その前日、彼女はまったく眠れなかった。普段も夜寝るのがあまり得意ではないプロデューサーだが、この日は殊更だった。
と言うのも、明日には美波の宣材写真撮影が控えていたのだ。しかも水着の。水着である。水着だった。
「初めてのプロデュースで緊張してるのかな、撮られるのは新田さんなんだけど……」
独りごちて、うーうー、と唸りながらベッドの上で寝返りを繰り返す。目を閉じても眠れず、まだ見ぬ美波の水着姿の幻影がまぶたに映る。
「いやそんな、なんでわたし……」
確かに美波は綺麗だけど、とそこまで思ってプロデューサーは考えを振り払う。
目元まで布団を被って、天井を見る。そこに答えは書かれていない。
悶々と夜は続いた。
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「私、実はプロポーションには少しだけ自信があるんです。部活動で鍛えられてますから」というのが、プロデューサーからの「緊張してない? 大丈夫?」という問いかけに対する美波の答えだった。プロデューサーに引き換え、なんとも頼もしいアイドルである。
でもそこでその言葉を額面通りに受け取らず、美波に対する心配を完全には打ち切らないのもまたプロデューサーであった。緊張の仕方は人それぞれだ。目に見えて緊張したり、態度では分からなかったり。自分が緊張していることに本人が気づいていないことだってあるだろう。心配してし過ぎることはない。
「わたしも付いてるから、一緒に頑張ろうね、新田さん!」
プロデューサーが胸の前で両手をぐっと握ってガッツポーズをする。それを微笑ましく見てから、
「寝不足でも、しっかりと私のことを見守っていてくださいね? 見逃さないくらいの気持ちで」
と美波はプロデューサーの目の下のクマをいたずらっぽく指摘してみせた。
撮影は順調そのものだった。
カメラマンのシャッターが冴え渡る。美波にはどの瞬間にも隙がなく、思わずはっとするような色気がある。それは撮影を見守っているプロデューサーにも感じ取れた。
例えば普段通りの笑顔であっても、水着の今ではいつもと違って映った。
少し大胆な、胸元を寄せるポーズ指定もあった。美波は一度プロデューサーのほうを見て、そして恥ずかしげに寄せてみせた。すると彼女の胸の谷間にできた影がその濃度を増した。彼女の頬には朱が差していて、本当に恥ずかしいのだろうと想像できた。とれ高は十分だった。
撮影中、プロデューサーに眠気は少しも来なかった。息を呑んで、美波に見惚れていたからだ。
邪なのかなんなのか、とにもかくにも彼女はどきどきしていた。性別を超えて美しいと思うものがあった。チェックという名目で(実際にチェックもあるが)カメラマンに今日撮った写真を全て送ってもらうように頼んだ。
撮影も終わり、その帰り道。二人は並んで歩いていた。美波のほうが背が高く、プロデューサーは童顔傾向にあるので、二人の年齢と見た目はなんだかあべこべだ。
撮影直後こそ真面目な美波の口から、体が火照るだとか興奮しただとかのプロデューサーを動揺させる言葉が発せられていたが、この頃にはそれも落ち着いていた。
すっかり月の時間で、夜風が冷たい。
「……プロデューサーさん、撮影のときに私を見過ぎです」
「っ⁉︎ そ、そんなことは……ないよ?」
「そんなことあります。そうやって動揺しているのが証拠です。……プロデューサーさん、女の子なのに」
出し抜けに図星を突かれたプロデューサーは言い繕おうとするものの、既に足は止めてしまっていたし何より態度でバレバレだった。
少し先で振り向いた美波は続ける。
「どうしてあんなに見てたんですか?」
「それはそのう……」
「プロデューサーさんは女の子の水着姿が好きなんですか?」
「そんなことはなくて……ただ、新田さんだから、なんて……あはは……」
たじろぎながら自分がまた口を滑らせていることにも気付いていないプロデューサーを見て、美波は表情をころっと変える。
「すごく恥ずかしかったから……今のはそのお返しです」
「新田さん怖いよ……」
「それでいいんです……うふふっ」
プロデューサーが追いついて、また美波の隣に並ぶ。そして少し見上げるようにして彼女の顔を見る。
美波は首を傾げるようにして、それから笑顔を作ってみせた。そのせいでプロデューサーの胸がまたしてもかき乱されて、ふいと顔を背ける。
その姿を見て、美波はさらに笑顔になる。その笑顔をプロデューサーは知らない。
なんとか3まで書き切ることができました。
元のコミュが3までなので、続きを書くとすればオリジナルになりますが、書かない気がします。分からないですが。
お気に入りしてくれた4名の方はありがとうございました。良いモチベーションになりました。あとは一言でもいいので感想などくださったら嬉しいですね!