贖罪のゼロ   作:KEROTA

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第41話 CRYSTAL 結晶

「それにしてもさ、キャロル」

 

「んー?」

 

 第二班の脱出機、そのすぐ側で地質調査をする班員たちを護衛しながら、燈がキャロルに話しかける。その声に反応して彼女が振り返れば、どこか戸惑ったような燈の顔が目に移る。

 

「お前、戦えたんだな。いや、非戦闘員にしては運動神経がいいのは訓練で知ってたけど……なんつーか、正直意外だった」

 

「あぁっ!? そうだよキャロルちゃん! すっかり忘れてた!」

 

燈の言葉に反応して声を張り上げたのは、苔のサンプルを集めていた第二班の班員、柳瀬川八重子(やなせがわ やえこ)である。何事かと手を止めたパトリック、ジョイス、ホリーの視線にも気にせず、彼女はキャロルに詰め寄った。

 

「どういうこと!? うちらの日米同率98位同盟は嘘だったってコト!?」

 

「と、とりあえずヤエちゃんは落ち着こう、ね?」

 

 浮気した彼氏を尋問するかのような八重子を、キャロルが「どうどう」と宥める。しかし、周囲から向けられる好奇の視線が止むことはない。これでは作業になるまいと察した彼女は、困ったように笑みを浮かべた。

 

「うーん、何て言えばいいのかな。結論を言えば、燈くんが言ったことも、ヤエちゃんが言ったことも正しいってことになるんだよね」

 

「ど、どういうこと!? そんな「ごめん、でも俺にはどっちが好きかなんて気決められないんだ」的な、愛だけの男みたいな回答、うちは認めないからね!?」

 

「落ち着こう、八重子ちゃん」

 

 憤慨する八重子の肩を、百合子がポンと叩く。その隣で燈が「どういうことだ?」と尋ねると、キャロルが口を開いた。

 

「ほら、アタシのMO手術のベースは『ノシバ』って皆には言ってあったよね?」

 

「ああ……いや、さすがにそれが嘘だってことぐらいはもう気づいてるからな?」

 

 燈が言うと、全員が首を縦に振った。当然である。一体どこの世界に、手術ベース『芝』でテラフォーマーを一騎打ちで破ることができる人間がいるだろうか。彼女がベース生物を偽っていた、という結論には、既に多くの班員が行き着いていた。その共通認識の下、キャロルの話を聞いていた彼らだったのだが――。

 

「あれ、実はあながち間違いでもないんだ」

 

 ――だからこそ、キャロルの口から飛び出したその言葉には全員が驚いた。

 

「アタシ、適合する生き物自体は『ノシバ』も含めて何種類かあったけど、()()()()()()()()()。実際にアタシのベースになったのは『シソ科植物』の一種……まぁ正直、特性的には『芝』と五十歩百歩ってとこなんだよね」

 

 困ったように笑うキャロルを見て、班員たちは顔を見合わせる。

 

 シソ、と言われて班員たちが思い浮かべたのは、料理の香りづけなどに使われる食材である。ペギーを始め生物学に通じる一部の班員はシソの薬効を思い浮かべてみるが、思い当たるのは冷え性改善、便通促進、食欲増幅などなど……健康に効く点では芝よりマシだが、どう考えても戦闘向きとは言えないものばかりだ。

 

「じゃ、じゃあ98位同盟は健在なのね!? うちは信じてたよ、キャロルちゃん!」

 

「ごめん、実際はトップランカークラスだと思う」

 

「この裏切り者ォ!?」

 

「落ち着けっての」

 

 フシャー! と息を荒げる八重子の頭にチョップを落としながら、アレックスが目でキャロルに続きを促す。それを受けて、彼女は更に続けた。

 

「えっと……実はあたしたち潜入員は、クロード博士が開発した『Hyde(ハイド)』っていう特別な手術を受けてるんだ」

 

