「「ちゃんと参加しろよ!!!」」
何で完全に他人ごとなんだ!マスターの援護ぐらいはサーヴァントとして当然、むしろサーヴァントがメインで戦うべきだろう!
「あれ、なぜ戦いを止めたのですか?せっかくいいところだったのに。そのまま決めちゃえばよかったじゃないですか。」
クイーンが本気で不思議がっている。どうして協力してくれないんだ。
「俺は今仕事中なんだ。喧嘩ならよそでやってくれよ」
「ふざけやがって!!今すぐ契約を解除してやろうか!」
状況を無視して作業を続けるマジシャンに、一瞬で沸点に到達するジョー。キレやすい性格はやっぱり変わっていないみたいだ。少しは落ち着けよな。って、人の事を気にしている場合じゃなくて…
「なんで戦ってくれないんだ!君はサーヴァントだろう。マスターと一緒に聖杯戦争を勝ち上がる為、一生懸命努力するもんじゃないのか」
「ええ。でもあなたが憑依せずに戦い続けたので、てっきり私は黙って見ていればいいものだと思っていましたが、違うのですか?」
憑依?こんなところで幽霊だのシャーマンだのに関係ありそうな用語を聞くとは思っていなかった。聞き間違えたかな?
「憑依ってなんだよ?聖杯戦争に、そんなシステムなかっただろ」
「はい?そんなはずはありません。だったら私になんでこんな記憶があるんですか。その記憶を与えたのは正にそのシステムですが?」
「何だっていいからさ、とにかく戦ってくれる?」
「そんなことを言われても、私一人では戦えません」
なんてこった。戦えない英霊を呼び出すなんて、あまりも不幸すぎる。
「は、なるほど。で、俺にそのたわごとを信じろとでも?」
「あぁ。とりあえずやってみろよ。実践あるのみって言うだろう?」
向こうでもジョー達が話し合い(?)をしている。互いに意見が合わないのは俺たちだけじゃないらしい。
「だからさぁ、戦ってくれって言ってるだろ!もういいから――」
俺がちょっとイライラして来て、この際単身で特攻しようかと思っていた時、
「あぁ、そういう事か。本家とこの聖杯戦争は全くの別物。この程度の差異はあっても不思議はない。」
ジョーがそう言って、
「MAGICIAN!!」
と叫んだ。
――その瞬間、辺りの空気が赤熱した。
紅。ただその一色の莫大な光に、辺りが覆い尽くされる。
「ぐわっっっっっっ!!!」
何が起こったのかも分からぬまま、とっさに目を瞑ってその場に伏せた。
大きな何かが場に集まる気配を感じる。本能的な感覚が、全力で危険を訴えている。
ヤバい。これは間違いなくヤバい。ジョーの奴、一体何をしやがったんだ。
そのままその感覚は恐ろしい速度でどんどん増していって――
唐突に、あっさりと消滅した。
恐る恐る目を開けてみる。どうやら光は収まったようだ。
辺りは何事もなかったように静まり返っている。ただの虎仮脅しだったのだろうか。
「うう、いきなり何だってんだよ…。」
悪態を立ちながら立ち上がり、辺りの様子を窺う。クイーンは大丈夫だろうか。
「ほう、余裕だな。一目散に逃げ出してもおかしく無い所を、無防備にただ突っ立っているだけとは。それでは、『今すぐ僕の頭を叩き壊してください』と言っているようなものだぞ」
「―――――!!」
不意に聞こえたジョーの声に、その場で転がって回避行動をとる。
そこに風切り音を立てつつ、巨大なハンマーが大地を切り裂くようにして繰り出された。
「うぉ、危ねぇ!」
良心を全く感じない。一撃で殺しに来るなんて、それでも友達(一応)か!
