贖罪のゼロ   作:KEROTA

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第32話 ON DAYS 束の間の日常

 ――アネックス1号が地球を発ってから、20日後のこと。

 

「テメェ、今なんて言ったァ!?」

 

 広間の中に響き渡った怒号に、百合子は思わず身をすくめた。

 

「け、喧嘩?」

 

 振り返った百合子の目に映ったのは、人だかり。どうやらその向こう側から、怒声は聞こえてきているようだった。

 

「みたいだな。まぁ、任務が近くて皆も気が立ってるし、そんなことも……って、あれ?」

 

 燈は百合子に相槌を打とうとして、ふと何かに気付いたように声を上げる。それから彼は、様子を窺っているマルコスとシーラに声をかけた。

 

「おいマルコス、あそこにいる奴、片方はお前らの班の奴じゃないか?」

 

「ホントだ、ボーンじゃん。どうしたんだあいつ? 発情期の動物みたいにカッカして」

 

 人だかりの向こう側、燈が指さした人物をみてマルコスが意外そうな声を上げた。

 

彼らが目を向けた先にいたのは、2人の人物。そのうちの片方は、マルコスと同じ第1班に所属するアメリカ人乗組員のボーンだった。

 

 目に怒りの色を浮かべるその様子は、普段の彼からは想像もつかないもの。彼は鬼の形相で目の前の人間の襟首を掴みあげ、激情のままに吠えた。

 

「もっぺん言ってみろ! もしまた同じことを言いやがったら――」

 

「――『許さない』か? ハッ、お優しいねぇ。一回だけなら、バカにされても指をくわえて見逃してくれるってことかい?」

 

 ボーンの怒鳴り声に臆した様子もなく返したのは、第4班に所属していると思しきアジア人の乗組員。ネームプレートに『ジェット』と書かれたその乗組員は、眼前のボーンを小馬鹿にしたように笑い、更に続ける。

 

「ま、気に障ったんなら謝るよ。今度から気を付けるから、後学のためにどこが悪かったのか教えてくれないか? 『お前の母親は家より安くお前を売った』のところ? それとも『弟クンは手術で楽に死ねてよかったね』の部分か? なぁ、教えてくれよ、チンコ手術野郎。どこがむかついたんだ?」

 

 口では謝っているものの、反省している様子は微塵もうかがえない。その態度に怒りが頂点に達したらしく、彼はジェットの襟首を掴んでいるのと反対の腕を振り上げた。

 

「待て! いくらなんでも暴力(それ)はまずい!」

 

 燈を始め何人かの乗組員が制止の声を発するが、怒りに我を忘れたボーンの耳には届かない。

そのままジェットの顔面に拳を振り下ろそうとして――しかしその腕は背後から近付いてきた人物によって掴み止められた。

 

「大河……!?」

 

 振り向いたボーンの目に映ったのは、彼のチームメイトである大河。その手に込められた力は万力さながらであり、それなりに鍛えているボーンでもやすやすと動かせない程だった。

 

 ――暴力沙汰は避けられた。

 

事態の推移を見守っていた多くの乗組員たちが安堵のため息を溢し、一部囃し立てていた者たちは落胆の声を上げる。そんな中、当事者のボーンだけは納得ができず、自らの腕を掴む大河に食い下がった。

 

「止めるな大河! コイツは俺の家族を――」

 

「おっと、これはこれは……誰かと思えば、76位じゃないか!」

 

 ボーンの言葉を遮って、ジェットが手術ベースを揶揄する愛称で大河を呼んだ。口元を嫌らしく吊り上げると、彼は無言で佇むリーゼントの男にへらへらと話しかける。

 

「いやぁ、助かったよ。見た目に反して、君の精神がベース生物と同じくらいか細くてね。わざわざ俺みたいな奴のために、大事なお仲間の想いを踏みにじってくれてありが――」

 

 ――そこから先の言葉を、ジェットは告げることができなかった。なぜなら、彼の顔面に()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っぐ、ォ……ッ!?」

 

 さすがに襟首を掴まれた半拘束状態では、彼に限らずどんな人間でもそれを避けることは難しいだろう。ジェットの体が数mほど吹き飛ばされ、周囲の乗組員の一部から悲鳴が上がった。

 

「おぉ! ナイスパンチ!」

 

「いいぞ大河ァ! そのままマウントとっちまえ!」

 

凍り付いた空気の中で、マルコスとアレックスだけが嬉々として野次を飛ばす。しかし、大河はそれに応えることなく、鼻を鳴らすとジェットに背を向けた。

 

「おう、これで満足だろ? 行くぞ、ボーン」

 

「あ、ああ……いや、だが――」

 

 いくらか冷静さを取り戻して困惑するボーンに、大河は「ほっとけ」と面倒くさそうに声を上げた。

 

「そこに転がってるバカは自業自得だ。殴ったのは俺、始末書ならあとでいくらでも俺が書いてやる。行くぞ、こんな奴に構うだけ時間の無駄だ」

 

「……おい待てよ、リーゼント野郎」

 

 この場を去ろうとする大河。だが、立ち上がったジェットが声を上げたことで、彼は足を止めた。

 