 そう言って彼女は、ツノゼミ累乗術式についての説明を班員たちにしていく。その内容は技術に精通した学者であれば仰天するものだが、ミッシェルや燈という例が身近にいる第二班の班員たちにとって、そこまでの衝撃ではなかったらしく、比較的余裕を持って説明は受け入れられた。

 

「それであの戦闘力だったのか」

 

「といっても、本来の特性を”増強”じゃなくて“補完”するために手術を受けてるから、他の潜入員(みんな)よりは弱いんだけどね、アタシ」

 

 不甲斐ない、とばかりにため息を吐くキャロルに、燈は「十分だろ」と表情を引きつらせた。思い出すのはアネックスのシャワールームでテラフォーマーを玩具のように放り投げ、吹き飛ばしている彼女の姿。古武術を収めた燈から見れば精細さは欠くが、それでも並の戦闘員よりは彼女の方がよほど強いだろう。

 

「あとアタシ、一応おまわりさんだからね。市民を守るためにも、多少の格闘術はできないと」

 

「なるほどな……あ?」

 

 納得しかけたアレックスが、疑問の声を漏らす。他の班員たちは一瞬沈黙し、それから一斉に聞き返す。

 

 

 

「「「「「「警察だったの!?」」」」」」

 

 

 

「そうだよ……ってあれ、言ってなかったっけ? 新米の平巡査だけど、これでもSWAT(特殊部隊)の候補生なんだよ、アタシ?」

 

「い、意外すぎる……」

 

 映画でよく見る、ごつい戦闘スーツに身を包んだ特殊部隊の隊員と、目の前のキャロルが一致せず、百合子が思わずつぶやく。

 一方その隣で顔を青くしているのが、数時間前に覗きの現場を押さえられたばかりの燈である。過去に似たような経験のあるアレックスも、あからさまにソワソワし始めた。

 

 ――あれ? もしかして俺達、地球に戻ったら逮捕されるんじゃ?

 

「燈くん、アレックスくん、分かってるね?」

 

「「ハイッ!」」

 

 燈とアレックスがピンと姿勢を正すも、その直後に背筋だけでなく、鼻の下も伸びすことになる。

 腰に手を当て、2人の顔を覗きこんだ彼女の胸が、ぽよんと揺れたのである。頬を膨らませているのは威嚇のつもりなのだろうが、どうにも小動物のような可愛らしさが先行して、いまひとつ怖さがない。

 

「また覗きなんてしたら、次は逮捕するからね! いい?」

 

「「……」」

 

 ――正直、逮捕されちゃうのもありかもしれない。

 

 悪い方向に考えを改め始めた燈とアレックスの邪念を見抜き、百合子が彼らの無防備な足を踏み抜く。突然の痛みに2人が悶えていると、脱出機のドアが開いて中からミッシェルが降りてきた。

 

「あっ、やべ……」

 

 サボっていたのがバレたか、と思わず身をすくめる一同。だが、お喋りを咎めるだけにしては、ミッシェルの表情は嫌に固い。様子がおかしいことを察し始めた班員たちに、ミッシェルは告げた。

 

 

 

「――非戦闘員は直ちに脱出機内へ戻れ。()()()()()()()()()

 

 

 

「……っ、了解!」

 

 着陸後初となる接敵に緊張が走るが、そこは訓練を受けた乗組員たち。アネックス内で受けたような奇襲ならばいざ知らず、火星でのテラフォーマーの襲撃は想定済みである。

 

 非戦闘員たちは作業を即座に切り上げると、足早に機内へと退避する。それを見届けてから、キャロルはミッシェルに問う。

 

「テラフォーマーの数はどれくらいですか?」

 

「ざっと20ちょいってとこだな……見えてきたぞ」

 

 ミッシェルの言葉に振り向けば、地平の彼方からこちらへと駆けてくるテラフォーマーの一団が見えた。距離は離れているが、テラフォーマーの足ならば数十秒と経たずに攻撃射程に入るだろう。

 

