贖罪のゼロ   作:KEROTA

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協奏三歌XX-2 反撃開始 -フェーズ2-

 

 

 

「とりあえず、脱出は成功かな」

 

「……みたいだな」

 

 スレヴィン・セイバーは運転席のシートにもたれかかりながら深く息を吐く。非常事態下で乗り捨てられたらしいフォード車のアクセルは目いっぱいに踏み込まれ、スピードメーターは限界まで振り切れていた。

 

「──ところで、シモン」

 

「……うん」

 

 視界の端でワシントンD.C行政特区の景色が猛スピードで後方へと流れ去っていく中、改まった口調で切り出された言葉にシモンは静かに返した。

 

 スレヴィンは勘が鋭い。先ほどのモニカとのやり取りで、彼が何かを察していてもおかしくない。となれば、何かしらの疑問をぶつけられることは想像に難くなかった。

 

 全てを答えることはできないにせよ、自分に答えられることなら答えなければ──そう気を引き締めたシモンに、スレヴィンは鋭く切り込んだ。

 

「お前……大人しい顔して相当アブノーマルな趣味してんのな」

 

「え゛っ」

 

 ──彼が全く予想しなかった角度から。

 

「俺も長ェこと寮監やってるが……妹兼愛人とかいうパワーワード、リアルで聞いたのはさすがに初めてだわ。実妹か義妹かは知らないけどよ、あー……なんだ。見直したぞ、うん」

 

「誤解!? それあの子が勝手に言ってるだけで事実無根だから! あとスレヴィン君、見直したって言ってるけどちょっと引いてるでしょ!?」

 

「お前は俺を何だと思ってんだ……大分引いてるに決まってんだろ」

 

「うわぁあああああ!?」

 

 シモンはフルフェイスごと頭を抱えた。

 

「違う、違うんだってスレヴィン君! モニカとボクはそういうんじゃなくて!」

 

「そういうんじゃない……!? まさかとは思うがお前、これ以上爛れた何かだってのか……!?」

 

『──その通りよ』

 

「モニカぁああああ!?」

 

 臓腑の底から絞り出すようなシモンの絶叫がワシントンD.C.に響く。からかうのもこのくらいにするか、とスレヴィンは笑いながら「安心しろ」と口を開く。

 

「そっちの事情は大体把握してる。どこの誰かは知らねーが、この場はひとまず敵じゃねえってことが分かればそれでいい」

 

『そうね。話が早い男の人は好きよ、Mr.セイバー』

 

「そりゃどーも……で、こっからどうするつもりなんだ?」

 

 彼はハンドルを握りながら、自らに指示を出す『謎の女(モニカ)』へと尋ねる。

 

「ひとまず指示通りにヘリを追っちゃいるが、セーフハウスにでも案内してくれんのか? こちとら瀕死の重傷を負ったばっかでな、できればひと休みしてぇんだが」

 

『残念だけど、ご期待には沿えそうにないわね』

 

 即答するモニカに、スレヴィンは「だろうな」と肩を竦めてみせる。なお、さすがのモニカもスレヴィンの現在の状態が本人が口にした通り(一度首を刎ねられている)とは気づいていない。

 あるいはそれを知ったとしても、作戦行動に支障をきたさなければ、結論は変わらなかっただろうが。

 

『さて、Mr.セイバー。バックミラーを確認してくれるかしら、今すぐ』

 

 唐突な指示に疑問符を浮かべつつ、スレヴィンは何気なくバックミラーへと視線を向け──そこに映り込んだものを認識し、ギョッと目を見開いた。

 

「……うっそだろおい」

 

 ──バックミラーに映り込んでいたものは、自分達を追跡するヴォーパルの姿。

 

 シモンとスレヴィンを乗せ、アクセル全開で走行する車。その時速は彼はそれを、()()()()()()()()()()()()。しかもミラーに映る姿は刻々と近づいてきている。もう何秒か経てば、ミラー越しに彼の表情をはっきりと読み取れそうな勢いだ。

 

