ジョーの話を聞いた後、俺たちは一度憑依を解いてから(マジシャンにやり方を聞いた。本当に上手くいくのかいま一つ掴み切れず、5分ほど迷ったのは秘密だ。)、今後どうするかの話し合いをしていた。
「どうするかはお前たちで決めてくれ。俺は武器をもう少し鍛えてくる」
そう言って、マジシァンは早々に隣の部屋に引っ込んでしまった。社交性のない奴。
さてと…。今日はどうしようかな。とりあえずは情報を整理する為、休息を取りたい。
「今夜は偵察はナシでいいよな。家に帰って晩御飯を作りたいんだが…」
「黙れ食い意地馬鹿。だがまぁ、俺も偵察をしないことには賛成だ。初日は相手がどう動くかわからん。下手に動くよりは、家の中にいた方が安心だ」
ジョーもいつも通りの金髪紅眼に戻っている。やっぱりこっちの方が自然だ。
「そうですね。私も今日は色々と疲れました。早く寝たいです…」
「おおっ。俺の意見に二人とも賛成してくれるのか!」
そうと決まれば善は急げだ。
「それじゃさっさと行くよ、クイーン」
立ち上がってクイーンの手を引く。帰る途中でスーパーに寄って、明日の晩御飯用の食材を買おう。
「おい、どこに行くつもりだ。聖杯戦争中はここに泊まっていけ。お前の家はどうも信用出来ん。一応共闘しているのだから、すぐに死なれると困る」
「失礼な。一応うちだって魔術師の家系なんだぞ。大丈夫だって」
結界の手入れぐらいは定期的に行っている。敵の攻撃には十分対応できるはずだ。
「その根拠のない自信はどこから来たんだ?いいか、この屋敷は俺が聖杯戦争に備え、他の魔術師たちの力をも借りて造り上げた最強の要塞だ。祖先のお下がりのボロ屋敷とは格が違うんだよ」
「ここの方があなたの家よりははるかにましです。出来ればもう少し豪華な装飾が欲しい所ですが、まぁ及第点といえるでしょう」
「クイーンまでそんなこと言うのか!」
そりゃ家具は古いし、雨漏りだってしてるけど、別にそこまで馬鹿にしなくたっていいじゃないか!
ん、待てよ…。今のジョーの言い方からすると…。
「聖杯戦争だけの為にゼロから建てたのか!一体どこからそんな金が」
「一族に伝わる隠し財産をほんの少し使わせてもらった。まぁこの戦いで得る名声に比べれば、安いものだ」
くっ…。これがブルジョワの力か。なんと強大な…。
「なるほど。使うべきところで使ったという事ですね。その様な考え方は重要です」
クイーンは何やらうんうん頷いている。一体何が通じているんだろう。
って、この雰囲気に蹴落とされている場合じゃない!何とかして反論しないと!
「もしここに泊まるとしても、俺の家はどうするんだよ。ずっとほうっておくわけにはいかないぞ」
「問題ない。俺の家に代々仕える執事に、お前が留守の間は家を整備しておくように頼んである」
「泊まろうにも、泊まる部屋がないんじゃどうしようもないぞ」
「ここに誰か泊まりに来た時の為、部屋は5つ以上用意してある。全部屋ベットとテレビ付きだ」
「学校の教科書とか、魔術道具とかは家に置きっぱなしだぞ。」
「執事がこちらにまとめて持ってきてくれるそうだ。」
「え、えっとそれじゃあ、寝間着とか普段着とかは。」
「同じくだ。お前が思いつく程度のものはすでに持ってくるように言いつけてある。」
「あ、そう…。それならいいよ…。」
ジョーは『そら見たことか』という顔でこちらを見た後、肩をすくめた。
「余計な心配をするな。ここにいる間は、俺に従ってくれればそれでいい。」
うう、余裕めいた態度がむかつく…。
その後約2時間、俺は一人で天井を直した後(材料はジョーが土蔵から持ってきた。本当に疲れた…。)マジシャンのリズムよく打たれるハンマーの音を聞きながら、夕飯の準備をしていた。
「たく…。ジョーの奴、殆ど野菜を買ってないじゃないか。今度買い出しに行かないと…。」
クイーンとジョーは、二人で何やら楽しげに話しこんでいる。玉ねぎを微塵切りにしながら、軽く聞き耳を立ててみた。一体どんな話題で盛り上がっているのだろう?
「それでな、アイツが、『お前たちなんか、すぐに追い抜かしてやる!』なんてたんか切ってな。顔真っ赤にしちまって。必死な感じがこっちに伝わって来て、もうおかしくておかしくて…。」
「へぇ、昔から強がりなところは変わらなかったんですね。」
「おいこらっ!!テメェら、覚悟はできてるんだろうな!」
人の失敗談で盛り上がるなんて、あんたらは鬼か!