「このまま、ただで帰すと思ってんのか?」

 

 鼻血を流しながら、ジェットは大河の背を睨みつけた。先程までの余裕はもはやジェットにはなく、その代わりに相手を射殺さんばかりの殺気を放っている。それを敏感に感じ取り、何人かの乗組員たちは思わずぶるりと体を震わせた。

 

「……お前が、何をキレてんのか知らねえが」

 

 対する大河は、背後からひしひしと突き刺さる怒気にため息を吐くと、そのまま肩越しにジェットの方へと顔を向けた。

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その顔には、怒りの表情を無理やり押さえつけているかのような、獰猛な笑みが張り付いていた。だが目元は微塵も笑っておらず、彼の背後には般若か修羅の幻影が見えるようだった。

 

「『帰すと思ってんのか』? 笑わせんな、こっちが見逃してやるって言ってんだよ。これ以上ケガしたくなきゃ、そこで黙って寝てな」

 

「面白い冗談だ。やってみろよ76位……やれるもんならな」

 

 

 

 ――と、止めれてねぇ!?

 

 

 

 規模を増して再燃しつつある事態に、多くの乗組員たちの心の声が一致した。そもそも他者の陰口や嫌味を嫌う上に、決して我慢強い方ではない大河がここまで耐えられたことが奇跡に近かったのだ。もはや、彼の理性の緒は限界だった。

 

「……上等だよ」

 

ボソリと彼が呟いたその瞬間、この場に居合わせた乗組員の多くは、大河から『ブチリ』と何かが切れる音が聞こえた様な気がした。

 

「あとで謝っても遅ぇぞオラァ!」

 

 大河は声を荒げると、体を反転させる。先程とは対照的にボーンが引き留めようとするが、それを振り切って大河は、地面をけった。対するジェットも迎撃の姿勢をとり、迫りくる大河を静かに見据える。

 

そして、周囲の乗組員たちが息を吞んだ、次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

「 う る さ い 」

 

 

 

 

 

 

 何とも気の抜ける声と共に、1人の少女が野次馬の群れの中から飛び出した。

 

 アジア系で幼い顔立ちをした女性乗組員だ。低い身長に白い肌と、それに対なすかのような黒髪のショートカットが特徴的で、どこか日本人形のそれを彷彿とさせる容姿をしている。

 

 彼女は目にも止まらぬ速さで隙だらけのジェットの背後へと近づくと――

 

「ジェット、おすわり」

 

 やる気のない掛け声と共に、容赦なくジェットの股間へと蹴りを放った。しなやかな彼女の足は短い声を発しながら、過たず彼の急所を撃ち抜いた。

 

「~~~~ッ!?」

 

 衝撃と鈍痛が下腹部を貫き、ジェットは悶絶する。口から悲鳴が漏れなかったのは、彼の意地だったのだろうか。

 白目を剥いてそのまま崩れ落ちたジェットに、大河やボーンも含む男性乗組員たちが一斉に内股になった。それを見て少女は「よし」と頷くと、周囲の乗組員たちに向き直った。

 

「……第4班(ウチ)のおバカがお騒がせした。对不起(ごめんなさい)

 

 少女はそう言ってぺこりと頭を下げた。それから、小刻みに痙攣するジェットの頭を無表情で鷲掴みにすると、彼の体を引きずって広間を後にする。

 

「……えぇ?」

 

 シーラの口から思わず漏れたその声が、この場にいる全ての者の心中を代弁していた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あ、リンファちゃんお帰りー……って、あれ?」

 

第4班の待機所へ戻った少女を出迎えたのは、同班の副班長である(リュウ)翊武(イーウ)だった。

彼はその目を少しばかり驚いたように見開くと、少女に頭を鷲掴みにされているジェットを指さす。

 

「ジェット君、どうしたの?」

 

「他の班員ともめてたから、大事になる前に引っ張ってきた。きゅーいーでぃー」

 

少女――(フー)鈴花(リンファ)は、眉をピクリとも動かさずに淡々と返した。それを聞いて、劉は「あちゃー」といいながら額に手を当てた。

 

「さっきの騒ぎはそれだったのか。他の班の人に怪我させちゃったりしてないよね?」

 

「だいじょーぶい。そーなる前に引っ張ってきた」

 

 ピースサインをしながらリンファが発した言葉に、劉はほっと胸をなでおろした。

 

なれ合いを嫌うジェットは他人と距離を置こうとするあまり、苛烈な物言いをすることがある。口の悪さは本人の性格や気質によるもののためあまり煩く言うつもりはなかったが……暴力沙汰に発展する程だったとすれば、後で話しておく必要があるだろう。

 

「とりあえず、ジェット君はあとでミンミンさんからお説教かな……ちなみに、なんで彼は伸びてるの?」

 

「ティン副班長直伝のタイキックをジェットのボールにシュウッ! 超・えきさいてぃん!」

 

「……」

 

 ――お説教は少し軽めにしておくように言っておこう。

 

 全てを察した劉は、同じ男として未だ悶えるジェットに哀れみの視線を向けた。そんな彼の服の袖をちょいちょいと引っ張り、リンファは無表情のその顔にどこか期待の色を込めて言った。