「きょ、恐竜って車より速く走れるんだね……?」

 

『あらシモン。それこそ映画じゃあるまいし、そんなに速く走れるわけないでしょ?』

 

 顔を引きつらせるシモンに、モニカはとぼけたように言う。

 

『クロード博士から強請(もら)ったデータを見る限り、あれはテラフォーマー由来の特性ね。彼、ツノゼミの替わりにゴキブリを上乗せしてるらしいから』

 

「なるほど、そりゃ速いわけだ。こっちがアクセル全開にしたところで、相手が新幹線並の速さで追ってくるんじゃあな」

 

 皮肉交じりの悪態を吐きながら、スレヴィンはハンドルを握る手に力を込める。

 

「シモン、掴まってろ! 裏道に逸れて奴を撒く! 悪いが嬢ちゃん、ナビしてくれ!」

 

『ダメよ。進路の変更は許可しない』

 

「ッ!?」

 

 しかし彼の予想に反して、インカム越しにかかったのは待ったの声。スレヴィンは切りかけたハンドルを咄嗟に元の角度へと直す。果たしてフォードは一瞬の蛇行の後、最高速度を維持したまま車体を車道の中央へと戻した。

 

「ッ!? おいおい、マジで言ってんのか!?」

 

『マジもマジ、大マジよ。でも安心して……貴方を見殺しにするつもりはないわ、シモン』

 

「俺は!?!?」

 

 キレよく炸裂したツッコミをスルーし、モニカは『作戦を説明しましょう』と切り出した。

 

あの怪物を倒す作戦(『クロスピン』作戦)の概要は至ってシンプル。こっちの有利なフィールドに敵をおびき出して、数の暴力で袋叩きにする。ただそれだけ』

 

 概ね予想通りのその言葉に、シモンとスレヴィンは特段驚いた様子を見せることはない。無言で続きを促す2人に、モニカは作戦の詳細を伝えていく。

 

『ヘリはここから20km離れた決戦の舞台、ポイントXに向かってるわ。ここまでで大体察してくれてると思うけど……今回のあなた達の役割は『そこまで奴をおびき寄せること』と『そこで奴を袋叩きにすること』の2つよ。ざっくり言えば、陽動と実動の兼任部隊ってことね』

 

「そりゃ名案だ。が、一つ問題があるぜ」

 

 わざとらしくそう前置きして、スレヴィンはインカムに問いかける。

 

「あと30秒もすりゃ、奴は俺達に追いつく。そうすりゃ車ごとひっくり返されて、俺もシモンもお陀仏だ。とてもじゃねぇが、そのポイントXとやらまで凌げるとは思えねぇな」

 

『でしょうね』

 

 そう相槌を打ったモニカは『ただし』と言葉を続ける。

 

『それは()()()()()()()()()()()の話よ。どうして私が、わざわざフォードの屋根にシモンを立たせていると思って?』

 

「……なるほど」

 

 その言葉でおおよその真意を察したシモンは、自らの答えが正しいか確かめるように口を開く。

 

()()()()X()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それで合ってる?」

 

『そういうこと。そしてもっと言えば、あなた自身も護衛の対象よ』

 

 モニカが付け足す。

 

『あなたはこの後に控える最終フェーズの要。なるべく力は温存する必要があるわ。戦闘に支障をきたすような怪我なんて、もってのほか』

 

「……ちょっと厳しいかな、それは」

 

 モニカの言葉に、シモンは苦々しい表情を浮かべる。

 

「さっき少し戦って分かったけど……アイツ、今までボクが会った誰よりも強い。博士が言った通り、拘束制御を付けたままのボクじゃ、護衛どころか勝負にもならないと思う」

 

 ──彼の最大の懸念は、まさにそこにあった。

 

 そもそもシモンは、本当の意味でヴォーパルと自分の間に、勝負にならない程の実力差が存在するとは考えていない。

 

 片や最高傑作、片や成功した試作品。片や生物界最強のハイブリッド恐竜、片や精々一流どまりの合成虫。

 

