「マジかよ。彼女、まさか本物のハサン・ザッパーハじゃないだろうな。」
てっきり憑依させてその力を使っているものだと思っていたけど、一つの魔術師に英霊は一人のはず。つまり彼女は、素の戦闘スペックであれだけ強いという事であって…。
『呆けている場合ではありません!相手としっかり戦ってください』
『そ、そうだな。まだ死にたくはないもんな』
見る限りかなり強そうだ。慎重にいこう。
突撃してくる相手を見据えて、重心を下げる。力技じゃ勝負にならない。まずは相手のバランスを崩さないと。
右か、左か.どちらから切り付けてくるかな…。
「―――鮮血を散らせ」
物騒な事を言いながら振り下ろしてきた剣は、威力こそ高そうなものの速さはさっき程じゃなかった。これぐらいなら魔術を使えば十分に避けられる。
『右です!』
『分かってる!』
「瞬間幻影(インスタント・ファントム)!」
己の周りに大量の光球を展開すると同時、左に自分を吹き飛ばす。
いつものが豆電球なら、今日のは派手な都会のイルミネーションだな。
そう思いながら、自分にかかる強烈な空気抵抗に歯を食いしばって耐える。
「迅雷の拳(ライジング・ナックル)!」
もらった、隙だらけだ!このタイミングで放てば躱しようが―
「―――甘い」
あったようで、ものの見事に回避されていた。掠りもしない、もはやすがすがしくなるような外れっぷりだ。
アサシンの体越しに大爆発が見える、今の一撃、当たれば絶対勝ってたのに…。
「すごいね。力の差がすごすぎて、泣きたくなってくるよ。」
呼吸を整えつつ、間合いを測る。牽制の役割は果たしていたから良しとしよう。
「―――気にしないで。私と普通の人間が違うのは当然。あなたが悪いわけじゃない。」
戦っている相手に励まされるのは初めて…ってわけでもない。最近こんなのばかりだ。
『いつになったらコントロール出来るようになるのですか!こんな事では魔術刻印と併用するなんて夢の又夢ですよ!もっとこう、努力してください!』
『してるよ!大体宝具を使ってなくたって魔術刻印との併用だなんて無理だよ!もっと練習すれば別だけどさ、とりあえず今すぐは絶対に出来ないね!』
「―――シャァァァァァッ!」
アサシンの上半身が大きくぶれる。さっきよりも早い。ええい、本当に余裕がないな。
「風力発道(ロード・オブ・エアー)!」
『そうやっていちいち魔術名を口に出すのもやめてください!発動までに多少手間取ります!』
言わなきゃ感覚的に使えないんだよ、悪かったな。
辺りの空気をまとめて吹き飛ばし、それに乗って高く舞い上がる。遠距離から一方的に攻撃してやる!
「―――逃がさない」
アサシンの曲刀が迫る。しかしそれは、ギリギリのところで右足をかすめるだけに留まった。
ざっと十メートルぐらいの高さで浮遊する。これなら安心…かな?
「火炎爆発(フレイム・バスター)!」
腕からバランスボールぐらいの大きな炎球が飛び出した。いつもよりずっと大きいな。
「『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇー!』」
アサシンの辺りに着弾すると同時、半径五メートルぐらいをまとめて焼き尽くす。これで決まりだ!
火が収まるのを待って地面に降り立つ。やれやれ…どうなる事かと思った。
「よっしゃー!勝ったぞ!」
『良かったですね。これで一人目―』
クイーンの嬉しさに満ちた声が、不意に止まった。どうしたんだろう?