 

「それより劉副班長、私は第4班の機密漏えい阻止に貢献した。ご褒美ぷりーず」

 

「……ああうん、ご褒美ね。冷蔵庫にプリンがあるから食べちゃっていいよ」

 

「わーい」

 

 リンファは無表情で敬礼を返すと、ジェットをその場に放り出して冷蔵庫に駆け寄った。扉を開けて中からプリンのカップを取り出すと、彼女は奥のテーブル席に座っている、自分と同じ年頃の少女の下へと駆けていく。

 

「紅、隣いい?」

 

「あ、リンファちゃん。私なんかの隣でよかったら……」

 

 紅がそう返すと、リンファは隣にどっかりと腰を下ろす。それから彼女は容器の蓋を開けると、スプーンで中身を掬い上げて幸せそうに頬張り始めた。

 

「それ、プリンですか?」

 

「いえす。ジェットの玉を蹴飛ばしたご褒美」

 

「!?」

 

 削りに削って意味が分からないその説明に、目を白黒させる紅。それを見たリンファは、その無表情な顔を微かに険しくすると、紅からそっとプリンの容器を遠ざけた。

 

「……いくら紅でも、このプリンはあげられない。これは私のせーとーな報酬、私にはこのプリンを味わい尽くす権利がある。例えミンミン班長にねだられたとて、私は断固としてゆずるつもりはない」

 

「ち、ちがっ……! 私は別に、そんなつもりじゃなくて――」

 

 じっとりとした視線を向けてくるリンファに、紅は慌てた様子でパタパタと手を振る。しかしその直後、まるで図ったかのように、紅の腹部はきゅるるると可愛らしい音を奏でた。

 

「あっ……これは、そのぉ……」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめ、紅がもごもごと弁解する。それを見てしばし何か考え込むと、リンファは容器の中のプリンをスプーンで掬い上げ、それを紅の方へと差し出した。

 

「……どーしても、どーーーーーしてもお腹が空いてるなら。一口だけ、あげる」

 

「へっ? で、でも……」

 

 戸惑うように言った紅に、リンファは相変わらず抑揚のない声で答えた。

 

「本当はダメ……だけど。紅は友達だから、特別」

 

「わぁ……ありがとうございます!」

 

 リンファの言葉に目を輝かせ、紅はスプーンに乗せられたプリンをぱくりと口に含む。途端、口の中にふんわりと広がった濃厚な甘さに、紅の顔が緩んでいく。

 

「えへへ、私は世界一の幸せ者ですね」

 

「……? なぜ?」

 

 紅の言葉に、リンファは首をかしげた。自分のように「食う、寝る、食べる」のサイクルを至上の楽しみとする者ならともかく、プリン一口で大げさではなかろうか。

 リンファが続けたその言葉に、紅は首を横に振った。

 

「私の家、貧乏だったから……ここに来るまで、こういうお菓子を食べたこと、ほとんどなかったんです。それに――」

 

 そう言うと紅はリンファを見つめ、はにかんだように笑いかけた。

 

「こんな美味しいものを分けてくれる素敵な友達も、地元にはいなかったから。私、リンファちゃんと会えて本当によかった」

 

「ごふぁっ」

 

 ――何だこの娘、天使か?

 

紅から放出される癒しオーラに、食欲と怠惰に塗れたリンファの心が浄化されていく。その無表情の仮面の下で(食事と睡眠において)忘れかけていた良心が鎌首をもたげ、彼女の罪悪感をグサグサと突き刺す。

 

お前、こんないい子に一口しか分けてやらねぇのかよ、と。

 

「……紅」

 

 動きが止まった己を心配そうに見つめる紅に、リンファは再びプリンを掬ったスプーンを差し出した。

 

「……もう一口だけ、食べてもいい」

 

「え? い、いいんですか?」

 

 訊き返す紅にリンファは頷いてから、「ただし」と顔の前で人差し指を立てた。

 

「西やヨウ……それに、他の皆には内緒。私達2人だけの、秘密」

 

「……はい!」

 

紅はリンファの仕草を真似ながらそう答えると、クスリと小さく笑みを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――騒がしいな。

 

 広間の方へと耳を向けながら、ミッシェルは心中で呟いた。

 

彼女の聴力はとても鋭い。微かに聞こえてくる音や声の調子から、おそらくこの騒ぎが喧嘩だろうことは容易に察しが付いた。本来、幹部であるミッシェルにはそれを止める義務がある。

 

だが――今の彼女には、それができない理由があった。

 

「おーい、ミッシェルさーん!」

 

「……ッ!」

 

 向こう側から聞こえた男の声に、ミッシェルは咄嗟に物陰へと身を滑り込ませた。それとほぼ同時に、廊下の曲がり角から金髪の男性が現れた。

 

「あれ、いないな? どこいったんだろ」

 

 ――ジョセフ・G・ニュートン。

 

 ヨーロッパ・アフリカ第6班を束ねる幹部である彼は、しきりに周囲を見回しながら不思議そうにつぶやいた。

 