「燈、キャロル。両サイドから来てる数匹はそれぞれ任せる。アレックスは脱出機を護衛しながら、上空を警戒しろ。ヤバくなったら私を呼べ――頼んだぞ」

 

 ミッシェルは手短にそう言うと、先頭を走ってきたテラフォーマーに突進した。両者が組み合い、束の間拮抗した後――細身のミッシェルが、テラフォーマーをねじ伏せた。

 

 

 

 ――ミッシェル・K・デイヴス。

 

 

 

 遺伝ベース ”パラポネラ”

 

 

 

 父親であるドナテロ・K・デイヴスが、バグズ手術によって与えられた『パラポネラ』の因子。奇跡のような確率で受け継ぎ、20年前にその能力を覚醒させた彼女は、自重の100倍もの重量を持ち上げることができる。

 

 これだけでも、オフィサーを務めるにあたっては十分すぎる程に強力な特性。加えて彼女には、MO手術で獲得した“もう一つの能力がある”。

 

「じょう、じ……ッ!」

 

 彼女の攻撃をその身に受けたテラフォーマーたちが、苦し気なうめき声を上げる。そしてその直後、彼らの体は『パァン!』と音を立て、まるで水風船のように破裂した。

 

 

 

 MO手術ベース "爆弾アリ"

 

 

 

 ――それは、650年前にマレーシアで発見された奇妙な蟻である。

 

 

 

 和名はなく一般にも知られていないその蟻を、ミッシェルは便宜上“爆弾アリ(Blast ant)”と呼んでいる。その特性はまさに奇怪その物、驚くなかれこの昆虫は()()()()()()()()

 

揮発性の液体を体内に貯め込み、外敵に襲われた場合にこれをさく裂させ、毒液を撒き散らす。自らを犠牲に襲撃者を打ち倒し、巣を守るのである。

 

爆弾アリ自体はあくまで自爆のためだけに用いられる特性ではあるのだが、MO手術のなせる芸当故か、敵に毒を注入する術を持つパラポネラの因子を持つ故か、あるいは単純に本人の錬度故か。ミッシェルはあろうことか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、そんなことをされた対象がただで済むはずもない。まさに一撃必殺、彼女は文字通り一発攻撃を当てるだけで、悪魔を屠ることができるのである。

 

 

 

「お前ら、何匹か抜けたぞ!」

 

 その声に、ミッシェル個人に向けられていた3人の視野が一気に戦場全体へと広がった。ミッシェルは既に複数体のテラフォーマーを無力化しているが、如何せん相手取ることができる数には限りがある。殺される仲間の左右を5匹ずつ、計10匹が駆け抜けた。

 

「出番か。キャロル、右は任せた!」

 

 言うが早いか、燈は腰にさした専用武器――対テラフォーマー振動式忍者刀『膝丸』を抜き放ち、切り込んだ。

 

 変態こそしているが、専用武器を手にした彼にとって5匹のテラフォーマーなどものの数ではない。わざわざ特性を使うまでもなく、彼は器用に刀を操り、テラフォーマーの四肢を切って無力化している。

 

 

 

 ――ミッシェル班長と燈は大丈夫そうだ。となると、気になるのは……。

 

 

 

 脱出機の屋根に腰掛け、アレックスは視線を滑らせた。その先には既に変態を終え、5匹のテラフォーマーと対峙しているキャロルの姿。

 

「……手術ベースが2つっての、マジなんだな」

 

 呟きながらアレックスは、キャロルの姿をつぶさに観察する。変態した彼女の体には植物型の手術を受けた特徴である葉脈が走っているが、同時に昆虫を思わせる黒い甲皮にも覆われ、頭からは触角も生えていた。迫りくるテラフォーマーに一歩も引かないその姿勢は成程、確かに戦闘員のそれだ。

 

 しかし、鍛えているとはいえ、その体格は華奢な女性の範疇を大きく逸脱するものでもない。危険になったらいつでも加勢できるよう、アレックスは変態薬を握りしめた。

 

「よし! それじゃ、やろっか」

 