 素体においてもベースにおいても、そこには確かに歴然たる差が存在する。だが、その差で勝負の全てが決まるわけではない。相性、環境、装備……そういった諸要素を味方につければ、食い下がること自体は決して不可能ではない。それが先の交戦でシモンが導き出した結論だった。

 

 しかしそれは『制限なく戦えるなら』という、大前提ありきのもの。

 

 そしてシモンが制限なく戦うということは、その身に宿る災禍の戦列(カメムシ)たちの力を解放するということ。人為変態後の姿が衆目に晒されれば、最悪の場合『0人目の特例(ザ・ゼロ)』の生存が他国や他勢力に知られてしまう危険性もある。

 そうすればアーク計画が露呈するのみならず、シモン自身もその身を狙われることになる──それだけは、なんとしても避けなくてはならない状況だった。

 

『心配御無用』

 

 しかしシモンの不安に向けて返されたのは、それを一蹴する力強い断言だった。

 

『最初に言ったでしょ? 「舞台も役者も準備は万端」だって。当然、そこにも手は打ってある……あら、噂をすれば』

 

 そんなモニカの呟きと共に、インカムの向こうから微かにメロディが響く。どうやら着信音だったらしい。「ちょっと失礼」とモニカは断りを入れると、自分でもスレヴィンでもない人物に向かって話し始めた。

 

『こちら指令部イプシロン。作業の進捗を聞こうかしら、ベータワン?』

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『こちら指令部イプシロン。作業の進捗を聞こうかしら、ベータワン?』

 

「ええ、それは勿論──」

 

 スマホ越しに問いかけるモニカの声に応じたのは、『ベータワン』と呼びかけられた女性だった。アメリカ人らしい金髪に、整った目鼻立ち。ビジネススーツに身を包んだその姿は、まさに仕事ができるキャリアウーマンといった印象。

 

 

 

「──終わらせたわよ! 突貫も突貫、ギリっっっギリのスレッッスレでね!!」

 

 

 

 そしてそれらを台無しにする一切余裕のない声で、その女性──CIAの諜報員『キャサリン・アーキス』は叫んだ。ずり落ちかけた眼鏡を押し上げ、ヤケクソ気味に声を張り上げるその姿は疲れ切ったOLのそれである。

 

「ただベータチーム代表として言わせてもらうけどね、どんな無茶振りよ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「しかも納期は30分」

 

「とどめに人員は3人だけ~」

 

 合いの手を入れる背後の『協力者』二人の言葉に、キャサリンは内心で強く同意する。

 

 ──彼女が上司によって呼び出されたのは、今からおよそ一時間ほど前。

 

 未曽有の事態を前に蜂の巣をつついたような騒動となっているCIA本部で、同僚と共に事態収拾に奔走していた最中のことだった。

 思い当たる節がなく、困惑しながらも呼び出し先の会議室へと入ったキャサリン。そこに待っていたのは直属の上司とCIA長官、そして──ホワイトハウスから脱出したばかりのグッドマン大統領だった。

 

(いや何事!?!?)

 

 心臓に悪すぎる状況に動揺しつつ、それでもキャサリンは表面上は平静を繕う。そんな彼女に伝えられたのが、『クロスピン』作戦への参加要請だった。

 

 機密上の観点から詳細は伝えられなかったものの、この作戦の成否が合衆国の存亡に関わること、CIAでは自分以外に対応できる人物がいないらしいこと、そして何より憧れの人物が作戦に携わっていること……それらの要因が複合的に重なり、二つ返事で任務を承諾したキャサリン。

 

 そして連れてこられた先で蓋を開けてみれば、待っていたのは電子戦のタイムアタックだったという経緯である。

 

『あら、CIAの言葉とは思えないわね。あなた達、必要なら合衆国中の通信網掌握とかもやるでしょ?』

 

「そ、それは……やるかやらないかで言えば、やるけど」

 

((やるんだ))

 

 キャサリンの応答に、彼女と同室でハッキング作業に携わっていた協力者たちの心の声が一つになる。

 