「ふむ。俺のミッシェルさんプロファイルによれば、8割方ここを通ると思ったんだけど……あてが外れたかな。うーん、俺もまだまだ理解が足りてないなぁ」

 

 意図せず漏らされたその声に、ミッシェルの背をゾゾゾと悪寒が走る。ことあるごとに自らへアプローチをかけてくるジョセフのことが、ミッシェルはどうにも苦手だった。

 

完璧なまでに整った彼の顔立ちや、気遣いのできる紳士的なその振る舞いから、女性の乗組員の間では人気だというが……ミッシェル自身がそういったことに慣れていないからか、はたまた相性の問題か。

 

彼自身の性格自体をどうこういうつもりはないのだが、どうにも本能的に受け付けないのである。

 そういった理由からミッシェルは、全精力を傾けて彼を撒こうとしているのだが……

 

「いや、待てよ……この匂い、ミッシェルさんが普段使ってるシャンプーか!」

 

 ――この男、とにかくしつこいのである。

 

『ニュートンの一族』と呼ばれる特殊な家柄の出自である彼は、通常の人間に比べてはるかに優れた肉体を持っている。素体のスペックもさることながら、彼は『自らを動かす』ことが神懸かり的に巧いのだ。

 

 生身でありながら、ミッシェルや燈すら及ばない身体能力。誰が言ったか、『人類の到達点』という異名も頷けようというものだ。

 

「匂いの残り具合から考えて、ここを通ったのは長くとも2分以内……まだ近くにいる可能性が高い!」

 

 そんな超人が己の持つ身体能力を駆使して追ってくるのだから、性質が悪い。

 

ミッシェルはその顔に彼女らしからぬ恐怖の色を浮かべ、そっと踵を返す。一刻も早く、この場を立ち去るために。

 

「布ずれの音? ははーん、ミッシェルさんはあの曲がり角の先だな?」

 

もうやだこいつ。

 

 血の気の引いた顔でミッシェルが逃亡を開始しようと足に力を込める。しかしこの直後、事態はミッシェルにとって思いもよらぬ展開を迎えることになる。

 

「あ、いたいた! おーい、ジョセフ班長~!」

 

「班長、ちょっといいですか?」

 

 丁度ジョセフとは反対の廊下から、数人の女性乗組員が現れたのだ。彼女達はミッシェルのいる曲がり角の前を通り過ぎると、ジョセフの周りを取り囲んだ。

 

「あれは……第6班の班員たちか?」

 

 思わずミッシェルが足を止めて耳を澄ますと、廊下の向こうからジョセフと班員たちの話し声が聞こえてきた。

 

「あれ、皆どうしたの?」

 

「班長! あの、私たちパソコンの使い方が分からなくて……」

 

「お忙しい中、申し訳ないんですが、ちょっと来てもらえませんか?」

 

 どうやら女性班員たちはコンピュータの使い方が分からず、ジョセフに力を借りに来たらしい。それを聞いたジョセフは、うーんと唸り声を上げた。

 

「それはいけないね。ただごめん、もうちょっと待ってもらってもいいかな? 今俺、ちょっと取り込み中で――」

 

「そこを何とか、今すぐにお願いします、班長!」

 

「もう頼れるのは、ジョセフ班長しかいないんです!」

 

 渋る様子のジョセフに、女性班員たちが食い下がる。それから数回のやりとりの後、根負けしたジョセフは「仕方ないなぁ」と呟くと、苦笑気味に踵を返してローマの女性班員たちとどこかへと去っていった。

 

「なんとかなった、のか?」

 

 遠ざかっていく足音に、ミッシェルはほっと胸をなでおろす。偶然にしては出来すぎだが、何にせよ助かった。今の内にどこかに身を隠した方がいいだろう。そう結論付けて再び歩き出そうとしたところで――彼女は小声で自分を呼ぶ声を聞いた。

 

「班長、ミッシェル班長~」

 

「ん?」

 

 声のした方へと視線を向ければ、そこには自らの部下であるキャロルの姿があった。曲がり角の向こう側から顔だけを出して、ちょいちょいと手招きをしている。

 

「キャロル? こんなところで何やってんだ?」

 

「えへへ、ちょっとね」

 

人懐っこい笑みを浮かべながら、キャロルはちょいちょいと手招きする。それにつられてミッシェルが近づくと、曲がり角の先――彼女の背後にもう1人、別の乗組員が立っていることに気がついた。

 

 水色に近い青に染め上げた髪と凛とした顔立ちが特徴的な、女性乗組員だ。ミッシェルは直接面識があるわけではなかったが、その顔に見覚えがあった。

 

「お前は確か11位の……」

 

「マルシアです。以後お見知りおきを、デイヴス副艦長」

 

 優雅に礼をしたマルシアに、ミッシェルは戸惑い気味に返事を返しながら、彼女のプロフィールを思い出す。

 

 第6班に所属する女性班員、『マルシア』。彼女は110人の乗組員を『テラフォーマーの捕獲』を前提として身体能力や手術ベースで格付けしたマーズランキングにおいて、11位に指定されている人物だ。

 