 そんな彼の心配をよそに、キャロルは特別気負った様子もない。自然体で、迫るテラフォーマーたちを見据える。

 

「器物破損、暴行未遂……それに、公務執行妨害――」

 

 一匹のテラフォーマーが、キャロルに向かって飛び掛かった。彼女は事前に持ち出しておいた捕獲用虫取り網を持ち上げ――

 

 

 

「君たち全員、逮捕ね」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

 アレックスや、機内から様子を見守っていた班員たちが驚く。目の前で振るわれたキャロルの腕力が、怪力と言っても過言ではない代物だったからだ。

 

 捕獲用虫取り網の発射機は非常に頑丈な造りになっていて、鈍器として使えばテラフォーマー相手でもダメージを与えることができる。

 

 しかしそれ故に、銃身は重い。戦闘員であっても基本的には両手で扱い、非戦闘員に至っては持ち上げることが難しい者さえいるのだ。

 

「昆虫でも、ここまでの力を出せる奴はそういない……考えられるのはカブトムシ、それか班長と同じアリか?」

 

 呟くアレックスの眼前で、キャロルはまるで子供が木の枝で遊ぶような感覚で、虫取り網の発射機を振り回す。銃身の一撃を受けて三匹目のテラフォーマーが昏倒したところで、彼女は折り重なったテラフォーマーに向けて、発射機の網を引いた。

 

「サンプル3体、逮捕(捕獲)っと……やっぱりこれだと、ちょっと軽いなぁ」

 

「っ! キャロル、油断すんな!」

 

 ぼやくキャロルの背後に、棍棒を構えたテラフォーマーが忍び寄る。警告を発したアレックスが変態薬を口に含むも、間に合わない。

 

 振り向きざま、キャロルの無防備な額を目掛けて、テラフォーマーの棍棒が振り下ろされる。バキ、と鈍い音。ついで、見守っていた非戦闘員たちの悲鳴が響き。そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

 愕然、思わず動きを止めたアレックス。変態により鋭敏化した彼の目は、キャロルの額を守るように()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……殺人未遂、追加ね」

 

 

 

 そう言うと同時、キャロルが眼前のテラフォーマーに頭突きを食らわせる。諸に攻撃を受けたテラフォーマーの額は甲皮ごとパックリと割れ、威力に押し負けて倒れ込む。

すかさずキャロルは馬乗りになり、テラフォーマーの腕を後ろ手に押さえる。

 

「……これくらいでいいかな」

 

 数秒程態勢を維持してから彼女が離れると、果たしてテラフォーマーの両腕は彼女の頭部を守ったのと同質の、何かが混ぜ込まれた水晶のような物質で貼り合され、拘束されていた。

 

「で、君が最後かな?」

 

 キャロルが問いかけるが、無論テラフォーマーは答えない。その代わりに繰り出されるのは、黒い拳。人体程度ならば容易く貫通する威力のそれを、キャロルは左腕で受け止めた。しかし砕けたのは彼女の細腕ではなく、テラフォーマーの拳の方。その腕はやはり、例の硬質な結晶で覆われていた。

 

「よっと!」

 

 キャロルはその無防備な体を目掛け、右腕で掌底を放つ。その掌にはいつの間に生成したのだろうか、氷柱のような円錐状に固められた結晶があった。狙い過たず掌は胸部に叩きつけられ、結晶は食道下神経節を破壊した。

 

「……ん?」

 

 しばし呆気に取られて見入っていたアレックスだが、戦闘を終えて伸びをする彼女の姿を見て、ふとある事実に気が付いた。

 

 

 

 ――()()()()()()()()()

 

 

 

 心なしか脱出時に比べ、彼女の胸が縮んでいるように見える。見間違いかもしれないし、そもそも平時の彼女に、そして平均的な女性に比べれば十分に大きいのだが……?