「この野郎、調子に乗りやがって…」
息を整えて魔術詠唱の準備をする。サーヴァントさえいなければ,何とか時間を稼ぐぐらいの事は出来る。クイーンがマジシャンを倒してから、じっくりジョーを倒せばいいんだ。
そう思っていたのに―
「今の俺にそんな口を聞くとはな。いいだろう。一撃で仕留めてやろうじゃないか。その程度の覚悟は出来ているのだろうからな!」
俺の目に飛び込んできたのは、倍以上の速度で動き回り、本棚ぐらいのハンマーを片手で振り回す、明らかに不自然なジョーだった。
「は?」
緊迫した状況にもかかわらず、俺の口からはこんな言葉しか出てこなかった。
真黒な瞳、薄紫の髪、マジシャンのものによく似ている衣装。何もかもがさっきまでとは大違いだ。
変身魔術にしては高度すぎる。そもそも肉体を強化するなんて相当難しいはずだ。
急な展開に頭がついていかない。目の前にあるものを、現実だと認識できない。
頭から俺を叩き潰そうとするハンマーが、圧倒的な迫力と共に近づいて来る。
時の流れが遅くなっていく。きっと死が目前に迫ったからだろう。人間意外にあっさりと逝ってしまうもんなんだなぁ。
まるで他人事のように受け入れる。避けなければならないと分かっていても、体が全く動かない。
走馬灯らしきものまで見え始めた。魔術を習う幼い自分、周りに追いつこうと夜遅くまで魔方陣を書く自分、親が交通事故で亡くなったと聞いて、泣き崩れる自分…。
さすが俺、こんな時でも悪い記憶しか出てこな―
「って、死んでたまるか!!衝撃吸収(ストップ・インパクト)!!」
『ガキィィィィィィィィィィィ!』
ジョーの剣が俺の目の前で止まる。後0.1秒でも遅れてたら死んでたな。
「フン、これぐらいなら――」
ジョーがハンマーに力を加える。剣が激しく揺れながらゆっくりとこちらに近づいてきた。
何て力だ。このままじゃ押し負ける。何か手を打たないと…。
「マスター!何をしているのですか。このままでは殺されてしまいます!」
「クイーン!?無事だったんだな!」
両手で攻撃を抑えつつクイーンのいる方を見る。マジシャンとの戦いは終わったのだろうか?
「早く私を憑依させてください!どうして私の力を使わないのですか!」
「横で叫んでるヒマがあるなら、とっととそこのジョー(裏切り者)を吹き飛ばしてくれよ。今どっからどう見ても余裕がない状況だってわかるよな!」
「ええ!だから私にそんなことはできないと…、えいっ。」
クイーンはジョーをポカポカと叩いている。しかし、まるで聞いているように見えない。どちらかというと恋人同士の痴話喧嘩みたいだ。
「真面目にやれ、ふざけている場合じゃないだろ!」
だんだんとこちらも殺気立ってきた。いつまで本気を出さないんだ!
「チッ。」
クイーンが舌打ちをした。服や顔と合わさっていてすごく怖い。
そしてこちらを睨みつけるなり、俺の頭を拳で殴りつけた。視界が大きく揺れる。これだけの威力でジョーを攻撃すれば一撃で片付けられるはずなのに…。
「いいから、私のクラス名を叫びなさい、この間抜け!」
なんで俺は逆ギレされているんだろう。どうしてこんなに追い詰められているんだろう。そもそもなんでこの英霊を召喚したんだろう。
「えーい。もう、どうにでもなれ!」
そんなどうにもならないイライラが一気に溢れ出し、俺は自棄になって叫んだ。
「EMPRESS!」
その直後、俺の右腕の令呪が、群青色に光り輝いた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全身に力がみなぎってくる。今なら何でもできる気がする。そんな爽快な感覚が、体中を駆け巡る。
光が全身を包み込んでいくのと比例して、その感覚がさらに増す。
なるほど、これだけパワーアップするなら、あいつが調子に乗るのも分かる。
大きな力が使えるなら、普段は負担が大きすぎてなかなか使えない魔術も手軽に発動できる。それどころか、一年かけても出来ないような大技だって打ちたい放題だ。
「加速、最大(ラッシュ、マックス)!」
そもそも俺の一族の魔術は、少量の魔力を呼び水として地脈から大量の魔力を呼び出すという物。
元々の魔力がこれだけ大きければ、当然呼び出せる魔力もすさまじいものになる。
「ファイヤー!!!」
俺はロケットみたく飛び出し、ジョーを真上に勢いよく打ち上げた。
「ごはっ!!!」
天井を突き破り、屋根を吹っ飛ばし、どこまでも飛んでいくジョー。壮観な眺めだ。
「よっしゃー!これで全世界の悪は滅ばされたぞ!」
『余りにもはしゃぎ過ぎではないですか?まだ止めもさしてないのに、油断しすぎです。』
突然、クイーンの声が聞こえてきた。
「あれ?クイーン、どこから話しかけてきてるんだ?」
あたりには姿が見えない。そういえば、マジシャンも見当たらない。いったいどこにいったんだろう。
『見えなくて当然です。今の私はあなたと同化しているのですから。というか、その程度の知識、成敗戦争に参加する前に把握しておいてくださいよ』
「おいコラ、なんでお前が困った奴を相手しているような態度をとってるんだ。どう考えてもおかしいだろう」
まるでクイーンと俺で知っている情報が違うかのような…。いや、気にするべきなのはそこじゃない。
「何で言ってもないのに俺が考えたことが分かったんだ?」
『この状態の私とは、思っただけで話をすることが出来るのです。本当にあなたは何もわかっていませんね』
「あぁ、そうなんだ。なるほど。って納得できるか!誰か今いったいどんな状況か教えてくれよ!」
「だから最初それを説明しようとしてここまで連れて来たんだろうが。聞かずに攻撃してきたのはお前の方だろうに、いきなり裏切りやがって」
「え、ジョー、ジョー!キサマ、なぜ生きて…」
いつの間にか無傷で立っているジョー。一体どうやって助かったんだ。まさか俺の願いに聖杯が反応して、ジョーを生き返らてしまったのか?
