出先での仕事が終わり、美波とプロデューサーは二人で帰りにラーメン屋に来ていた。と言うのも、今日の仕事相手に「この近くのラーメンが美味しいんですよね〜」と勧められて、二人が「たまにはラーメンも良いかな」と思ったからだった。
暖簾をくぐると威勢のいい声で出迎えられる。プロデューサーが「二名です」と伝えて美波をエスコートする。
案内されたテーブル席に対面に座って、プロデューサーが美波にメニューを譲る。美波の注文が決まったらプロデューサーもメニューをちらっと見てから店員を呼んだ。
先に美波の注文を聞いていたプロデューサーが「醤油ラーメンを二つ」とまとめて注文する。
「一緒で良かったんですか?」
「うん、わたしも醤油ラーメン食べたかったから」
なんて言いつつ、美波とお揃い……と思わないではないプロデューサーだった。醤油ラーメンが食べたいかなと思っていたのは本当だが。
二人で話しているうちに注文していたラーメンが運ばれてくる。湯気が立ち上り、トッピングも多彩ですごく美味しそうだ。
箸をパキっと割ったらすぐに食べ始める。と、プロデューサーは何となく美波の食事風景を眺めた。美波は髪を耳にかけてレンゲでスープを啜り、次に麺を食べ始める。ちゅるんと麺が吸い込まれた後の美波の唇はラーメンのせいか艶めいて見えた。
そこまで見届けたプロデューサーの脳裏に、過去に彼女が従姉妹のお姉さんから聞いた話が去来する。
それはそう、食事の仕方で性的な傾向が分かるというものだった。
「…………」
思い出すべきではないタイミングで思い出すべきではないことを思い出してしまったプロデューサーはフリーズした。フリーズしても目は美波がラーメンを食べるのを見ている。
でも待って欲しい。それはあくまで従姉妹のお姉さんが言っていたことだし、間違った知識かもしれない。
そりゃあ、ラーメンみたいに食べる姿が色っぽく見えないこともない食べ物や食べ方もあるだろう。食べ方に性格が出ることもあるかもしれない。
けれど、そうであってもらっては困る。これから先も美波と一緒にご飯を食べることは多いはずなのに、目のやり場に困ってしまう。何より、ご飯のときまで美波をそういう目で見てしまうのは駄目だ(それ以外のときももちろん良くはないけど)。見られると食べにくいだろうし。
頭の中がぐるぐるしているプロデューサーはそんな調子だから当然箸も進んでおらず、それに気づいた美波がプロデューサーに声をかける。
「? プロデューサーさん、食べないんですか? もしかして、調子が悪くなったとか……」
「わっ、わたし猫舌で……心配させてごめんね。今から食べるよ!」
心配そうに聞く美波にプロデューサーは咄嗟の機転でそう答えた。ちなみに猫舌なのは嘘ではない。ここまで冷ます必要があったのかは今となっては分からないことだが。
自分も食べ始めると、プロデューサーは従姉妹の話を忘れることができた。色気より食い気と言うべきか、お腹が満たされればさっきまでの悩みも解消されてしまった。
それに自分がラーメンを食べると色気とか全然ないなぁと思ったのもある。
そんなこんなで二人が食べ終えて人心地ついたら後は帰るだけだ。
「じゃ、帰ろっか。わたしが誘ったからここはわたしに払わせてね」
と言って立ち上がろうとしたプロデューサーを「プロデューサーさん」という一言で美波が止める。
そして美波は続けて、「プロデューサーさんも女の子なんですから、割り勘です」と言った。プロデューサーにとってその言葉の破壊力は絶大で、それだけで十分だった。
突然の女の子扱いにしどろもどろになるプロデューサーを追い越して、美波はレジで自分の分の会計をすませる。
反論もできず、既に支払いもされてしまったプロデューサーに最早打つ手はない。これが惚れた弱み……と思いながら続けてプロデューサーも会計をすませ、二人は店を後にした。