ランキングは必ずしも純粋な戦闘能力を表す指標ものではないが、上位に名を連ねる者にそれ相応の実力が伴っていることは疑いようがない。ましてトップランカーともなれば、複数のテラフォーマーを完封できるだけの力は持っているはずだ。

 

しかし、だからこそ――。

 

「アタシが他班の戦闘員と知り合いなのは意外ですか?」

 

 ミッシェルの顔を覗きこむようにして、キャロルが聞いてきた。どうやら、考えていたことが顔に出ていたようで、彼女の声には確信の色があった。

 

「……気に障ったなら謝る」

 

「あはは、いいんですよ! アタシが弱いのは事実だし、うん……」

 

 謝罪の言葉を口にするミッシェルに、キャロルは乾いた笑い声を上げ――そして、露骨に落ちこんだ。

 

「「皆のことはアタシが守るから!」とかあれだけ啖呵切ったのにぃ……うえええん! 何でこうなっちゃっちゃのさー!?」

 

 ――キャロルのマーズランキングは、98位。同率順位による被りがあるため、事実上1位~100位の間で格付けが決まることを考えれば、相当に低い順位だ。

 

 これは素体――即ち、キャロル本人の落ち度ではない。むしろ()()()戦闘力なら、彼女は戦闘員である30位圏内の者たちにも引けを取ることはないだろう。しかし悲しいことに、彼女はひたすらに適合するベース生物に恵まれていなかった。

 

「いくらなんでも、手術ベースが『芝』はないでしょ!? 同じ植物でも、せめて薬草とかにしてくれればよかったのにー! 神さまのバカー!」

 

 半泣きでやけくそ気味に叫び始めるキャロル。ミッシェルが何とも言えない表情でそれを見つめた。

 

危険な任務に望むべく命がけで手に入れた力は『ノシバ』――いわゆる『芝』と呼ばれる植物。

特別毒があるわけでもなければ、圧倒的な再生力があるわけでもない。戦闘はおろか、逃げたり隠れたりすることすらままならないただの草。ベース生物の貧弱さが素体の戦闘能力を台無しにした典型例だといえるだろう。変態してここまでメリットがないベースというのも逆に珍しい。

 

ミッシェルは重くため息を吐くと、話題の転換もかねて先程と同じ質問を口にした。

 

「……話を戻すが、キャロル。何でお前はローマ班の班員と一緒にいるんだ?」

 

「あ、忘れるところだった」

 

 我に返ったキャロルが思い出したかように指をパチンと鳴らす。それから彼女はその顔をケロッと一転させると、ミッシェルに笑いかけた。

 

「今からアタシ達、お茶の約束をしてるんです。それで――」

 

 ――班長にもご一緒いただきたいな、と思いまして。

 

 そう言ってキャロルは、茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 少人数グループで使うことを想定した、小さめの談話室。設置されたテーブルの上には、私物と思われるティーカップに注がれた支給品の紅茶と、同じく支給品の菓子類。そしてそれを囲むようにして、ミッシェルとキャロルは座っていた。

 

「ん~、さすがクロード博士が一枚噛んだ支給品シリーズ! 紅茶もお菓子も、その辺の市販品より美味しいー! 命かけてるんだもん、これくらいの役得はないとねー……あ、班長もどーぞ」

 

「ああ、サンキュー」

 

 キャロルから袋分けされた小さめのバウムクーヘンを受け取り、ミッシェルはそれを頬張った。

 

「……で、何でわざわざ私を連れてきたんだ?」

 

 二袋目に手を伸ばしながら、ミッシェルは怪訝そうにキャロルに聞く。

 

「知ってると思うが、私はあまり話す方じゃないぞ? こういうのなら、八重子とか百合子の方が盛り上がると思うが」

 

 ミッシェルの言葉に、キャロルは「あー」と日焼けした頬を掻いた。

 

「……ごめん班長。お茶しようって言ったの、嘘ってわけじゃないんだけど……実はそれ以外にもちょっとありまして」

 

 えへへ、と悪戯がばれた子供のように笑うキャロル。彼女の言葉の意味を測りかねたミッシェルが首をかしげたその時、部屋の扉が開き、2人の女性が入ってきた。

 

片方は、先程キャロルと共にこの場所までミッシェルを連れてきたマルシア。この部屋に着くと同時に一旦席を外していたのだが、彼女は

 

「マルシアちゃん、どう?」

 

「もうちょっとかかるみたい。しばらくは待った方がいい」

 

 キャロルの質問に肩をすくめて答えると、マルシアはミッシェルへと顔を向けた。

 

「申し訳ありませんが副艦長、もう少々こちらで待機をお願いします。今、うちの班員たちが――」

 

「おっと、マルシア! そこから先の説明は、このクールビューティな私に任せていただきましょう! この ク ー ル ビ ュ ー テ ィ な 私 に !」

 

 マルシアが状況を説明しようとしたその時、マルシアと共に部屋に入ってきたもう1人の乗組員が声を上げた。

 

――スリムな体型にピンとした背筋が特徴的な女性乗組員だ。

 