『ともあれ、仕事成果は文句なしよ。ご苦労だったわね──悪いけど、時間がないの。お礼は後日、たっぷりと。期待してて』

 

「……ベータワン了解。健闘を祈ります」

 

 疲れ切った声で答えれば、スマートフォンの通信はそれっきり切れた。それと同時、キャサリンの背後からどさっと何かが倒れ込むような音が立て続けに響いた。

 

「な、なんとか間に合わせた……!」

 

「終わったぁ~!!」

 

「──作戦への協力、CIAを代表して感謝するわ」

 

 解放感と達成感により、明らかに変わった空気。それを肌で感じながら、キャサリンは眼鏡を外す。

 

「ありがとう、二人共」

 

「「おー」」

 

 力なく応じるうめき声が、二つ。回転式の椅子をくるりと回して彼女が振り向けば、そこにはテーブルの上に疲労困憊で突っ伏した二人の協力者たちの姿あった。

 

「にしても、無茶振りがすぎる。企業時代でも聞いた事ねぇぞ、こんな納期……」

 

 弱弱しくぼやいたのは、特別対策室から派遣された(という体で実際にはアーク計画から派遣された)無精ひげの中年男性、紫藤光政(しどうみつまさ)

 あとワンタッチミスったらアウトだったと振り返りながら、彼は半端に空いた缶コーヒーに手を伸ばす。

 

「ふ、ふふふふ……なんだか今になってギンギンに目が冴えてきたよボク……」

 

 一方その正面、一周回ってハイになってるのは第七特務から派遣された少女、ノンナ・アントロポフ。裸に白衣という中々にフェティッシュな恰好をした彼女は、何本目かのエナジードリンクに手を伸ばす。

 

「……本当にお疲れ様でした」

 

 そしてキャサリンもまた、人生の中で最もひりついた30分を超えて限界を迎えた目を揉みながら、お気に入りのマグカップへと手を伸ばす。

 

「それにしても、作業人員が我々三人と言われた時は正直上の判断を疑ったけど……なんとかなるものね。まさかMO手術に、こんな活用方法があるなんて」

 

 そう呟くキャサリンの額には、第三・第四の目が形成されていた──当然、人間の眼球ではない。黒い真珠を思わせるそれは、彼女の手術ベースである『ジョロウグモ』の特性が発現したものだった。

 

「便利でしょー? 単純な体力の底上げと集中力の強化、複数のモニターの同時確認……昆虫とか節足動物ならではだよ」

 

「その分寿命が削れるから、あんまりやりたくはないけどな」

 

 キャサリンの言葉に応じた二人もまた、同じようにベースとなった生物の特性を発現させていた。偶然にもキャサリンと同じ『ジョロウグモ』のベースを持つ紫藤は、彼女と同じ身体特徴を。一方でノンナは、ベースとなった生物に由来する目を顔の左右に三つずつ。

 

「気持ちは分かるけど、今回は合衆国の存亡がかかった一大作戦。命の使いどころとしては、これ以上ないくらい上等だと思うけれど?」

 

「……ま、ブラック企業で使い潰されるよりは有意義だわな」

 

 通常ならば不可能な作業を完遂できたのも、ひとえに彼らのベースが電子情報戦に向いていればこそ。

 機密保持と作業適性、業務遂行効率──そのギリギリを見極めて選出されたのが、彼ら3人であった。

 

「……でもこの作戦、本当に大丈夫なのかな」

 

 雑談を躱す二人の鳥成で、ふとノンナが呟いた。

 

「あの怪物を倒す作戦だよね、これ。正直、ボクにはできると思えない」

 

 作業が終わり、思考にある程度の余裕が出てきたせいだろう。一時は忘れていた不安がぶり返し、ノンナは思わず目を伏せた。

 

 ──この中で唯一、彼女だけが知っていた。

 

 自らが属する第七特務、その仲間たちの強さを。そして──そんな彼らが総出で戦い、それでもなお敗北を喫した怪物が、どれほど異常な存在であるのかを。

 