「当たり前だ。英霊の力を使っているのは俺も同じなんだぞ。あんな力任せの一撃でやられる程度の男だと思っていたのか。それよりお前、後で天井直せよ」
「英霊の力を使っている?お前なぁ、俺たち普通の人間にそんなものが使いこなせるわけが…」
なんでそんなわけ分かんない事を当然の事にしているんだ。
「だから、その考えが間違ってるんだ。お前、ちょっと鏡を見てみろよ。」
ジョーにそう言われて、壁に取り付けられた鏡を覗き込んでみる。
「おぉっっっっっっっ!!」
そこに映っていたのは、普段と全く違った俺だった。
クイーンと同じように、髪色は赤茶色、瞳は青。服装は雪のように白い、とても凛々しい軍服だ。
こうしていると、まるでどこかの国の王子様のような気がしてくる。
「ま、見かけがどれだけかっこよく“加工”されても、所詮お前はお前だ。元があまりにも悪すぎる。」
「人の希望を込めた感想を台無しにするようなことを言うな!」
なんとなく自覚してる分だけ余計に傷つくじゃないか。
「それよりも、なぜこうなっているのか疑問に思わないのか?もっとも、お前程度の頭脳では情報を処理しきれないかもしれないがな」
「失礼な。俺にだってある程度予想は付いてるんだ」
「ほう。なんだ、言ってみろ。」
「単純に、俺たちが参加している聖杯戦争は今までの物とは全く違うって話だろ」
「その程度の事、さすがに誰だってもうわかるだろうが!」
あれ、違ったかな?てっきり今からその話をするんだと思ってたんだけど。
『要するに、どういう所がどんなふうに違うのかって話をしようとしているのです。』
「本当にもう、勘弁してくれよ…」
「そ、そんなことよりも、結局お前は何が言いたいんだよ。前置きはいいから、さっさと話せ!」
すごく困った奴だと思われている。べ、別に、まずは基本的なことから言おうと思っただけさっ!
「あのな、俺たちは自分に英霊を憑依させて、その力を自由に使えるようになっているのだ。服装などの変化は恐らくその副作用だろう。宝具を使えるかどうかはまだ確認していないが、恐らく真名解放も出来るはずだ。スキルは一体化してなくてもある程度は使用可能だと…。」
「待て待て待て!もうちょっとゆっくり話してくれないか。まずは前提から理解出来ない」
「何だと?どこに問題があるって言うんだ。これでも丁寧に噛み砕いて話しているつもりだが」
ジョーを遮って話を続ける。このままじゃ情報に置いて行かれてしまう。
「俺たち普通の魔術師が、英霊の力なんて使いこなせるわけないだろ。力のレベルが違いすぎる。せいぜい自爆するのが落ちだぜ。」
そう言ったとたん、ジョーはやれやれという感じで頭を振った。コイツ…。いちいち癇に障るな。
「かのシャーロック・ホームズは言った。完全にありえないことを取り除けば、残った物は以下にありそうもない事でも、事実に間違いないと。現実を受け入れろ、愚かな仔羊。」
『無駄にかっこつけていますね。まぁそれはさておき、逆に考えてみてください。この現象の理由を何か他に思いつきますか?』
クイーンが図らずも俺の心情を代弁してくれた。他の理由かぁ…。例えば、
「秘められていた才能が、命の危機を感じて突然覚醒したとか。」
「俺に起きた現象はどう説明するんだ。言っておくが、俺の才能はもう十分発揮されている。お前のいつまでも目覚めないそれとは違ってな」
「この町に、そこにいた人々を超人に変える魔方陣が仕組まれていたとか」
「もし本当にそうなら、とうの昔に異能バトルが始まっていてもいるはずだ。」
「俺たちを自分たちの惑星に適応できるようにする為に、宇宙人が人間改造光線を撃ってきたとか」
「そんなすごい装置を作れるものがいたなら、地球を自力で征服した方が早いと思うが。」
「それじゃ、えーと、えーと。」
「『いい加減に認めろ(てください)!お前はどれだけ頭が固いんだ(のですか)!』」
クイーンの声とジョーの声がシンクロした。うーん。でも、やっぱりなぁ…。
「どうしても認めたくないというのなら、別にそれでも構わん。ただし、戦えなくなって困るのはお前だからな」
ジョーがあくまでも上から目線で言い切った。そこまで言われるなら、受け入れるしかないのかなぁ。
原作をプリズマイリヤにするか悩んだ時期もありました。
次回は新しい英霊が登場します。