丸眼鏡の奥から覗く切れ長な目も合わせ、見た目だけなら優秀なキャリアウーマンそのもの。だが、その顔に浮かべたお手本のようなドヤ顔と、やたらクールを推すその残念な言動が、それら全てを台無しにしていた。

 

「おい、何だこいつは?」

 

「……恥ずかしながら、ウチの班員です」

 

 胡乱気なミッシェルから発せられた疑問に、マルシアがため息混じりに答える。それを受け、眼鏡の女性乗組員はキメ顔で名乗りを上げた。

 

「フフフ……お初にお目にかかりますね、ミッシェル副艦長。第6班所属、カリーナ・チリッロと申します。どうぞ気軽に、私のことはクールビューティとお呼びください」

 

「お、おう」

 

 そう言うとカリーナは、若干引き気味のミッシェルにぐいと詰め寄ると、彼女をじろじろと観察し始めた。

 

「ふむ……さすがは副艦長。アネックス『クールランキング』で堂々の3位に輝くだけのことはありますね。中々のクール力……まぁランキング1位の私には劣りますけどね!」

 

「……」

 

 ドヤァ! と擬音が聞こえてきそうなドヤ顔で胸を張るカリーナ。それを見たミッシェルは席を立つと、無言で扉に向かって歩き始めた。

 

「ちょ!? 班長ストップ! 色々思うところがあるのは分かるけど、もうちょっと待って!」

 

「放せキャロル、マルシア。こいつはジョセフ(あのバカ)と同じ匂いがする。これ以上、私は余計なストレスを溜めたくないんだ」

 

「お気持ちは痛いほどわかりますが、こらえてください! カリーナ、あんたは早く状況を説明する!」

 

 キャロルと共にミッシェルに組み付きながら、マルシアがカリーナのいる方へと視線を向ける。その視線の先のカリーナはというと、椅子に腰かけて呑気にカップへと紅茶を注いでいる最中であった。

 

「そう急かすものではありませんよ、マルシア。まずは席に腰を落ち着けて、紅茶の香りを楽しまれては? ほら、ダージリンティーの良い香りがしますよ」

 

「こんな時までクール気取ってないで、早く説明を! アタシとキャロルだけじゃ、副艦長を抑えきれないから! あとそのお茶、ダージリンじゃなくてアッサム!」

 

「……ふ、フフン。し、知ってましたし? これはマルシアがどれだけクールに突っ込めるかを見るためにですね――」

 

「いいから早くしろッ!!」

 

 声を荒げるマルシアの言葉に不満そうに頬を膨らませながらも、彼女は「仕方ありませんね」とため息を吐いた。それからティーカップをテーブルの上に置くと、カリーナは部屋を出ようとするミッシェルへと声をかけた。

 

「とりあえず副艦長、この部屋を出るのはもうちょっと待ってください。今行くと多分、ジョセフ班長と鉢合わせますよ」

 

「……何だと?」

 

 思わず動きを止め、ミッシェルはカリーナへと視線を向ける。それを受けたカリーナは眼鏡をクイと押し上げながら再び口を開いた。

 

「先程、第6班(ウチ)の女性班員から連絡がありました。パソコンのトラブルを解決したジョセフ班長は、現在Fエリア――つまり、こちらへ接近しているようです」

 

 そう話す彼女の様子に、先程までの残念さは感じられない。その目に怜悧な光を灯しながら、カリーナは事務的に事実を並べていく。

 

「ご存知かと思いますが、ここに隣接するのはGエリアのみ、行き来できる通路は1ヶ所だけ。余程上手くやらない限り、絶対に班長に遭遇することになるでしょうね。どうしても、というのなら止めませんが」

 

カリーナの言葉に、状況を理解したミッシェルの目が、大きく見開かれる。言うなれば彼女は袋のネズミ、逃げ道を完全に塞がれてしまったのだ。そう遠くないうちに自分へとかけられることになる口説き文句を想像し、ミッシェルは顔を引きつらせる。

 

「もっとも……ご安心ください。第6班(わたしたち)は今回、そうならないように動いてますから」

 

 そんな彼女を安心させるように、カリーナが言う。思わず縋るように顔を上げたミッシェルに、カリーナは薄く笑みを浮かべて見せる。

 

「一度請け負った依頼は、必ず遂行します。クールビューティの名に懸けて、ね」

 

「依頼?」

 

 ミッシェルの疑問にカリーナが答えようとした瞬間、彼女のアーマーに取り付けられた内線通信機が電子音を発した。

 

「おっと失礼――はい、こちらカリーナです。首尾はどうですか? ……結構、では手筈通りクールにお願いします。任務が完了するか不慮の事態が発生したら、また連絡を」

 

 通信機の向こうにいるらしい乗組員との通話を終えると、カリーナはミッシェルへと視線を向けた。

 

「計画通りに行けば、もう間もなくうちの男性戦闘員がジョセフ班長と接触、訓練を口実にトレーニングルームにあの人を隔離します。まだかかるので、連絡があるまではこちらに待機を」

 

「あ、ああ。いや、それは助かるんだが……」

 

 ミッシェルは言われるまま席に着くと、対面に座るカリーナをチラリと見やった。

 

