Magical Girl Lyrical NANOHA StrikerS Lunatic 作:テラ吉
「では、新しい部隊で頑張ってください。あぁ、くれぐれも妹に手出しは―――」と、笑顔のクロノがタクヤの肩を叩きながら何かを警告したのは昨日の出来事だった。
何故あのときに上と下の悲しい社会図を関係もなく力でねじ伏せ、話を無かったことにしなかったのかと悔やまれるがそれは最早過ぎたこと。とにかくタクヤは提督である後輩に復讐することを胸に誓い、もうすぐでおさらばになる自分の職場―――航空武装隊第422部隊に足を運んだ。
理由は勿論一升瓶で自分を、ここ422部隊と同じく問題の部隊になるであろう機動六課に売ったことに関する上司との話し合いだ。そうあくまでも話し合いだ。決してタクヤの顔がR-18になっていても話し合いだと言い切ろう。
そしてR-18の顔のままタクヤは通い慣れた通路を歩き、エレベーターに乗り込む。途中で同僚たちと擦れ違ったが挨拶はなかった。何故?
同僚の職務態度に思いを馳せていたせいか、うっかりといつもの職場の部屋がある階のボタンを押しそうになるのに気付き、タクヤは最上階へのボタンへと指を持っていく。
音もなく、けれど急激な上昇をするエレベーターに、タクヤは反射的に身構える。
この急に身体に圧し掛かる重力はいつまでたっても慣れない物だ、とタクヤは思った。特に自分の様な空を飛ぶ者には。
しばらくして目的の階に着いたエレベーターは、味気ないベル音を鳴らして扉を開いた。
エレベーターを降りたタクヤは、無駄に高級感溢れる毛の長い絨毯が敷かれた廊下を憎しみを込めて踏み歩く。
「撃ち抜くか、殴り飛ばすか……」
不穏な言葉を口にしながらタクヤは、レディーナ・バルバートと書かれた札のある部隊長室の前で足を止めると、両手を軽くグー、パーと開いて軽いストレッチ。両足も軽くジャンプすることで身体を解し、何かの準備を整える。それらを終えたところで小さく扉をノックする。
「はーい、入れー」
ふざけたような気の抜けた声の了承を得た途端、タクヤの顔は鬼の形相になり扉を蹴破るように足で開く。
衝撃で扉の近くにあった観葉植物が倒れたが気にする素振りも見せずに大股でタクヤは部屋の中を歩いていく。
「どうした?」
部屋にいたのは金のロングヘアーで部隊長椅子にふんぞり返って座っていた女性。そしてその手に持つは業務中にも関わらず何故か一升瓶が。
それに書かれていた名前は『極・龍殺し』。それは第97管理外世界の日本と言う国の字であり、タクヤを売った原因の物に間違いはないだろう。
金のロングヘアーの女性―――レディーナ・バルバートは何も言葉を発しないタクヤに驚きながらも、手に持つ一升瓶を後ろ手で隠す。
「―――どうしたもクソもあるか!!」
「うぉおっ!?」
鬼から鬼神へと進化したタクヤの顔と発せられた怒声にレディーナは思わず仰け反るが一升瓶は離さない。
タクヤはその勢いのままレディーナの前まで歩き、今度は部隊長用に作られた他のデスクより少しだけ高価なデスクに、部隊に支給された革靴の靴底をダンッ! と音を鳴らして叩きつける。
衝撃で書類の数枚がハラハラと落ちていくがそんなことはどうでもいい。今目の前にいる上司(くず)にこの腸がグズグズに溶けそうな煮えくりをどうぶつけてくれようか、そちらの方が重要であった。
そのタクヤの並々ならぬ迫力にレディーナは椅子ごと後ろに下がりつつも、宥める為に愛想笑いを浮かべる。ニコリ。
「まぁ、落ち着いたらどうだ? いったい何で怒っているのか私には見当もつかんな」
「見当もつかないだ? あぁ、そうかい。アンタが見当もつかないってんなら俺が言ってやる。いいか、耳の穴を限界まで開いてよーく聞け―――このクソ上司が!」
ぷんすかぴーっ、と言わんばかりに部下(タクヤ)はデスクからまだ落ちていない書類を上司(レディーナ)に叩き付けた。
レディーナの顔面に叩き付けられた書類は日本酒で唇が湿っていたのか顔に貼り付いて離れない。
少しだけ落ち着いたのか、タクヤは部隊長室に置かれた応接用のソファに先のレディーナと同じくふんぞり返るように腰を落とす。
「アンタを飲んだくれのクズだとは常日頃から思っていたが、まさか部下を売ってまでアルコールを摂取しようだなんて思ってもなかったさ!」
「失敬な。私のどこが飲んだくれだというのだね?」
「その手から一升瓶を放して、顔に浮かび上がってるアルコール分を抜いてから言い訳しろ!」
赤みの掛かった頬を目掛け、書類の次にテーブルに置かれていた来客用の飴を鷲掴みにして投げつける。地味に硬い飴だったらしくレディーナは両腕を顔の前で×にして防ぐ。
「そもそもハラオウン提督からは君から了承を得たという話を聞いていたが?」
「本人に確認ぐらいするのが当たり前だろ!」
この調子ならばクロノから出たタクヤの異動の話は酌を交えながら聞いていたに違いない。そしてその場のノリとアルコールで適当な返事をしてクロノはレディーナから了承を得た。
大方の筋書きが見えたタクヤは酒に溺れた馬鹿に飴玉を再度投げつつ、通信デバイスを起動させ話し上手な後輩に連絡する。ありったけの罵詈雑言を浴びせる為にだ。