「別にいいだろ?お前に笑えるエピソードが多いだけで、俺たちが悪いわけじゃない。」
「そうですよ。ちょっと笑い者にしたぐらいでそんなに怒らないでください。」
笑みを噛み殺しながら言う二人。盗人根性猛々しいとは最にこの事を指すに違いない。
「たく、大概にしとけよ。」
捨て台詞を吐いてから、料理に戻る。我ながらすごく負け犬っぽい。
こうなったら、二人の分のハンバーグの中に唐辛子を仕込んでやる。何も知らず口に入れ、その罪の報いを受けるがいい!
そんな暗い事を考えながら、ひき肉と玉ねぎを混ぜていた時…。
『ジジジジジジジジジジジジ!!!』
「ま、また電話が鳴っています。だ、誰か出てください!」
唐突に、キラッキラの新品の電話が鳴りだした。
「ん、誰からだ?」
ジョーが電話に出ようとして―
「――――――――ッッ!!!」
跳ね上がるようにして、空中でバク転。電話から猛スピードで遠ざかった。
「おい、さっさと出ろよ。何一人で焦ってんだ。」
たかが電話相手に、どれだけ激しいアクションしてるんだよ。
「良く見ろ!絶対にその電話には出てはいけない!」
いつもより二割増し(俺調べ)でマジになっているジョー。まぁでもそんなこと言われたら…。
「隠されてるものこそ気になるのが人間だよなっ。」
受話器を手に取り、耳に当てる、さぁ、一体誰からかかって来たんだ?
「ちょっとジョー、出るのが遅いよ!いつまで待たせるつもり?」
「…………………(しまった。すっかり忘れてた!)。」
「せっかく私の方から電話してあげたんだから、ワンコールで出るのが礼儀でしょう。居眠りでもしてたって言うの!」
受話器越しに鳴り響く甲高い声。はぁ…。今日は本当に不運だ。きっと悪魔か何かに呪われたに違いない。
「だから出るなといったのに…。お前は本当に馬鹿だな。」
ジョーが後ろで頭を抱えている。心なしか普段より毒舌も弱々しい。
彼女の名前は守宮七夢。俺たちの同期で、日本出身の魔術師だ。
尤も、俺と彼女じゃ天と地ほどの差がある。いまだに見習い扱いの俺に比べて、彼女は優秀な講師の右腕として、その力を余すことなく使っている。記憶が正しければ、次期典位(プライド)もちの候補にもなっているはずだ。俺たちにとっては神か天使かというぐらいの差がある。
しかも容姿までもがアイドルや女優並み。長い黒髪が風に吹かれて揺れるたびに、男子が一人恋に落ちるとか、視線を合わせるだけで、ハートを打ち抜くことが出来るとかなんとか…。
そんな彼女にも、ただ一つ庇い切れない欠点がある。
俺がそれを知ったのは一か月ぐらい前、彼女も聖杯戦争に参加すると聞いて、ジョーと一緒に同盟を結んでくれないか頼みに行った時のことだ…。
〜「本当に会えるのか!すごいなお前、一体どんな手を使ったんだ!」
授業後、寮にて。ジョーに連れ出された俺は、思ってもいなかった展開に胸を躍らせていた。
「そんなことはどうだっていいだろう。そんな事より、ちょっと用事があってな。残念だが、彼女に会いに行くのはお前一人でやってくれ。」
満面の笑顔でさり気に仕事を押し付けてきた。全然残念そうじゃないぞ。
「冗談じゃない。あんなすごい人に俺だけで会いに行ってみろ。ガッチガチになってなんも言えないまま終わっちゃうよ。せっかくのチャンスを棒に振りたくはないな。」
「くっ、そう言われるとそうなんだがな。チッ、分かってる。付いて行けばいいんだろう行けば。」
?ジョーがいつもと違う。余裕がなさそうだし、皮肉も言ってこない。一体どうしたんだ?
まぁいいや。日頃偉ぶってる分、何か報いでも受けたんだろう。
「それじゃ、とっとと行くぞ。早めに片付けようぜ。」
何にしても、彼女が仲間に出来るかもしれないのはありがたい。よーし、絶対に成功するぞ!