「さっき、依頼と言っていたな? これを頼んだのは――」

 

「もちろん、そこにいるキャロルですよ」

 

 カリーナの言葉に、ミッシェルは驚いたように背後を振り向く。彼女の視線の先で、キャロルは照れたように笑みを浮かべた。

 

「いやー、班長がいっつもジョセフさん絡みでゲンナリしてたじゃないですか? それで何とかできないかな、って悩んでたら、6班のカリーナちゃんが力を貸してくれたんですよ」

 

「友人のよしみ、という奴ですね。同じ非戦闘員として、キャロルとは交流があったもので」

 

「なるほど、それで……」

 

 そう呟いたミッシェルの脳裏で、様々な辻褄が合致していく。突然現れた第6班の班員や、何の繋がりもなさそうなキャロルとマルシアが一緒にいたこと、自分がこの茶会に招かれた理由。

 何のことはない、これらは全て裏でキャロルとカリーナが動いていたことが原因だったのだ。

 

「……もしかして、余計なお世話でした?」

 

「とんでもない、むしろとても助かった。ありがとな、キャロル。地球に帰ったら、何でも好きなもん奢ってやろう」

 

 少しだけ不安そうなキャロルの言葉を否定すると、ミッシェルは彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

度重なるジョセフのアプローチに辟易していた彼女にとって、キャロルと第6班の班員たちは救いの神に他ならない。余計なストレスの種が一時的とはいえ軽減され、ミッシェルの顔はいつになく晴れやかなもだった。

 

「カリーナにマルシアも、ありがとな。他の奴らにも礼を言っといてくれ」

 

「おっと、お礼はいりませんよ。私はクールビューティとして―― ク ー ル ビ ュ ー ティ と し て ! 当然の務めを果たしたまでですからね!」

 

「まぁカリーナ(このおバカ)は置いておくとして……私達も上司が他班にご迷惑をおかけしている状況は不本意だったので、このくらいは」

 

 ――ただ。

 

 そう続けると、マルシアはミッシェルへと頭を下げた。

 

「班長はかなり強引な上に相当なナルシストですが……その。あの人はあれで優しい部分や、頼りになる部分もあるんです。だから、差し出がましいことを言うようですが――」

 

「……分かってるさ」

 

 マルシアが言わんとすることを察し、ミッシェルは彼女に微笑みかけた。

 

「これでも幹部としての付き合いはそれなりにあるんだ。あいつ(ジョー)のことははっきり言って苦手だし、何なら暴言も憎まれ口も叩くが……心から嫌ってるってわけじゃない。そこは心配すんな」

 

「……感謝します、デイヴス副艦長」

 

 そう言って、マルシアはほっと息を吐く。カリーナと比べて随分と淡泊な表情を保っていた彼女だったが、それが少し和らいだように見えた。

 それを見ながらミッシェルはティーカップを手に取り――微かに眉をひそめた。

 

「ん、茶が冷めちまったか……よし、お前らティーカップ貸せ。新しい茶、淹れてやるよ」

 

 そう言って立ち上がったミッシェルに、マルシアはギョッとしたように目を剥いた。

 

「い、いえ、さすがにそれは……」

 

「ほう、副艦長は家庭的なんですね。では、クールにお手並み拝見といきましょうか!」

 

「なんであんたはそんな偉そうなの? ほら、ぼさっとしてないで、追加のお菓子は出しとくから、あんたはお茶を淹れ直す!」

 

椅子の上でふんぞり返るカリーナを立たせようとするマルシア。そんな彼女に「気にすんな」と声をかけると、ミッシェルは慣れた手つきでティーポッドに茶葉を足し始めた。

 

「おぉ……すごくラッキーだよ、2人とも! ウチの班長、お母さんに仕込まれたとかで、すごく美味しいお茶を淹れるんだけど、ご機嫌な時以外はやってくれないからねー」

 

「余計なことは言わんでいい」

 

 小突かれてペロッと舌を出したキャロルに、ミッシェルは鼻を鳴らした。

 

「ま、気持ちばかりの礼ってやつだ。それにここから出れるようになるまで、まだ時間かかるんだろ? なら、口寂しさを紛らわすもんがないとな。何十分もひたすら喋りっぱなしってのは、存外にきついもんだ」

 

 そう言いながらミッシェルは、ポッドから1人1人のカップへとお茶を注いでいく。良質な香りを放つお茶に満足げに頷くと、再び彼女は椅子に腰かけた。

 

「たまには、こういうのも悪くないな。すまんがお前ら、もう少し私の時間つぶしに付き合ってもらうぞ」

 

 そう言って、ミッシェルが口元に笑みを浮かべる。それを見た3人の女性乗組員たちは、各々彼女の言葉に頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――以上が『ラプンツェル』から報告です。どうです皆さん、この私の完璧にしてクーーーーーールな知略は! さぁ、存分にクールビューティと称えてください!』

 

『いやー、本当に助かったよ! おかげさまで班長の機嫌もいいし、6班の皆とも仲良くなれたし! 本当にありがとね』

 

『ふふ、そうでしょうとも。何せ私は、クールビューティ! このくらいは当然のことです!』

 

