。玉の上に立つその姿は、まるでサーカスのピエロのよう。
「おれはスカイピアの神官、サトリ!そしてここは生存率10%、玉の試練だっ!」
殴りかかったルフィの攻撃をサトリはかわし、打撃を与える。ルフィの口から血が噴き出して落ちて行ったのを見て、身体から血の気が引いた。
「ルフィっ!!」
「ん?なんだ、お前…心網(マントラ)がないだと?」
サトリはわたしの方を見て、首を傾げた。
「っ、ルフィは打撃は効かないはずなのに!」
サンジは苦虫を噛み潰したような顔をする。ルフィがゴムだということが、関係しているのだろう。だけど今見た限り、普通に効いていた。
「これは打撃とは少し違う。マントラがないとは不気味なヤツだなー、まぁ死ねば同じか。インパクト!」
「あぶなっ…」
当たりそうになり、慌ててボートの端に避ける。サンジが前に出て、サトリに攻撃しようとしたがさっきのルフィと同じように避けられ、インパクトを当てられていた。次にウソップも同じように攻撃する。まるでどこにどう動くか、知ってるかのように。
「サンジ!!ウソップ!!」
マントラがどうとか言っていた。それは私にはなぜか見えないらしく、動きを読まれない。
「っ、と、は、よっ、と…」
「ほっほほ~う!すばしっこいヤツだ!!」
まるで鬼ごっこのようだ。けれどこちらが攻撃しなければ、逃げるだけではいつまで経っても埒があかない。
「えいっ」
隙をつき、ルフィになった気持ちでサトリの腹を思いっきり殴ってみる。
ぽよん、となんとも言えない弾力。
「…」
「…あ」
数秒見つめ合った後、スッと手が向けられる。
「インパクト!!」
「っ、ぶな…あっ」
バランスを崩して、ボートから落っこちた。ふわっ、と浮遊感に襲われる。走馬灯は流れない。ただめまぐるしく変わる周りの景色に、落ちた時の衝撃を覚悟してぎゅっと目をつむった。
「うわっ、」
「大丈夫か、ソラ」
「ルフィ!!」
「ちょっと待ってろよ」
私を木の上に置いて、私に麦わら帽子を預けると、サトリに攻撃しにいく。…どうせなら地面に降ろしてもらいたかったかな、と下を見ながら思う。普通の人間が落ちたらひとたまりもないだろうと思われる高さがある。
手に持っているのはコニスが私にくれたスケートボード。ウェイバーに失敗して泣いていた私にくれたのだ。これがあればなんとか下まで移動できるだろうか。
「ほっほほ~~う!見つけたぞ」
「ひっ、」
これはもう、躊躇ってる場合ではない。スケートボートのスイッチを入れて、走り出した。風を切るようなそのスピードは逃げるぶんには申し分ない。だが、いかんせん早すぎる。ビュンっと風を切るように動き出したそれは、思いっきり宙を舞う。なんだかデジャヴ、と気を失いそうになったが、スケートボードは白い川でうまいこと走り始める。
「相手はおれだァ!!ゴムゴムの…ガトリング!!」
ルフィが玉を手当たり次第に殴ったせいで、至る所から玉が飛んでくる。
「ひぃぃぃ!!」
それをなんとか避ける。
「とにかく船を止めねぇと…ソラちゃん!それに乗って船の方に行けるか!?」
サンジが私に叫んできた。
「うん!やってみる!」
動きを読めない分、サトリに見つからないように行けばなんとかなる。私に致命傷を与えるような攻撃は無理だ。なら、別の分野で役に立てばいい。
「ほっほほーう、そうはさせないぞ」
「っ、」
「ソラちゃん!!」
飛んできた玉に目を見開く。玉があたって、血の気が引く。
「あれ?」
出てきたのは、可愛らしい…とはいえない大きめの鳥。
「カァ」
見た目は白いのに、カラスのような鳴き声を出す鳥。
「え?乗れって?」
カァと返事をした鳥に、私はスケートボードから降りて鳥に乗った。
その鳥に乗った時、どこか懐かしい気がした。鳥は一気に上昇し、船の上に私を下ろす。
「あ…乗れた。ありがとう」
するりと言葉が出ていた。私の言葉がわかったのか、嬉しそうに一鳴きする。けれど余韻に浸っている場合ではない、船を止めなければ…と思い、そこでハッとする。これ…どうやって止めるの?
「「サンジっ!!」」
後ろから聞こえたのは焦ったようなルフィとウソップの声。三人に何かあったのだろうか、と不安になるがここからでは見えない。入り組んだ道で、一瞬見えた三人のあられもない姿に、全身から血の気が引いた。
「ルフィ!ウソップ!サンジ!」
ボロボロになってる三人に呼びかけるが、返事はない。
「ほっほほ~う」
という敵の上機嫌な声が聞こえるだけ。おそらく出口も近いのだろう、サトリの声が遠く感じる。はやく船を止めて三人を助けなきゃ、そう思うのに…
「っ、なんで、」
足がすくんで、動かない。奥歯はガチガチと音を立て、握りしめた拳と噛み締めた唇からは血が出る。早くしなきゃみんな死んじゃうかもしれないのに、助けなきゃいけないのに。動かない身体が、じれったくて仕方なかった。
「カァ…」
鳥は私を慰めるように寄り添う。海賊になるというのは、楽しいことばかりじゃない。そこには常に危険が伴っている。それを今更になって知った。