流星にそれに関したコメントをさせたほうがいいのかな……。
「あれ、どこ行ったのかな……」
『惚けている場合ですか。一刻も早く探し出さなければ』
坂を下り切った俺を出迎えたのは、人の影一つとないただの更地だった。
確かにこっちに落ちていったはずだけど、どこへ行ったんだ?
辺りを軽く見回してみても、影も形も掴めない。どうやら逃げられてしまったようだ。
『……仕方ありません。流星、ここは七夢の援護に戻りましょう。何の手掛かりのないのでは、捜索のしようもない』
『そうだね。というか、本当はその為に来たはずだもんな』
戦いに臨んで頭に血が上ってしまっていた。落ち着いてみると、自分のっ行動のおかしさがよく分かる。
「加速、開始(ラッシュ・バースト)!」
今日一日でここを何往復するんだろう。そんな事を思いつつ、俺はもう一度坂道を駆け上がった。
『行ったようだぜマスター、相手が戦い慣れしてない魔術師で助かったな』
流星が守宮の元に走り出したのを確認してから、地面に一つの影が降り立った。
最もその着地は優雅な物とは程遠く、例えて言うならボールを高い所から投げ落としたよう、つまり完全なるただの自由落下だったが。
十メートル以上の高さから垂直に落下しても、全くダメージを追っているように見えないのは、ひとえに英霊としての力のなせる技だろう。
『あいつも馬鹿だよなぁ。すぐ真上を見れば、探してる物が簡単に見つかったってのに、』
くるりとその場で回り、流星の歩いて行った方に向き直る。その目は、悪戯心でキラキラと光っていた。
『それで、どうするマスター? 僕ならここでカウンターを仕掛けるけどね。やられっぱなしは性に合わない。大丈夫さ、油断しきった相手を不意打ちで倒すことぐらい、簡単だろ』
ただし、目以外は全く生気が感じられない。だらんと腕は垂れ下がり、ピクリとも動かない。
どたん、と音を立て膝がつかれた。全身に全く力が籠っておらず、風が吹いたら崩れ落ちてしまいそうだ。
『おい、返事ぐらいしなよ。何時まで僕を無視し続ける気だ』
『…………』
『もーしもーし、聞こえてますかー?』
一方的にまくしたて続けるサーヴァントに対し、中々彼女は喋らない。ようやくくちからことばがもれでたものの、その声はひどく弱々しげだった。
「魔力使い過ぎなんだよ、この馬鹿……。お陰で念話さえ出来ないじゃないか。どうしてくれる……」
『仕方ないだろ、一度に二十メートルは飛んだかな? とにかく、これだけ一気に移動したんだ。放出する魔力量だってただじゃ済まないさ』
「それにしたって加減ぐらいしろよ……。そんな派手に動く必要はなかった。ただ軽く視界から消えるとか、それぐらいで良かったのに……」
『悪いな。僕、加減とか出来ない性質なんだ。死ぬよりはましだったと思って勘弁してよ』
「RELEASE」
ゆっくりと憑依が解けていくのを感じつつ、彼女は携帯電話を取り出した。
聖杯戦争を魔力切れでリタイアする事だけは避けたいし、暫くは他のマスターの様子を見つつ、主に事態を静観することになるだろう。別に急ぐ必要はない。二十人の参加者が適度にぶつかり合ってくれれば、必ず勝機は見えてくるはずだ。
それはとにかく、どこかでゆっくり休みたい。自身の協力者を呼び出しつつ、彼女は日本のグルメについて考えていた。本場の” 天婦羅”や、”ラーメン”は必ず食べねば。
こんな時でも食い意地が張っているのが、彼女の性格を端的に表していると言えるだろう。
奔る緑の閃光。それを悉く撃ち落とす紫の光球。俺が最初に目にしたのは、そういう風景だった。
「この、往生際が悪いな。たった一人になったんだから、早く降参しなさい」
「余計なお世話だ。町の警護に回っている奴を呼び戻せば、十分に数は稼げる。それでお前を倒してから、もう一度体勢を立て直せばいい」
一切の詠唱なしに、右腕を構えるだけで魔術が発動している。MOONも相当な使い手だけど、あいつのサーヴァントはそれ以上って事か?
「ちっ、新顔かよ。いちいち苦労させんじゃねぇ!」
相手が左腕を前に突き出すと、そこから黒い煙と共に何かが大量に飛び出した。あれは……骸骨だ。
二、三十体程が一斉に召喚された。風に合わせて、カタカタと不快な音を立てている。
「そら、行ってこい。いくらお前たちでも、文字通り礎になるぐらいは出来るだろ!」
その一言を合図に、こちらに向かって突っ込んで来る。B級のホラー映画みたいだな。
『ぞっとしない光景ですね……。一体一体倒していたのでは、また相手に新たな敵を召喚されてしまいます。ここは一気に行きましょう』
『了解!』
サーヴァントとモンスターの力の差を見せてやるよ!
彼らと本格的に戦うのはもう少し後です。