ルフィがエネルをぶっ飛ばし、シャンディアも空の住人も関係なく行われたのは宴。みんなの笑い声が響く。私はチョッパーの手を取り、くるくると回る。
「楽しいなっ」
「うんっ!」
命を賭けて戦った後の宴は楽しくて、たまらなかった。数時間前に死にかけて、大泣きして、それでも最後には笑う。そんな海賊が、好きだと思った。
踊り疲れてフラフラと歩き、ゾロの方に行く。ゾロは何か飲み物を飲んでいて、喉が渇いていた私はそれをもらう。
「ゾロ、一口、ちょうだい」
「あ?あ!!」
ゴクゴクと飲み干し、プハッと息をする。カァーっと喉が熱くなった。どうやら炭酸だったらしい。
「おまっ、それ酒…」
「お、いい飲みっぷりだなぁお嬢ちゃん!もっと飲むか?」
「飲む!」
勧められるままに飲んでいく。
「その辺でやめとけ」
「あっ…なにしゅるの~」
ゾロにコップを取り上げられた時にはもう、頭の中がふわふわしていた。楽しいことがあるわけじゃないのに笑顔が溢れる。そんな感覚が心地いい。
「いひひっ」
「おい、だいじょう…!?」
ぶか、というゾロの言葉は飲み込まれた。ソラはするりとゾロの首に手を回し、口付けていた。ゾロはその柔らかい感触に目を丸くする。それからすぐに、リップ音を立てて離れたソラ。
「ひゅーひゅー!にいちゃんやるねェ!」
なんてからかいの言葉が飛び交う。
「てっめ、このクソまりも!!ソラちゃんになにしてやがる!!」
運悪く見ていたらしいサンジが顔を真っ赤にして怒り、ゾロの方に来る。
「ちげェ!!こいつが勝手に、」
「あれェ~?さんじだぁ~」
少女はよろよろと歩き、サンジはその危なっかしさに慌てて手を出して支える。
「大丈夫か、ソラちゃ…」
サンジも言葉を続けられなかった。
「あいつはキス魔か」
呆れたようなゾロの声。
「へへっ、たのしーね~」
唇から離れると、へらりと緩みきった愛らしい笑みを見せたソラにサンジは鼻血を噴き出して倒れた。
「ったく…なにやってんだか」
「さんじ~?」
倒れてしまったサンジの頬をツンツンとつつく。
「危ねえからこっち来てろ」
ゾロはひょいっとソラを持ち上げ、膝に乗せた。するとすぐにソラは眠りにつく。膝の上で安心しきったように眠る少女に、ゾロは小さくため息をついた。
「世話がかかる…」
そんな呟きは、誰に届くこともなく宴に紛れて消えていった。
四日間にもわたる宴が終わり、落ち着いてきた頃。
「ルフィ!散歩してくる!」
「おう、気をつけろよ」
スケートボードに乗って移動していると、どこからか男の声が聞こえてきた。
「おい!黄金の鐘が見つかったって!」
「人手が足りない!」
黄金の鐘。その響きがなんだか懐かしい気がした。私はこの世界にもとから存在していたのだろうか。けれどなんらかの理由で記憶をなくしたとか?
考えてみても、よくわからない。切った魚から生まれたと言われ、その時には赤ん坊ではなく子供の姿で、身につけていたのは一枚のワンピースと足首についている石のようなもの、それから首に赤い紐のリボン。
「あ、ロビン!」
導かれるように黄金の鐘の場所に行く。見事なまでの大きさを持つ鐘には、文字のようなものが書いてある。ロビンの隣に行き、文字を見る。
「うーん…」
さっぱり読めそうにない。
「なに、書いてある?」
「古代兵器のことみたい。私が知りたいのはこれじゃないわ」
「そっか…」
ふと隣に記してある文字を見て、身体にゾワリと鳥肌がたった。身体の奥から何かがあふれ出すような感覚に陥る。
”船長っ!なに書いてるの?”
”あぁ、これはなァーー”
麦わら帽子を被った男と、今より成長している私。
”じゃあーーも書く!”
黄金の鐘に書かれた名前。
「ゴール・D・ロジャー…それと、なにかしら?隣にある文字はひどい消され方をしてるみたいだけど…」
ズタズタにされた文字。それは明らかに”何か”を消すためのものだ。そして消されたそれはおそらくーー、
「ソラ?」
ロビンの声にハッとする。
「な、なんでもないよ…」
私は魚に食われるまで、なにをしていた?思い出そうとしても、それは思い出せない。
「あァ、お主じゃったか!」
ガンフォールはそう言って、目を見開いた。
「二十年以上前、ここに訪れた海賊の中に青海人とは思えないような美しい娘がおった…白き髪を持ち、青の瞳をキラキラと輝かせてあの海賊の船員たちにたいそう好かれておった。
けれど容姿が幼くなっているということは…お主はあの娘の子供なのか?」
「海賊王の船に…?」
ロビンの視線が私に向けられる。
記憶の断片は”私”がここにいたことを示している。そしてそれは”母”ではない。おそらく私自身なのだ。けれど何故、私は幼くなってるのか、本当は何歳なのか。本当の名は、なんというのか。
「その人、名前、なにっ?」
「すまん、そこまでは覚えておらん」
「そう…」
黄金に書かれた文字に触れ、めちゃくちゃに消されたそれをなぞる。これが空の住人によるものでないのは確かだ。それならなぜ、誰がどうやってこの文字を消した?
「…ソラ、顔色が悪いわ」
「ロ、ビン…先、戻ってる」
スケートボードに乗って、その場をあとにした。
「ゾロっ…」
「うおっ、なんだよ一体。危ねえから向こう行ってろ」
刀の稽古をしているゾロに抱きついた。
「ゾロっ、ゾロっ…」
「だからなんだよ」
ゾロは息を吐いて刀をおさめると、しゃがみこんで私を見る。ゾロの目には今確かに私が写っていて、それはまぎれもない事実だ。
「ルフィ、私、捨てる?」
急にこんなこというのは変だろう。だけど言わずにはいられなかった。自分が何者であったのか、自分でもわからないのが恐ろしかった。
「…なにがあったのか知らねェが、んな泣きそうなツラしてんじゃねェよ」
困ったような怒ったような表情を浮かべるゾロ。
「だって、私…わかんない。自分のこと、なにも…」
「…だからなんだ。素性がわからないからって、そんなことでアイツがお前を捨てるわけないだろ」
「本当?」
「本当に」
「…極悪人でも?」
「くくっ、そりゃなんの冗談だァ?ろくに攻撃もできないガキが極悪人?あいつや俺の方がよっぽど極悪人だろ」
「っ…ゾロ!」
感極まって抱きつく。鍛えられてがっしりとした体は、容易く私を受け止めた。
「おいゾロ~…って何やってんだお前ら。ゾロってそういう趣味だったのかよ」
「ちげェよ!!」
やってきたウソップがゾロにドン引きした目を向けた。私はゾロから離れて、ウソップに近づく。
「ウソップ!何持ってる?」
「ん?あぁこれはダイヤルだ!お前のスケートボードももっとスピードが出るようにしてやるからな」
「やった!」
ゾロはさっきまで泣きそうな顔をしていた少女を見た。抱きついてきた時、かすかに震えていた小さな身体。魚に食われていた時点で只者ではないけれど、少女が極悪人だとはとても思えない。
今だって、ウソップの話に目を輝かせて笑っている。その笑顔の裏に何かがあったとしても、自分には関係のないこと。仲間として、彼女を守ればいい。
そのためにも鍛錬を積まなければ、と練習を再開した。