 

「2人とも、終わったようだな」

 

 ミッシェルの声に思考を中断して、アレックスは顔を上げた。キャロルの方に気を取られていたが、ミッシェルと燈も戦闘を終えていたらしい。歩き戻ってくるミッシェルに、燈が親指を立てて報告する。

 

「サンプルはバッチリっスよ、ミッシェルさん! 5匹捕獲です!」

 

「アタシも5匹確保です。班長の方は……」

 

 キャロルは言いかけて、はっとしたように口に手を当てた。燈も一瞬だけ頭上に疑問符を浮かべるも、ミッシェルの背後に広がる惨状を目にして微妙な笑みで表情を固定した。アレックスもまた、その光景に口を噤むほかなかった。皮肉なことに鋭敏化された彼の聴覚は機内で百合子が上げた「うわぁ……」という声を拾い上げてしまい、言ってやるなとばかりに踵で脱出機の屋根を叩いた。

 

ミッシェルの背後にあったのは、襲撃してきたテラフォーマーの残骸だった。

 

 “パラポネラ筋力”も”爆弾アリの爆発”も、強力故に殺傷力が極めて高い特性である。加えて本人のあまり細かいことにこだわらない性格もあいまって、彼女は捕獲を得手としていない。

 

 任務達成に必要なテラフォーマーのサンプルは、生け捕りが必須。

 

こと純粋な戦闘力・破壊力に関していえば間違いなくアネックストップの実力者でありながら、彼女のマーズランキングがオフィサー中最下位の5位にとどまっているのは、それが原因だ。

 

「サンプルは10匹、だな……ほら、サンプルを籠にしまうぞ」

 

 冷静にミッシェルが言うが、本人も「やらかした」という自覚はあるのだろう、その視線は露骨に泳いでいる。そこに触れないのは、班員たちの優しさだろう。何とも言えない緩んだ空気の中、班員たちが動き出そうとし――

 

 

 

「は、班長! レーダーに反応、敵の増援です!」

 

 

 

 モニターをしていた黒人の班員、ウォルフの声に、弛緩した空気が再度張りつめた。

 

「ウォルフ、数は!?」

 

「数えきれません! ざっと見ただけでも、50以上!」

 

「確かに……さっきの倍以上はいるな」

 

 ウォルフの報告を裏付けるように、変態したアレックスの瞳が、大地を蹴って近づいてくる黒の軍団を映す。

 

 テラフォーマー50匹、燈やキャロルがいれば、決して相手取れない数ではない。しかし問題なのは、非戦闘員を守りながらの戦闘であるということ。同じ日米合同班でも第一班ほど戦闘員を擁していない第二班では、この数のテラフォーマーとの戦闘はリスクが大きすぎる。

 

「チッ……急いで離脱するぞ! 燈、すまんがもう一仕事だ! お前の糸で脱出機の外に張り付いて、ゴキブリ共が追いついたら迎撃しろ! キャロル、アレックス! お前らは中に!」

 

「了解!」

 

 返事をして、燈が駆け出す。アレックスとキャロルが機内に戻ろうとした直後――今度は別の班員が声を上げた。

 

 

 

「班長! 九時の方向、テラフォーマーとは別に機体が接近中です!」

 

「何だと!? おい、どこの班だ!?」

 

 ミッシェルの問いに、別のレーダーを監視していたアミリアが声を張る。

 

「観測できてる機体の形状が、アネックスの脱出機と一致しません! これは……」

 

「ッ! アレックス、目視!」

 

「あ、ああ」

 

 何かに思い至ったようにキャロルが声を上げ、アレックスは双眼鏡を覗きこんだ。彼の目が捉えたのは、バスを思わせる形状の、ものものしい装甲車だった。タイヤ部分は戦車のそれを思わせるもので、車体の屋根には巨大な大砲が備え付けられている。

 

「アレックス、車体のどこかに数字が書いてない!?」

 

「数字? 2って書いてあるが……それがどうした?」

 

 アレックスの言葉に、キャロルの表情が明るくなる。彼女は安堵の息を吐き、全員に聞こえるように言った。

 

