何の因果かプロデューサーはプールの監視員の真似事をしていた。泳いでいるのは美波と、同じ事務所の他のアイドル達と、そのプロデューサー(こちらも女性)である。色んなアイドルがいれば色んなプロデューサーもいるものだ。
元は美波に「一緒にプールで泳ぎませんか?」と誘われたのだったが、そこはプロデューサーも自らの体型を気にする乙女なので「水着がないし」などと抵抗を試みていたところ先のアイドル達が話を聞きつけ、自分達も行きたいと言い出し、彼女らのプロデューサーに「じゃあ私は一緒に泳ぐので、プロデューサーさんは外からバックアップをお願いします!」と頼まれたという経緯だった。よく分からない。
というわけで、最近のプロデューサーはプールの監視員みたいなことも業務に入っているのか……それなら美波と海に行くことも当然あっていいのでは、と思いながらプールサイドで美波を見守るプロデューサーなのであった。とは言え、役得だと彼女は思っている。
プールは学校にあるもののように幾つかのレーンに分かれていて、泳ぐことを目的としたコースと話しながら歩いたりして水に親しむコースがある。
美波はその中の、泳ぐことを目的としたコースで泳いでいた。流麗なフォームで軽やかに泳ぎ、息継ぎの瞬間も優雅なものだ。
プロデューサーが見ていると、美波が向こう岸でターンして彼女のほうに向かって泳いでくる。
プロデューサーのところまで泳ぎ着いた美波は、顔を水からあげて彼女を見上げる。
「いっぱい泳ぐね……美波ちゃんは」
今の間は照れによるものだ。美波の努力の甲斐あって美波ちゃん呼びは定着してきていたが、それでもまだその呼び方には照れが混じる。
「好きなんです、泳ぐの。ハードですけど、水の中で泳いでいると自由になれる気がして」
水に濡れて彼女はいつにも増して艶めいていて、髪から滴った雫が彼女の白い肌を滑った。その姿は確かに自由に見えた。
あるいはプロデューサーの視線を彷徨わせるだけの魅力があった。
「分かるよ、なんて言うかな……そう、気持ちいいもんね」
「そうですね、気持ちよくてトレーニングにもなって、楽しくて」
「……そろそろあがる? それともまだ泳いでいく?」
プロデューサーの位置からだと眺めが良過ぎて実によくなかった。肌に張り付く髪に惜しげも無く晒された鎖骨、競泳水着のせいで強調された体のライン。だからそんな風に会話を切り上げた。
心なし他のアイドルの女の子達も美波に目を奪われていたようだった。
「どうしようかな、もう結構泳いだし……じゃあ、そろそろあがりますね?」
それを聞いたプロデューサーは美波の手を引いて、プールから引き上げる。ザバァ、と水面を割って今まで隠されていた彼女の太ももやその先が露わになる。今まで水に浸かっていたから当然なのだが、その肢体は濡れていて、白くきめ細かな肌の上を水滴が滑っていく。
それを余すところなく見てしまっていた自分に気付いたプロデューサーは慌てて「着替え終わるの外で待ってるね」とぎこちない動きで去っていった。
赤面しながら、それでも目を離せずに彼女の体を見ていたプロデューサーの視線に美波は気付いている。でもそれで自分が嫌な思いをしたわけではないし(プロデューサーも女の子だし)、今回のことを注意したり話したりするのはお互い恥ずかしいし、見てしまうときもあるだろうと美波はプロデューサーのことを許してあげた。そういうところも含めてプロデューサーの可愛らしさなのだと。
着替えが終わった後、二人は他のアイドル達と別れて電車に乗った。幸い席は空いていて座ることができた。
二人並んで電車に揺られる。肩が触れ合ったり、少し話をしたりして……静かになったと思ったら美波がプロデューサーにもたれかかるようになる。美波は泳ぎ疲れて眠ってしまった。
それを確認したプロデューサーがギギギと音がしそうに首を向きを戻す。すうすう、と美波の静かな寝息がプロデューサーの首筋をくすぐる。
こっそり寝顔を覗き込むと、伏せられたまつ毛と油断して安心しきった表情にプロデューサーは胸が苦しくなった。どきどきして死にそうだった。
あんまり見てはいけないとプロデューサーは前に向き直り、電車が目的の駅に着くまでの暫くの間、幸せに浸る。
夢の中で美波がプロデューサーの名前を呼ぶことこそなかったけれど、プロデューサーにとってそれは夢のような出来事だった。
これは前に言っていた「あと一話」ではなく、唐突に書いてしまったものです。「あと一話」のほうはまだ話がまとまっていません。
ところで、ほぼ思いつきで書いている二人の話ですが、皆さんからはどういう風に見えているのでしょうか。よければ聞かせてください。聞きたいです。気になります。
ちなみに書いているほうとしてはプロデューサーちゃんの邪さがとても気がかりです。