「…………(ふぁ~)。」
やばい、まさかこんなに退屈だとは思わなかった。早く帰りたいなぁ…。
ジョーが守宮さんに聖杯戦争を説明している間、俺は退屈を持て余していた。
男子寮を潜り抜け、公園の広場で彼女に会った瞬間から、長々と語り続けている。一体何分喋るつもりなんだ。
どうして仲間にしようとしているか。マスターは何人いるか。サーヴァントのクラスはいくつあるか、どんな奴が参加すると予想出来るか、自分たちの狙いは何か…。
聖杯戦争に参加する時に必要な情報を、可能な限り退屈に編集してみましたって感じだ。
「そんなわけで、後十人程になるまで、俺たちには手を出さないで欲しい。」
真面目な態度(猫被ってるだけ)のジョーに対して、彼女は黙り込んだまま下を向いたままだった。
「もちろん謝礼はする。こちらからは、典位(プライド)への推薦状と、こいつの右の掌の魔術刻印のデザインを提供しよう。なんなら、後十五人でも構わない。」
相手が怒っているとでも思ったのか、ジョーが条件を掲示し始めた。
「……………。」
なおもその態度を貫き続ける。よっぽど癇に障ったのかな。
「え―とさ。その、悪気はなかったんだ。謝るから、どうか―」
「へぇ、そんな態度でいいと思ってるんだ?ふざけないでくれるかな。」
ガタン、という音をたてて立ち上がる守宮さん。マズイ。相当怒ってるぞ、これ。
「何でもっと早く呼びに来なかったの!参加するって聞いたから、私も一緒に戦うことにしたのに!」
「は?」
いつの間に彼女にフラグを構築したのだろう。意外に俺ってすごい?
「俺にも色々あるんだよ!お前と一緒に戦って勝っても、『“鬼使いの闇トカゲ”が仲間なら当然だな』とか思われちまうだろう。あくまで実力で勝ったと思われたかったんだよ俺は!」
そこで前に出て言い返すジョー。あれ、なんでお前が―
「闇トカゲ言うな!大体ジョー一人で勝ち上がれるわけないでしょう。自分だって分かってるくせに!」
「………くっ、うるせぇ。俺は十分強い。そこまで言うなら、お前の助けなんか借りない!俺とコイツで、全員ぶっ倒す!」
「それ本気なの?いいよ、そっちがその気なら、私だって遠慮しない。返り討ちにするから覚悟しといて!」
「………(あれ、これどういう状況)?」
激しい言い争いを続ける二人。俺は完全に展開から置いていかれていた。
「あばよ!次会うときは戦場だ!」
捨て台詞をはいた後、ジョーは其の場の勢いに任せて、俺を引きずって部屋から出た。
「たく、ふざけてやがる。あんな奴、こっちから願い下げだぜ。」
「………………………。」
「一番に倒してやる。なに、真正面から勝てないなら不意を衝けばいい。お前の魔術刻印と俺の魔術が合わさればどんなに強くたって―」
「………………………。」
「?おい、聞いてるか。何を呆けている。」
「あ〜〜。」
だよなぁ。俺にそんな人生の春が訪れるはずがない。そんなことは自分が一番良く分かってる。言うまでもなく、当然のことだ。
上を向いて深呼吸を一つ。よし、だいぶ落ち着いて―
「って落ち着けるか!お前なぁ、よくも色々とやらかしてくれたな!あんな美人と知り合いだった上に、それを一言も言わないってどういう事だ!しかもさり気に共闘も断っちゃってるし!というか守宮さんとどういう関係なんだよ!」
「一つ一つ理由を教えてやるから少し落ち着け。まず、俺と彼女はただの幼馴染だ。親同士が時計塔の同僚でな。それ以上でもそれ以下でもない。」
「それで納得できるとでも?」
運命ってのは理不尽だ。何故俺にはそういう可愛い知り合いがいないんだ!