しかし、幾ら起動させようがコール音がなるだけで求める相手は通信に出ない。提督と言う立場だから仕事が忙しくて出れない、のではなくただ居留守を使っているだけだとタクヤは確信していた。
八つ当たりの意を込め、三度飴玉をレディーナに投げつけるが今度は避けられた。
「大体どうして君はそこまで不満気なんだ?」
「本人の了承無しの急な異動! 地上本部から睨まれている部隊! 爆発物(レリック)! 部隊構成表を見たらオーバーSが三人以上! まだまだあるが、これで不満がないって言う奴がいるならそいつはまだケツの青い新人だ!!」
ヒステリックに声を荒げ、タクヤは身振り手振りで大袈裟に説明する。
「かの『エースオブエース』たちに会えるんだ。得をしたと思うのが吉ではないか?」
「俺は興味はない」
「ならば教導してもらうと良い」
「戦い方が根本的に違うし、一応俺はあっちでは教導する側らしい」
いい加減面倒になったのか、レディーナは話を切り上げた。
「ええい、クソ、やかましい! 上司の私が出した命令だ! 四の五の言わずに今すぐさっさと行って来いっ!」
「まだ機動六課は稼働してないし、俺はまだ航空武装隊第422部隊の隊員だっ!」
このクソ野郎! と互いに罵りながら、床に落ちていた飴玉を投げつけるのだった。
部隊長室を後にしたタクヤはエレベーターへと乗り込み、自分の職場のある階で降りる。
管理局は下の階に行けば行くほどカースト制よろしく、質素な作りになっている。とは、タクヤの個人的な感想であるが。
そんな質素な作りの廊下をタクヤはカツンカツン、と音を鳴らしながら歩き。ノックなしで職場の扉を開け放つ。挨拶は決まっていた。
「Good morning! Fuckin' morons!(おはよう! クソ野郎ども!)」
一斉に視線がこちらへ向くのを感じながら、タクヤはそれに応えることなく悠々と歩みを進める。
そんな中、一人の同僚が立ち上がって目の前に立ちふさがった。
「何しに来た? お前はもうここの局員じゃないはずだ」
「まだだ、まだ、422部隊の局員だ。明後日でこことはおさらばだがな」
肩を竦めて相手の肩を叩き道を空けてくれるよう暗に告げるが、彼は動こうとしない。
「―――今すぐに回れ右して部屋から失せてくれないか? クビになった二等空尉」
「何をそんなにカリカリしてやがる? あぁ、そうか、愛しのアシュリーと喧嘩別れか? 尻軽野郎」
二人の顔は笑顔だ―――嘲笑と言う名の、人を嘲る笑顔で売り言葉に買い言葉を吐き出す。
次の瞬間には互いの胸倉を掴み合う。ガタガタと椅子が床に転がり、デスクは埃を立てながらその位置をずらした。
「上等じゃないか、今すぐ締め上げてやろうか?」
「Is that all you've got?(それで本気か?)」
「そこまでにしておけ」
「そうだそうだ」
拳を構える二人を、別の同僚二人が羽交い絞めにする。
止めれた二人は拳を飛ばさずにガンを飛ばす。バチバチと火花でも散らすかのように。
しかし先に拘束から解放された男が、俺は冷静だと言わんばかりに隊のスーツの乱れを直し、まだ羽交い絞めにされているタクヤに顔を近づけた。
「良かったな。年下の部隊長様に可愛がってもらうと良い。さぞ、あそこはお前好みの女が沢山に違いない。あぁ、週刊誌に撮られないように気を付けろ?」
「Is that all you have to say?(言いたいことはそれだけか?)」
「まだ、ある。俺はお前のことが嫌いだっ―――」
それはお互い様だ、とタクヤの頭突きが男の顔面に直撃する。
距離が近かったせいで避けることが叶わなかった男は、鼻血を撒き散らしながら周りの椅子を巻き込んで床に倒れ、そのまま気を失った。
「What's up?(どうした?) もうおネンネか?」
伸びた男に挑発の言葉を浴びせかけるが男は伸びていてるから返事は無し。
それに満足げに目を細めるが別の返事基注意がタクヤの頭に衝撃が襲う。タクヤを羽交い絞めにしている男が叩いたのだ。
「もうおネンネか? じゃないだろ。いつも面倒を起こすのはお前たちだ。これを職務日誌に書かされる俺の身にもなれ」
「Sorry でもこれはこいつが自分が転んで椅子に鼻をぶつけた。だから職務日誌に書かなくても良い。だろ?」
と、周りを見渡すが、皆一様にニヤニヤと笑うばかりだ。
「今度の部隊は美人揃いらしいな。いい女がいたらしょうかいしてくれよディアーズ」
「俺としては気の強い女がいいね。手に入れれば甘えたがりの猫のようになる」
「おっと、今度こっちに来るときは合コンの時間を教えてくれ。一張羅を着て来る」
雌に飢えてる野郎どもを見て、タクヤはポケットに忍ばせていた飴の包み紙をぐしゃりと握りつぶした。
「知ってるか? 男にも女にも言えることだが、自分に合う奴と合わない奴がいる。少なくとも機動六課の女性はお前らにも俺にも合うとは言えないな」
「どうしてそう言い切れる?」
「お前らの狙いどころがどいつもこいつもオーバーSやニアSの曲者連中だからさ」
オーバーSとニアS。その言葉に422部隊の男たちは身体をブルリと震わせた。