「だって、ギルダン隊長でもあいつには勝てなかったんだよ? ボクらがどんなに頑張ったところで、そんな奴を倒すなんて……」

 

 

 

「「いや(いえ)、勝てる(わ)」」

 

 

 

 力なくうなだれるノンナの声。キャサリンと紫藤はそれに対して、異口同音に即答する。

 

「そりゃ、君んとこの隊長の強さは聞いてるけどな。特別対策室(ウチ)の隊長も中々のもんだぞ? 少なくとも俺は、あの人が任務でしくじったのを見たことがない」

 

 ──紫藤光政はヴォーパルの強さを知らない。

 

 しかし同時に、彼は知っている。

 

 災害と呼ばれる程の制圧能力を持つアーク計画の団長。その筆頭たるシモン・ウルトルという男の実力を。

 

「それに、その怪物と戦う実働部隊にはスレヴィン・セイバーもいる」

 

 ──キャサリン・アーキスは、ヴォーパルの異常性を知らない。

 

 しかし同時に、彼女は知っている。

 

 戦友を失い、己の肉体を損ない、それでもなお守るために戦い続ける孤高の兵士。スレヴィン・セイバーという男の生き様を。

 

「諸事情で()()調べる機会があったんだけど……殺しても死なない男よ。怪物に敗けるほど、やわじゃないわ」

 

 何故か少しばかり自慢げに語るキャサリンを尻目に、紫藤が口を開く。

 

「派遣されるのは、これに加えてもう一人……アメリカでも屈指の、()M()O()()()()()()()()()()()()()()()。怪物の強さは承知で言うが、十分に勝ちの目はある」

 

 ──というかワンチャン過剰戦力じゃねえかこれ。

 

 紫藤は喉元まで出かかったその言葉を呑み込む。動員されてる戦力を見る限り、彼にはこの作戦が『力を合わせて強敵に立ち向かう』ではなく『上には上がいることを分からせる』ものにしか見えない。新手のいじめかな? いや、相手はアダム・ベイリアルが差し向けた戦闘兵器。用心するに越したことはないか。

 

「とはいえ、作戦自体は急ごしらえ。どうしたって不確定要素は否めない……そこで二人とも、悪いけどもう一度出番よ」

 

 キャサリンがA4サイズの用紙を一枚、ノンナと紫藤へと渡す。それを受け取った2人は紙面に視線を落とし──

 

「!!」

 

「……お、おう」

 

 少女はその内容に一気に活力を漲らせ、中年は「やっぱいじめじゃね?」と顔をひきつらせた。

 

「イプシロンから追加の指令が来たわ……思い知らせてあげましょう。私たちに喧嘩を売るという行為が、何を意味するのかを」

 

 ──そして三匹の節足動物は再び、ブルーライトを放つモニターへと向かい合った。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『……というわけで、周辺の通信網は全てジャックしたわ』

 

「これが味方の台詞とか世も末だなオイ」

 

 言いながらも、スレヴィンがその行為を咎めることはしない。可能な限り表舞台に立つことを避けていたアークの関係者が、これだけ大きく介入している。つまりそれは、そうしなければならない程に事態が緊迫しているということに他ならないからだ。

 

 そして──

 

『さすがに本格的な特性の解放はリスキーだけど、拘束制御を1つ2つ解錠するくらいなら誤魔化しが効くわ』

 

 ──そうまでして隠し通したい何かが、このシモンという男にあるからだ。

 

 不思議と、心の中がかき乱される。妙な予感がしていた。例えるなら喉のつかえがあと少しで取れそうな、あるいは点と点が線でつながりそうな、そんな予感。

 自分は今、何か重大な事実の核心に触れようとしている。そんな気がしてならなかった。

 

『ところで、Mr.セイバー。カーナビを確認してもらえるかしら?』

 

「っ! あ、ああ」

 