「納得しろ。お前の感想なんざ知ったことか。それで第二にだが、お前に言わなかったのは、こういう状況を防ぎたかったからだ。」
「防げてないじゃないか。」
この心の奥からあふれ出す黒々とした感情(百パーセント嫉妬)をどうしてくれるんだ。
「黙れよ。この件は俺も予想外だ。事前にメールで連絡しておいたはずなんだが…。」
「メール!お前、守宮さんのメルアド知ってんのか!」
何て事だ。時計塔で魔術を学ぶ新米少年魔術師の内ほぼ百パーセント(俺調べ)が知りたがっているといわれるあの秘中の秘を、こいつ程度の男が―
「おい、無言で黒々としたオーラを出すな。妖怪みたいで不気味だ。」
「うるさい!お前みたいなリア充に侮辱される覚えはねぇ!」
「お前が思っているほどいい環境にいるわけじゃない。アニメや漫画のイメージで人に文句言うな。」
色々と言いたいことはあるが、ここはひとまず置いておくことにしよう。どうせまともな答えが返って来ないだろうしな。そんな事よりも…。
「そうだ、聖杯戦争はどうするんだよ!俺たち二人だけじゃ相当きついんじゃないか?」
本来なら仲間がもう一人増えたはずなのに、むしろ敵確定の奴が出来てしまった。守宮さん相手じゃ、二人係でも勝てるかどうか分からないし、かなりまずい状況だと言えるだろう。
「何だ、そんな事か。だったら心配はいらない。」
それなのに、やけに落ち着いた様子のジョー。あぁそうか、こいつなりに何か考えがあって―
「――――今更、焦ったところでもう遅い。」
「単に開き直ってるだけだ!」
とはいえ、過ぎたことを悔やんでもしょうがない。仕方ない、俺たちだけで頑張るか…〜
その後、俺は一月ほどで聖杯戦争の準備をする為に日本に帰ったんだけど、それまでに彼女の手により様々な妨害を受けた。
毎日催促の電話がかかって来たりとか、ドアを開けると家具がボロボロになっていたりとか、全速力で追っかて来る巨大な使い魔(アガシオン)と死闘を演じたりとか…。
最後のはもはや嫌がらせなんてレベルじゃない。完全に俺たちだけで相手できる範疇を超えていた。
今思い出してもはらわたが煮えくり返る。どうして俺がジョーと守宮さんの痴話喧嘩に巻き込まれなければならないんだ。二人だけでやってろよ。
俺がいなくなった後も、その戦いは収まるどころかエスカレートしていった。結局講師の方々まで巻き込んで、力技で無理やり解決したらしい。
その結果として直接攻撃してくることはなくなったものの、ただ抑えられているだけでいつ爆発するかわからない時限爆弾を相手にする事になってしまった。
ジョーから『こっちに来たらきっと仕掛けてくるから注意しろ』と、あれだけ言われていたのに…。
己の迂闊さを呪う。どうして電話に出てしまったんだ。これから延々恨み言(途中から惚気にしか聞こえない)を聞かされるぞ。
「あれ、でも待てよ?」
冷静に考えてみると、相手はまだ電話してきただけだ。てっきり最初から最終兵器っぽいのと戦う事になると思って、色々な道具(逃亡用)も用意しておいたんだけど…。
まだワンチャンあるかもしれない。そう思うだけで、夢や希望が見えてきた。きっとまだ何とかなる!
「ねぇ、聞いてる?」
「あ、はい。何でしょうか!」
何とかしてこのピンチを乗り切るんだ。その一心で俺は落ち着きを取り戻していた。
「あれ、ごめんね。人違いかな?」
「はい、そうです。あの、俺はあの時のジョーの連れです」
「ああ、あのブレドアリナの末裔とかいう人だね。本当にまだ生き残っていたんだ。てっきり冗談かと思ってた」
「はは…。よく言われます」
慣れてるとはいえ気にならないわけじゃない。でも、笑って受け流せるぐらいには成長したつもりだ。
「あ、そうだ。そんな事より、ジョーに早く―」
その直後彼女が言いかけた言葉は、大きな爆発音にかき消された。
「ど、どうしましたか。大丈夫ですか!」
呼びかけても何も聞こえてこない。いったい向こうで何が起きたんだ!
「もしもし、もしもし!返事してください!」
不意打ちでも受けたのだろうか?もしそうだとしたら、下手をすれば死んでしまっているかもしれない。
胸に走る暗い予感。そういや両親が亡くなった時もこんな感覚を覚えたような…。
「やっべ、意識飛んでた。電話してなかったら危なかったなぁ」
「…………。」
どうやら気のせいだったらしい。外れて本当に良かった。誰かが死んだって報告を聞くのは一度で沢山だ。
「ねぇ、さっきの続き。早くジョーに代わって?」
まるで何も起きなかったかのように話を続ける守宮さん。ここは合わせた方がいいのかな。声を聴く限りでは平気だったみたいだし…。
「はい、分かりました。少しお待ちください。」
あまり長話してジョーを待たせるのも良くないし、パパッと代わろう。
「ほらジョー、代わってってさ」
「それで素直に聞いたのか!この裏切り者!」
振り向いた俺の目に映ったのは、荷物を大きな袋に詰め込んで準備万端で逃げ出そうとするジョーだった。いやいや、そう言いたいのは俺の方だ…。
「あぁ、俺だ。一体何の用だよ!」
自棄になったのだろうか。ジョーは涙目で引っ手繰る様にして叫びながら電話を受け取った。
その後、5分ほど聞くに堪えない雑音が鳴り響くので割愛する。合間には『はぁ?どういう事だよ!』とか『そんなのんきなこと言ってる場合か!』とか、『バ、バカ。止めろよな、もう。』とか、普段聞けないようなジョーの一面を見ることが出来るセリフが聞こえたことをここに記しておく。
次回は新英霊登場回です。なんかいっぱい出ます。