同時刻、最大の優勝候補が顕現した。
「よし、これでいいのだろう。これで儂は必ず勝利を収めることが出来る。この圧倒的な力さえあれば、もはや負けなど決してない。」
重々しいが、歓喜に満ちた声がトンネルの中で木霊する。地脈の力を利用するため、わざわざ下水道のなかに工房を作った買いがあるというもの。長い髭を生やし、黒いマントを纏った,いかにも魔術師然とした老人が、たった一人で笑いの四重奏を奏でる。
煌々と輝く召喚の魔法陣の上には真鍮と鉄で作られた精巧な指輪が載っていた。
彼の一族はそれを手に入れる為だけに存在していたといっていい。彼らの歴史の初めの半分はそれを求める探求に、終わりの半分はそれを使おうとする希望と失望に費やされた。かの王の指輪はほかの持ち主を受け入れず、何十の世代を無駄にした。その結果、彼らの一族はある一つの絶望的な結論に達してしまった。
『我らの一族の歴史には、何の意味もなかった。』
それからの衰退は早かった。何の研究成果も見出せない魔術師などいて何になるのだろうか。あるものは魔術師を辞め、またあるものは他家へ取り込まれていった。
そこまでの勇気もなく、何の意味もない日々を送る最後の生き残りのもとに、ある一報が入る。極東の地で、英雄たちを戦わせ、深淵へと至る聖杯戦争が起こるらしい。
あの結論が出るまでなら鼻で笑っていたような話にその生き残りは飛びついた。
―聖杯戦争で勝てれば、何か目的が見つかるかもしれないー
かつて一族を出ていった者たちに馬鹿にされながらも彼は出陣を決意した。聖杯戦争に勝利し目的を手に入れ、祖先たちの努力と年月が無駄ではなかったと証明するために。呼び出す英霊は、当然我らが求めた指輪を唯一使いこなしたとされるもの。その指輪の正当な持ち主、精霊王ソロモンである。
ひとまず召喚に成功したことを確認し、喜びに浸っていた彼の心情はそのサーヴァントの声によって壊されてしまった。
「長々と一人語りご苦労様。まあ何でもいいんだけどさ、これどういう状況?せっかく友達と遊んでたってのに僕を呼び出すなんて、何かよっぽどの望みがあるんだろうね?」
軽い口調に反して、その体は美術館においてあるような豪華な衣装に彩られている。指には既に、召喚に使われた指輪がはめられていた。
魔術師は顔を一瞬不快感で歪めた。一族を懸けて研究してきた力ではあるが、まさか本来の使い手がこのような者だとは思わなかった。
とは言うものの、彼は愚かではない。戦いに自分の私情をはさむような真似はしない。
この聖杯戦争のシステムは時計塔で聞いて理解している。ここでサーヴァントとの関係が悪化するのは避けたかった。とりあえずは近くのまだなにも分かっていないであろうひよっこたちを倒しに出かけるとしよう。そう考えた彼は戦いに赴くため英霊との融合を行う事にした。サーヴァントとは彼らの家に行く道すがら話して行けばいいだろう。
「精霊王ソロモンよ。我が一族の為に協力してもらうぞ。サーヴァントよ。我に憑依せよ! WORLD!」
その叫びと同時に、体が黄金色に輝く。その光が消えた後には、明らかに力を増した老人が立っていた。
「これだ、この力だ!かつて神から賜った指輪の力によって七十二柱の悪魔を使役し、生けとし生けるもの全てと語らい、それらすべてを統治したと称される、圧倒的な奔流よ!我こそはそれを操り、聖杯を手に入れる者―」
唐突に老人の一人語りが止まった。その体が、不自然に赤く鼓動している。脳内に何かが侵入して中を覗き込んでいるような、ゆっくりと腐っていくような感覚が、全身に染み渡っていく。
「何だ。召喚に問題はなかったはず。何が起こっている。」
『いや、ちょっと軽く君の頭の中を覗かせてもらったんだけどさ。』
そんなことが出来るはずはない。召喚された英雄は、融合しなければ並みの人以下の魔力しか持たない。たったそれだけの力で、高位の魔術師の精神に干渉するなど不可能のはず。彼が思考を巡らせる間にも、サーヴァントは無情に語り続ける。
『こんな小さな望みしかない、しかも三流の魔術師に協力する義理はないと思うんだ。』
軽い口調と反比例して、鼓動の速度は速まる。徐々に全く間合いを開けなくなり―
「ま、待て精霊王、召喚されたからにはお前にも何か願いがあるはずだ。互いに協力したほうが勝利につながることはお前もわかっているはず。」
『何を馬鹿な事言ってんだよ。こちとら一騎当千の英雄様だぜ。君みたいな凡人の精神ぐらい、一切手間をかけずに乗っ取れるに決まってるだろ。それにさ―』
次の瞬間、同化を彼が解くより早く、彼の意識は闇に沈んでいった。
『私の指輪を神からもらったなんて言う奴は、確実に殺すことにしているんだ。』
数秒後、魔術師は再び体を起こしたが、その瞳にある意識は完全に別人のものだった。
「ふう、それにしてもこの肉体、どうにかならないかな。こんな年寄りの体手に入れてもね。」
指を鳴らした瞬間に煙が体を包み込み、その姿は先ほどのものとなる。着ている服は現代風になっていたが、そのせいで手の古めかしい指輪が強烈に浮いてしまっていた。
「今の普通の服にしてみたけど、やっぱり違和感があるな。」
それから彼はしばらく目を閉じていた。この聖杯戦争に使われている術式を完全に理解し、目を開ける。
「指輪とこいつの魔力で現界し続けられるから、こんな闘いほっといて本国に戻ってもいいんだけど、そういうわけにはいかないか。やれやれ。とりあえず、他の英雄を倒しに行こう。」
それから軽く手を振って下水道を脱出する。一刻も早く座に帰ろうと、破壊の連鎖を広げるべく一歩踏み出したその時、
「うわあ、すごいなあの建物。」
彼は天高くそびえたつたくさんの高層ビルに目を奪われていた。
「あんな高い建物見たことないぞ。形もかっこいい。僕の神殿もあんな感じにすれば良かった。」
それから数十分、彼は車やコンビニ、自動販売機などの現代の神秘に完全に夢中になっていた。炭酸飲料片手に、全く王らしくない態度で呟く。
「まさかこの時代がこんなに面白いなんて。サーヴァントが残り五体、いや残り三体になるまでは、この世界で遊んでいよう。」
そう言って一気にラッパ飲みし、思いっきりむせ返った。
はい、ものの見事にFGOと被っています。プロットを書いた時点ではまだサービス開始してなかったんですよ。変えようかと思っていたんですが、他に良いキャラクターを思いつかなかったのでこのままにしました。FGOとの違いはまた別の時に説明します。