「とは言ったものの、どこにいるのか分からないから探しようがないんだよな……」
『今更気づいたんですか? それを含めて何とかするのがあなたの仕事でしょう』
何も考えず外に出てから気づく事実。しらみ潰しに探すのは手間がかかりすぎるし、そんな呑気なことはやってられない。少しでも急がないと。
『クイーン、こういう状況で使える宝具ってない?』
『ない事はありませんが……。発動に結構な魔力がかかるので、やめておいた方がいいと思いますよ』
『あるならそれでいい。早く使ってくれ』
『駄目です。仮にそれで七夢さんを発見出来たとしても、恐らくそこで待っているのは戦闘でしょう。其処に魔力不足で挑むというのは、少々心もとない』
『……そうだな。二人まとめて共倒れになったら何の意味もないしな』
中々動き出せない。どんな手を打てばこの状況を打開できる?
考え込む俺の横で、ジョーがスマホをいじり始めた。何度か指を動かした後、画面をこちらに向ける。
「場所ならこれで分かる。あいつの位置をGPSで分かるようにしておいた」
「そんな物があるのならもっと早く言えよ!」
これによると、彼女がいるのはだいたいここから三十分ぐらいかかる橋の辺りだった。
「別に隠しておいたわけじゃない。聞かれなかったから答えなかっただけだ」
そう嘯くジョーの顔は怒っているように見えた。いや、頭にきているのは俺の方なんだけどな。
「とにかく、さっさと行こう! 今度こそ、加速、開始(ラッシュ・バースト)!」
流れるように過ぎていく風景。これならもっと早く着くな。
「くそ、思うようにいかない。これだからアイツは……」
ジョーも頭を掻きむしった後、渋々ながらついてきた。こちらに比べて遥かに遅い。
「先に行ってるからな。ちゃんと後から来いよ!」
スマホを返してさらに速度を上げる。吹きすさぶ風が、その圧倒的な速さを教えてくれる。
『! 急いでください! 私たちは囲まれています!』
『え、何の事―』
セリフを最後まで伝えるより先に、後ろから大きな爆炎が噴き出す。あれ、魔力の制御をしくじったかな?
「待て、其処の魔術師! ここから先は、私たちが通さない!」
「おとなしく両手を上げて、降参しなさい!」
聞こえるのはいくつもの叫び声。こんな時に敵襲かよ!
「今はお前たちを相手している暇はないんだよ!」
全身から噴き出す魔力量をさらに増やす。最早風景が線となる加速の限界を、一気呵成に突っ走る。
あっという間に向こうの声は聞こえなくなった。そりゃそうだろ、これだけ速ければ追い付かれようがない。
『ジョーの事は気にしなくていいのですか? このままではやられてしまうと思いますが』
『今気にしている余裕はない! ステータスが見えなかったから相手はサーヴァントじゃないし、きっと自分で何とか出来るさ』
『だといいですね。ところで、そろそろ着きますよ。ちゃんと止まれますか?』
『勿論さ。さっきの練習で少しコツをつかんだ。今の俺なら何とかなる!』
成功するかどうかは五分五分だという事は黙っておこう。
「急減速、開始(ストップ・バースト)!」
一気に正面に魔力を噴射する。これで上手くいくはずだ。
今までの俺は、力を緩めて泊まろうとしていたせいで、その後の事を考えてなかった。考えてみれば当たり前だ、車のエンジンを切ったって、動いている物はそう簡単に止まっちゃくれない。その運動エネルギーがゼロになるまで、延々と動き続ける。
ブレーキをかけるには、逆方向に進もうとすればいい。力をしっかり相殺できれば、ちゃんと止まれるはず―
『……やっぱ無理かも』
『諦めないでください! このまま戦闘もできずに死にたくはないでしょう!』
全然スピードは下がらない。調子に乗って速度を上げ過ぎたな。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
全力で叫ぶ。それぐらいしか出来ることがないんだからしょうがない。
「あ、流星君。助けに――」
戦っている守宮さんの真横を高速で滑り、橋の真横を通り過ぎ、そのまま止まらずに進み続けて――
『ああ、これは死にましたね…』
「おわぁァァァァァァァァ!」
静かに流れ続ける川の中に、頭から墜落した。
大丈夫です、生きてます。