 自らを呼ぶ声に、スレヴィンは我に返る。ひとまず、詮索はあとだ。今はこの鉄火場を切り抜けなければ。自らを律し、彼は言われた通りにカーナビへと視線を送る。

 

「って、なんだこりゃ?」

 

 そしてスレヴィンは、画面に表示されたマップ上でポイントマーカーが点滅していることに気付く。正常な表示ではない。おそらく、ハッキングした衛星を介して送られたのであろうソレは、これから車が進むだろうルート上に、ある程度等間隔で表示されている。

 

『バックアップ要員として手配したガンマチームの待機場所よ。あなた達がその地点に差し掛かると、各自のやり方であの怪物を足止めする手筈になってる。勿論、人員は信用できる面々を選出してある。情報漏洩の心配はしなくていいわ』

 

 顔見知りも何人かいるしね、とモニカは付け加える。

 

『さて! まさかここまでお膳立てされて「できない」なんて言わないわよね、お兄ちゃん? かっこいいところ、魅せて』

 

「ハハ、そうだね」

 

 妹分からの発破に思わず笑い、そしてシモンは頷く。

 

「うん、これならなんとかなりそうだ。ありがとう、モニカ」

 

『どういたしまして。それと最後に、もう一つお餞別よ』

 

 彼女がそう言うと同時、待ってましたとばかりに上空から一人の人物が急降下する。

 

「よう、シモン! 愛しの彼女からお届け物を持って来たぜ!」

 

「トシオさん!?」

 

 驚くシモンの顔が、両目をゴーグルのように覆う複眼一杯に映し出される。それを見たトシオは「サプライズは成功だな」と笑い、手中のそれを放った。

 

「ほら、()()()()()()()()()()()。落とすなよ?」

 

「うそ、間に合ったの!?」

 

 慌てて差し出したシモンの手が掴んだものは、乳白色のサラサラとした液体で満たされた小瓶だった。トシオの台詞からその中身を察し、シモンは思わず声を上げた。

 

開発チーム(ユゴス)のお尻を引っ叩いて急かしたのよ。サイト66にもホワイトハウスにも間に合わなかったって、皆落ち込んでたけど……この分なら、大一番でお披露目になりそうね』

 

「そっか。あとで皆にお礼言っとかないとね」

 

 そう呟くとシモンは、自らの頭にかぶっていたフルフェイスヘルメットを脱ぐ。今この場に限っては、もはや必要のないものだ。

 

 ヘルメットの下から現れたのは、白金色に輝く癖毛と雪のように白く、しかしほのかに赤みが差した肌。久しぶりに触れた外気の解放感に青年は大きく息を吐くと、受け取った小瓶の中身を一息に呑み干す。

 

 薄めた乳酸菌飲料のような、不味くはないものの少し物足りない味だ。まぁ専用武器だしこんなものか、などというどこか場違いな考えがふとシモンの脳裏をよぎる。

 

「ぷはっ!」

 

「おぉ、いい飲みっぷり」

 

 茶化すように言うトシオの隣で、シモンは唇に付着した残りを舐めとった。じきに効果が表れるだろう。

 

 

 

「──よし、()ろう」

 

 そして彼は、長槍を構えた。もはや接敵寸前の距離にまで迫った悪鬼へと向けて。

 




【オマケ】コラボ先登場人物紹介part忘れた

キャサリン・アーキス(インペリアルマーズ)
 CIA諜報員。立ち振る舞いはクールで仕事ができる大人の女で、いかにも女スパイといった様子。しかし仕掛けたハニートラップへのカウンターセクハラに慌てたり、予想外の配置転換に半泣きになるなど、内面は割と残念。手術ベースはジョロウグモ。
拙作の紫藤が同じベースなのは、以前逸環さんに「同じベースでキャラを作ってみよう」という話をXでいただき、その時に作ったキャラだからという裏話。

カローラ「……」ドドド

キャサリン「……」ゴゴゴ

カリーナ「フフ、お二人共かなりのクール力とお見受けします。これは動くかもしれませんよ、クールランキングが……!」

マルシア(微動だにしない気がする)
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