「大丈夫! 皆、あれに乗ってるのはアタシ達の味方だよ!」

 

「味方、って……」

 

 燈が口を開いたその瞬間、腹の底に響くような轟音が響き、装甲車に取り付けられた砲口が火と煙を吐き出す。直後、こちらへと向かうテラフォーマーの集団の中央付近で爆発が起こり、それによって数匹のテラフォーマーが粉々に砕け散る。

 

 しかし、装甲車からの支援はそれだけでは終わらない。二発、三発と砲声と火柱が繰り返され、もはや誰の目にも装甲車がはっきりと目視できる距離にまで近づいたそのタイミングで。

 

 タン、と軽やかに。装甲車の荷台から、何かが飛び出した。

 

 頭部にはフルフェイスヘルメット、身に纏うは中華拳法服。身の丈の二倍近い長さの槍を携えたその人物は、第二班の脱出機を中継地点として再び跳躍し、人間離れした勢いで、テラフォーマーの集団へと突撃した。

 

 呆気にとられる第二班の面々、その背後から不意に声が聞こえた。

 

 

「あーあー、団長め。指揮を俺に押し付けて、さっさと飛び出しやがって」

 

 我に返ったアレックスが振り向くと、そこに立っていたのは髭面の大男だった。自衛隊を思わせる戦闘服に身を包み、肩には機関銃を吊り下げている。彼はいつの間にか近くで停車していた装甲車から下りてきたらしく、その背後からは秘書風の青年、太った男性、髪を結わえた青年、そして気の強そうな少女が続く。

 

「……ッ!」

 

燈とアレックスは彼らの姿を見た瞬間、ほとんど本能的に警戒を強めていた。場数を踏み、年齢不相応の実力と経験を身に着けた彼らだから分かる。装甲車から下りてきた者は全員、プロの軍人にも比肩しうる相当な手練れだ。

 

実力としてはおそらく第3班――ロシア・北欧班の面々に近いだろうか。個々の実力もそうだが、一見バラバラながらも乱れぬ歩調は、彼らの部隊としての錬度の高さをうかがわせた。

 

「よう、久しぶりだなキャロル。負傷者、死者はいるか?」

 

「今のところはゼロだよ。それより、予定より随分早かったね?」

 

 親し気にキャロルが話しかけると、大男の後ろから秘書風の青年が答える。

 

「団長殿に飛ばせと急かされたんですよ。心配しすぎだと言ったんですが……結果的にはグッドタイミングでしたね」

 

脱出した矢先にこの数はきついな、と髪を結った青年がからからと笑う。それを横目に見ながら、ミッシェルが毅然とした態度で先頭の大男に尋ねた。

 

「なんで()()()火星(ここ)にいるかはあとで説明させるとして……お前らが、艦長の言ってた救助隊で間違いないか?」

 

「おうよ! ま、付け加えるんならそうさな……俺達はアーク第二団。アネックス第2班の護衛を務める救助隊兼――」

 

 大男はそう言うと、口元にニヤリと笑みを浮かべて続けた。

 

 

 

 

 

「――火星専門の駆除業者さ」

 

 

 

 





【オマケ】勤務中のキャロル、交番にて

キャロル「おはよーございます! うん、毎朝挨拶が元気でよろしい!」

キャロル「迷子になっちゃったかー。よしよし、お名前は何て言うのかな? すぐにお母さんが来るから、それまでお姉ちゃんと待ってようね」

キャロル「落し物? 届けてくれたんだね、ありがと! 必要な書類書いちゃうから、ちょっと待ってて」

キャロル「こら、また悪さしたなー、このいたずらっ子め。まったくもう、しょうがないんだから……」



マルコス「あ、これイイわ。グッとくるわ、年下男子的に」

シーラ「いかん、(※原作2巻参照)的な意味で、開いちゃいけない扉が開きそう……」

アレックス「キャロル、SWATじゃなくてもうずっと交番勤務しようぜ、な?」

キャロル「なんで!?」
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