「―――死ぬかと思った。この借りは必ず返す。」
とっさに振り向く。顔に煤をつけ、全身の服を焦がしながらも、彼女は立っていた。
「―――仮面が焼けなくて良かった。でも熱い。こんな目にあったのはこっちに来てから初めて」
眉毛をつり上げ、、鋭い目つきで睨んでくる。絶対怒ってるな…。
『そんなはずはありません。伝説や歴史上の英雄でもない限り、この攻撃で倒れるはずなのに。』
『聖杯戦争に参加してる時点で条件満たしてるよ。もう少し威力を上げないと、歯が立たない』
こりゃ駄目だ。今になって日頃の訓練不足が悔やまれる。『どうせ上手くならないしなぁ。』とか言ってサボらなきゃ良かった。自業自得ってのは本当なんだなぁ。
「―――必ず、殺す」
さっきより数段階速く迫る刃を見据えつつ、俺がどうやって逃げるか考えていると―
「■■■■■■■■ォ!」
地面から巨大なゴーレムが飛び出し、俺とアサシンの間に割り込んだ。
「守宮七夢、ただいま参上!」
「ハッ、助けに来てやったぞ。ありがたく思え」
振り向くと、憑依状態の守宮さんと、何故か素で立っているジョーがいる。助けに来てくれたんだ。
「ごめんね流星君、遅くなっちゃった」
「いえいえ、ありがとうございます」
駆けつけてくれただけで十分だ。すごく嬉しい。
「本当はもっと早く来ていたんだけど、ジョーがもう少し出て行くのを待てってうるさくて…」
「ジョー!何考えてんだよ!」
「少しでも相手の戦い方を確認したいと思っただけだ。他意はない」
他意しか感じないよ!って突っ込みたいとこだけど、今はそれどころじゃない。敵を倒すのが先だ!
「さぁ、行くよ皆!全員でコイツを叩きのめすんだ!どれだけ防御力が高くたって、協力すれば何とかなるよ!」
「そうだね。それじゃ、行っくよ―!」
「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」
俺が走り出したのに合わせて、ゴーレムが全身に力を溜めた。二段階攻撃で仕留める。
「―――分が悪い。撤退する」
「今更遅すぎる。自分の行動の遅さを悔やむんだな」
後ろでジョーが言い放つ。かっこつけてないでお前も攻撃に参加しろ!
「―――そんな事はない。RELEASE!」
唐突にアサシンが憑依を解除した。不敵な笑いが気になるけど、それじゃ攻撃は防げないよ!
止まる事なく俺の拳が直撃する。クイーンとその宝具によって強化された一撃は、相手を大きく吹き飛ばした。
続いて放たれた光弾を大きくのけぞってスレスレで躱し、空中で態勢を取り直すアサシン。回避は達人級だな。
着地する寸前、両足を地面に叩きつけて弾丸のように飛び出す。早すぎてゴーレムが反応出来てない!
「STRIKE SWORDS!」
ジョーが放った大量の剣をその場で拾った短剣で叩き落し、さらに跳躍、一気に間合いを詰める。
『思ったより速いです!気を付けてください!』
「―――もっと。もっと前に。誰よりも先を行くことこそ、私の力!」
やばい、このままだと首を持っていかれる!
「今よ!行きなさい、CRAWL NIGHTMARE!」
地面から幾何学的な模様が描かれた縄が飛び出した。アサシンを縛り上げ、その進撃を止めようとする。
「―――こんな物じゃ、私は止められない」
そのまま駆け続けている。全く効いてない!
「それはどうかな?どれだけ速くても、自分から逃げることは出来ないよね!」
縄全体が黒く染まり爆発する。至近距離からまともに食らい、体勢を崩して地面に激突した。
「―――凄いね。あなたは優秀。そこの男とは違う」
地面に倒れ伏したままアサシンが呟く。もう逃げられないぞ。
「―――でも、来るのが少し遅すぎ。」
その声にあからさまな余裕を感じて身構える。
「諦めの悪い奴だ。無駄だよ、ここでお前はゲームオーバーだ」
「――それじゃまた。次あったときは殺すから」
ジョーの戯言を無視して、彼女が別れの挨拶をした。ここでまだ切り札を隠し持っているのか?
見逃さない様万全の注意を払う。一瞬の油断すら、この状況では命取りだ。
「回想婉―(ザパーニー―)」
「人間爆弾(ヒューマン・ダイナマイト)!」
さっきと同じ技を使った所で、対処方法は変わらない。もう一度同じ事を繰り返すだけだ!
「まずいよ流星君!この状況でそんな派手な技を使ったら―」
巻き上がる大量の炎と風が視界を覆う。アサシンの姿も、ジョーたちの姿も、どちらも全く見えない。
「どさくさ紛れに逃げられても、攻撃のしようがない!」
これが狙いって事か!勘を頼りに攻撃しようにも、仲間に当たりそうでうかつに動けない。完全にミスった!
荒れ狂う炎が消え去ると、そこには肩をすくめたジョーと、悔しそうな顔をする七夢さんしかいなかった。