『今回ばかりは、素直に凄いと思う。さすがくーるびゅーてぃ』

 

『ふむ、『マーメイド』の言う通りだな。『ラプンツェル』、よくやってくれた』

 

『……あれ? 『シンデレラ』はともかく、皆さんいつもと反応違いません? なんかもっとこう、「ハイハイ、クールビューティ(笑)」みたいなのが来ると思ってたんですが』

 

『いやいやいや。これまで副長に構いっぱなしで拗ねてた班員と班長を交流させて、班長の地位を向上と班員の不満解消を両立。更に他班の幹部に恩売って、オフィサー同士の関係悪化も予防。これはかなりのファインプレーでしょうよ』

 

『ちょ……え?』

 

『いや、悪いな『ラプンツェル』。正直、お前さんのこと舐めてた。クールビューティ自称するだけのことはあるわ』

 

『いや、あの……』

 

『アタシはずっと前から、『ラプンツェル』がスゴイ! っていうのはわかってたけどね。えへへ、でも今日はすっごい頼もしかったなー』

 

『あぅ……ま、待って……』

 

『……食っちゃ寝に囚われた私には、真似できない。『ラプンツェル』、お前のその行動力とけーがんは、尊敬する』

 

『~~~~~~~! っこ、この話題おしまい! おしまいです!』

 

『おーおー、褒められ慣れてないクールビューティが暴走してるぜ』

 

『う、ううううるさいですよ『ノースウィンド』! 人をからかってる暇があったら、クールなあの想い人に告白でもしてきたらどうなんです!?』

 

『は、はぁ? 意味わかんないんですけど? ぜんっぜん、何言ってるかさっぱりなんですけど? ナスチャのことなんてこれっぽちもどうも思ってないんですけど!?』

 

『頼むから静かにしてくれお前ら……ところで、『ゴールドアックス』はどうした?』

 

『あ、それならアタシの方で伝言預かってるよー。「騒ぎをデカくしてすまん。ちょっと頭を冷やしとく」だって。何かあったの?』

 

『ああ、例の……ふむ。事情は聴いているが、当事者が説明したほうがいいだろうな。『マーメイド』』

 

『いえっさー。端的に言えば、ひぼーちゅーしょーを受けた乗組員に代わって口の悪いジェットにお仕置きパンチをした。けじめとして、今は自主的に自室で謹慎ちゅーなう』

 

『暴力沙汰……ですか。クールじゃありませんね』

 

『いや待て、『ラプンツェル』。ありゃどー考えても、煽りまくってたあっちの方が悪い。フツーに考えて、言っちゃまずいことも言ってやがったからな。あの時『ゴールドアックス』が出てかなかったら、多分俺が同じことやってた……つーわけで『ゴルゴン』、処分はこの辺りも汲んでやってくださいよ?』

 

『ふむ……となると、厳重注意だな。消灯時間を過ぎたら『ゴールドアックス』と『ノースウィンド』は俺の部屋に来い』

 

『完全に極刑じゃねーか!? というか何で俺まで!?』

 

『冗談だ……今回、『ゴールドアックス』は自分のためじゃなく、()()()()()()怒った。相手の落ち度も高く、情状酌量の余地ありと判断する。『マーメイド』も同様だ、今回は両者共に、この場では不問。あとで本部に連絡を入れておくが――まぁ、あまりひどいことにならないよう、言っておこう』

 

『おぉ、ありがたやー。まさか一日の内に、2人も天使に会うことになろうとは』

 

『天使? ……まぁいい。他に、何か伝えるべきことがある者はいるか?』

 

『アタシは特にないかな』

 

『特にねーですね』

 

『私もないぞー』

 

『これと言って、特には』

 

『了解――火星到着まで、残り半分を切った。おそらく、裏切り者が仕掛けてくるとすれば19日後だろう。それまではいつも通りに頼む。では解散、オールオーバー』

 

 

 




【オマケ①】

西「違う、リンファ! もっと鋭く、野郎の股間を抉るように打て! ティン副班長にも教わっただろうが!」

ティン「いや、俺はそんなこと言ってな――」

リンファ「おーらい、任せろー。副班長の教えを思い出してー……シュッ! シュッ!  シ  ッ  ! ! 」

劉「……ウチの全自動去勢マシーンが一台増えちゃったわけだけど。ティン副班長、何か言い訳ある?」

ティン「待ってくれ(震え声)」





【オマケ②】
『一般クルー104人に聞きました! ~アネックスクールランキング(真)~』

1位:アドルフ・ラインハルト(ドイツ) 

2位:ミッシェル・K・デイヴス(アメリカ)

3位:エレナ・ペレペルキナ(ロシア)

4位:マルシア(ローマ連邦)

……

100位:柳瀬川八重子

同率100位:カリーナ・チリッロ




カリーナ「ふ、不正です!? この投票結果、クールじゃありません! 審議! 審議を要求します!」

マルシア「残念でもなく当然の結果だと思うけど」

ローマ戦闘員A「(『ポンコツ可愛い娘ランキング』のトップランカーだってことは黙っとこう)」

ローマ戦闘員B「(異議なし)」

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